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神の試練  作者: しゅむ
第1章:迷宮
8/18

1-4

前回のお話

神様、仏様、小松様

パンは凶器

 迷宮を脱出した秀司は小松に連れられて買取屋に来ている。買取屋は各店員の前にあるカウンターに仕切りが設置されており、広いスペースではあるが、左右から何を買取に出しているのか窺う事は出来ない。


 小松は買取屋のカウンターの前で女性の店員に告げる。

「か……か、か買取……です」


 小松は店員と目を合わせずに、次々とリュックから布を出していく。骸骨が履いていたズボンと、着ていたシャツだ。

 リュックがパンパンになるまで詰められた布は、途中でリュックに入らなくなり、秀司と小松は手で抱えるように持っていた。


 背後からであれば覗き見る事は可能かもしれないが、カウンターに置かれた布はその場で消失するように消えていく。置かれてから消えるまでが早い為、他人の買取に出す物を覗き見する事は難しいだろう。


 焦った秀司が口を開きかけるが、小松が先に口を開く。

「大丈夫。これで買取できてるから」

「……俺のも置いて良いのか?」


 小松の後ろに居る秀司の疑問には店員が答える。

「後から置いた本人が了承していれば、置いた物は先に清算している方の物になります」


 小松は黙って首を小さく左右に振って隣を指差す。

「秀司は隣で売ってきなよ」


 しかし、秀司は胸を張って口を開く。

「全部小松のだし、一緒で良いな」

「……え?」


 驚いて振り向いた小松だが、既に秀司は小松の隣に並んでいる。

「お仲間の方でしたか。では、合算して清算致しますね」


 秀司が抱えていた大量の布はカウンターに置いてすぐに消失する。そして、空いた手で小松の肩を抱き寄せる。


「命を助けられたんですよ。自慢の友人です」


 秀司の言葉には嘘偽りがない。小松の事は本当に自慢の友人だと思っている。

 人見知りでゲームオタク。秀司以外と話す時は目も合わせず、挙動不審になりがちな小松だが、特定の分野では練習を怠らず、勝つ為には研究熱心でもある。


 骸骨との戦闘を見れば、小松がどれだけ熱心に骸骨と向き合ってきたか理解できた。

 秀司は小学校時代から変わらない小松を、本当に自慢の友人だと思っている。


 小松は秀司の方を見ずに、黙々とリュックから布を取り出す。リュックの中にはパンやリンゴ、棍棒なども入っている為、ひっくり返す訳にはいかない。


 しかし、そんな小松の口元はピクピクと動いている。

 耳が赤いのは秀司が小松の肩を強く抱き寄せ、耳が押し当てられているからで、決して照れて嬉しい訳では無い。押し当てられていない方の耳まで赤いが、決して照れている訳では無い。


 小松はそんな妄想を振り払うように頭を左右に振る。

 秀司は自分の胸に頭を擦り付けられるのがくすぐったかったのか、「ぶはっ」と吹き出してパッと離れた。


 そのタイミングで布を取り出していた小松が口を開く。

「お……お、お、終わりです」

「相変わらず俺以外はダメなんだな……」

「うっさい!」


 店員が一礼すると、カウンターの上には126枚の金貨が10枚単位で置かれる。

「126G(ゴールド)でございます。明細は必要ですか?」


 店員の質問に小松は首を左右に振って拒否するが、秀司は並んだ金貨を見つめる。

「このコインがお金か?」

「うん。使わない分は部屋の金庫に入れておけば良いよ」

「……金庫?」

「クローゼットの中に入ってるから……」

「マジか……」


 小松は半分の60枚をポケットに突っ込む。

「あとは秀司が持ってって良いよ。地図買うんでしょ?」

「ん? 地図は小松のがあるから要らんだろ?」

「……え?」


 驚きで秀司を見上げる小松を、第三者が見ればカツアゲである。お前の地図、良い地図だな。よこせという状況だ。


 しかし、秀司の本心は違う。

「これからも俺は小松と一緒だろ? あれ? 違うのか?」


 小松としては秀司と一緒に試練に挑むのは大歓迎だ。秀司以上に信頼できる者は居ない。

 そんな秀司が小松と一緒に試練に挑むと、同じ意味の言葉を言っているが、自信のない小松は秀司の真意を疑ってしまう。


 小松は捨てられた子犬のような表情の秀司に尋ねる。

「それって僕と一緒に試練を攻略するって事?」

「おぅ! 小松と一緒なら余裕だろ!」


 小松は内心で歓喜した。しかし、内気な小松は更に確認してしまう。

「もっと良い人は居ると思うよ……?」

「いやいや、小松以上の奴が居る訳ねぇだろ」


 秀司と小松の脳内には沢山の友人たちとゲームで遊んでいた日々が浮かんでいる。しかし1人、また1人と、2人のレベルに付いて行けずに離れていく。そして、最終的には2人だけでバカ騒ぎした日々だ。


