戦闘開始ーーー①
5月19日、神奈川県上空300メートル。50機を超える戦闘ヘリが円を描くように点々と待機している。
第一線、裕樹、アルフヘイム、ハミングバード、ローゼンメイデンの瑠璃学園ギルド格付けランクSSS組の最高戦力がそれぞれ東西南北に散開。
第二線、アデル、カンブリア、ヴィクトリア、セクメト、プリティヴマータ、カンパネラ、ライオンゴロシの、瑠璃学園最強ヒロインと、各学園の最高戦力が、東西南北の間に、100メートル程距離を置いて散開。
第三線、個人で実績を残しているヒロインと、それぞれギルドが100人ほど散開し、漏れ出たアビスを討伐。
第四線、残りの800人を超えるヒロイン達のタコ殴りである。
理論上、第一線がほとんど倒してくれるので、第四線まで流れた着くのはそう居ないと思われるが、念には念を重ねた布陣である。
第一線上空、ハミングバードが搭乗しているヘリの中に、裕樹の姿はあり、耳元を色々といじくっている。
耳にハマっているのは、ごくごく普通のインカムだが、もちろん機構は普通ではない。
これは、工作科がかねてより開発を進めていた、他人のギフトを他者に分け与えられる能力を持つインカムで、通信だけではなく、両者の同意があれば、魔力を通じて自身が使えるギフトの能力を他人に与えることできる。
「あー、あー、総員、聞こえますか」
「バッチリだミスター、問題ない」
全員を代表してアメリアが言った。
「感度の方も良好そうですね………次に、ギフト受け渡しの方………はい、問題なしです」
事前に、こういうことをすると『鷹の目』という、全体を俯瞰してみることの出来る便利なギフト持ちの人と打ち合わせをしていた。
無事、そちらの方も成功をしたということで、一旦インカムを切った裕樹。全体としての流れは、今から裕樹が地上に降りて、アビスの反応をキャッチするのと同時に、各ギルドにいる『ピジョン』という様々な未来を予知できる知覚系ギフトを使用し、裕樹へ譲渡。
そして、アビスが出たら全員が一斉降下し、アビスの殲滅が始まる。
「それじゃ、行ってきますね」
「心配入らないと思うけど、気をつけてね裕樹くん」
「頑張ってね、裕樹さん」
「裕樹さん、背中をお任せくださいませ」
花火、ハルモニア、カタリナからそれぞれ激励を貰った裕樹。深く頷き、パイロットの人にドアを開けるように指示した。
コクリ、とパイロットが頷くと、ドアが開いた。
「それじゃーーーー戦場で」
裕樹はクルンと半回転すると、背中を向けるようにして地面に落下した。
上空300mからの紐なしスカイダイビング。まぁ彼は普通では無いので、これくらいの距離から飛び降りても何とも感じないのだが。
「………いくら私たちでも、あんなに颯爽と飛び降りることは出来ないわよ……」
下を覗き込んだハルモニアが、少しだけ汗をたらりと流した。眼下では、裕樹が能力をを使い、機械の羽を作り出すのが見えた。
「とか、まぁ言ってる場合じゃないわよね………裕樹さん、聞こえますか?」
ハルモニアは、耳にあるインカムに手を当てて裕樹に通信を繋いだ。
『ハルモニア先輩。問題なく聞こえます』
「そう、良かったわ。これから、ピジョンを使います。準備の方は」
『あともうすぐで地上です。俺が合図を出すので、同時にピジョンの発動をお願いします』
「了解、ということよ。玲音さん、聞こえてました?」
「はい。バッチリです」
同じくピジョンのギフト持ちの玲音がゴクリと頷いた。
『カウント始めます。3…………2…………1………0』
「「ピジョン!」」
他校合わせて総勢9名のピジョンが、一気に裕樹の視界にチラつき、様々な未来の可能性を裕樹に示した。
ーーーっ、これがピジョンか……っ!
脳の処理が多すぎて多少頭が痛くなるが、すぐさま情報の取捨選択をする。
多くの未来が重なっている一番可能性として高い未来だけを選び、首筋にも伝わる感覚と照らし合わせながら、位置の調整をする。
チリッ
探し始めて10分ほど、ようやく重なった。
「総員!降下!」
大量の境界がそこかしこから出現し、機械だったり、動物型だったりと、様々なアビスが出てくるが、どこのアビスよりも一番最初に出てきたのがいたが、全身現れる前に、突撃槍に姿を変えたダインスレイブによって目を貫かれ、息絶えた。
ヒロイン着地まで、残り7秒。同時に四本の機械の腕と、動物型のアビスが裕樹に襲いかかるが、すぐさまダインスレイブを鎌の形にしてクルクルと回しながらアビスの攻撃を受け流し、ずらしながら、動物型は真っ二つに引き裂く。
ヒロイン着地まで、残り4秒。ソニックブームを起こした裕樹は、厄介な機械型アビスの目玉を、反応も許さないで一突き。その流れで周りにいた人型アビスを斬り裂いた。
ヒロイン着地。裕樹は不敵に笑い、ダインスレイブを向かい来るアビスに指した。
「一匹残らず、殲滅してやるよアビス………!」
アビス大侵攻迎撃作戦、開始ーーーー。




