クズな妹が私のふりをして婚約者を奪いました。言い忘れていましたが私もクズなので、私のふりをしてもロクなことにはなりませんよ?
子爵令嬢である私、クレア・モーズリーには、双子の妹であるジーナ・モーズリーがいる。
そしてある日、私の婚約者である伯爵令息のロディ・ボーマンを、妹が奪った。
「お姉さま、残念だけれど、これでロディ様は私のものよ。私はこれから、お姉さまとしていきていくわ!」
その方法は、信じられないものだった。
彼女は最悪な方法で、私のふりをすることに成功して、婚約者を奪ったのだ。
その方法とは、私の顔に、劇物をかけるという卑劣なものだった。
私の皮膚は溶けて、元の顔には戻らなかった。
そしてジーナは、顔に劇物がかかったのは妹のほうだという話をすぐに広めた。
両親は本当のことに気付いていたが、ジーナに協力することを選んだ。
昔から、いつも妹の味方で、私の味方をしてくれたことなんてなかった。
婚約者のロディも、薄々は気付いていたようだった。
しかし、顔が爛れている婚約者よりも、元々そっくりな顔の妹の方を選んだ。
こうして、妹は私のふりをして、私の地位を奪ったのだった。
彼女は私のふりをして、婚約者も奪い、毎日幸せな様子を私に見せつけてきた。
こんな方法で婚約者を奪うなんて、クズな妹らしいやり方だ。
「お姉さま……、あ、間違えた、ジーナ。あなたも婚約者を見つけたらどうなの? あ、その顔じゃあ無理かもしれないわね」
妹は高笑いしていた。
私から何もかも奪って、満足しているのでしょうね。
私は、笑いそうになるのを必死に我慢していた。
そうやって、一生私のふりをしているつもりなのでしょうけれど、私のふりをしても、ロクなことになりませんよ?
言い忘れていましたが、私もけっこうなクズですから。
私のふりをし続けている報いは、必ず訪れますよ。
私が本当はどういう人間か知っても、その時にはもう遅いでしょうね……。
*
(※ジーナ視点)
お姉さまは家から出て行った。
この家での生活に耐えられなかったのだろう。
ああ、いい様だわ。
私はお姉さまの何もかもを奪った。
そっくりな双子なので、お姉さまに成りすますのは簡単だった。
今では私が、伯爵令息であるロディ様の婚約者であり、モーズリー家次期当主でもあるクレア・モーズリーなのよ。
お姉さまから何もかもを奪い、私の幸せな生活は続いた。
それが、このままずっと続くと思っていた。
しかし、そうではなかった。
私の元へ、次々と人が押しかけて来た。
「クレア・モーズリーさん、あなた、いつになったらお金を返してくれるんですか? あれだけの大金を貸したのに、まさか踏み倒そうとなんてしていませんよね?」
「クレアさん、貴女には、違法賭博への関与の容疑がかかっています」
「うちでは、何もしていない平民に手を上げたなんて話も出ていますよ」
……え、何なのよ、これ。
私は、知らない。
でも、今の私はクレアなのだから、みんな私に責任を負わせようとしてくる。
え、何?
逮捕!?
死刑!?
ちょっと待って、私はクレアじゃないのよ!
しかし、そんなことは聞き入れてもらえなかった。
すでに私は、クレアとして認知されているのだ。
……あぁ、こんなことになるくらいなら、お姉さまのフリなんてしなければよかったわ。
*
私は一人、町を歩いていた。
妹のジーナに何もかも奪われ、私はすべてを失った。
でも実は、妹が私に成りすますのは、これが初めてのことではない。
幼いころから、何回も、何十回も繰り返してきたことだ。
相手の物を奪いたければ、その相手に成りすませば自分のものになる。
相手の評判を落としたかったら、その相手に成りすまして悪事を働けばいい。
私たちはそうやって、何度もお互いに成りすました。
繰り返すうちに、元々どちらがどちらだったのか、自分たちでもわからないようになった。
でも、迷うことはない。
相手がジーナなら、私はクレアだ。
そして、相手がクレアなら、私はジーナだ。
実に簡単なことである。
そうやって、お互いがお互いになりすまし、奪い合い、蹴落とし合ってきた。
でも、今は離れ離れになって、それもなくなった。
あれ?
今の私は元々、クレアかジーナ、どっちだったかしら……。
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