 秀司は俯く小松に不安そうに尋ねる。

「小松は俺以外に……もう誰かと組んでるのか?」


 小松は慌てて秀司を見上げる。

「そんなの居るわけ無いだろ!?」

「それなら良かった。小松の凄さを知ってるのは俺だけって事だからな」


 小松は秀司がニヤリと笑ったのを見て、バッと視線を外す。

「よろしくな。相棒」

「……僕の要求は厳しいからね」

「にひひ、頼りにしてるぜ」


 小松は店を出ようとする秀司に声を掛ける。

「秀司! お金、忘れてる!」

「俺が持っててもよくわからん!」

「胸張って言うなよ!」


 小松は不満そうに唇を窄めているが、目元は笑っている。当然、その表情を秀司に見せないようにして、カウンターに置かれたお金をポケットに入れる。


 そして、小走りで秀司の後ろを追う。

「秀司、競売屋に寄るよ」

「どっちの店だ?」


 道具屋には商品が置いてあるが、それ以外の店に商品は置いていない。1つは買取屋だと判明したが、残り2つは不明なままだ。


 小松は隣の店を指差して告げる。

「隣だよ。フリマみたいな事を店が管理、仲介してくれるんだ」

「ふーん。なんか探してんのか?」

「うん、魔石が欲しいんだよ。色が付いた半透明な石で、僕が探してるのはたぶん赤い石と青い石」

「ふーん……ん?」


 競売屋の前で立ち止まった秀司の背中に小松の額がぶつかる。

「ぶっ、急に止まんなよ」

「なぁ、赤い魔石ってこれか?」


 秀司のポケットから出てきたのはビー玉のような半透明な赤い石だ。今まで完全に忘れていたが、小松が欲しいという事を聞いて一気に思い出された。

 喉の渇きと飢え、睡眠不足で辛かった事も、ついでに思い出された。


 小松は秀司の親指と人差し指で持たれた赤い石に慌て始める。

「はぁ!? 持ってたの!?」

「欲しいならあげるよ」


 秀司はビー玉サイズの赤い魔石を下から放るように投げる。

「ちょっ、馬鹿、投げんな!」


 小松は投げられた魔石を胸に押し当てるようにして両手で受け止めた。現時点では魔石の発見は珍しく、競売でも高値が付いている。


 小松も1つだけ発見したが、目当ての物ではなかった為、既に競売で売り払った後だ。


 小松は大事そうにビー玉を両手で持って踵を返す。

「小松、どこ行くんだ?」

「鑑定屋! 買取屋の前にある店だよ!」

「おぉ、鑑定してくれる店だったのか……」


 鑑定屋に入った小松は空いているカウンターに駆け込む。

 鑑定屋は個別のブースのようになっている。買取屋よりもスペースは狭いが、他のブースで何を鑑定しているのか窺う事は不可能だ。


 小松は赤い魔石と1Gを店員の前に置く。

「こ……こここれ、かん、かか鑑定して……下さい」

「畏まりました」


 白い手袋をした店員は噛み噛みの小松に全く動じていない。むしろ言葉は不要である。

 鑑定物と1Gを置けば店員が詳細を教えてくれるのだ。


 店員が赤い魔石に手を翳すと、白い紙が赤い魔石の横に現れる。

「こちらが鑑定結果になります」


 秀司は魔法のような鑑定と紙の出現に若干興奮気味だ。

「すっげ! 魔法みたいじゃん!」


 小松は秀司を無視して紙を手に取り、魔石の鑑定結果に目を走らせる。小松は1度振り返って秀司を見つめる。そして、再び鑑定結果を確認する。


 小松は大きく深呼吸してから秀司に尋ねる。

「これ……ホントに僕が貰って良いの?」

「お、当たりだったか? 別に良いぞ」

「魔法が使えるようになるんだよ?」


 秀司は小松から視線を外して口を開く。

「べ……別に……良いぞ……」

「良くなさそうじゃん……」

「俺は次で良いよ! それは小松が探してたんだろ!」


 小松は魔石を握り込んで満面の笑みで秀司に告げる。

「へへへ、ありがとね秀司」

「おぅ。それよりどうやって……」


 秀司が魔石の使用方法を小松に尋ねた瞬間に、小松が握り込んでいた手を開いた。

「あ、ごめん。使っちゃった。使い方は魔石を持ったまま、使いたいって思うだけだよ」

「いや……良いんだけど……次は俺だからな!」

「わかってるよ」


 秀司と小松は鑑定屋を出る。

「次はどこ行くんだ?」

「魔法は習得できたから武具屋に素材を持ってくよ。秀司はお気に入りの店ってある?」


 秀司は首を傾げて悩みだす。

「うーん……無い……いや、あるな……」


 髭を三つ編みにした強面で腕が丸太のように太い店主が秀司の脳内で叫んでいる。

『素材を見つけたら持って来いよ!!』

(押忍……)


