第3話
本日3話目
「ルールって意外と細かいんだねぇ~」
何故か入部することになった四葉は、Battle Dollsのルールをめんどくさそうに読みながらそんな感想を述べてくる。
「昔はもっと大雑把だったらしいけど、どこの世界にもルールの抜け穴を見つける人が出てくるから」
「なるほど、だから細かいルールがドンドンと追加されていったということですね」
四葉の隣では緒方さんが真面目にルールを読んでいた。
「何だかこういうのって読んでると眠くなるんだよねぇ~」
「別に寝ても構わないけど、ちゃんと覚えない限りは乗れないわよ?ロボット」
「ぐぬぬ」
四葉は大空からのダイブで諦めるかと思っていたが、意外と乗りたいらしく頑張っている。
ふと視線をモニターに向けると早乙女さんと鹿島先輩がさっそく対戦をしていた。
Battle Dollsは現在、第三世代機まであるが基本的には第二世代機が主力と言える。
第一世代機は黎明期だけあって色々と尖った挑戦的な機体が多い。
第二世代機は数々の試合データなどから各社がそれぞれ特色を出した感じになっていて、主に防御面を重視した傾向の機体が多くなっている。
そして最近登場し始めたのが第三世代機だ。
今まで技術的に難しかった部分がクリアされ、第一世代機のような挑戦的ではあるものの第二世代機のような安定感を有した機体が登場し始めた。
まあそもそもVR世界ならデータ上のことなので何でもアリだと思うだろう。
しかしBattle Dollsでは、ゲーム全般の管理をしているマスターコンピューターが可能だと判断したもののみ使用可能なのである。
つまり例えばビームを撃つビームライフルがあったとする。
これを適当なデータを突っ込んだだけで形を整えて持たせても試合では動作しない。
しっかりと理論から内部データまで作り込んで理論上可能だと判断されるレベルの完成度でなければVR世界でも使えないのだ。
「そんな攻撃当たらないってのッ!」
「まだまだこれからですわッ!」
オープン回線で会話しながら戦闘なんて普通はあり得ない。
でもまあ練習だし良いのかな?
なんて思いながらも2人の戦いを見る。
鹿島先輩はさっそく特権を利用したようだ。
第三世代機:ストームトルーパーに乗っている。
見た感じ特に改造などをしている感じはない。
まさに買ったばかりの新品に装備を載せて戦っているという状態に見えた。
「第三世代機って出たばかりで異常に値段が高いのよねぇ」
そんな感想が口から洩れる。
ストームトルーパーは脚部にホバー技術が採用されており、比較的鈍足なBattle Dollsでも高速機動を可能にしている。
その速度を殺さないように大型バズーカを手に持ち、腰にマシンガンと接近用の剣を装備。
典型的な射撃しつつ距離を詰めてという感じだろう。
そして早乙女さんは第二世代機の雷鳴を滅茶苦茶カスタムしていてもはや原型が無い。
何とか雷鳴かな?と解るレベルだ。
雷鳴を作った太川重工も、まさかこんなに改造されるとは思ってなかったでしょうね。
脚部がタンクと呼ばれる戦車型になっていてキャタピラのようなものが見える。
腕も武器と合体している腕部一体型と呼ばれる武装になっている。
右手はマシンガンと下部にグレネードかな?
左手はガトリングガン。
肩には滑腔砲が2門。
硬さと火力にものをいわせた典型的な『撃ち合い上等』である。
戦いはホバー移動とスラスターによる高速左右移動で接近したい鹿島先輩とそれを弾幕で許さない早乙女さんという感じだ。
バズーカが何発が命中するが、流石は元・雷鳴。
大したダメージにはなっておらず早乙女さんは回避行動を取らずに攻撃に集中している。
しかも肩には旋回用の大型スラスターまでついており、そのせいで鹿島先輩はホバー移動で後ろに回り込みたいのにそれをさせて貰えないという状態だ。
……何というか不毛な戦いである。
「あ~、私も早くロボットえらびた~い!」
ついにルールを読むことを諦めた四葉がそんなことを言い出した。
「……仕方が無いわねぇ」
早乙女さんからも『お好きなものを買って下さって結構』と言っていたから、彼女らのためにもちゃんとしたのを買おう。
「わ、私も選んでいいでしょうか?」
「どうせだから2人の選んじゃいましょう」
「わ~い、やった~」
購入用の画面を開くと露骨に喜ぶ四葉。
緒方さんも愉しそうに選び始める。
まあ気持ちは解らなくもない。
この選んでいる瞬間も凄く愉しい。
「時代は第三世代機!だって」
四葉が最初に登場する広告を読む。
「2人は大人しく第二世代機から選んだ方がいいよ」
「どうしてですか?」
「第一世代機はバランスも何もあったものじゃないから難しい。第三世代機はまだまだ調整の余地があるテスト機みたいなのばかりでこれも扱いが難しい。だから一番安定している第二世代機が良いって理由」
「へぇ~」
「なるほど」
理由を聞いて2人は納得したのかスグに第二世代機の場所を開く。
