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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

悪の科学者、異世界転移する『この世界には美学が無い!悪も!正義も!全てを教育してやろう!」

作者: アタタタタ

ルビ多めです。

「この世界には美学が足りん…。」



「美学、ですか?」



「そう、『悪の美学』という崇高な理念が無いのだ!!!」



ワシの名はミスターX、科学の世界からこのファンタジーな世界に転移した数奇なる運命を持つ者だ。

魔王軍に在籍し悪の活動を続けてはいるものの、日々のフラストレーションでどうにかなってしまいそうだ。



「それは良いのですが…、このピッチリと体に張り付く洋服スーツ、脱いでも良いでしょうか?体のラインが出てしまって…。」



組織の女幹部としてあるまじき発言が耳に入ってくる。



「ダメだ!貴様は魔王軍四天王の一角を務めるサキュバスの長だろう!?絶対にお色気要因じゃなきゃおかしいだろう!」



「いえ…、サキュバスは代々貞淑を重んじ、一人の殿方に尽くす種族なんですが…。」



「大丈夫だ!そのスーツは耐久性に優れている。伝説の防具すら凌駕する一品だ!!(…各部位はよく破れるが)」



そう言って何とか説得する。





「サキュは色気の中にも可憐さが有って羨ましいですわ!わたくしなんてゴツい甲冑ですのよ!?」



「色気…」



奥から少女が怒鳴り込んでくる。

少女の言葉にサキュバスが顔を赤くしているが、誰も気にしていない。



「何を言うのですか、魔王様!オレなんて鎧を脱がされて上半身裸ですぜ!?」



「私なんて魔王軍を裏切るフリをしろと言われたのですよ!?裏切るのでは無く裏切るフリです!もう訳が分かりませんよ!」



折角の魔王会議がもうグシャグシャだ。仕方なく一つずつ答えていく。



「魔王様、魔王というのは威厳が必要なのです。全長10mにも及ぶその鎧は変身も可能で、小国の軍隊なら軽く蹴散らせるのですぞ。」



「サイクロプスよ、貴様の素晴らしい筋肉は見せ付けなければ始まらないだろう。安心しろ、透明フィルターによって十分な防御力は確保してある。」



「暗黒騎士よ、組織に一人は後ろ暗い人間が必要なのだ。ワシはマッドサイエンティストだから出来んのだよ。」



3人をそれぞれ諭していく。最高の性能と外見を兼ね備えた装備なのに、何が問題なのだ。



「え?私だけ防具の説明無いのですが…、コレって普通の甲冑なのですか?」



暗黒騎士が何か喋っているが、気にせずに続ける。



「崩壊寸前だった魔王軍を救う為にワシの言葉に従うと言うのは嘘だったのか!?くじけずに前へ進むのだ!」



数か月前、先代から代替わりした魔王軍はあっという間に勢力を縮小していった。

もう解散しか無いという時にワシが手を差し伸べたのだ。



「魔王番付も138位にまで上がっていますし、貴方の事は信頼していますわ!ですが…、もう少し何とかなりませんの…?」



「なりませんな。」



現実は無常である。

そもそもワシは科学の世界でも悪の組織の狂科学者マッドサイエンティストをやっており、その事に誇りを持っているのだ。

ワシが所属する以上は魔王軍も生まれ変わって貰わねばならない。



「何が気に入らないと言うのです、魔王軍に所属する者はゴブリンでさえ強大な力を手にし、勇者とさえ渡り合えるのですよ?」



「そもそもそこからオカシイのですわ!何でゴブリンがあんなに強くなるのですか!!何で皆変な洋服スーツを着ているのですか!!!」



「それが悪の組織というモノだからです。」



そろそろ分かって欲しいものだが、理想というのは中々理解を得られぬものらしい。



「それよりも魔王様、そろそろワシは人間の街を調査しに行って来ます。いつもの定期調査なので暫くしたら戻ります。」



ワシは立ち止まっている訳には行かないのだ。悪の理想の為常に行動せねばならん。



「はぁぁぁ……。分かりましたわ。いつものお土産お願い致しますわね。」



魔王の言葉を背にしてすぐに城を離れる。

他の3人もお土産を頼んできたが、遊びに行く訳では無いと分かっているのだろうか。



---



近くの小国の王都へ行き、そのまま城へと向かう。



「師匠!お久しぶりです!」



「エクス様!お変わり無いようで安心しました。」



「お師匠様!!」



門番に通されて少しするとすぐに青年たちに取り囲まれた。



「久しぶりだな。レッド、ブルー、ピンクよ。しっかりと装備ヒーロースーツを身につけているようで嬉しいぞ。」



彼らはこの国の王子、宰相の息子、公爵の息子であり、勇者をしている者達だ。

少し前に手合わせをしてやったのだが、余りの弱さに驚き装備をくれてやった。

悪の組織と敵対するヒーローを作りたいと思っていたから、ちょうど良かったとも言える。



「当たり前です!この素晴らしい装備のお陰で、私達もついに勇者番付7位まで到達しました!」



「本当に素晴らしいです。エクス様には王国の食料事情も解決して頂き、感謝してもし切れない位です。」



