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神の試練  作者: しゅむ
第1章:迷宮
15/18

1-11

ボス戦で2回目の死。


<>内は英語で話していると思って下さい。

 秀司と小松はお互いの戦闘状況を話し終えてから、双方が腕を組んで悩み始めていた。


 そんな沈黙を小松が破る。

「……うーん。もう1人居たら勝てる……よね?」

「防御に徹して時間稼ぎしてくれるだけでも行けるだろうな」


 有効な打開策は見えているが、仲間を増やす事に二の足を踏んでしまう。


 秀司は悩んでいる小松に尋ねる。

「俺が適当に誘ってこようか?」

「いや……それは最終手段にして……」


 秀司も小松の激しい人見知りは理解している。

 秀司が間に入って1日ほど遊べば、普通に受け答えする程度には打ち解ける事が出来る。しかし、秀司が近くに居る場合という限定的な状況という制約は付いてしまう。


 秀司が居なくなれば喋る事はせず、小松は首を振る動作だけになってしまう。


 仲間を増やすというのは小松にとって負担が大きく、神の試練に挑戦する仲間を好んで増やしたいとは思っていなかった。


 小松は瞑想するように目を閉じて、アイデアを捻り出そうとしているが、良いアイデアは思いつかない。


 秀司は心を鬼にして告げる。

「とりあえず適当に良い感じの人が居ないか探してくるよ」

「え……あぁ……うん」


 良いアイデアが出ない小松は思わず了承してしまい、秀司は席を立ってフードコートを彷徨い始めた。


 1人増えれば各自が1対1の状況を作れる。

 小松は全身鎧と再戦しても負けるとは思っていない。既に全身鎧の攻撃パターンは見切っており、無傷での勝利は問題ないと考えているが、全身鎧を倒すには時間が必要だ。


 しかも1対1という状況は必須で、小松が全身鎧を倒すまで他の2体を足止めする必要がある。


 小松は黒革鎧に殺された時を思い出す。

 あの槍だけでも回避を続けるのは困難だ。小松は槍を回避する事が出来ず、頼りの盾は数分で木の部分が破壊された。


 傍観者のようだった全身鎧まで追加されたら、勝つのはもちろん、耐える事も不可能だ。


 秀司がどうやって耐えたかと言えば、気合と根性という精神論だった。

 秀司は驚異的な反射神経と抜群の運動神経で切り抜けたのだが、どちらも小松には無いものだ。


 そして、黒革鎧は全体の状況を把握しているようで、劣勢に陥る前に行動パターンを変えてくる。いくら秀司でもガチガチに防御を固めた全身鎧をすぐに倒すのは困難だ。


 小松は脳内シミュレートを繰り返す。

 回復魔法が使えれば無茶な戦いも出来るが、未だにレベルが上がる気配は無い。


 おそらくレベルアップは敵を倒すだけではなく、何か別の条件が必要だと推察している。


 回復薬を使ってゴリ押しも考えたが、戦闘中に飲める隙があるとは思えなかった。


 そんな悩める小松を置いて、秀司はフードコートをフラフラ漂う。

「小松と相性が良さそうな人が良いけど……」


 秀司は小松と相性の良さそうな人物を探す。自分のようにグイグイ行くような明るい性格の者は、小松と打ち解けるのに時間が掛かる。むしろ拒絶されてしまう。


 どうやって自分が小松と仲良くなったのか思い出す事は出来ない。

 一緒にゲームをしていたら、いつの間にか仲良くなっていたのだ。


 じゃあ、白い部屋でゲームでもするかと安易に考えるが、そもそも誘う人物がゲームに興味が無かったら終わりである。興味があっても達人の域に居る小松に喰らいつくような負けず嫌いの要素は必要だ。


