波乱の入学式ーーー②
祐樹の翼を使えば、この都市の端から橋まで、5分もしないで飛んでいける。三分ほどで校門にたどり着いた祐樹達。梨々花を下ろし、視線を感じたので、振り返ると降り立ったのを見た亜麻色の髪の少女が、手を振っていたので、振り返した。
そして、その少女が指を指したので、その方向を見たのだが、一瞬で逸らしたくなった。
「あ、あの子。私知ってるよ」
「まぁ中等部の頃から色んな意味で有名だからな……」
騒ぎの中心にいるのは二人。その二人を遠目から見るようにたくさんのヒロインが固まっている。
「お久しゅうございます。アデル様。私、この時をずっと、待ち続けておりましたの」
スカートの端をつまみ、お辞儀をする生徒。言葉は丁寧だが、口調からはどこか戦意が感じ取れる。
「カタリナさん……何やってるんだろ」
「大方、アデルとガーディアンの契りを結びたいんだろうな」
カタリナ・ナパーム・ゲッテムハルト。腰ほどまである金髪を、二つに分けたような髪型で、同じような瞳も金色のなんか全体的に眩しい少女だ。
先程、祐樹が出したガーディアンの契りとは、下級生と上級生が師弟の関係を結び、それはもう深い関係になるという、絆を重視する瑠璃学園の独特な校風の一つ。
本来ならば、上級生から指定するのだが、カタリナのように自分から選んで欲しいという生徒も少なからず存在する。その時に、認めさせる方法が、ヒロイン同士の戦闘。
だがーーーーーー
チリッ
「…………………」
「……祐樹くん?」
騒動の二人のせいで、やけに静かな校門に、祐樹という声が響いたので、視線が集中した。しかし、当の本人は視線なんてなんのその。それ以外に注視するものがあるのか、当たりを忙しなく見渡しながら、違和感のあった首筋を撫でている。
「………同胞の気配……っ!!」
カバンのチャックを素早く開け、中から特別制の鉄でできた柄が出てきた。
ジャガーノートのお出ましである。
左手にはめてある指輪に魔力を流しながら、ジャガーノートを起動させるために接続部分ーーーコアと呼ばれる柄と刀身の間にある黒色の水晶に手を当てると、光を発しながら、刀身が変形する。
ジャガーノート可変式特別剣型『ダインスレイブ』。
可変式とは、剣と銃、又は剣と槍のように、二種類以上の武器に変形できる機構のことを示している。
ダインスレイブは名前の通り、特別製で、全体的に色が真っ黒で、完全に祐樹の好みと男のロマンで開発された世界に一つだけの武器である。
普通ならば、ジャガーノートは二種類の武器にしか変形できないのだが、このダインスレイブは、所有者が一番なって欲しいと思った形状を自動で取ってくくれるという優れもの。出来上がった時は思わず開発者に土下座をかましたとか。
「………! そこかっ」
祐樹から見て視線の左上。空間がぐにゃりと歪み、中から鉄の腕が姿を現す。
「っ、境界!?」
「構えろ!梨々花!」
「っ、うん!」
慌てながらも、素早くカバンを開けて、梨々花もジャガーノートを起動させる。
境界とは、アビスのみが使用出来る移動用のワープホールである。アビスの姿が全部ーーー正確には、全アビス共通の弱点である目が現れた瞬間、祐樹はダインスレイブを振り上げたがーーーー
「………っち!」
まるでムチのようにしなる鉄の腕が、祐樹が届く前に衝突しようとする。咄嗟に剣を横に倒し、受け流す。
アビスの武器と正面衝突はジャガーノートをかなり損傷させ、短時間で壊れる可能性がある。だから何よりも受け流す技術がかなり必要とされる。
突如始まった戦闘に、周りにいたヒロイン達はーーーーーー特に慌てる様子もなく、各々が自分が出来る最善策を取っていた。
そこそこ自身に実力があると自負しているヒロインは、援護をしようとジャガーノートを構え、無いものは、慌てている新人ヒロインーーー外部入学者の避難の手伝いをしている。
全員、祐樹がアビスの位置を感知できるという能力を知っているので、何かでるんでしょとは皆思っていたのだ。
アビスの腕は四本。1本受け流そうが、直ぐに追撃が来る。大きく左後ろに1本目を逸らすが、すぐさま第二射がやってくる。
「祐樹さん!」
しかし、そこで祐樹を庇うようにやってくるのは、先程アデルという上級生に喧嘩を売っていたカタリナ。両刃型(柄が真ん中に付いていて、刃が両方についている剣)を振り回し、大きく腕を弾き飛ばす。
すかさず3本目、祐樹はカタリナの腕を引っ張ひ、カタリナも抵抗せずに大人しく引かれ、位置を入れ替るようにして、カタリナを狙っていた腕を受け流す。
まるで、ダンスのように即席の連携を取る二人に、思わず見とれていたーーー腕を引かれながら祐樹達に視線を投げている少女がいた。
「………あの二人、凄いですね!」
濡羽色の少女は、興奮したように腕を引っ張っている、自身よりも身長が高い生徒に訴えていた。
「ええ!そんな事分かっておりますわ!だから、早く避難しますわよ!」