第1話
まずはこの作品に興味を持って頂きありがとうございます。
本作品は近未来の完全没入型VRゲーム『Battle Dolls』という人型ロボットで少女達が戦うという未来のeスポーツものです。
そのBattle Dollsというスポーツを中心に様々な人達が様々な理由で戦うという話になっています。
主人公は世界的規模で人気のBattle Dollsにおける天才と呼ばれる姉の影に隠れてしまった妹。
絶えず天才と比較され日陰を歩き続けた少女が、再び立ち上がろうとする……そんな物語です。
あまりロボット系で詳しい描写などは賛否あると思いますので解りやすさ重視で書く予定です。
ですので細かいツッコミなどには返答できませんのでご注意を。
ちなみにタグの残酷な描写やR15は保険みたいなものです。
会場では煌びやかな照明の中、観客達による大声援が響き渡る。
彼ら彼女らが見ているのは中央にあるとてもリアルで巨大なホログラム映像。
そこにはVR空間に存在する廃墟街の中で戦う人型の巨大ロボット。
両手に小型マシンガンを手にしたロボットは巨大な機体ながらも、人間のようにそれなりの速度で動き回る。
そしてマシンガンを相手が居るであろう方向にひたすら撃ち続けていた。
その攻撃によって廃墟ビルの1つが音を立てて倒壊し、衝撃で巻き起こった砂煙によって一時的に周囲の視界が悪くなる。
―――まさにその直後だった
何かが大きくぶつかるような音と共に金属が軋むような音まで聞こえてくる。
観客達は「一体何が起こったんだ?」という感じでいつの間にか歓声はざわめきへと変化していた。
しかしそれは砂煙が晴れた瞬間、一気に大歓声へと戻る。
巨大な突撃槍を持った黒いロボットがいつの間にか両手にマシンガンを持っていたロボットの胴体にその巨大な槍を突き立てていた。
槍は下側から胴体を貫通。
串刺し状態で上方向に持ち上げられており、まるで勝利をアピールしているかのような形になっていた。
会場では試合終了というアナウンスと共に合図である音が鳴り響く。
その瞬間、放送ブースでは興奮したアナウンサーによる叫び声があがる。
「まさに電光石火ッ!一瞬の出来事ですッ!!『天才』清水 夏美選手の、まさに圧巻の勝利ッ!!これにより全国中学生Battle Dolls女子の部ッ!!優勝は東京都代表ッ!赤峰中学校に決定しましたッ!!!」
The Battle Dolls
「いや~、やっぱり夏美は凄いなぁ」
「そうね。昨日電話でU-15日本代表にも内定したって言ってたし」
「えっ、ホントかい!?それじゃ今日はお祝いをしなきゃ!」
愉しそうに2人で買い物をしてくると出て行った両親を送り出すと思わずため息を吐く。
そしてリビングに戻るとテレビでは『天才!清水夏美の驚異的な戦績!!』と過去の試合映像などを流していた。
「み~んな同じことばっかり言って、馬鹿みたい」
ふとそんな言葉を口にする。
しかしそれは思い出したくない過去を思い出してしまい、逆に自分に跳ね返ってきてしまった。
私は『清水 冬華』
Battle DollsというVRスポーツゲームの天才として国内外からも注目される『清水夏美』の双子の妹である。
夏美は何をやっても失敗らしい失敗をしない。
そのせいでいつも私は『お姉ちゃんを見習って~』と言われ続けてきた。
それが嫌で。
何とか1つでも夏美に勝ちたくて。
私は夏美が興味を示したBattle DollsというVRスポーツに手を出した。
VRの仮想空間上で人型ロボットに乗って戦う戦争にも見えるものだが、立派にスポーツとして認知されていて世界中で大流行している。
実際プロの試合は連日放送されており、高視聴率らしい。
そんなBattle Dollsは、私に更なる地獄を見せてくれた素敵なスポーツだった。
夏美は初心者とは思えない速度でロボット操作を覚え、実際の試合を行うようになった。
でも私はなかなか操作を覚えられず、試合をやってもなかなか勝つことが出来ない。
やがて夏美は試合で負け無しの強さを手にし、気づけば彼女との差は絶望的になっていた。
『天才の姉』と『凡人の妹』
そう周囲から言われ始めるのに時間はかからなかった。
ムキになって努力をしたこともある。
でも努力すればするほど、夏美との差を嫌でも感じてしまう。
そうして夏美は中学生大会を優勝してU-15日本代表となり、私はこうして家でそれを眺めて愚痴を言うだけの存在となった。
つまりは結局……私はこのBattle Dollsでも、夏美に勝つことなど出来なかったという訳だ。
最初は軽い気持ちで応援していた両親もいつしか活躍する夏美ばかりを熱心にサポートするようになる。
気づけば我が家は夏美中心となっていた。
おかげで私は非常に肩身が狭く、つい夏美どころか両親すら可能な限り避けるようになってしまった。
それを良くないことだと理解していながらも何とかしようとも思わない。
―――双子なのに、どうしてこんなに差があるのか?
私は自身の恵まれなさを呪うことしか出来なかった。
そんな日々が続いたある日。
ついに高校への進学が決まった。
夏美は近くに強豪校があったので、そちらに行くことになった。
私は夏美とは対照的に自宅から通うのが不可能な遠くの学校を選んだ。
このままここに居ては私の精神がもたない。
そんな気がしたからだ。
結果から言えば引っ越しはスムーズに行われた。
「心配だ」と口にしながらも大した反対もせず寮に行くことが決まった時は少し悲しかった。
どうせこうなると思っていたはずなのに、心のどこかで「止めて欲しい」と思っていたのだろう。
そして心配そうにこちらを見る夏美の視線が……私には少し鬱陶しく感じた。
こうして私は両親から、夏美から、周囲から、そして故郷から……逃げた。
とりあえず3話分だけ先行で投稿します。
その後は週1投稿予定。