お誘い
「……ん」
ーーーあれ、私寝ちゃってた……?
ぼんやりと、目覚めた意識の中で心地の良い感じに包まれながら意識数秒前の記憶を掘り起こす。
「……あ、起きたか?」
「………?」
声を掛けられて、無意識のうちに声のした方へ顔を向ける菜々。そこには、見上げる形で祐樹がいた。
「…………わわっ!!」
そこで、祐樹に膝枕をされていることに気づいた菜々は、慌てて起き上がーーーろうとしたかた、祐樹に優しくお腹を触られ、くすぐったい感覚にやられてまたまた祐樹のヒザに頭を落とした。
「お、お師匠様!?」
「いいから、無理しないで」
と、そのまま頭を撫でられる。んっ、と声が漏れた。
「人って、寝ればストレスの何割かが軽減されるとはよく聞くけど……どう、結果は出た?」
「えと、今は別の問題でパニックになってますお師匠様………」
菜々の頭は、現在祐樹にお腹を触られていることと、膝枕をされていることと、頭を撫でられているという事実に軽度なパニック状態を起こしていた。
「……別の問題?」
「その………とても恥ずかしいです、お師匠様………」
と、顔を真っ赤にして言うことで、菜々はようやく膝枕から開放された。
「それで、もう一度聞くけど………結果はでた?」
「………まだ、です……けど。眠ったおかげか、幾分かはスッキリしたような気がします」
あはは、と笑う菜々。
「………まだ、私はこの問題について考られるほど、私は私が置かれている状況のことを知らないんです」
ギュッ、と拳を握る菜々。
「だから、教えてくれませんか……私に、ヒロインのことと、アビスのこと、フェンリルのこと……そして、世界のことを」
しっかりと、祐樹の目を見つめる菜々。それを聞いた祐樹は微笑みーーー
「勿論。なんだって、キミは俺のお姫様なんだから」
と、祐樹は再び菜々の頭を撫でる。
「だけど、今はそれよりもヒロイン大運動会の方に集中しよう。俺は出れないけど、朝凪さん達はでるんだから」
「………え!?お師匠様出られないんですか!?」
時は遡り、一日前。学園会議でヒロイン大運動会の時に美冴が発した一言が原因である。
「そういえば美冴くん。小鳥遊くんについてはどうする?」
正吾郎が、美冴に視線をやり、祐樹はヒロイン大運動会に出るのかどうかを聞く。
「………あぁ。祐樹はダメ……というか、出たら色々と大変なことになって競技どころじゃないからパス。色んなところの学生が祐樹の所に向かうのが目に見えるよ」
椿原でさえ、来た時には全生徒が迎えるというトンデモ状態になったのだ。
「……それに、彼には既に出てくるであろう出歯亀について対処するために動いてもらう」
これで、今年は更に安全だな!という一言に全員が賛成した。毎年毎年、全ヒロインが集まる日に色々とちょっかいを出してくる輩がいるため、その対処を祐樹に任せたのだ。
「あぁ、学園長に別仕事を頼まれてな……」
「で、でも。それって悲しくないですか……?」
「別にいいよ。そもそも、俺、ガキの頃から運動会クソ嫌いだったし」
めんどくさい。という理由で嫌いだった。別に運動が出来ないとかそういうのじゃない。ただめんどくさかったから嫌いなのだ。
やりたくもないダサい応援練習をさせられ、特に優勝したからといっても特に何も無い。あんな非生産的なこと、やる意味あるのか?とすらまで思っている。
「だから、俺的にはみんなを護る方の仕事が向いてるし、朝凪隊が出る競技は見に行くし………もし無理でも、朝凪さんのだけは見に行くから」
「お師匠様…………」
菜々が祐樹を見つめる目は、どこか悲しそうだったが、お師匠様が選んだことだから!と思い、気持ちを飲みこんだ。
「……分かりました。それなら、お師匠様は精一杯、私と、朝凪隊のみんなを応援して欲しいです」
「あぁ。しっかりと見させてもらうよ」
そこで、菜々はふと思い出したことがあり、祐樹に尋ねる。
「……あの!お師匠様は、大運動会で最優秀賞を取ったヒロインの景品って知ってますよね?」
「? あぁ、あれだろ?学園長ができる範囲ならなんでも願いを叶えることが出来るやつ。去年は神楽先輩だったな」
願いは、特別に中等部にいる祐樹とのガーディアンの誓いを結ばせるというのだった。もちろん、美冴は許可したが、祐樹が拒否っているため、神楽のガーディアンの契り申請書には、寂しく神楽の名前と魔法印鑑だけが押されている状況である。
「そ、その………お師匠様……もし、私が優勝したら……わ、私と!一緒にお出かけしませんか!」
「…………お出掛け?」
「はい!お出掛けです!」
と、ふんす!と気合を入れたように大声で肯定する菜々。
「……えっと……そんなんでいいのか?」
「は、はい!それがいいです」
と、必死に言う菜々。そんな菜々に、祐樹はもう一度笑いかけた。
「……その程度だったら、お願い無しでも付き合ってあげるさ……大運動会の次の日、お出掛けに行こう」
「……っ!は、はい!」
と、実質デートの予定を入れたのであった。