「そういや冬華ちゃんは選ばないの?」
「……私は持ってるから」
そう言ってデータの入った起動キーを見せる。
「あ、そうなんだ」
単なる興味本位だったのか、そういうとまた四葉は機体選びに戻る。
ああだこうだと言いながら機体選びをする2人と話をしていた時だった。
「清水さん。申し訳ないのだけど、鹿島さんの相手をしてあげて下さらない?流石にこれ以上は私も付き合えなくて」
そう言うとため息を吐きながら彼女が椅子に座ると、どこからともなくメイドさんが現れて紅茶を入れる。
確かにずっと練習試合をしていれば疲れるだろう。
「おう、清水。1戦付き合え」
VR装置から顔だけ出した鹿島先輩がそう言うとこちらの返答を待たずにまた装置の中へと入ってしまう。
まったく、最初から思ってはいたが強引な人達だ。
「1戦だけですよ」
そう言って私もVR装置の中へと入る。
シートに座るとロボットデータの入った起動キーを差し込んで装置を動かす。
そして上から降りてきたVR装置を頭に装着してシートにもたれる。
画面に起動のプログラムが映るとスグにVR世界へと入った。
ロボットの格納庫のような場所が周囲に映る。
そして目の前にはカウントダウンの表示。
赤から緑へと変化する信号。
その直後、カタパルトによって強制的に撃ち出される機体。
大空へと投げ出された機体は重力によってドンドンと落下していく。
揺れる機体、目まぐるしく変化する景色。
高度計を見ながら降下強襲用パラシュートを展開して速度を落とす。
「ステージは草原。先輩の方が有利なマップってところか」
そう言いつつもバーニアを操作して姿勢制御を行い草原のど真ん中に着地するとパラシュートをパージする。
「カタパルト発進なんてずいぶんと操縦に自信があるみたいじゃない」
オープン回線で先輩の声がしたかと思うと正面からホバー移動でストームトルーパーがやってくる。
「最初、これに憧れて練習したので」
「あははっ。その気持ち解るわ」
そう言いながら先輩は一定距離まで移動するとそこで停止する。
「ルールは大会ルールでいいよね?」
「大丈夫です」
大会ルールとは試合時間60分1本勝負。
どちらかの機体が『大破判定による試合不能』もしくは『コックピット破壊による確定大破』の判定を受けた段階で勝負が決まるというもの。
『大破判定』は一定以上のダメージを受けた場合でかつこれ以上の試合継続を試合を管理するコンピューターが不可能だと判断した場合に出るものだ。
そして『コックピット破壊』に関しては相手ロボットのコックピットを破壊してパイロット死亡による強制大破を確定させた場合に出る判定のことである。
実際の試合ではコックピット破壊による決着となる場合がほとんどだ。
先輩が設定を操作すると実際の試合と同じく機械によるアナウンスとカウントダウンが行われ―――
「しっかしソードナイトとはねぇ。せっかくなんだしもっと良いの買えばいいじゃない」
「……この子は私の相棒なので」
「まあ、そう言うなら無理にとは言わないけどさ」
第一世代機:ソードナイト。
大きな盾と剣を持った騎士風の見た目が注目された機体。
しかし基本的に飛び道具を持っておらず改造必須の機体でもあったため人気はあったもののスグに試合でも見かけることは無くなった。
そもそもブースターによる高速移動など技術的に難しいBattle Dollsでは移動は歩くか走るである。
そのため銃火器による遠距離攻撃が主軸になってしまい、それに対して防御力を高める方向にシフトしたのが第二世代機である。
そういった経緯もあり基本的に第一世代機は耐久面で問題があるものが多い。
第二世代機が普及しつつある現状で、思い入れでもなければ使われることはないだろう……そんな機体。
「それにそいつ、単なるソードナイトではなさそうだしね」
私が初めて気に入って買って貰った機体。
そして改造の仕方を勉強して暇さえあれば色々と改造し続けた思い出の機体。
この子の名は『ダーインスレイヴ』
左手側にはマント型の巨大な盾で左半分を腕ごと完全に覆い隠している。
右手には両手で持っていてもおかしくない片刃のロングソードを片手だけで持っている。
そのため右手は左に比べて肩の大きさから少し違う。
そして予備として装備しているように見える腰の片刃ショートソード。
-試合開始-
合図と共にホバー移動で距離を詰めながらバズーカを撃ってくる先輩。
それをマント型の盾で防ぐ。
「へぇ、無傷。それ結構硬そうね」
爆発による煙の中から無傷で現れたマントに先輩は感心したかのような声を出す。
当然だ。
このマント型のシールドは私が何度も何度も失敗しながら作った自慢の盾である。
そうそう簡単に破壊出来るとは思わないで欲しい。
「でも飛び道具が無いなら一方的に撃たれて終わりさ!」
接近してきた先輩はそのままホバー移動で私の周囲をグルグルと周りながら攻撃を継続してくる。
