衝突ーーー②
「くぅ……このアビス、硬い上に動きもすばしっこいとはどういうことですの!」
ギルドは大人数でアビスへの攻撃するために、ヒロイン同士の連携が大事になってきて、もし、連携が取れない場合、良くて同士討ち。最悪全滅という可能性もある。
なので、大きくわけて三つのポジションに分けられている。
「仕方ありませんわ!ちまちま削っていくしかありません!」
カタリナや、アンナのように、直接アビスを攻撃し、戦闘にケリをつける、ギルド一番の実力者が務めるフィニッシャー。
「援護を!」
「カタリナさん達は本体に集中してください」
梨々花や、椎菜、アデルのようにフィニッシャーが確実にトドメをさせるように敵を撹乱し、攻撃を受け流す役目を持つガードナー。
そして、今の祐樹のように、全体の動きを把握し、適宜指示を出しながら戦うコンダクター。その三つに分けられ、配分は3:8:1(最大十二人の場合)が好ましく、ガードナーに人数を多く配置する。
ちなみにだが、ここにいる全員、本職はフィニッシャーである。
最初は、腕は4本しかなかったアビスの腕は、戦闘中に生やしたのか、今は16本にまで増えており、中々攻めあぐねている。
「くっ!」
「んんっ!」
梨々花と椎菜に、二本ずつ鉄の腕が迫り、ガキン!ガキン!と二連続で鉄のはじける音が響くが、その間を縫うように三本の腕が祐樹へと迫る。
「祐樹くん!」
それに気づいた椎菜が、声を上げる。アビスは、何故か積極的に祐樹を狙いたがる。恐らく、祐樹に寄生しているアビスと何らかの関係があるのだろうが、詳しくは分かっていない。
「ふぅ……血を吸え、ダインスレイブ」
そう言うと、祐樹が握っている柄から、鋭いトゲが三本伸び、祐樹の手をつらぬく。
ビリっ!と一瞬だけ焼けるような痛みで、顔が歪むが、それも一瞬のこと。祐樹の血を取り込んだダインスレイブは、色を黒から血のような赤へと姿を変えていく。
ヒロインに存在する魔力が、もっとも含まれているのは、血液という結果がでている。そのため、ジャガーノートと契約する際は、魔力がたっぷり含まれている血を使用する。
特別製ダインスレイブは、血を取り込むことで、刻まれた魔法を強制的に活性化させ、連携でやった以上の効果が見込める、祐樹のダインスレイブのみにある機能である。
ジャガーノートと、ヒロインは共同生命体。ジャガーノートが活性化すれば、ヒロインはもっともっと強くなる。
「祐樹さん!」
背後にいた菜々が、悲鳴にも似たような声で祐樹の名前を呼ぶ。三本同時の攻撃。たとてアデルでも、防ぐには相当な労力がいる攻撃をーーーーー
「ーーーっ!!」
ーー祐樹は、目にも止まらないスピードで、鉄の腕を三本同時に弾き飛ばし、さらに、その腕を切り刻んだ。
音が送れて聞こえる。ということを初めて体感した菜々。祐樹を見つめるその瞳は、いつしか憧れの眼へと変わっていく。
ーーーーー凄い!
菜々の心臓がドクり、と鼓動を強く刻む。
ーーーーまだ無理だけど、私も!この人の隣に並びたい!
そう強く思った瞬間、まるでその思いに呼応するかのように、ジャガーノートか輝き始める。
「っ!来たか」
「わ、わわっ!」
折りたたんであった全長1メートル程のジャガーノートが、変形して本格的な武器の形となる。
それを見た祐樹は、ニヤッと口角を上げると菜々へ指示を出す。
「朝凪さん。1発くらいは行ける?」
「え、あ、はい!行けます!」
祐樹がダインスレイブを構えると、同じように隣にならび、ロンギヌスを構える。
「よし、連携だ」
「は、はい」
ちょこん、と軽く触れるだけのこと。たったそれだけだが、菜々にはジャガーノートが活性化したのが分かった。
「す、すごい……力が湧いてくる」
「よし、俺の後に続いて、あのアビスに突貫して、カタリナとアンナの道を切り開くんだ」
狙いは、敵の姿勢を大きく崩すことの出来る、弱点である目の周りを覆っている装甲。大きく体制を崩さなければ、アビスは弱点の目を全力で守ろうとする。
「よし、行くぞ!君の道は、俺達が切り開く!」
ドン!
踏み込んだ足が地面を陥没させ、ソニックブームを巻き起こし、2本の腕を切り裂く。祐樹の背後から腕が忍び寄るが、それはアデルが吹き飛ばし梨々花が叩き切る。
カタリナとアンナは何時でも弱点の目を狙えるように腕を翻弄しながらピッタリとくっついている。時には回り、時にはジャンブしながらも腕を受け流していく。
そして、遂に、アビスへのなんの邪魔のない一本道が完成される。
ーーーーっ、今!
ちなみにだが、菜々はヒロインなりたてホヤホヤで、先程のソニックブームを巻き起こすほどのスピードは、祐樹だからこそできる技であるのだが…………。
「………え?」
「……嘘」
「…………………」
「………まじ?」
アビス集中していたカタリナとアンナ以外が声を出した。
「やぁぁぁぁぁぁぁ!!」
そのスピードは、先程の祐樹に負けず劣らずの速度だったため。相当ジャガーノートとのシンクロ率が高かったからか、それともーーーー
ガキィィィン!!と大きく音が響き、アビスの図体が大きく後ろへ仰け反った。
「これで!」
「トドメですわ!」
大きな隙をキッチリと見逃さなかった二人が、しっかりと弱点の目を貫き、アビスの活動は停止をした。
ーーーーーー見つけた。
この時、菜々を見ていた祐樹は、興奮したかのように体が熱くなっていた。
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