成長ーーー①
訓練室に、激しい金属音が鳴り響く。相対する者は、祐樹と、ガーディアンの契りを結んだ菜々である。
「くっ……!」
祐樹の激しい攻撃に、思わず苦悶の声を漏らすが、1か月前と違い、みっちり祐樹にしごかれた菜々は、祐樹のダインスレイブの動きを終えるようになっている。
右、上、下と、不規則なパターンで祐樹は菜々に斬りつけているが、菜々は冷静に、しっかりとジャガーノートに魔力を込めて受けている。
だがしかし、やはり経験としては祐樹の方が上か。
「ーーーそこっ!」
「あうっ!………うぅ……」
連続の斬りつけとステップによりタイミングをずらして、意図的に隙を作り出した祐樹は、菜々のロンギヌスを大きくはじき飛ばし、首元にダインスレイブを置いた。
「ふぅ………今日も、俺の勝ちだな」
「あはは……さすがです、お師匠様」
そんな2人の訓練を上から眺めていたいつもの三人、アンナ、梨々花、椎奈は、冷や汗を垂らしていた。
「全く……恐ろしいほどの成長速度ですわね……」
「えぇ、祐樹くん相手にあんなに持つなんて……相当ジャガーノートとのシンクロ率が高いのでしょうね」
ジャガーノートとのシンクロ率が高ければ、ヒロインとしての実力と、ジャガーノートの性能が上がるという研究結果が出ている。
「私でも、シンクロ率は80そこそこ……」
「この学園で一番シンクロ率が高いのは、強襲科生徒会長の空羽様だけれど……きっと、菜々さんのシンクロ率はそれ以上………」
ヒロインとしての力を持つ少女たちは、ジャガーノートとのシンクロ率が70あれば一般的と言われている。数値が1つ違えば、屠れるアビスの数が違う。しかも、この数値は産まれてからは一生変わることはないため、この数値がヒロインとしての実力を示していると言っても過言ではない。
「一体、菜々さんのシンクロ率はいくらなんでしょうか……」
「……所で、梨々花さん」
二人と違い、珍しく黙ったままの梨々花を見つめる。梨々花は、手すりに顎を乗っけて、ぷくーと分かりやすく不満を顕にしていた。
「………梨々花さん?」
「……いーなぁ」
え?とその言葉を聞いたアンナと椎奈は思った。
「……いーなぁ、あんなに祐樹くんと一緒にいられて」
「………まぁ」
「多少、羨ましいですね」
と、梨々花の言葉を聞いてあっさりと認めた。
「はい、今日はここまで」
「っ、はぁ、あ、ありがとうございます!」
大分ジャガーノートの扱いにも慣れた菜々。最初の頃は15分程度で訓練は終わっていたのだが、今では一時間みっちりとできる。
息も絶え絶えな菜々に、いつの間にやら準備したのか、スポーツドリンクを差し出す。それを見て、三人も二階から一階にジャンプして下りた。
ーーーしかし、菜々の成長速度は本当に異常だな。
自分もスポーツドリンクを飲みながら、冷りと汗をかいた。
「お疲れ様です、祐樹様」
「今日も見てたのか」
「タオルをどうぞ」
「ん、ありがとう椎奈」
サッ、とさりげなくタオルを祐樹に差し出し、できる女アピールをしていく椎奈。
「ねぇ、祐樹くん。久々に私も祐樹くんと訓練したいなぁ……」
祐樹の袖を握って、上目遣いに祐樹を見つめる梨々花。もちろん、それは無意識の行為なのだが、とてもあざとかった。
「……そうだな。何も戦うだけが訓練じゃないか……」
「……むぅ」
遠回しに自分だけを見て欲しいと言っているのだが、こんな時でも菜々のことを考えている祐樹の態度に少しだけ不満を持つ。
ーーー私が一番最初なのに。
「朝凪さん」
「は、はい!お師匠様!」
菜々の所へ向かう祐樹を恨めしげに見つめる梨々花。
「ふふ……競争率が高いって、大変ですねぇ」
「椎奈ちゃん」
むくれている梨々花の後ろに回り込み、梨々花に抱きついた椎奈。
「菜々さんに嫉妬する梨々花さん、可愛い……」
「ちょ、椎奈ちゃん……は、恥ずかしいよ……」
と、すりすりと顔を梨々花の後頭部に押し付け初め、なんともゆりゆりな空間が出来上がってしまった。
「いざとなったら、私が梨々花さんを貰いましょうか」
「わ、私ノーマルだよ!?」
「はい。私もいたってノーマルです」
「あなた方は何を話していらっしゃるんですの……?」




