第4話
■side:華聖女学院1年 清水 冬華
「おお~!大迫力だよ~!」
四葉は大型マシンガンを撃った際の反動とその威力にご機嫌のようだ。
その隣では緒方さんもプロに直接動きの指導をして貰っていた。
翌日。
早乙女さんはどういうコネからなのか不明だが、本物のプロチームを呼んできた。
もちろん1軍ではなく2軍以下ではあるのだが。
それでも最上位リーグのチームを呼べるとは恐れ入る。
Battle Dollsは世界規模で人気であり当然日本にもプロチームも大量に存在する。
更に男女問わずの人気から男女別にしてもチーム数的に問題ないほどだ。
むしろ多すぎるとしてランク別けされるほど。
当初私は強引に元プロ選手などをコーチをして用意するのかと思っていた。
「それが、人選に苦労してましてね。中途半端な人には用がありませんので」
これが早乙女さんの回答だった。
では練習はどうするのか?
練習試合なども行うのか?
「練習試合?……相手に手札を晒すような真似はしません」
確かに戦法や武装がバレるだけでも対策されるため大きい。
しかしまさか飛び込み参加のような新設部で現役プロを呼ぶとは。
実際プロ側も利点はある。
現在のBattle Dollsルールでは戦える選手は限られてしまう。
そうなると大多数がレギュラー争いをするためだけに頑張るしかない。
だがそれが長いとお金の面で苦労するのだ。
ある程度はチームが負担してくれるとはいえ購入した装備をそのまま使用するほどプロの世界は甘くはない。
そこからどれだけ自分好みの改造が行えるのかというのも大きい。
今では改造専門の『メカニック』という職業すら存在する時代なのだ。
強くなるためには多少なりとも最新機体や装備をチェックしたり実際に購入する必要がある。
今回、早乙女さんはチーム自体に指導を頼んだらしい。
まあ個人がプロチームに指導を頼むってどういう状況だよと思わなくもないが、もう早乙女さんだからとして考えないようにしよう。
で、その指導に誰が行くかでかなり揉めたらしい。
何故なら行けば臨時収入。
本来ならこういった個人指導などはプロ選手としての体面などもあって中々やれることではない。
だが今回はチーム公認……つまり大手を振ってバイトが出来るのだ。
しかも相手は新設部でありコーチすらいない状況。
上手く行けば連続で依頼が、名指しでの定期的な依頼が取れるかもしれない。
となれば話は早い。
行く気があるメンバー全員によるチーム内トーナメントによって今回は決着したらしい。
そういうこともあってか、どのプロ選手も完全素人2人相手でも嫌な顔1つせず笑顔で対応している。
対して早乙女さんや鹿島先輩相手には徹底した実戦勝負によるトレーニングが行われていた。
「どうした佐崎ィ!今後ストームトルーパーとの対戦は増えるぞっ!ホバー機動にさっさと慣れろっ!!」
「橋本ォ!ガチタン(ガチガチに防御を固めたタンク型脚部をベースに、高火力武器を満載した機体のこと)相手に正面から撃ち合いしてどうするっ!!」
……実際にはプロ側で戦績が振るわない選手の都合の良い対戦相手にされている感じもあるが。
まあ、それだけ2人が強いということであり2人がそれで良いのなら問題はないでしょう。
私が指摘するまでもなくプロ側だってその辺は理解している。
だからこそ2人には今回来た選手の中でも2人の戦術に合った選手が付きっ切りで1試合ごとに評価などを話し合っていた。
そんな中で私はというと―――
「あ、お茶入りましたよ~」
……そう、裏方に徹していた。
まあ実際問題、部室にあるVR装置が4台しか無いというのが最大の理由ではあるが。
最新式の専用VR装置が4台ある時点で既にアレなのだが、まあ早乙女さんだし……。
もうスグ2台。
そして3ヶ月後までには4台。
なので最終的に部室には計10台もの最新型専用VR装置が並ぶことになる。
一体どこのプロチームだよ。
実際それを聞いたプロチームの人達だって思わず羨ましいと呟いていたぐらいだ。
それに久々の戦闘で勝てたとはいえ、そうそう簡単にトラウマを克服出来た訳でもない。
そういう意味ではもう少し時間が欲しいとも言えた。
なので今回、装置不足というのは私にとっても都合が良かったとも言える。
あと私には優先して行いたいことがあった。
それは知識の吸収と機体の改造。
Battle Dollsに登場する機体に使われている技術は秘匿されているものも多い。
だが機体を購入してデータを分解すればある程度は解る。
または一般公開されているデータだけでも解ることはあったりする。
しばらくゲームから遠ざかっていた私としては、そういう部分も勉強する必要があるのだ。
特に最新技術による理解出来ない一撃によって負けてしまう『初見殺し』など、警戒すべきことも多い。
ついでにそれら知識と技術を知れば私のダーインスレイヴを今以上に強化することも出来るかもしれない。
そういうこともあって裏方をしつつひたすらデータ解析などを行っていた。
その姿にプロの人達も私のことを『裏方の人』と思っており選手だとは思っていないようだ。
そうした日々が続いたある日。
いつものように一人暮らしの部屋へと帰ってきた私は、最低限の家事を終えるとようやく愛機の改造に着手することにした。
「やっぱり第三世代は、もう基礎技術から違うよねぇ」
何を買っても良いと言われていたので思い切って改造用に第三世代の部品をいくつか購入し、それを分解する。
元々は、夏美に勝ちたくて操作技術を学んだ。
でもそれだけでは勝てないと今度は機体改造に手を出した。
そこで改造の奥深さにハマってしまう。
今では機体改造が趣味のようになってしまっていた。
明日は学校も部活も無い完全休業日。
……間違いなく今日は徹夜になるだろうな~。
解っていても自粛する気が無いのは誰に似たのか。
思い出すのは練習時間を過ぎても愉しそうに機体操縦を続けていた夏美の笑顔。
そう言えば時間超過でよく怒られてもいたな。
「……」
突然、胸に痛みのようなものを感じて胸に手を当てる。
そのまま目を瞑ると何度かゆっくり深呼吸をする。
最近はマシになったと思っていたが、やはりまだ私の心はダメなようだった。
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-体調不良のため次話の投稿が数日遅れます。申し訳ありません。-
*追記新型コロナに感染したため、しばらく療養します。