悪魔のゲームーーー①
「………まだ、終わりませんね」
人生ゲームをやっていた時間は一時間半ほど。しかし、未だに学園長達は戻ってくる気配はない。
「何を言っている!ウチのアデルくん可愛いだろ!?プリティーだろ!?」
「美冴先輩!それなら私のとこの広夢ちゃんだって可愛いでしょ!?」
「認めん!!祐樹をバカにする者は絶対に認めん!!」
と、美冴と奏が謎の言い合いをしており、残りの学園長は真剣な顔をしてどちらのヒロインが可愛いかの相談をしていた。
「………毎回毎回、一体何をしているんだ……?」
くだらない(本人達にとってはくだらなくない)言い争いを50分くらいやってます。
「……しっかし暇じゃのう。のう祐樹殿。もう一度人生ゲームーーー」
「樹莉、アイアンクローは右手と左手、どっちで受けたい?」
ポキ、ポキと指を鳴らしながら、ハイライトの消えた目で樹莉を見つめる祐樹。
「ーーーーは、もうやりたくないじゃろうからな。何をしようかの……」
と、するりと視線を逸らした。
「落ち着けミスター」
「祐樹さん、落ち着きましょう」
今にもアイアンクローをやり出しそうな祐樹をアメリアと美波が止める。それを見ていた若菜が何かを思いついたかのようにポンッと手を鳴らす。その音に全員が若菜を見た。
「あ、じゃあじゃあ!仲を深めるという意味で王様ゲームやらない?」
『王様ゲーム………?』
若菜以外の全員が呟く。
「……知ってるか?」
「いや、知らない」
「左に同じく」
「儂も知らんのじゃ」
祐樹が顔を美波、アメリア、樹莉に向けるが、三人は揃って首を横に振る。神奈達の方にも目線をやったが、全員が首を横に振った。
「姉様。王様ゲームというのはなんなのじゃ?」
代表して、妹の樹莉が聞いた。
「ふっふーん、王様ゲームって言うのは、20年くらい前に皆の中を深めるためにやっていたゲームなんだって!」
王様ゲーム。ランダムに決まった『王様』が命令を出して、それを実行する遊びである。
中セヨーロッパに似たような遊びがあったが、起源はさらに遡るものとされている。
割り箸等を準備し、その先端に人数分から1引いた数を書いて『王様だーれだ』という合図で引かなければならない、飲み会などで行われるレクリエーションである。
「それで、王様になった人は適当に番号を指定して命令するの。例えば、一番が王様を撫でるとか」
「命令……ですか。それはどんなものでも大丈夫なのですか?」
サブリナが手を挙げて質問をした。
「いや、流石にそこは常識ないの範囲だよ。死ねとかそういうのはダメーーーでもね、王様の命令は絶対よ」
「……絶対?」
「そう。絶対。例えば、自身の恥ずかしい過去をバラせって命令されたら、絶対にそれを話さなければいけないの」
「………それ、本当に仲良くなれるんですか?」
「知らないわ。私も初めてするし、なんせ20年前に流行ったゲームだから」
神奈が聞いたが、若菜は知らんと一蹴し、「ふぇぇ……」と言葉が漏れた。
「とりあえず、やってみましょうよ!案外楽しいかもしれないわよ!」
『…………………………』
と言うことで、一同は王様ゲームをすることになった。
「それじゃあ皆決めた?じゃあ行くわよ」
『王様だーれだ』
「………いきなり俺?」
祐樹の割り箸には、王!と仰々しく書かれている文字が。
ーーー番号指定……なんだよな。
番号ではなければ今すぐ珠莉の頭にアイアンクローをぶちかましたかった祐樹。仕方ないと思い、ため息をついた。
「それじゃ四番は大人しく俺からアイアンクローな」
「のじゃ!?」
ビクン!と珠莉が大袈裟に反応し、祐樹の顔がニヤリと滅多に見ない邪悪な笑みを見せた。
「へぇ?珠莉が四番なのか?」
「ちっ、ちちちち違うのじゃ、わっわわ儂じゃーーー」
「高槻先輩」
「はい」
ひょい、と美波が珠莉の手から割り箸を取り、祐樹へと与えた。それに珠莉が慌てて取り戻そうとしたが、バッチリと祐樹はその割り箸に書かれている『4』の数字を見たため、向かってきている珠莉の頭をそのまま掴み、プラーンと持ち上げた。
「……の、のう?祐樹殿……」
「どうした?珠莉?」
と、祐樹はにっこりと笑う。
「……ハリエット。私の目がおかしいのか?ミスター……笑っているはずなのに、全然笑ってないように見えるのだが……」
「……奇遇だなアメリア。私もそう見えるよ」
顔に冷や汗をめちゃくちゃ浮かばせながら、珠莉は言った。
「せ、せめて優しくーーー」
「却下☆」
「のじゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
と、祐樹は先程の人生ゲームの恨みを晴らすかのように、珠莉の頭をアイアンクローする。その際に、絶対に頭から鳴ってはいけない音がした。
ツ・ギ・ハ・ア・ナ・タ・ダ
「ヒィ!?」
くるり、と向いた祐樹の顔を見た瞬間、若菜は隣にいた優花に抱きついた。
「ヒッ!?若菜、様……!」
「あれ、絶対私にもアイアンクロー来ちゃう……!!」
一方、神奈も同じチームのため、もしかして私にもアイアンクローが!?と怯えてサブリナに抱きついていた。
「……ゆ、祐樹さん…女であろうと容赦なし……」
それを見たミラはめちゃくちゃに汗をタラタラ流していた。
こうして、二重の意味で悪魔のゲームはアイアンクローから始まった。