 小松は感心したように告げる。

「へぇー、あるんだ。じゃあ、そこに行こうか」


 小松にとって能力が同じであれば、どの店主も同じである。男女や容姿にかかわらず、目を見て話す事は出来ない。客の居ない店なら大歓迎だが、基本的に何処でも良いのだ。


 秀司は剣を貰った店に小松を案内した。

「おぅ小僧! 素材は持ってきたのか!?」

「押忍!」


 小松は秀司の背中に隠れて呟く。

「秀司も好きだなぁ。テンプレなドワーフ鍛冶師じゃん……」

「ん? なんか言ったか?」


 小松が首を左右に振って否定すると、秀司に肩を押されて前に出される。

「素材を持ってきましたよ」

「おぅ! 小僧の仲間か!? よろしくな!」


 小松は無言で頷いてリュックの中に手を突っ込む。

「元気ねぇなぁ! ちゃんと食ってるか!?」


 小松は店主の質問を無視して、カウンターの上に布を数枚と棍棒を2本置く。

「ぬぬ……ぬ、布で剣帯。こ、こ棍棒で秀司の鞘と盾」


 店主はギロリと素材を睨むようにして口を開く。

「剣帯は1Gだ。小僧の鞘も1Gで作ってやるが、盾は素材が足りねぇ」

「布を少し諦めて棍棒にすれば良かったか……」


 小松の背後でやり取りを見ていた秀司が口を開く。

「なぁ、俺はこのままでも良いぞ?」

「両手がフリーになるのは結構重要なんだよ」

「そっか……サンキューな。盾の木材は道具屋で買えば良いじゃねぇか?」

「別にそれでも良いんだけど、ちょっと高いんだよね……」


 悩む小松に店主が尋ねる。

「どうすんだ?」

「たた……た、盾は次回。け、け剣帯と鞘……お願いします」

「おぅ! 納品は……明日だな」


 小松は頷いて2Gをカウンターに置くと、カウンターに置かれていた素材とコインが消失する。


 秀司は笑顔で頭を下げる。

「おやっさん! お願いします!」

「おぅ! 任せとけ!」


 鍛冶屋を出た秀司は口を開く。

「1日で出来るなんて結構早いんだな」

「違うよ。完成する日は決まってるんだ」


 首を傾げる秀司に小松は告げる。

「僕らが現実世界に戻って、もう1回こっちに来た時に完成するんだよ」

「へぇー、面白れぇな」

「物によって時間に差が無いのは良いけど、簡単な物まで次回に持ち越しなのは嫌かな」


 何度か小さく頷いた秀司は小松に尋ねる。

「次はどこ行くんだ?」

「僕の部屋……じゃなくて秀司の部屋に行こう」


 秀司は自分を抱きしめて口を開く。

「いやん、小松君……変な事しないでね」

「力なら秀司の方が完全に上でしょうが……。僕に何が出来るんだよ」


 秀司は小松の足元から頭までをジッと見てから告げる。

「あぁ……、うん。俺がもやしに負ける訳ねぇわ」

「秀司が変な事しないでよね」

「ぐへへ。良いではないかぁ。良いではないかぁ」

「はい、はい。秀司の部屋は何処? 案内してよね」


 不満そうに返事をした秀司は小松を自分の部屋に案内する。

「小松の部屋は何処だ?」

「ん? 僕の部屋はあっち側だね」

「ふーん。おぉ、ここだ。ここ」