 既にフードコートには人が余り残っておらず、仲間を探すなら石碑の周囲が効果的である。


 秀司は石碑の周囲を見に行こうと思い立ち、急に立ち止まって振り返る。

 秀司のすぐ後ろを歩いている者が居た場合、その急な動きに対応するのは難しいだろう。


 秀司の後ろを歩いていた女性は仲間を探していた。

 不運が重なって仲間を失った女性は、女性の母国語である英語が話せる仲間を探していた。


 多くの人が集まる時間にフードコートで声を掛け続けたが、英語を理解できる者はおらず、途方に暮れてフードコートを彷徨っていた。

 女性の目的を達成するには仲間が必須であり、1人で神の試練を制覇できるとは思い上がっていない。


 やがてフードコートには人が減っていき、女性は俯くようにトボトボ歩いていた。いつの間にか秀司の真後ろにかなり近づいてしまった事にも気が付かない。


 そんな前を歩く秀司が急に立ち止まって振り返れば、前をよく見ていなかった女性がぶつかるのは当然の出来事だ。


 しかし、それでも秀司は超絶反射神経で半歩避ける事に成功するが、女性も半歩避けてくれなければ肩がぶつかる結果に繋がる。


 秀司と肩をぶつけた女性はハッとして軽く頭を下げる。

「Excuse me」


 秀司はぶつかった人物が英語を話しても動じない。

<ごめんなさい。俺も悪かったです>


 秀司はプロテニス選手になる為に、英会話の準備は万全だ。テストの点数はパッとしないが、英会話だけは抜かりがない。


 お互いが頭を下げてすれ違い、秀司はフードコートの外に向かう。

「小松! ちょっと外に行って来る!」


 アイデアの出ない小松は了承の意として軽く右手を挙げるだけだった。

 既に秀司が連れて来るであろう新しい仲間を受け入れる心構えの方に集中している。自分が声を掛けて仲間を探すのは、想像するだけで先ほど食べた朝食を吐きそうだ。


 せめて秀司が連れて来る人物に失礼な態度を見せないように、ある程度の会話を想定して自己紹介などを呟くように練習し始める。


 全てはパソコンのデータを守る為だ。苦手な人付き合いだって秀司が居れば乗り越えられる。……かもしれない。


 女性は自然な秀司の英語を聞いて、自分が居る場所を現実世界だと勘違いしたが、自分が今いる場所は神の試練で、圧倒的に日本人が多い環境であることを思い出す。


 そして、後ろから聞こえてきた秀司の日本語を聞いて慌てて振り返る。


 神の試練に挑戦している者は日本人が殆どだ。

 震源地が日本であり、地震が発生した直後に死んだのは日本人が圧倒的に多かったからだ。

 その後の余震や噴火などが影響して、世界規模で連鎖的に災害が発生していくが、最初の犠牲者たちが神の試練に挑戦している。


 女性のように英語圏の人間は本当に珍しく、英語を使える人物も珍しい環境なのだ。


 女性は神の試練に参加した初日に、英語が話せる人物を探した。

 日本語は学んでいるが、まだまだ会話するのは難しく、一緒に神の試練に挑戦するには英語を理解できる者が必要だった。


 運良く英語が話せる日本人と出会い、その人物と協力して仲間を得たが、不運な事に迷宮のボスで心を折られた英語を話せる者が神の試練を去ってしまい、通訳を失った女性は残った仲間と意思の疎通が取れなくなってしまった。


 残った仲間は意思の疎通が出来なくても女性を優遇した。

 理由は女性の容姿が非常に優れているからだ。


 アイドルに喧嘩を売っても圧勝する顔面偏差値の高さは世界でもトップクラスで、服を着ていても目立つ大きな胸と細い腰は男性の視線を集め、細長い手足と170㎝の身長で女性からも羨望の眼差しを集める。


 そんな女性を残った仲間が手放すはずがなく、少々強引な手段に出たが、逆に返り討ちにあってしまった。


 そして、女性は新しい仲間を探す事になった。


 女性は初日に多くの挑戦者たちに英語で話しかけて、英語を話せる人物をしっかり記憶したのだが、その中に秀司は居なかったと断言できる。


 初日から4日もテニスで時間を潰した秀司は完全にノーマークだったのだ。

 女性は飢えた捕食者のように身を翻して秀司の背中を追う。


 そして、女性はロビーに出た直後の秀司の前に飛び出した。

「Hello」

「ハロー」


 秀司は軽く右手を挙げただけで女性を完全にスルーして横を通り抜けた。英語で声を掛けてきた女性を小松が拒絶する事など間違いなしだったからだ。


 肩より少し長いプラチナブロンドに白い肌。整った顔立ちに蒼い瞳で容姿は最高。いや、最強の女性と小松が話せるか。

 否。断じて否である。


 秀司としては是非ともお近づきになりたいが、小松より優先される事はなかった。


 女性は懇願するように秀司の背中に告げる。

<お願い! 話を聞いて!>


 振り返った秀司は女性の容姿をしっかりと視界に収める。

 余りの可愛さにこのまま小松に紹介しようと悪魔の囁きに襲われるが、天使の声と小松を思いやる鉄の意思が悪魔の囁きをねじ伏せた。


 秀司は努めて冷静な表情で口を開く。

<俺に何か用ですか?>

<あの……その……>


 もじもじ言い淀む女性の様子は秀司の心に、ど真ん中の直球を投げ込んでいるかのようだ。

<私、英語が話せる人を探してて……>


 既に英語を話せる者たちはチームを組んでおり、人数制限の関係で受け入れられない事は知っている。知っているが故に、女性は緊張で言葉が上手く出てこない。


 こんな時間まで1人でウロウロしている秀司はソロで迷宮に挑んでいるか、自分と同じように仲間を探していると女性は推理している。


 女性も迷宮のボスには挑戦しており、あのような強敵が今後も続くであろう神の試練を単独で攻略が出来ると思っていない。


 単独や少数で迷宮に挑んでいた者たちが、ボスと戦った経験から新しい仲間を探し始めるのは珍しい事ではないが、英語が理解できるというハードルを越える者がなかなか女性の前に現れなかった。


