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神の試練  作者: しゅむ
第1章:迷宮
7/18

1-3

前回と前々回のお話


秀司は迷宮で迷子&迷子。

喉の渇き、飢え、睡眠不足。足の裏にも怪我を抱えて、満身創痍の秀司の前に木の盾を持った骸骨登場。


小松は神の試練に挑む。

パソコンに保存してある絶対秘密のデータを死守する為に。

 秀司は通路の先で立ち止まった骸骨に警戒感を強める。短い木の板を数枚貼り合わせたような粗末な盾を持つ骸骨に、今までの必勝パターンは通用しないだろう。


 粗末な木の盾でも数回ほど秀司のショートソードを防ぐ事が可能だ。そして、防いだ瞬間に棍棒で殴られて大ダメージが確定する。

 一撃で盾を粉砕するつもりで切りかかるのは割に合わない賭けである。


 通路の中央で逡巡する秀司に、動きを止めていた骸骨が駆けてくる。

 右手に持った棍棒を高く振り上げて駆けてくるのは、今までの骸骨と同じパターンだが、盾を前に構えて走るだけで劇的に違って見えてくる。


 秀司はフラフラな身体に鞭を打つようにして、いつも通りにフォアハンドで構える。


 秀司は骸骨の踏み込みに合わせて、後方にサイドステップをするようにして棍棒の一撃を回避し、無防備になった骸骨の首にショートソードを叩き込むが、秀司の懸念通り斜めに構えられた粗末な木の盾は、秀司の攻撃から大半の勢いを奪って受け止める。