 秀司は自分の名前がプレートに書かれた扉の前で止まる。

「いやぁー。初めて部屋を出た時はビックリしたぜ」

「オートロックで鍵が無いからね」

「あぁ、マジで終わったと思った」

「まぁ、ガイドブックに書いてあるんだけどね……」


 秀司は顔を顰めて扉に手を触れる。

「そんな事まで書いてあんのかよ。……開いてよぉ」

『ガチャリ』


 扉の鍵を開けた秀司はドアノブを押して、扉を押し開ける。

「合言葉って面白いよな」


 振り返った秀司は笑いを堪えている小松を目撃する。

「ん? どうした?」

「いや……ぶふっ、合言葉って……」

「なんだよ。ガイドブックにも書いてあんだろ?」


 秀司は胸を張るようにして口を開く。

「ガイドブック見ないで合言葉を発見した俺って凄くね?」


 堪えきれなくなった小松は大きく笑う。

「あっはっはっは! 止めてよ! もう……ぶはっ、何も言わないでよ。お腹痛い」

「……何が面白れぇんだよ」


 小松は不満そうに唇を窄める秀司に告げる。

「良いじゃん……くくっ、中でガイドブック読めばわかるよ」

「何処にあんだっけ?」

「机の上だよ」


 秀司は小松を放置するようにして部屋の中に入り、机の上に置かれているガイドブックに手を伸ばす。

「マジであったわ……机と本……」


 部屋に入ってきた小松は口を開く。

「4日もこの部屋で何してたんだよ……」

「ずっとその部屋でテニスしてた」


 秀司が指差したのは白い部屋だ。使用者のイメージ通りに変わる不思議な部屋だ。


 小松は呆れるようにして告げる。

「ガイドブックを読まないから出来た事だと思うよ……」

「ふーん。まぁ、良いや。どれ位で読み終わるんだ?」

「30分もあれば大体目を通せるよ」


 小松はガイドブックを持って椅子に腰を下ろした秀司に告げる。

「まずは秀司の足裏を治しちゃうね」

「ん? こんなんホッときゃ治るぞ?」


 小松は首を小さく左右に振りながら電話に手を伸ばす。

「治んないから……。痛みに耐性ありすぎだから……」


 小松は首を傾げる秀司を無視して電話の9を2度押す。

「秀司の治療をお願いします」

『20Gになります』

「あれ? 高いな……そんなに酷かったの?」


 小松は驚いて秀司を見るが、治療費を聞いていなかった秀司は首を傾げたままだ。

『残高不足です。金庫に20Gを入れて下さい』

「すぐに入れます」


 小松はクローゼットの奥にある半開きで未使用な金庫の中に20Gを入れる。


 小松が金庫を閉じた直後に部屋には秀司の叫び声が響く。

「ふぉぉぉおおおお!」


 クローゼットを閉めた小松が口を開く。

「治った?」

「何処も痛くねぇ!!」


 秀司の治療費が小松の想定よりも高かった理由は、足裏の怪我だけが治療の対象では無かったからだ。


 4日間の練習で秀司の身体はバキバキの筋肉痛があり、その状態で迷宮に突撃したのだ。筋肉痛や足裏の痛みには耐性のある秀司だから動けるが、一般人では動くのも躊躇うような状態だった。


