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ルナティックレッドアイズ

「……!この反応!」


「どうしました、美結」


 ずっと端末とにらみ合いっこしていた美結が反応をした。空羽が後ろから回り込み、端末を覗くと、あのアビスを中心に膨大な魔力の結界が貼っていた。


「この結界………今まで見たことがない波長です、どんな効果があるのか分析できなーーーー」


「か、会長!!」


 切羽詰まった声に、弾かれたように顔を上げる二人。


「ジャガーノート、起動しません!」


「ギフトの方も、発動できません!」


「なんですって!?」


 ガタッと立ち上がる美結。慌てて周りを見渡すと、全ヒロインが同じように、ジャガーノートを起動できなくて困惑をしていた。


「朝凪さん、アンナ、ジャガーノートはどうだ?」


「……やっぱり無理です。お師匠様の方も……ですね」


「こんな時に……!せめてもの救いは、あのアビスが動かないことですわね」


 芦ノ湖からでてきたアビスは、何故か動こうとせずに、その場に沈黙しているのみ。


「裕樹くん!」


「ふぅ……やっと合流出来ました……」


 そして、梨々花と椎菜も無事に合流し、いつもの面が揃った。


「良かった、二人とも無事で」


「ええ……と言っても、私達がいた第四線には全くアビスは来なかったんですけど……」


「そうだったのか……二人も、ジャガーノートは起動出来ない?」


「そうですね……恐らく、あのアビスが放出している魔力のせいだと思います」


「………………」


 ーーーー似てるな。


 三年前のあの日に。あの日と状況は違うが、自衛が出来ないヒロインたちが沢山いる今日の方が余程厄介なのだが。


 行動できるのは裕樹のみ。先程、アビス特有の能力は使えることはこっそり確認した。


 それならば、裕樹がやることはただ一つ。


「…………お師匠様……?」


「朝凪さん、いざとなったら俺の事を頼む」


「な、何言ってーーーーキャ!」


 裕樹の背中から機械仕掛けの羽が飛び出すと、埃を舞い上がらせながら、空へ飛んだ。


 裕樹がやろうとしていることを一瞬にして理解した菜々達。


「だ、ダメです!お師匠様!一人では危険です!」


「そうですわ!いくらなんでも裕樹様一人だけでは!」


「そうだよ!だから早く降りてきて!」


「えぇ、ゆっくりあのアビスを打倒することを考えましょう?」


 一生懸命に裕樹のことを引き留めようとする四人。周りのヒロインたちも、その姿を見て止めようと裕樹の名前を叫ぶ。


「ダメだ」


 しかし、裕樹はゆっくりと首を横に振った。


「今はアビスがいないからいいが、ずっとこのままだったら、アビスが出てきた時に、俺は皆を守りきれない」


 だからーーーー


「俺があいつを殺る。皆はそこで待っててくれ」


「お師匠様!」


 振り返り、姿が遠くなっていく裕樹。


「ダメです!お師匠様ぁぁぁぁぁ!!!」


 その声は、裕樹には届かなかった。


「ありがとう。俺の事を止めようとしてくれて」


 皆の気持ちが、痛いほど裕樹の心に突き刺さる。そして、裕樹の心にあるのは皆に対しての罪悪感。


 アビスに近づくにつれて、濃密な殺気が裕樹の体にのしかかり、アビスの隠れていた触手みたいな凶刃が姿を表した。


「………おい」


 裕樹は、誰に告げるでもなく、自身の胸に響かせるように声を出す。


「聞こえてんだろ……?感じてんだろ?俺の気持ち………」


 どくん、と何かが裕樹胸の中で鼓動する。


「こんな時くらい、力ぐらい貸せ!このクソアビスが!!」


 ーーーあいつを倒すためなら!大っ嫌いなお前の力でも借りてぶっ殺してやるよ!


「ルナティックレッドアイズ!!」


 制限なし、本気のルナティックレッドアイズ。裕樹の目が瞬時に赤く染まり、髪の毛が徐々に狂気の色に染まっていく。




「ひっ……ぐすっ……お師匠様……」


「………下を向いてはダメですわ、菜々さん」


 倒れ落ちていた菜々を抱き起こすアンナ。反対側では、同じように梨々花が菜々を支える。


「見ておきなさい……私達は、自分達の無力感を噛み締めて、あれを見なければならないのです………」


 こうして、裕樹に守られるのは二回目。三年前、同じような決意をしたのに、またまた裕樹を一人で行かせてしまった。


 あの時、今度こそ隣で戦えるようにと願ったのに。


「……結局、あのお方は、どんなに私達が頑張っても……きっと、私たちの前にいるんですわ」


 そして、笑顔で言うのだ。お前たちは俺の体がどうなっても守ってやると。


 情けない気持ちと、悔しいという思いが混ざりあったまま一同は、裕樹を見つめる。それは椿原も、聖百合花も、あの青野学園も同じだった。


「裕樹さん……」


「ミスター……」


「裕樹殿……」


「裕樹様……」


「小鳥遊さん……」


「………あのバカ」


 誰もが黙って行く先を見つめる中、アビスが突然光を発した。その眩しさに腕で慌てて目を守る。その光が無くなると、あの巨大なアビスの姿は無くなっておりーーーーー


「っ、お師匠様!?」


 裕樹は、芦ノ湖へ落ちていった。


「!アビス消滅を確認!縮地持ち!裕樹くんの救出に急げ!!」


 ドン!と空羽の言葉を聞いた、学園問わずの縮地持ちのヒロインが、一斉に飛び出した。

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