 秀司のショートソードを盾で受け止めた骸骨は、木の盾を押すようにして秀司をショートソードと一緒に押し返す。


 骸骨相手に力負けするとは思っていなかった秀司は、体勢を崩して後ろにたたらを踏む。

 喉の渇き、空腹に加えて睡眠不足のバッドステータスは、確実に秀司の身体能力を蝕んでおり、自慢の身体能力は見る影もないレベルまで低下している。


 万全の状態であれば木の盾を破壊する事も出来ただろうが、今の秀司では一撃で木の盾を破壊する事は難しい。


 秀司を押し返しながら前に踏み込んだ骸骨は、再び振り上げた棍棒を袈裟懸けに振るう。


 秀司は咄嗟にショートソードで受けるが、低下した握力では棍棒を受け止める事は出来ず、ショートソードを叩き落されてしまう。


 幸い後ろに下がりながら受けた秀司が骸骨の棍棒に当たる事はなかったが、通路で素手の状況は最悪だ。

 状況は最悪でも回避に徹した秀司が、動きの鈍い骸骨の棍棒に当たる事は無い。


 秀司はジリジリと落ちているショートソードから遠ざかってしまうが、骸骨の隙を窺ってショートソードを拾う事を諦めていない。


 縦振りする棍棒を半身になって避けた秀司は、骸骨の横を抜けるようにして駆けるが、骸骨は木の盾で殴りつけるようにして秀司を押し返す。


 秀司は咄嗟に両腕で防御したが、体力の限界は近く、骸骨の棍棒を避ける動きも非常に危なっかしい。


 秀司は背中を見せて逃げる事も検討するが、ここで逃げても確実に次がある。ここからの帰り道で骸骨と出会わない事などあり得ない。


 そもそも迷子である。帰るにしろ、逃げるにしろ、武器は必須だ。


 そんな秀司の前方。骸骨の後方から男性の声だが、気弱そうな小さな声がかけられる。

「あのー、助けって要ります?」


 声の主は骸骨とほぼ同じ背丈でハッキリとは見えないが、秀司にとっては願ってもない問い掛けだ。


 秀司は棍棒を後方に避けてから口を開く。

「助けて下さい!」


 秀司の声を聞いても骸骨の後方に居る人物は走らない。ジリジリと骸骨との距離を詰めるだけで、その間も秀司は必死に棍棒を避けている。


 骸骨の動きがピタリと止まり、骸骨は振り返って後方を確認する。

 しかし、すぐに骸骨は秀司に向き直って棍棒を振り上げる。


 秀司には暗い通路で助けに来た男性の顔がハッキリに見えない。身長は骸骨と変わらない170㎝弱で、細身だと見受けられる。手には短い手斧を持っている。


 秀司は骸骨が棍棒を振り上げた事で、助けに来た男性についてはそれだけしか確認できなかった。


 先ほどまでと同じように骸骨が棍棒を振り上げた直後に、助けに来た男性は一気に駆け出した。そして、骸骨が秀司に棍棒を振り下ろし、秀司はバックステップで回避する。

 助けに来た男性は骸骨が秀司を攻撃した隙に、背後から一気に迫って手斧で頭蓋骨を破壊したのだ。


 男性は隙を窺っていただけで、骸骨との戦闘には慣れているようだ。


 崩れるように倒れた骸骨の後ろから男性が現れるが、男性は秀司と目を合わせようとせず、男性は足元に倒れる骸骨に視線を向けている。


 男性は秀司に視線を合わせずに口を開く。

「布は貰って良いですか?」


 しかし、男性をハッキリ見た秀司は男性に歩み寄る。

「こ……ま……っつぅぅぅぅ! こまちゅううううう!!」

「は? え?」


 初めて顔を上げた小松は抱き着いてくる秀司を避けられなかった。

「小松ぅぅぅぅ! 俺、死ぬ! 死んじゃう! 助けてくれぇぇぇ!!」

「しゅ……秀司……なの?」


 小松は初めて自分が助けた男を確認する。その男は紛れもなく唯一の友人と言って差支えがない池田秀司だ。


 助けに入ったのは剣を落として素手の状態で避けていたからで、見殺しにするのは忍びなかっただけだ。武器を持っていれば助ける気もなかっただろう。


 秀司の姿を上から下まで見た小松の目は憐れみを帯びていく。

「ちょっとあっちの部屋……行こっか」


 小松は抱き着いてきた秀司を強引に引き剥がして顎で自身が来た方向を示す。


 秀司は想像以上に力が強い小松に告げる。

「結構、力あるな。筋トレでもしたのか?」

「秀司……マジで言ってる?」


 首を傾げる秀司に小松は確信を深める。

 衣服は裸足にスウェットの上下で、武器は抜身のショートソード。手荷物も無い秀司に小松は大きな溜息を吐き出す。


 既に神の試練は6日目。現実世界にも1度帰還を果たしており、小松の身に着けている服はキャンプにでも行くような格好だ。

 厚手のシンプルなズボンにポケットが多いベスト。大きくはないが、利便性のあるリュックも通路に置いてある。


 しかし、秀司の格好は初日の自分を見ているようだ。

 5日間、何をしていたんだと疑問に思うが、秀司ならあり得ると何故か納得してしまう。


 溜息の意味がわからない秀司は首を傾げながらも、リュックを拾って背負った小松の後ろを歩く。

 そして、辿り着いた丸い部屋の隅で小松は腰を下ろす。


 秀司は中央を警戒しながら小松を見下ろして口を開く。

「なぁ、真ん中が危ねぇぞ。俺が見とこうか?」

「骸骨が出るのは四角い部屋だけだよ」

「は……ぇ……? マジ?」


 小松は小さく息を吐いてから秀司を見上げる。

「丸い部屋で骸骨と戦った事ある?」

「ん? んーーー」


 腕を組んで悩む秀司は既に座っている。疲労もあるが、小松の言う事を信頼しているのだ。

「あんま余裕なかったからわかんねぇや」


 小松は背負っていたリュックから水筒を取り出して秀司に差し出す。

「秀司……色々ヤバイね……。もう6日目……あっ」

「おぉ! サンキュー!!」


 小松は浴びるように水筒の中身をゴクゴク飲んでいく秀司に慌てた声を出す。

「馬鹿! 飲みすぎ! そんなに飲まなくても……」

「ぷっはぁぁーー! 水、最高!」


 小松は秀司から受け取った水筒を振る。

「……全部飲みやがった。少し飲むだけでバッドステは解除されんのに……」

「ん? なんか言ったか?」


 小松は空の水筒を振りながら、もう片方の手はリュックの中を捜索中だ。

「ねぇ、水なしでこれ食べれる?」


 小松がリュックから抜き出すように取り出しのは、道具屋で売っていたフランスパンのようなパンだ。


 小松からパンを受け取る為に秀司が伸ばす両手は僅かに震えている。

「パン……。パンだ……。食いもんだ……。くれんのか?」

「いや……水が無いとキツイと思うよ……」

「大丈夫です!! 頂けないでしょうか!?」


 小松は頭を下げて懇願する秀司の両手にフランスパンを置く。

「あざぁっす!!」

「ぅ……うん」


 顔を上げた秀司の目は輝いていた。そんな秀司を見た小松は抱いていた呆れや憐れみなどの感情を一瞬だけ忘れてしまった。


 小松は一心不乱にパンを貪る秀司を僅かに微笑んで眺める。

「ねぇ、あんまり焦って食べると喉に……」

「んっ! んん!!」

「ほら、詰まってんじゃん! 水は全部飲んじゃったんだよ!」


 胸を叩く秀司の目は見開かれている。全部の水を飲み干すなんて一体誰が!?


