戦闘指南ーーー①
「……あぁ、そうだ。朝凪さん」
「え、あ、はい!なんですか?」
椎奈の隣で、色々と今、戦っているヒロインがどういうふうに立ち回っているのかどうかの説明を受けている菜々。裕樹に呼ばれ、椎奈に一言断りを入れて、立ち上がる。
「はいこれ」
「……?なんですか?これ……」
気になったのか、アンナと梨々花と椎奈が菜々の後ろから覗き込んだ。
「……えぇっと、ガーディアンの契り?小鳥遊さん、これを私に見せてなんの意味があるんですか?」
「朝凪さん、そこに名前書いて」
「……………」
ええええええ!!とグラウンドに四人分の大声が響いた。
裕樹が菜々に渡したのは、ガーディアンの契りを結ぶ際に、必要となる申請書である。上にガーディアンとなる上級生の名前、下に指導される下級生の名前を書く。
既に、ガーディアンとなる裕樹の名前と、その横には魔力印鑑が押されており、後は菜々が名前を書いてボンッと指輪を押せば、その時点で裕樹と菜々はガーディアンの契りを結ぶこととなる。
「え!でもでも、ガーディアンの契りって普通、上級生と下級生が結ぶものじゃないんですか!?」
「学園長から既に許可を貰っている。各科の生徒会長も許可を出している。下の方を見てみろ」
「お貸しください!」
アンナがひったくるようにその紙を奪い、下の方へ目を向ける。底には、学園長の印鑑と、空羽、美結、綾瀬三人の魔力印鑑が押されている。
『へぇ?同級生と特別にガーディアンの契りを結びたい?』
今朝、アビスの仕業に見せるようにとあるフェンリルの研究所を襲撃した後、裕樹が美冴にもちかけた取引である。
『えぇ。彼女の才能はあまりにも大きい。並大抵のヒロインでは難しいかと』
『なるほど、裕樹さんにそこまで言わせるほどの実力者ですか……少し興味がでてきました』
『あなたは既にいるでしょう……』
何やら怪しく目が光った空羽を、綾瀬が押え付ける。
『君がそこまで強く押すのは珍しいねーーーー何を考えている。裕樹』
さすが、学園長と言うべきか、裕樹が思わず怯んでしまうほどの眼光を美冴は向ける。
『…っ、べ、別に。特に変なことは考えてませんよ。ただ、彼女の能力は、俺ならば上手に引き出すことが出来る。それだけです』
『………ふーん?』
内心汗をかきながらそれっぽい理由を言った。事実、菜々がジャガーノートとの仮契約時に見せたあのスピードは、到底他のヒロインでは出すことは出来ない。
仮契約なのに、あのスピード。事実として、菜々を指導できるのは裕樹しか居ないというのも正解である。
『……ま、いいわ。許可します。三人もいいわね?』
『………まぁ、多少怪しいですが許可します』
『私も。あ、裕樹くん。後でその子うちのラボに連れてきてね』
『皆さんがそう言うなら、私も特に反対することはありません』
『すいません、ありがとうございます』
ぺこり、と裕樹は頭を下げる。
『許可は出そうーーーただし、裕樹。一つ条件がある』
美冴は、机の引き出しからガーディアンの契りを結ぶ際に使用する紙を取り出し、裕樹に差し出す。
『今度、学校外に出る用事があるから、着いてきなさい』
『その程度なら』
と、いう流れがあり、無事に裕樹は紙を手に入れた。
「本当ですね。しっかりと押されてます」
魔力印鑑は偽造不可。ヒロインの魔力を使って押しているので、もし偽造したとしても、魔力の波長で直ぐに誰か分かる。
「俺と、師弟関係………結んでくれるか?」
「……えっと……」
菜々は、ちらりと後ろを振り返り、三人の顔を見る。
面白そうなものを見る顔。ものすごく羨ましそうにしている顔。同じく、少しだけ羨ましそうにしている顔。
「いいんじゃないですか?強くなりたいのなら、裕樹くんの指導は受けるべきだと思います」
「……正直、めちゃくちゃ羨ましいのですが……手っ取り早く強くなるには、裕樹様の手ほどきは必要ですわ………ものすごく!羨ましいですが!」
「いいなぁ……私も久しぶりに裕樹くんと訓練したいなぁ……」
と、三人の言葉を聞いて、菜々は目を閉じる。思い出すのは、昨日、守ってもらった裕樹の背中の姿。
あの背中に追いつくために。隣に立って戦えるように、菜々は少しでも早く、強くなりたい。
「…………よろしくお願いします!小鳥遊さーーーーいえ!お師匠様!!」
「……よし。契約成立だな」
そして、瑠璃学園始まって以来、初めての同級生同士でガーディアンの契りが結ばれた。
この事は、直ぐに瑠璃学園中に広まることになる。
「これから俺は、君を危機から守り、指導し、成長させることを誓おう」
「それなら私は、早くお師匠様のお隣に立って戦えるようになりたいです!」
「……うん、いい意気込みだね。朝凪さん」
このくらい意識が高ければ、きっと菜々は直ぐに強くなるだろう。裕樹はそう思う。
ーーー早く、俺を殺せるくらいに強くさせるように鍛えないとな。
裕樹の、隠された願いの歯車は、ゆっくりと回り始めた。




