第6話
全体的には主人公視点です。
多くの学校関係者が集まる中、司会者の指示に従って次々とクジ引きが行われる。
そう、ついに今年の全国大会の地方予選が始まったのだ。
そしてクジ引きによって一喜一憂する声が響く。
そんな中でひと際大きな声が聞こえてくる。
前回地方大会を優勝し、全国へと勝ち上がった緑丘女子のクジ引き結果が出たからだ。
まさかの開幕1戦目。
しかもその相手が私達華聖女学院である。
「おーおー、初戦から面白くなってきたねぇ」
「どちらにしろ倒さなければならなかった相手です。せめて私達の宣伝に利用させて頂きましょうか」
鹿島先輩はとても愉しそうに、そして早乙女さんは何の問題も無いといった感じの表情だ。
一応今回補欠枠で登録している四葉と緒方さんも会場の独特な雰囲気に呑まれているのか、何かのイベントのように愉し気である。
まあ正直、プロ選手による指導のおかげもあり全体的な強さは劇的に上昇したと言える。
あとはそれがどこまで通用するか。
予選はトーナメントによる勝ち抜き方式。
開会宣言後は、そのまま一試合のみ行われる。
逆に言えばいきなり予選参加校の半分が消えるという残酷な初日とも言える。
色々と考えているうちに一連の流れが終了し、予選が開始されることになった。
私達はそのまま試合会場へと向かう。
そして準備室に全員が入ったのが確認されると部屋が隔離される。
これは不正などの対策のためだ。
何かしらのトラブルなどがあれば室内にある専用の回線から運営に対して連絡が可能である。
部屋に入ると試合を観戦出来る大型モニター前に私達は座った。
「さて、前回優勝校とやらの実力を確かめてきますかねぇ」
「まずは1勝。完璧な勝利をお願いしますわ」
まるで獲物を狙う獰猛な肉食獣のような目つきをしたまま専用のVR筺体に入っていく鹿島先輩。
そしてそれを当たり前のように見送る早乙女さん。
何だか緊張している自分が馬鹿みたいな感じになってくる。
時間になるとVR装置が起動して鹿島先輩はVRの戦場へと送られる。
彼女のストームトルーパーは相変わらず機体の方はほとんど僅かな調整程度。
武装の方は以前の3つに追加で使い捨てのお手軽火力武器であるパンツァーファウストのBattle Dolls版とも言えるトイフェルファウストを2つ腰に装備している。
戦場は砂漠。
遮蔽物がほぼ無いマップだが速度を活かした戦いが出来る鹿島先輩からすれば大当たりなマップだろう。
実際スタート場所まで移動するストームトルーパーは、無意味に蛇行運転を行っていた。
そこまで嬉しいのか……おや、ここは砂地でのホバーの感触を確かめていただけだと思っておこう。
スタート位置は互いに視認できないほどの距離が空いていた。
これだと基本的に徹底した撃ち合いにしかならず、純粋に火力が高い方か防御面がある方かが勝つだけ。
だが今回はホバーという機動力が入ってくる。
これがどうなるか。
気づけば試合開始のカウントダウンが始まっていた。
そして
―――試合開始
開始アナウンスと共にストームトルーパーは右斜めに移動しながら前へと進む。
すると数秒後に最初に居た場所にライフル弾が撃ち込まれた。
それを気にすることなくストームトルーパー、むしろ速度を上げて突っ込んでいく。
30秒もしないうちに相手が見えてくる。
第二世代機:パワージョーだ。
主に上半身のパワーを重視して大型武器を持てるようになっている機体で撃ち合いが主流になったあたりで登場した。
撃ち合いで火力を求めてる人は大型武器を使いたがるから使えるようにしましたよ!というシンプルなコンセプトの機体である。
その分、下半身はアンカーを撃ち込んで固定したりとその場から咄嗟に動けないのが欠点だ。
相手は大型ライフルをストームトルーパーに向けて撃つ。
大迫力の発砲音と共に発射される弾丸。
だが鹿島先輩は相手が撃ってくるであろうタイミングで逆側に移動するフェイントを入れ、完全に回避することに成功する。
すると相手はスグにライフルを捨て肩の大型グレネード砲を構えようとする。
「甘すぎるよ、お嬢ちゃんッ!!」
鹿島先輩はそう叫びながらバズーカで相手の右足を破壊する。
バランスを崩した相手にマシンガンを撃ちつつ相手の側面から背後に回る。
相手は慌てて足のアンカーを抜くと、背中のグレネード砲をもパージして腰のサブマシンガンを手にした。
だが―――
「は、速すぎるっ!?」
パワージョーはストームトルーパーが背後に回ろうとする速度に自機の旋回性能が追い付けず、常に後ろを取られ続けることになってしまう。
こうなると一方的に撃たれるだけだ。
「こうなったら……いっけぇー!!」
何とかフェイントを入れたりするも振り切れないと判断したパワージョーは、ブースターによるジャンプを行った。
空中で何とか反転しようというのだろう。
だがこれは悪手だ。
一度空中に飛び出してしまえば、よほどの機体でない限りは大きく動くことは出来ない。
つまりどこをどう移動するかという軌道がバレバレ。
鹿島先輩はバズーカを投げ捨てトイフェルファウストを構える。