 小松は秀司の内心を正確に読み取った。

「全部飲んだのは秀司だよ!!」

「んぶっ! おふぇ!?」


 なんだかんだで危機を脱した秀司は手を合わせる。

「ごちそうさまでした」

「話したい事は多いけど、まずは寝て良いよ」

「俺……帰りたいんだけど……」


 小松はリンゴを齧りながら告げる。

「とりあえず起きたら説明するから、まずは寝て」

「……そのリンゴは……」

「秀司はもうお腹一杯でしょ」


 秀司は鼻で笑う。

「ふっ、俺があんなパン1つで腹一杯になると思って……あれ?」

「食べようと思えば食べられるだろうけど、あのパンは1つでお腹一杯になるようになってんの」

「へぇー、すげぇパンがあるんだな」


 喉の渇きは潤い、お腹も満たされた秀司は小松の言いつけに従って横になる。

「起きたらリンゴが食べたい……です」

「4時間経ったら起こすから、そん時ね」

「……サンキュー」


 色々限界だった秀司はすぐに眠りに落ちる。


 改めて秀司の全身を確認した小松は呟く。

「バッドステ3つに足の裏の怪我もあるのに生きてただけで凄いよ……。どうやって骸骨に勝ってきたんだろ?」


 小松はスマホに秀司を起こす為のアラームをセットする。

「中身は昔と変わってないなぁ……」


 幼い頃、小松が秀司とゲームで初対戦をする時は、説明書も読まないで秀司が対戦を始めてしまう為、小松が一方的に勝利を重ねる展開だった。

 しかし、秀司は驚異的な速さで上手くなり、勘と優れた反射神経で小松を追い詰めていく。そして、秀司が勝利を掴み始めるが、小松も黙って勝利を譲り続けたりはしない。


 小松は研究の成果を活かし、様々な戦術を駆使して秀司に挑む。そして、それを秀司が打ち破ってを繰り返す内に、小松と秀司のレベルは他の友人たちとは比べ物にならないレベルになっていく。


 早い段階で周囲の者たちが小松に勝つ事を諦めていくが、秀司は最後まで強くなり続ける小松に付いてきた。それが小松には嬉しかった。

 最終的には2人だけで遊ぶ事になるが、白熱した戦いは小松の良い思い出だ。


 秀司がテニスで世界一になると宣言してから疎遠になってしまったが、小松の中の秀司の印象は変わっていない。

 何をするにしても最初はゴミのような存在だが、情熱と負けん気ですぐに周囲を驚かせる。その道のトップにまで登り詰めてくる。それが小松の中の秀司だ。


 小松は立ち上がって丸い部屋から出ていく。

「今回は迷宮に留まろうと思ってたけど、それは次回かな」


 小松は自身の計画に狂いが生じているが、その表情に不快感は見られない。


 基本的に買取屋や道具屋、武具屋にフードコートなどで他の挑戦者を見掛ける事は多い。しかし、秀司が迷宮に入った2日目の午前中に限って言えば、全く人通りは無かった。


 迷宮に挑む者たちの多くが、初日を跨いで迷宮内に留まっていた。迷宮と買取屋を往復している者でも、迷宮に入って早々に帰還する者は圧倒的に少ない。


 単独で迷宮に挑むのは難しい事ではないが、複数で挑めばそれだけ安全性が増す。そして、盾持ちの骸骨を目撃した者の多くは、徐々に複数で迷宮に挑むようになっていた。


 それでも小松は1人で試練に挑むつもりだった。

 小松は他者と協調するのが苦手だ。骸骨の行動パターンや部屋の特徴など、他者と協調すれば情報を共有して作戦を立てるべきだが、その話し合いや作戦の立案で揉めるのは目に見えていた。


