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学園会議ーーー②

 フェリシアの眼下には、椿原学園総生徒数約600人が、祐樹の到着を今か今かと待ち、何やらキラキラとした瞳で空を見上げている。


『………なんて?』


 電話越しの祐樹も困惑し、無意識にもう一回言うようにフェリシアに言った。


「いえ……その……椿原学園全生徒が、祐樹さんの到着を………」


『………なんで!?』


 先日に行った、アビス大侵攻対策会議で、祐樹は椿原学園生が祐樹に対し、負の感情を持っていないことは知ってるし、なんなら祐樹の元に何通かファンレター的なものも届いた。


「アメリアさん達でも、止められるのはせいぜい、後7~8分くらいですので……本当に、早く来て下さると嬉しいです、祐樹さん……」


『え!?あ、ちょ!?フェリーーー』


 ごめんなさい、祐樹さんと心で精一杯日本に伝わる土下座を披露しながら通話を切った。


「フェリシア!?フェリシーーー切れてる……」


 ツー、ツー、と無情にも聞こえる通話が切れたことを知らせる音と、端末にも通話終了の四文字。


「………すいません、パイロットさん……あの、もう少し飛ばせます?」


「………………」


 パイロットは、急な祐樹の要望に戸惑いながらも、コクリと頷くと、ヘリのスピードを上げた。


 それを確認した祐樹は、急いで美冴の元へ行き、床に倒れていて今にも吐きそうな美冴を抱き起こした。


「……すいません、スピード上げちゃって、掴まってていいので、耐えて下さい」


「ふ、ふふ……君のわがままには慣れたものだよ………頑張って耐えるから、君も私を抱きしめておいてくれ………」


 と、セリフだけ聞こうものならなんとも感動シーンなのだろうが、場所はヘリだし、美冴は吐きそうになっていて顔も青いので、ラブコメの波動は全くもって感じなかった。


 そして、美冴が頑張って耐えること四分ほど……。


「お二方、椿原学園上空に着きました」


 と、パイロットの人が言い、続けて「着陸に入ります」と聞こえた。


「学園長、着きましたよ」


「あぁ……た、耐えたぞ……」


「はい。耐えましたね……おんぶしましょうか?」


「ぜひ頼もう」


 頑張って耐えたはいいが、今にも吐きそうな美冴。祐樹の申し出にありがたく即答した。


 背中を向けると、美冴は限界かのようにその背にしなだれ、「うー」と呻く。祐樹はしっかりと美冴に衝撃があんまり行かないように立ち上がり、彼女の太ももを支えた。


 ヘリは着地の準備に入ると言ったが、実際はヘリポートには着陸せずに、上空2メートルら辺で待機する。何故なら、その方がヘリが退散しやすいから。


 ヘリのドアが開いた瞬間、祐樹はあまりの大きい黄色い声援に耳を塞ぎそうになったが、美冴が背中にいるので頑張って耐えーーーようとしたが、美冴が祐樹の耳を塞いだ。


「学園長?」


「任せて、祐樹……今の私は、気持ち悪すぎて周りの声が少し聞にくいだけだから……だから、早く地上に………」


「あ、はい。それじゃあ、ありがとうございました、パイロットさん」


 何も声はかえってこなかったが、グッ!と親指を立ててサムズアップしたのは見えたので、それを見てから、祐樹はヘリから飛び降りた。


 椿原学園。椿の花言葉『気取らない優美さ』というのに則ったかのように、学園全体としては、控えめな印象だが、しっかりと目を凝らすと確かに優美さを併せ持つ学園だ。


 ーーーまぁ、今の祐樹にはそれを見て楽しむという余裕はないのだが。


「…………フェリシア」


「………その、すいません……」


 ジトっ、とフェリシアを見つめ、何か一言言ってやろうかと思ったが、フェリシアなあまりの疲れように言うのを辞めた。流石に、フェリシアの様子を見て言うのは憚れた。


 だから、代わりに。


「……よく頑張ったな」


「そう言われると、私たちの頑張りが報われます……本当に……」


 その様子から、どれほどフェリシア達が後ろで今だにキャーキャー言っている生徒達を抑えるのに頑張ったのか伺える。


「それで、祐樹さんがおぶっているのがーーー」


「うん、長月美冴。よろしくね、フェリシアちゃん、今ここで挨拶もいいんだけどさーーー」


 ーーーちょっとトイレ行かせてくれない?吐きそう………。


 その声は、この騒がしい中でも、しっかりと祐樹とフェリシアの耳に聞こえた。


「………私が連れていきます。もうすぐアメリアさんが来ると思うので、祐樹さんは先に集合場所へ言っていただきませんか?」


「ごめん、それと学園長をよろしく」


 ゆっくりと美冴を引き渡した祐樹。背中の熱が無くなり、フェリシアは美冴を横抱きにして抱えた。


「美冴様、今からトイレに行きますので」


「すまない……いや、本当にすまない……」


 そして、フェリシアは美冴を抱え、ヒロインの身体能力を生かして、生徒の頭上をジャンプで超えた。


 ーーーさて、後はアメリアを待てばいいーーー


「ミスター」


「どわっ!?」


 と、急に目の前に現れたアメリアに驚いた祐樹は二歩ほど後ろに下がった。


「説明は後だ、今は私の手を握れ」


「え?」


 と、戸惑いながら祐樹がアメリアの手を握るとーーー祐樹の姿が消えた。

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