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波紋ーーー②

「ごめんなさいね。こんな朝早くから呼び出しちゃって」


「いえ!大丈夫です!」


 祐樹が瑠璃学園に帰った七時間後。美冴に呼び出された朝凪隊のメンバー七名は、学園長室にいた。


「学園長先生。ボクは何となく呼び出された理由に気がついてるーーーというか、知ってるんだけど、来る必要あったのかい?」


「もちろんだよ神楽くん。それに、その話だけじゃなくてちょっと大事な話もあるしね」


 神楽も、祐樹の仕事内容について知ってる一人だ。


「菜々くん。君はフェンリルというのを知っているかい?」


 と言った瞬間、美冴の後ろにディスプレイが出てきて、国際機関フェンリルのロゴマークが現れた。


「フェンリル……名前だけなら知ってます」


「国際機関フェンリル。表ではアビスに対して、ヒロイン以外の有効打を見つけるための多国籍企業ーーーとなっている」


 トン、と美冴が机を叩くと、ロゴマークから、フェンリルについての色々な情報が溢れる。


「だがしかし、本当の研究は色々とやばいことを行っているんだけど……私より、皆からの説明の方が説得力はあるだろう?」


「えっと………」


 そう言われ、まだ何も知らない菜々は周りを見渡してーーー気付いた。


 全員。どこか怒りを抑えきれないと言った様子だったからだ。


「……………この瑠璃学園は。反フェンリルとして、毎日のようにフェンリルの解体を政府に進言している……チッ、言葉に出すだけでも忌々しい……」


 と、神楽が今まで見た事ない形相で荒れている。その事に少しビビりながらと、菜々はみんなに目を向ける。


「フェンリルは、アビスに対する実験と言いつつ、やっていることは少女たちを誘拐し、日夜何かの実験に強制的に使われるだけ………あんな連中、地獄に落ちればいいのですわ」


「最近では、謎のアビスによって、研究所が次々と無くなっているようですがーーーそれだけでは足りませんね」


 アンナ、椎菜もフェンリルに対する怒りを隠そうともせずにいた。


 外部入学してきたヒロイン以外の生徒は、フェンリルがやっている非人道的な実験をしていることを知っているし、実際に誘拐されかけた所をヒロインに救助されたという例もある。


 梨々花や加奈恵も、フェンリルに連れ去られようとしていたところを、瑠璃学園の生徒に助けられという過去を持つ。


 かつてない仲間の怒りのみせように、オロオロする菜々。


「この中では神楽くんしか知らないがーーーーココ最近ニュースでよく見るフェンリル研究所壊滅は全部、祐樹がやったことだ」


「お、お師匠様が!?」


 軽く頭がこんがらがっている菜々だが、祐樹のことだけはハッキリと認識できた。


「あぁそうだ。私が一応命令という形でやっているが、祐樹も同意の上で研究所を潰しているしもちろんーーーーーー」


 ーーーそこにいる研究員を全員殺している。


「………っ!!」


 殺す。その言葉に菜々の呼吸が止まった。


「昨日、学園会議の帰りに研究所をひとつ潰してきたが、そこで一人の実験被害者と思われる少女を保護した。祐樹はしばらくそちらにかかりっきりになるから、会える頻度は少なくなると思ってくれ」


 話は以上だ。解散してくれ。その一言で朝凪隊は学園長室を出た。


「話があると思って何かと身構えてたら、まさか祐樹様関連だとは思いませんでしたわ」


「そうですね。てっきり朝凪隊関連の何かかと思っていましたが」


「あ、あの!」


 アンナと加奈恵が喋っているのを遮り、菜々が大声を出し、六人全員が菜々に視線を向けた。


「? どうしました?菜々さん」


「あの……皆さんは何にも思わないんですか?お師匠様が、そのーーーー」


 ーーー人を殺しているの。その声はやけに廊下に響く。


「菜々ちゃん」


「神楽様」


「ボクはね、フェンリルの実験をたまたま目にしたことがあるから言えるんだけどーーーアイツらは、死んで当然のことをしてるんだ」


「ーーーーっ」


 かつてないほどに冷たい目をする神楽に、息を飲む。


「多分、祐樹がやってなかったら、ボクは我慢できないで研究所に殴り込んでるだろうね。もちろん、ジャガーノートを片手にね」


「同感。私もそうしてる」


 と、アデルが神楽の言葉に続いた。


「菜々ちゃんは、まだフェンリルのことを知らないから、『なんで?』って思えるんだろうね」


「梨々花さん……」


「私はね、今でも思ってるんだよ。殺してやりたいって。叶うことならば四肢をもいで無惨に殺してやりたいって」


「私もです。誘拐され、実験されそうになった時は、殺意しか胸に湧きませんでした……死んで当然なんです」


 加奈恵、梨々花と菜々に打ち明ける。


「菜々さん………あなたはまだ《《普通》》だから、そんな表情と言葉が出てくるんですね……あ、別に悪いとは言ってませんよ?人としては当然なんですから」


 椎菜が、菜々の瞳を覗き込みながら言う。


「菜々さん。私たちは《《ヒロイン》》ですわ。アビスと戦い、日本を………世界を守る。そのために戦っていますわ。ですがーーーーー腐り、欲に塗れた人間を守るほど、私達は優しくは無いのですわ」


 その言葉は、菜々の胸に重く響く。


「私達はそういう腐った人間のために戦っている訳ではありません。家族や、親しい人達。そして、家族でもあり、仲間でもあるヒロインを守るために戦っているのです。覚えておいてくださいませ」




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