 顔の見えないゲームの世界では作戦の質や、意見の正確性が重要視されるが、現実世界では容姿や声の大きさなども考慮されてしまう。


 波風を立てずに自分の案を通せれば良いが、長い髪に眼鏡で姿勢も悪い自分の案が通るとは思えない。発言力があるのはいつだってリア充やパーリーピーポーな人種だ。


 最適とは言えない作戦に従って窮地に陥るなら、初めから1人で攻略する方が良いと結論付けた。


 自分と似たような者を見つけて組む事も考えたが、そもそもそんな人材は戦闘面で頼りに出来ない。骸骨は動きも遅く対処するのは難しくないが、この先は全くわからない。

 ピンチになった時に軽々しく切り捨てるのも心苦しい。相手も同じ思考である事も予測でき、疑心暗鬼で迷宮に挑戦するのは抵抗があった。


 小松は迷宮で戦闘を繰り返しながら悶々と考えた結果、1人で神の試練に挑む事を決めた。しかし、決断した直後に秀司と出会ってしまった。


 小松にとって秀司は最高の人材だ。唯一の友人という点は大きく、類稀なる運動センスに身体能力は小松に無いものだ。初期装備より酷い状態でこの辺りまで来て、バッドステータスを3つも抱えて生きていられるのは秀司くらいだろう。


 しかし、懸念が無い訳では無い。


 秀司は小松と違ってリア充やパーリーピーポーな人種に近い。自他ともに認める陰キャの小松とは違いすぎる。

 そんな秀司が自分と組んでくれるのか。小松は秀司を唯一の友人だと思っているが、秀司に友人が大勢居るのは知っている。小松は大勢の1人に過ぎない。そんな輝くような秀司の隣に居て迷惑にならないか。


 小松は秀司に組んで欲しいと打診する勇気を持てないまま、4時間が経過したアラームを耳にする。ゲームやゲーム内の架空世界では自信満々だが、現実世界での自信は皆無だ。


 小松は戦闘中の骸骨が振るってきた棍棒を後ろに下がって避ける。すぐに1歩前に踏み込めば、骸骨は左腕を開くようにして盾を振ってくる。完全に決まりきった行動パターンだ。


 小松は盾を半身になりながら左に回避し、棍棒が振り上げられる前に骸骨の右肩付近を破壊して、盾だけの状態にする。

 そして、骸骨は腕を開くようにして振った盾を、左フックのように横振りにして小松を殴りつけるが、小松は骸骨の背後に回り込むようにして回避し、無防備な頭蓋骨に手斧を叩き込む。


