幼年期の記憶
「恭介ーはやくしなさい」
「はーい」
母親の声で僕は朝ご飯を掻き込む。僕は食べるのが遅い。基本的には。しかし例外として好きなものに関しては早い。
無理やり飲み込んで母親の車に乗り込む。保育園に遅れてしまったら大変だ。みんなに早く会いたい。
「恭ちゃん遅いよー」
これは僕の弟の誠也。一歳年下でいつも僕の後をついてくるかわいい弟。僕は遅いといわれたことには何も答えない。弟より食べ終わるのが遅かったことが悔しかったのだ。
「ねえお母さんあれかけてー」
保育園までは結構な距離だ。僕はいつも特撮モノの主題歌を聞きながら保育園へ向かう。車はじっとしていなければならないし、酔ってしまうから苦手だ。だから好きな曲を聴いて気を紛らわす。
「あ、ちょうちょいたー」
「窓から手を出したら危ないでしょー」
「ちょうちょいたの」
保育園までは長い。
「よろしくお願いします」
「ばいばーい」
母親に手を振る。すぐに保育園の中に入って遊び始める。今日はどこまでやろうか。
僕はブロック遊びを始める。最近はとにかく大きいものを作ることが好きだ。
「もうブロック始めるの?」
「うん」
「ぼくもやるー」
時間は有限だ。もうすこししたらホール遊びの時間になる。そうなるとブロック遊びはできなくなる。
誠也が僕に追従してブロックをくっつけ始める。
「今日は巨大ロボットだ!」
「わかった!」
「恭ちゃんゆみちゃんきたよー」
先生が僕に声をかける。僕はすぐに玄関へ向かう。ゆみちゃんはこの保育園で一番お姉さん。僕はゆみちゃんが一番すきだ。二番目はみなちゃん。
「ゆみちゃんおはよ!」
僕はゆみちゃんと話したくて誰より早く声をかける。
「恭ちゃんおはよう」
ゆみちゃんが笑顔で挨拶を返してくる。安心するような笑顔だ。
「今日は巨大ロボットを作るんだ!」
「昨日よりも大きいの?」
「僕よりも大きくする予定」
他愛もない話で僕は幸せになる。ゆみちゃんが答えてくれるのが嬉しい。
「ああ!だめだよ!」
僕は弟に対して怒った。飽きっぽい誠也はブロック遊びはやめて塗り絵を始めていた。僕が塗ろうとしてたやつだ。別に塗り絵をしていること自体はいい。でもそんな塗り方じゃダメだ。はみ出しているし色もてきとうだ。僕ははみ出すのは嫌だし、色も見本通りに塗りたい。
「別に違う色でもいいでしょう?」
先生が僕と誠也の間に入り僕の怒りは鎮火する。
「でもー」
「また新しいのやろう?」
「うん!」
僕は先生も大好きだった。
ホール遊びは各々室内で体を動かす遊びをする。僕は野球をする。といっても先生がボールを投げて僕が打つだけだ。守備練習はやらない。
「僕はジローみたいになるんだ!」
いつか見たメジャーリーグの試合を思い出す。たしか左打だった。
ジローはとにかくすごい足が速いし、かっこいい。僕もあんな風になりたい。
「大人になったらプロ野球選手になるの?」
「うんなる」
ボールを打ち返しながら答える。何も考えずただ来た球を打つ。いつかあんなかっこよくなれるだろうか。
保育園のころの一番楽しかった記憶。俺は親の仕事の関係で保育園を転々としていた。でもここが一番楽しかった保育園だった。他の保育園ではいじめられたり、嫌いなプール遊び(泳げないから)をしなければならずあまりなじめなかったように思う。実際はそのせいで別の保育園に行ったこともあったのかもしれない。
このころのことはあまり覚えていない。明るい性格だったと思う。いたずらをして怒られることもあったが基本的には善良だ。何も考えていなかったように思う。あと何かを真似るのが上手かった。スポーツ選手のマネや特撮ヒーローの真似。食べ物の好き嫌いは多かったな。食べれないときはマヨネーズをこれでもかとたっぷりかけて流し込んでいたな。なんであんなにマヨネーズが好きだったのかわからない。今考えると気持ち悪くなるな。