それをマントを装備している左側で受け続ける。
あからさまな一撃だけは回避するようにしているが、先輩は必要以上に距離を詰めようとはしない。
バズーカだけでは無理だと判断したのか、途中からマシンガンも取り出して2丁での機動力を活かした移動攻撃。
その徹底した戦法に『特攻少女』らしからぬ冷静さが垣間見える。
ひたすら続く先輩の猛攻。
それをひたすら耐える。
攻撃を受けるたびに思い出す。
夏美と比べられてきたことを。
馬鹿にされ続けてきたことを。
そして、逃げ出した時のことを。
「大丈夫……大丈夫……大丈夫……」
震える手。
自然と荒くなる呼吸。
自身に「大丈夫」と言い聞かせながら、大きく深呼吸を繰り返す。
勝者が居れば当然敗者も存在する。
私が夏美との圧倒的な差に絶望していた頃。
敗者の悔しさがよくわかっていたために、いつの間にか勝利を譲るようになってしまっていた。
それが相手に対して最大の侮辱であることも理解せず、単純にそれで良いと思い込んでいた。
「Battle Dollsは、勝利を目指すもの。……そんな当然なことからも逃げ出してしまっていた」
何度目かの深呼吸で、ようやく落ち着きを取り戻す。
機体状況を確認したが、流石は私の相棒。
盾であるマントにほぼダメージ無し。
もちろん機体には何の影響も出ていない。
「今までごめんなさい、ダーインスレイヴ。アナタだって勝ちたかったでしょうに」
操縦レバーを強く握る。
「さあ、行こう。勝つために」
旋回している先輩の動きを予測し、ブースターを一気に吹かしてストームトルーパーへと突撃する。
「はぁっ!?」
ブースターによる特攻。
数々のメーカーがそれによる高機動を実現しようとしたが、それら全てが様々な理由が原因で不可能とされてきたもの。
特にエネルギー消費が馬鹿にならず、たった1回の突撃でエネルギーを全て使い切ってしまうなどとてもではないが使えたものではない。
それに着地の際の脚部へのダメージも問題だ。
よほど上手く制御出来なければ脚部を損傷して行動不能になってしまう。
何よりそんな高速突撃中に相手への攻撃など行えるのか?という疑問まである。
そのためスラスターなどを利用した近距離戦において一瞬で相手との距離を詰めるという短距離の高速移動のみが、第三世代機でようやく実現され始めたぐらいだ。
だからこそと言えるだろう。
突然地面スレスレをブースターによって高速移動しながら突っ込んでくる相手に真琴は驚き、思わず声を上げてしまった。
「くそっ!!」
咄嗟に回避も銃撃での迎撃も無理だと判断した真琴は両手の武器をを捨てて腰にある剣を抜いた。
スラスターとバーニアで向きと姿勢を調整し、突っ込んでくる相手に自分も突撃する構えを取る。
対してダーインスレイヴはブースターの速度を緩めずに右手1本でロングソードを振り抜いた。
2機が交差する。
ダーインスレイヴが綺麗に着地を決めるとロングソードを背中に仕舞う。
その直後、ストームトルーパーはコックピットから綺麗に真っ二つになって爆発した。
「ふぅ……」
私は息を吐く。
久しぶりの集中した戦闘に精神力を思いっきり使ってしまった気分だ。
でも―――
「……ダーインスレイヴ。私、やっぱりBattle Dollsが好きみたい」
コックピットの中でそう呟く。
思わず単純な自身を笑ってしまう。
その直後、通信が入る。
「おいっ、清水!何だ今のはっ!?ブースターで地上スレスレを飛ぶとかあり得ないだろっ!?」
興奮していた先輩は最初こそ質問攻めだったが、そのあまりの勢いにこちらが返事出来ずにいると段々と負けた悔しさからか文句へと変化していく。
そして最終的には「もう1戦だっ!!」と私がVR装置から出ることを許さなくなっていた。
「えぇ……」
そんな大人げない先輩の再戦要求に思わずため息を吐く。
一方、観戦モニターで見ていた可理菜は紅茶を飲みながら呟いた。
「あれだけの速度での突撃。そしてあの速度の中で相手の攻撃を回避しつつ自らの一撃を当てることが出来る技量。何よりあれだけの改造を行えるだけの知識。これは……予想外の拾い物をした、ということかしら」
どこか他人事のような口調ではあるものの、その口元には笑みが浮かんでいた。
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■お知らせ
宣言していました通り本日
最強の女傭兵 近未来でスポーツ美少女となる
Battle Dolls -VR世界で大型人型ロボットに乗って戦うeスポーツ少女-
この2作品を第10回ネット小説大賞にエントリーしました。
女傭兵に関しては修正部位の修正のみでの再エントリーとなります。
前回の第9回では最終選考に残ったこと、そして今回参加企業が多いことを踏まえて十分チャンスはあるのではないか?と思っての再エントリーです。
また今回の件とは関係なく、感想などお待ちしておりますのでお気軽にどうぞ。