 小松は骸骨の行動パターンを把握している。

 全てではないが、決まった間合いと状況を作れば、骸骨の行動パターンが変わる事は無い。


 小松は身体を動かすのが不得意な訳では無い。運動不足で筋力が無いだけだ。攻撃が予測できれば、避ける事は容易な程度には動ける。


 崩れ落ちた骸骨を見下ろし、ポケットからスマホを取り出してアラームを止める。

「……剥ぎ取って戻ろ」


 小松が秀司の寝ている丸い部屋に戻ってきても、秀司は口を半開きにして寝たままだ。ちょっと前に死にかけていた者の寝顔ではない。完全に熟睡している。


 小松は秀司の横に腰を下ろして肩を揺する。

「秀司、起きて。4時間経ったよ」


 秀司は薄っすらと目を開けて小さく口を開く。

「……あと5分」

「4時間寝れば十分なの! 20時間動けんの!」


 秀司は小松に身体を起こされるが、その目は閉じられたままだ。


 小松は目を開けずに座る秀司の顔の前にリンゴを近づける。

 リンゴの匂いを察知した秀司は『くわっ!』っと目を見開く。


 小松はビクッと身体を震わせてリンゴを引っ込めてしまうが、秀司は絶望するかのような表情でリンゴから小松に視線を向ける。


 小松は再びリンゴを秀司に近づけていく。

「……た……食べて良いよ」

「あざぁぁっす!!」


 リンゴを貪り食った秀司は非常に良い笑顔だ。

「サンキュー小松。いやぁ、マジで生き返った」

「当たり前だよ。3つもバッドステあったんだから」

「バッドステ? なんだそりゃ?」


 小松も秀司と一緒にリンゴを食べ始めたが、その食べるスピードは遅い。リンゴを食べている間にバッドステータスについての説明が終わった。


 秀司は座ったまま軽く腕のストレッチを始める。

「ふーん」

「ガイドブック読みなよ」


 秀司は首を傾げて口を開く。

「ガイドブック?」

「やっぱり知らないよね……。知ってたらその装備でここまで来ないよ……」


 小松の言葉を聞いた秀司は改めて小松の姿を観察する。

「小松は良い服にリュックだな……」


 そして、秀司の視線は小松の足元で止まる。

「靴……片方、貸してくれない?」

「僕のサイズと秀司のサイズじゃ違いすぎて無理でしょ……」


 秀司は真剣な表情で小松に尋ねる。

「いくつ?」

「25」

「くっ! 3.5か……イケなくはないか?」

「帰るだけから貸しても良いけど、戦闘は任せるよ?」

「帰り道がわかるのか!?」


 小松は右の靴を脱いで秀司に軽く放り投げる。

「地図あるしね」

「ちぃぃぃぃぃずぅぅぅぅうう!?」

「道具屋で買うんだよ。行ったとこが勝手に埋まるやつ」


 小松の投げた靴は秀司の胸にぶつかって石畳に落ちる。秀司の運動能力ではあり得ない現象だが、驚きで固まってしまった今の秀司はテニスボールが飛んで来てもスルーしそうだ。


 秀司は虚ろな表情で小松の靴を拾ってギューギュー自分の足に突っ込む。

「地図……はは……。地図なんてあるんだ……ははは」

「ガイドブック読めば書いてあるよ……」

「どこにあるんだ……?」


 非常に答え難い問いであるが、小松は口を開く。

「……部屋の机の上に置いてあるよ」


 秀司の脳内に部屋の様子が浮かび上がる。

 ベッドにクローゼットとお風呂。そして、白い部屋がある非常にシンプルな部屋だ。シンプル過ぎて寂しい。


 秀司は首を傾げて口を開く。

「机は……無かったな……」

「とりあえず帰るから靴は返して」


 小松は秀司の疑問を一蹴した。神が机とガイドブックを用意しない訳がない。秀司が何も見ていないだけだと断定している。


 小松は不満顔の秀司に告げる。

「足……履いた方が痛いんじゃない?」

「……その通り」

「ほら、僕の靴下は貸してあげるよ」

「あざぁぁっす!!」


 秀司は出発の準備を整えた小松に尋ねる。

「なぁ、喉乾いたらどうすんだ?」

「リンゴがあるから大丈夫だよ」

「食いもんじゃないのか?」


 小松は羊皮紙の地図を確認しながら口を開く。

「リンゴは1個だと満腹にならないけど、喉の乾きも少し解消するんだよ」

「じゃあ、リンゴだけで良くね?」

「リンゴはパンと水が無くなった時の非常用だよ」


 秀司は小松の地図を横から覗き込む。地図には赤い点があり、半分以上が白紙だ。


 小松は羊皮紙の地図を持って歩きだす。

「効率で言えばパンと水があれば十分なんだよ。リンゴは2つ食べれば満腹を通り過ぎちゃうし、喉の渇きだって2つで全快を大きく超えちゃうんだ」


 秀司は前を歩く小松に尋ねる。

「残して後で食べれば良いじゃん」

「残すと腐るんだよ。腐って食べられなくなるんだ」

「うげぇ……」


 小松は足を止めて振り返る。

「水は無料で1口か2口くらい飲めば十分なんだけど、リンゴは有料。節約は大事だよ」

「じゃあなんで小松はリンゴ持ってんだ?」


 再び歩き出した小松が告げる。

「僕はしばらく迷宮から出る気が無かったんだ。それで万一に備えてリンゴを買ったの。奥まで進んで水が尽きたら面倒だからね」


 小松は地図を見ながらも、通路の角が近づけば耳を澄ます。曲がった先で骸骨と鉢合わせはごめんである。


 戦闘は交代でやる事に決め、危なそうであれば助けに入る事を決めた。相手の事がわからなければ連携も取れない。どんな風に動いて攻撃するのかを、お互いが観察した。


 小松は秀司の必殺とも言えるパターン化された一撃に感心した。盾持ちが現れず課題は残ったが、盾を持っていない相手に負ける事は想像が出来なかった。


 秀司は小松の戦闘が非常に理詰めで無駄のないものだと感じて素直に感心した。手数は掛かるが、特別に強い攻撃は必要が無いと雄弁に物語る。確実に無傷で骸骨を葬っていく。


 秀司は迷宮を引き返す道で、小松から色々な事を聞いた。

 最短距離でも数時間という時間を掛けて、秀司は遂に迷宮を脱出した。


秀司、良かったね。小松と出会えて良かったね。


今日も私は1人でダイマックスアドベンチャーに挑む。

ジガルデ強ぇ……。氷が来ない!助けて……。



何でも無い事を含めて、追記や修正をツイッターでお知らせしております。

https://twitter.com/shum3469


次回もよろしくお願い致します。

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