「はっ!話にならないわねっ!」
飛んでくるトイフェルファウストを何とか回避しようとブースターやスラスターなどを吹かすパワージョーだが、僅か数秒ではどうしようもない。
何とかコックピットを避けるために大きな腕で胴体を守ることに成功するも両腕が吹き飛んでしまう。
こうなるともうほぼどうしようもない。
落下してくる相手にマシンガンすら捨てサーベルを持ったストームトルーパーがタイミングを合わせて突っ込む。
勢いのある綺麗な一撃が決まるとパワージョーは真っ二つになって爆発した。
―――試合終了
アナウンスと共に鹿島先輩の勝利が大々的に表示される。
開始から5分も経たずに前回優勝校の1人目が負けた。
この衝撃と共に会場では大歓声が巻き起こる。
VR筺体から出てきた鹿島先輩は、さも当然といった感じで歩いてくると
「もうちょっと手ごたえあるかと思ってたけど、全然だね」
若干不満そうにそう言いながら私達と同じ大きなソファーに座った。
「まあ所詮は、この程度の地方予選ということでしょう。私にとってはありがたいことですわね」
早乙女さんはそう言うと立ち上がり、早々にVR筺体の中へと入っていく。
観戦モニターでは先ほどの試合に関してアナウンサーと解説者が色々と言い合いながら時間を繋いでいた。
その解説を聞きながら私もどうすればパワージョーが勝てたのかを考える。
といっても私なら既に大型武器を満載するなら早乙女先輩のように脚部を大人しくタンク型にすべきだと思っていた。
欠点は多いが利点も多い。
それがタンク型脚部だ。
そうこうしているうちに試合開始時間になったようでVR設備が動き出す。
今回の戦場は草原。
砂漠よりは遮蔽物もあれば高低差もあるが、それでも全体的に見ればかなり少ない撃ち合いマップの1つだ。
早乙女さんのスタイルは撃ち合いに持ち込むことなので今日のマップ引きは2つとも当たりだったと言えた。
やはり相手が見えないほど遠くの距離からのスタート。
観戦モニター側では相手の機体が映っていた。
第二世代機:シールドガードナー
巨大な大盾で身を隠しながら戦う防御重視の第二世代機。
象徴的である大盾は初期設定でもかなり頑丈に出来ており、カスタム次第ではどんな攻撃を受けても防ぐと言われているほど。
その大盾を右手に持ち、左手にはマシンガン。
両肩には肩用大型ライフルが2丁装備されていた。
試合のカウントダウンが進み
―――試合開始
開始のアナウンスが鳴った瞬間だった。
大きな砲撃音と共に雷鳴の両肩にある大型滑腔砲から飛び出した弾が、吸い込まれるようにシールドガードナーの大盾に命中する。
あまりの衝撃に耐えきれず盾を持つ腕が大きく上に仰け反る。
だが流石というべきか、強力な一撃を無傷で止めた大盾。
しかし―――
「なっ!?」
シールドガードナーのコックピット内で警報が出る。
先ほどの一撃の衝撃に盾ではなく右肩の可動部が耐えきれなかったのかエラーを吐いて動かなくなってしまう。
そうなるとこのままでは盾を上に向けたままのマヌケだ。
咄嗟に空中にコンソールを表示させるとスグにプログラム修正をして無理やりにでも動かそうとするが、そんな時間があるはずもなく。
次に警告音と共に、はるか上空からミサイルが降ってきた。
「くそっ!デコイ射出っ!」
背中に装備されていたデコイが勢い良く空中に打ち上げられると、そのままミサイル達を自身に引き付けてどこか遠くへと飛んでいく。
デコイが上手く機能したことに安堵した瞬間だった。
物凄い衝撃が機体を襲い、その揺れが収まった時……画面には試合終了の文字と勝敗を示す結果が表示されていた。
「……え?……うそ、どういうこと?」
混乱する相手とは対照的に、無駄に長いバイポッドでしっかり固定された対艦ライフルを構える雷鳴。
「まあこんなものかしら」
相手がミサイルに気が取られている隙に相手のコックピットへの狙撃が成功したのである。
最初は腕部一体型の武装を使用していたが、戦術の幅を増やすために武装を色々と見直した関係で腕部も通常の腕になっていた。
そして開幕先制用のためだけの対艦ライフル。
それが今回見事に命中したという形だ。
流石に対艦ライフルをまともに食らって耐えられる機体は存在しない。
観戦モニター前では四葉と緒方さんが興奮気味に勝利を喜んでいた。
実況アナウンサーや解説の人も『まさか緑丘女子が2戦共に瞬殺されるとは……』といきなりの番狂わせに大騒ぎ。
しかしそれを成した本人はVR装置から出てくると
「確かに……手ごたえが無さすぎるというのも困ったものですわね」
と言い出した。
まあ2試合とも結果的に見れば技量差があり過ぎて逆にイジメだと言われるほどだ。
でも……相手は全力で、勝つ気で戦ったのだ。
勝負の世界は努力した誰もが報われることはない。
観戦モニターでは負けた緑丘女子のメンバーが抱き合いながら号泣しているシーンが流れている。
改めて『そういう世界』だということを見せつけられた気がした。
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