戦闘会議ーーー②
そう美冴が言うと、後ろの電子黒板に三つの校章が浮かんだ。
「三つか……合同で四校?守りの方は大丈夫なのか?」
「……私、校章だけではどこか分からないわ」
「私もわからないです……」
瑠璃学園の校章は、瑠璃の花が校章に使われている。
椿の花の校章は、日本海側ーーー石川を拠点としている椿原学園。
百合の花の校章は同じく日本海側ーーー島根を拠点としている聖百合花女学院。
そして、竜舌蘭の紋章は瑠璃学園と同じく太平洋側ーーー愛知を拠点としている青野学園。
「………どれもこれも、瑠璃学園には1歩劣るが、どこも最前線地区なんだが……大丈夫か?」
作戦に参加する学園のラインナップを見て要らぬ心配をしてしまう祐樹。大侵攻がこちらであるからと言って、他の場所はアビスが出現しなくなるという訳でもない。
そんな心配もよそに、話は始まる。
「久しぶりだね。それと、今回はこちらの要請を受けてくれてありがとう、四人とも」
「なに、同じ学園の危機というのだ……半分しか戦力を分けれないのが、逆に申し訳ないくらいだ」
椿原学園学園長、高柳正五郎。
「正五郎さんの言う通り、半分しか分けられなくてごめんね、美冴さん」
聖百合花女学院学院長、千切花音。
「袖振り合うも多生の縁、私たちは持ちつ持たれつ、です」
青野学園学園長、糸師奏。
「いやいやいや!そっちの防衛もあるでしょ!?半分も貸してくれるだけでもすっごくありがたいから!」
各学園長は、叶うならば応援に全ヒロインをやりたかったが、流石に防衛があるので、高等部の半分を神奈川に派遣してくれるのだが、それでも充分すぎる戦力だ。
「本当にありがとう三人とも!この恩はいずれ返すよ!」
「いや、大丈夫だ。年寄りが若者の助けになるのならば、それでいい」
正五郎が立派なあごひげを撫でながら笑う。
「かつての仲間が困ってるのならば、手を貸すべき。そう習いましたから」
「そうですね。ヒロインとしての力は失いましたが、その教えは根底に残ってます」
「……へぇ、あの二人は元々ヒロインだったんだ」
「まぁ、祐樹さんは知らなくても仕方ないですよね」
「学園長と、奏さんと、花音さんは、当時の先輩後輩で、この瑠璃学園最も活躍したヒロインだったのよ」
「へぇ………」
普通に知らなかった……と呟く祐樹。と、それと同時に納得した。たまに、祐樹でも底冷えするような視線は元々ヒロインだったからなのかと当たりをつけた。
「それでは、早速会議をしようか。三人とも、送ったデータは来てるかな?」
「あぁ、問題ない」
「大丈夫よ」
「えぇ。なにも問題ないわ」
「皆にも聞いて欲しいけど、今回のアビス大侵攻は、五年前を軽く超えると我々の分析では出てるのだが………そこら辺、どうかね?祐樹」
「…………ん?」
首筋の方に若干意識を向けていたため、少し反応が遅れた祐樹だが、ちゃんと話は聞いていたため、答えることは出来る。
「あー……そうですね……俺は五年前殆ど気絶してたから分かりませんけど………まぁ、下手するとこの大侵攻が成功してしまえば、本土は簡単に焦土と化すでしょうね」
それだけ聞けば、練馬区周辺で収まった五年前なんて可愛いものだろう。誰しもが生唾をゴクリと飲んだ。
「あと、SS級アビスの正体はホエール型なんで、海に注意と」
「ほう、ホエールか?」
親玉の存在も軽く言い当てた事に画面の向こうがザワザワとする。三人の学園長も、じっと祐樹を見つめている。
「どう言った根拠で?」
「そんなもんーーー俺のアビスとしての勘です」
しばし、美冴と祐樹が睨み合うが、美冴は直ぐにフッ、と笑うと背後に振り返る。
「な?なかなか面白い子だろう?」
「そうね、アビスに寄生されながらも、ジャガーノートを扱える唯一の存在……ちょっとお話してみたくなってきたわ」
「はいはい、後でちゃんと時間あげるから」
「え?」
花音のセリフにサラッと祐樹の予定をねじ込んだ美冴。
「とりあえず、今は祐樹のことは置いて起こっか」
「………なんかすっごい理不尽な扱いをされたんだが……」
「まぁまぁ……」
少しブスッ、と不貞腐れた祐樹の隣で沙綾がなだめた。
「最初のアビス出現予想位置は箱根。我らが瑠璃学園上位ギルド『ハミングバード』『アルフヘイム』そして『パラダイス・ロスト』と祐樹が先陣を切って、前線を維持する。椿原、聖百合花、青野はその後ろに一番の戦力を投入して欲しい」
そう言うと、前線部分に三つのギルド名と祐樹の名前が電子黒板に表示された。
「それならば、椿原からは『カンブリア』と『ヴィクトリア』の二つを出そう」
正五郎が言うと、その2つのギルド名が後ろに並ぶ。
「それならば、聖百合花からは『セクメト』と『プリティヴマータ』を」
花音が言うと、その隣に二つが並ぶ。
「なら、青野からは『カンパネラ』と『ライオンゴロシ』を」
奏が言うと、更に隣に二つ名前が並ぶ。
「この第一戦線と、第二戦線は、祐樹の指示によって動いてもらうが……問題ないかな?」
「彼に、か。理由を聞いてもいいかな?」
「勿論、彼はアビスの気配を察知できるからね。一番混乱する戦線だ。不意打ちを凌げるだけでもありがたいだろう?」
美冴は、不敵に笑った。




