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温泉にてーーー①

「………………」


 あれから、入学式も恙無く終わり、祐樹がなにやら同学年のヒロイン達に囲まれるなんてアクシデントがあったが、それも無事にすり抜け、現在は瑠璃学園にある男湯の温泉に浸かっている。


 一人で使うには広すぎるほどの湯船に漬かり、目を閉じて、思い出すのは今日の戦闘の事。


 祐樹に負けず劣らずのスピードを出し、アビスの体勢を大きく崩したあの一撃。


 ーーーー確かめる必要があるな。


 祐樹の瞳は、既に明日を見据えていた。


 同時刻。


「わぁ!ここ、こんなに広いんですか!?」


「こら、菜々さん。他の方も入っているので、あまり大声を出したらいけませんわよ」


「まぁ、気持ちは分からなくもないですが」


「私も、最初見た時は思わず声あげちゃったんだよね」


 この時間帯は、高等部一年生のみが使用でき、各々が憩いの時間を過ごすことが出来る。


「あの、カタリナさんは?」


「あのお方なら………」


 アンナがピッ、と指を指すとその先にカタリナはいた。


「カタリナさんは、ギルド『ハミングバード』に所属していますから。ああやって、同じギルドメンバーと交流を深めるんです」


 ギルド、『ハミングバード』。瑠璃学園最強ギルドとも言っても過言ではない実力者が集まるチームである。


 所属人数は十人で、三年生が二人、二年生が五人、一年生が三人である。


 リーダーは、二年生の新名花火が務めており、既にガーディアンの契りを結んでいる。


 なぜ二年である花火がリーダーを務めているかは、花火が持っているギフトと関係があるのだが、そこは後程。


「ギルドって、誰でも作れるんですか?」


「えぇ、人数と、試験に合格すれば誰でも作れますわよ。それこそ、既に中等部メンバーのみのギルドだってありますから」


「へぇ、そうなんだ……そしたら、アンナさんはもうギルドに入ってるの?」


「私ですか?」


 聞かれたアンナはきょとん、とした顔をしたが、直ぐにはぁ……とため息をついた。


「入っては無いですわ、私……まぁ入りたいところはあるんですけど」


「祐樹くんのギルドですもんね」


「祐樹くんのギルドがいいもんね!」


「そう、祐樹様のーーーーって何言わせるんですの!?」


 両の頬に手を当て、少しだけ頬を赤くさせたが、すぐさま誤魔化しーーーいや、誤魔化しきれてはいない。


「知ってた?祐樹くんの競争率は凄いんだよ」


「まぁ……あの騒ぎを見れば分かります……」


 入学式が終わり高校生にもなり、色々と多感な時期である少女達は我先にと祐樹へ話しかけようとする。その輪に、カタリナとアンナがいた事はご愛嬌である。


「まぁでも、仕方ないと思います。小鳥遊さんって、すごくお強くて優しい方ですから」


 菜々の瞳には、菜々を背にかばい、相棒のジャガーノートを振るう姿がバッチリと焼き付いている。


「凄いですよね、私たちと同じ年齢な筈なのに、同じには見えないです」


「まぁ、昔は色々と壮絶でしたから。周りの環境が嫌にも祐樹様の精神年齢を上げてしまったのですわ」


「んぐっ!?」


「カタリナ!?」


「どうしたの!?」


「え、えぇ……大丈夫ですわ、何やら、また古傷が抉られた気が……」


 しっかりと聞いていたカタリナ。またもや遠回しに黒歴史を聞いてしまい、胸にグサリとジャガーノートが刺さった。


「………カタリナ、まだ祐樹君にとった態度のこと気にしているの?」


「当たり前ですわ!!」


 ザッパァーン!とカタリナが立ち上がる。急に大声を出したカタリナに、風呂場にいたヒロイン全員が注目する。


 プルん、と同年代にしてな大きななにかに、少しだけ殺意を抱いたヒロインがいたとかいなかったとか。


「本当に……ほんっっっとうに!!なぜ私はあんなことをしていたのか!過去の自分をぶん殴ってやりたいですわ!」


「そうだねぇ……生卵ぶつけてたのはやりすぎだったねぇ……」


 同じハミングバードのギルドメンバーである、生駒玲音(いこまれいね)は、とりあえず座りなーと言ってカタリナを座らせた。


 何も身につけてない状態で立ち上がったため、諸々の部分があれだったのだが、たまたま湯気が濃かったので何も問題はない。


「ま、過ぎたことを今嘆いても仕方ないよ。あの時の償いは、これからの態度で返していけばいいんだから」


「そうよ、カタリナ。忘れろーとは言わないけど、あんまり気にしないでいいと思うよ?祐樹くんってあんまり昔のこと気にして無さそうだし」


 と、もう一人のメンバーの小南霧江(こなみきりえ)がカタリナの肩に手を置き、怪しく目を光らせる。


「そ・れ・こ・そ」


「ひゅわぁ!?」


「こーんなご立派なもの持ってるんだから、償いとして色仕掛けでもなんでも仕掛ければいいじゃない!」


 後ろに回り込み、何とは言わないが、女性の象徴を揉みしだき始める霧江。その光景を見ていた玲音が、自身の胸を見つめ始めた。


「………世間は残酷」


「へ、変なこと言ってないで助けーーーーひゃあ!?」


「ほれほれー!ここがええんかー!ここがええんかー!」


「ちょ!本当にどこ触ってますの!?」


「……一体何をしていらっしゃるの?あの方たちは……」


「ふふ……持たざる者には持たない者の気持ちは分からないのだよ、アンナちゃん」


「梨々花さん……あまり気にしないでいいと思いますけど」


「そうですよ!」


 菜々が声を上げる。


「女性の魅力は何も胸だけじゃないんですから!」


「……………………」


「り、梨々花さん!?」


 梨々花の瞳から完全にハイライトが消え去ってしまった。



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