 秀司は満面の笑顔で小松に告げる。

「サンキュー!」

「あんまり無理しないでよ?」

「おぅ!」


 そして、ガイドブックを読もうとする秀司に小松が告げる。

「待って待って。読む前に僕と腕相撲して欲しいんだ」

「……小松が? 俺と?」

「うん」


 秀司が小松を馬鹿にしている訳では無い。連日のように部活動で汗を流している秀司と、家の中でゲームをしている運動不足の小松では勝負にならない。


 なぜ小松が腕相撲をしたいのかわからないが、秀司はガイドブックを机の上に置く。

「別に良いけど」

「じゃあ、白い部屋にアームレスリングの台を出してよ」

「小松は使えないのか?」


 小松は白い部屋に入った秀司に答える。

「ここは部屋の主しか使えないよ」


 秀司は目を閉じてアームレスリングの台をイメージする。

「……こんな感じだったよな?」

「うん。大体のイメージが出来ればあとは神が良い感じにしてくれるよ」


 秀司は台の上に右腕を乗せて、左手は棒を握り込む。やるからには本気である。

「やっぱ神様はすげぇな」

「神様だからね」


 小松も秀司と同じように構えて、2人は右手をガッチリと合わせる。

「じゃあ……行くぞ……」

「うん……レディ」

「「ゴッ!」」


 瞬殺。小松は1秒も耐える事は出来なかった。

「やっぱ強いねぇ」

「何がしたいんだよ……」

「ん? 本番は次だよ」


 秀司は再び構えた小松に眉根を寄せる。

「まだやんのかよ」

「良いから。良いから」

「何度やっても勝てねぇぞ?」


 渋々と秀司が小松の手を握り込んだ時、小松の全身から赤く揺らめくようなオーラが発生した。


 驚いた秀司は目を見開いて小松に尋ねる。

「なんだ? 今……光ってるのか?」

「うーん。使用中は薄っすら赤いオーラが出るのか……まぁ、わかりやすいか」


 小松は自身に起きている事を考察するように呟くが、秀司の質問には答えない。

「じゃあやろうか」

「お……おぉ」

「……レディ」


 再び『ゴッ!』という掛け声で秀司は力を込めるが、瞬殺した先ほどと違って小松の腕は全く動かない。お互いの力が拮抗しているのか、2人の腕は小刻みに震えている。


 小松は秀司の力に耐えながら呟く。

「魔法……やべぇぇ……」

「ぐぅおぉぉ!」


 秀司は呻くように力を込めるが、小松の細腕が倒れる事は無い。

「ぬっ……ぐぐ……! マジか……」


 秀司は驚愕する。耐えているだけだった小松が秀司の腕を倒し始めたのだ。

「くっおぉ……」

「ノオオオオオオオオオ!」


 小松の呻き声を最後に秀司は腕相撲で負けた。小松の細腕に負けた。


 小松はガックリと両膝を付いて呆然としている秀司に告げる。

「ありがと。ガイドブック読んで良いよ」

「せ……せ……せつ……」


 秀司は白い部屋から出ていった小松に叫ぶ。

「説明しろぉぉ! 赤い光だろ! その光ってのがあやしいぞ!!」

「いや、いや。まずはガイドブック読んでよ」

「むぐぐ」


 ヨロヨロとした足取りで秀司は椅子に腰かける。

「はい。しっかり読んで。全部書いてあるから」


 秀司は小松に差し出されたガイドブックを受け取る。

「小松は何するんだ?」

「僕は自分の部屋に戻るよ」

「読み終わったらどうやって呼べば良い?」


 小松は電話を指差して口を開く。

「僕をイメージして電話のボタンをなんでも良いから押せば、僕の部屋にある電話に繋がるよ」

「わかった。ちょっと待っててくれ」


 小松は秀司が納得していない事をわかっているが、全てガイドブックに書いてあるのだ。


 レベル。ステータス。小松が使った魔法などだ。小松はそんな説明をするよりも、使った魔法のレベルを上げたかった。


 魔法を使えば魔法のレベルが上がる。自分の白い部屋に入れば、魔法の使用制限は無いに等しい。回復アイテムを出す事が出来るのだ。

 どれだけ魔法を使用し、練習したかで魔法のレベルが上がるのだ。


 秀司に説明している時間が惜しい小松は、足早に秀司の部屋を出ていった。


 1人になった秀司はガイドブックを読み進める。


 そして、部屋のオートロックについての説明を読み終えて頭を抱えた。

 自分は小松の前で何をした? 何を言った? 全てが恥ずかしい。


 小松が笑っていた理由は尤もだ。


 オートロックに『開いてよぉ』なんて合言葉は無かった。

 部屋の主が扉に5秒触れれば開錠されるのだ。本当にそれだけだった。


 恥ずかしさで頭を抱えていた秀司が小松を呼び出したのは、それからしばらく後の事だった。


衝撃の事実!

合言葉なんか無かったんや! ドヤ顔で言うなんて恥ずかしすぎるぅ。

ねぇ、今どんな気持ち? ねぇ、ねぇ、どんな気持ち?



何でも無い事を含めて、追記や修正をツイッターでお知らせしております。

https://twitter.com/shum3469


次回もよろしくお願い致します。

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