「あ、あの…なんで僕の装備にだけフリルがついてるんでしょうか…?」



レッドブルー、ピンクが話しかけてくる。本名は違った気もするがもう覚えていない。



ブルーよ、大した事は何もしてない。人類の繁栄は(悪の組織にとって)絶対に必要なのだ。」



弱い人類を倒しても興ざめだからな。悪の組織には相応しいヒーローというモノが必要なのだ。

この貧弱な王国を建て直し、強大な敵へと育てるのだ。その為に貴族の腐敗も既に一掃した。



「ピンクよ!お前の愛らしさを生かす為にはそのフリルが必要なのだ!時代の最先端を進んでいると思うが良い!!」



続いてピンクの呟きにも答えてやる。ピンクは絶対に必要な存在だ、ここで不審を持たれる訳には行かないのだ。

ワシの発言に何故か頬を染めているが、何とか納得してくれたようだ。少年をピンクにするなど我ながら狂った発想だ。流石は狂科学者マッドサイエンティスト



「師匠、最近順位を上げてきている魔王軍『悪の組織』について相談したいのですが…。」



(ほう、ついにか?この辺りで一戦交えておくのも悪くないかも知れんな…)



期待しながら続きを待っていると、レッドはとんでも無い事を言い始めた。



「私には『悪の組織』が極悪な魔王軍とは思えないのです。確かに一般兵らしき相手まで強大な存在なのですが…。」



「そうです、奴らはたみを殺さず、食料を奪うにしても僅かしか盗んで行きません。」



「それどころか、他の魔王軍を撃退してくれてるんです!僕のお父様の領地もそれで助かったって言ってました…。」



いつものようにレッドブルー、ピンクの順番で話し出す。話す順番を決めているのだろうか。



「甘い!弟子達よ!砂糖菓子のように甘いぞ!!」



この世界の砂糖菓子は本当に甘い。胸やけがする位だ。いずれは改善してやらねばと思っている。



「例え何らかの事情があろうと、奴らは魔王軍を名乗っているのだ!『悪の組織』なのだ!勇者ヒーロー達と道が交わる事など無いと知れ!!」



余りの相談につい興奮してしまった。

『悪の組織』には無闇な殺生をしないように命令しているが、あくまで悪の都合なのだ。

民衆ギャラリーが居てこその悪。観客を殺すなど有ってはならないのだ。



「やはり…、甘い考えだったでしょうか…。」



レッドが打ちひしがれている。悲しいが、仕方の無い事だ。



「いずれ戦って判断すれば良い。貴様らはヒーローだ。自らの信念に従い進むのだ。」



前の世界のヒーロー達はいずれも強い奴らばかりだった。

願わくばコイツらもそうなって欲しいものだ。



その後は弟子達と別れ、未開拓地振興の為にゴーレムを始めとする物資を王国に提供した。

王を始めとした貴族達から娘を紹介されそうになったが華麗に交わし、事なきを得ている。

王城から出た後も民衆に囲まれたが、コイツらにワシの正体を教えたらと思うと笑いを堪えるのに苦労した。



順調に各所を回っていき、最後に向かうのは闇ギルドだ。



---



『山』



『川』



秘密の符丁を交わし、ギルドへと入る。



「我らが主よ、よくぞお帰りになられました!」



「アヤツらの様子を見に来ただけだ。調子はどうだ?」



「ッハ!順調に育っております!」



そう言ってガラスで分けられた隣の部屋を見せる。

首輪を嵌められ鎖で繋がれた少女達が座っており、目も虚ろな状態だ。



「そう言えば今日は投薬の日だったか。順調なようで何よりだ。」



そう言って怪しく笑う。



「ッハ!我ら一同感謝しております!隣国で奴隷狩りに遭った一族を救ってくれたばかりか、不治の病に冒された子供達までお見捨てにならないとは…!」



もう少し余韻に浸らせて貰いたいものだと思いながら、訂正をする。



「勘違いするな。コイツらは新たなるヒーロー『魔法少女』として活躍させるつもりだ!」



鎖から魔力を吸収させてファンタジーな影響を少なくし、薬で治療するのが一番安全と判断したのだ。

レッドたち戦隊ヒーローに続く勇者として彼女たちには大いに役に立ってもらうつもりだ。



「しっかりと栄養を与え、休息と適度な運動も忘れるなよ!」



資金と物資を分け与え、ギルドを後にする。

闇のギルドは王国を影から支配する存在だ。腐敗した貴族せいぎどもに用など無い。

小さなとうぞくなど不要なのだ。全ての悪は『悪の組織』の為に!



少女達が懸命に書いたという沢山の手紙を持たされ、ギルドを去る。



---



「ミスターX!良い所に戻って下さいました!先ほど隣の魔王軍からイチャモンをつけられたのですわ!どうしたら宜しいのでしょうか!?」



魔王城に帰るとすぐに魔王が駆け寄って来た。

数日の留守番も出来なかったようで目に涙をためている。



もう少し自立して欲しいものだと思いながら魔王を安心させる。



「素晴らしい!『悪の組織』に歯向かう敵が近辺にまだ居たとは!ワシらの恐ろしさを徹底的に分からせてあげましょう!!」



新たな敵の出現に歓喜し、今日も悪の道を突き進む。





END


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