 秀司を逃したら世界を救うという女性の目的が、非常に困難になると自覚している。

 女性は世界を救う。救いたい。その純粋な想いだけで神の試練に挑戦している稀有な人物だ。


 女性は大きく深呼吸してから口を開く。

<もし良ければ、私を貴方の仲間にして頂けないでしょうか>


 女性はその見た目とは裏腹に護身用として、柔道に精通している為、仮に秀司が悪い男であってもぶちのめすだけだと考えている。かつて仲間だった男たちと同じように。


 秀司は眉根を寄せて目を閉じる。

 秀司も仲間を探していた為、女性の申し出は非常に魅力的だ。容姿も魅力的だが、今は努めて見ないようにしている。

 光り輝くようなこの女性に、暗い場所を好むような小松が耐え切れるのか非常に懐疑的なのだ。


 秀司はゆっくり目を開けるが、1歩前に詰めていた女性に驚く。

<え……あぁ……なんで俺? あと貴方は1人ですか?>

<はい。私1人です。理由は仲間と話せないと迷宮を攻略する危険が増すだけでしょ?>


 女性は頷く秀司に声を掛けた理由の説明を続ける。

<私は世界を救いたいの。だけどコミュニケーションが取れなければ、私もチームも危険に晒してしまう>


 秀司は女性の話す理由に納得する。

 単独の骸骨であれば相談の必要は無いが、最奥の3体と戦う為には相談が必須だ。この先、新しい敵が現れれば戦闘前に簡単な打ち合わせも発生するだろう。


 そんな話し合いの場に別言語の人間が混ざれば、状況は非常に難しいものに変わってしまう。

 日本語に自信のない女性が打ち合わせなどを理解しているのか。

 女性に疑問点はあるか。


 戦闘中に問題が発生した場合は、その問題には早急に対処しなければならない。それには言語の問題が非常に鬱陶しい枷になってしまう。


 言語が違うだけで様々な問題が生じてしまうのだ。


 その事を痛感している女性は申し訳なそうに告げる。

<学校でも日本語の勉強はしてるんですが、まだまだ苦手で……>

<え、学校? 年齢いくつ?>

<私ですか? 16です>


 秀司は驚きで沈黙してしまう。

 欧米人は日本人に比べて年上に見える事が多く、女性の年齢が秀司と同じだった事で驚きを隠せない。


 女性は黙ってしまった秀司に尋ねる。

<おかしいですか?>


 小首を傾げる同年齢の可愛い女子に、秀司の心は白旗を掲げて盛大に振り回した。


 もはや秀司の頭に天使も小松を思いやる心も存在していない。天使は目の前の女性だったのだ。

<俺も仲間を探してたんだよ。もう1人居るから紹介するよ>

<本当! ありがとう!>


 光り輝く笑顔の女性とは裏腹に、秀司は不得意な思考の海にダイブする。

(どうやって小松を説得する!?)


 しかし、フードコートは目の前だ。

 すぐに良い案が思い付くはずもなく、女性を後ろに従えた秀司が小松の座るテーブルに歩み寄る。


 秀司は俯いて何かを呟いている小松に声を掛ける。

「小松……」

「ん? ……んん!?」


 小松は秀司の背後に居る女性を二度見してしまう。非常に綺麗な二度見だ。

 石碑の周囲に仲間を探してくると言った秀司がすぐに戻ってきたと思ったら、その後ろにはプラチナブロンドの美女が立っているのだ。


 小松が想定していた会話や心構えは完全に吹き飛んでしまう。


 女性は秀司の横に並んで口を開く。

<初めまして。私はリディア・ミヤシロです>

<あ、俺の名前も言ってなかったね。俺は秀司池田だよ>


 2人は自然な様子で握手を交わすが、小松は秀司が流暢に英語を喋っている驚きと、リディアが自分に視線を向けてくるプレッシャーで口をパクパクする。


 小松から明確な言葉は出てこない。

「あ……あぁぁ……ぼ……ぼぼぼく……あ……あい」


 小松は秀司とリディアの英語をある程度は理解しているが、予想外な外国人の登場に小松がまともに話せるはずがなかった。日本人が相手でも難しいのだ。


 英語の成績が良いだけの小松が、慣れない英語で話せというのは酷である。

 いくら英語の成績が優秀でも、日本の学校教育は英会話という観点では不十分だ。


 そんな小松に助け舟を出すのは秀司だ。

<彼は小松だよ。陽平小松>

<よろしくね。ヨッヘー>


 秀司が居なければ小松は走って逃げている状況だが、小松はリディアの差し出す手に恐る恐る手を伸ばす。小松の手は完全に震えている。


 そんな手を握るリディアは天使のようだが、小松はすぐに手を離してテーブルに肘を着いて両手を組む。

 両手で組んでも手の震えは収まらない。


 それでも小松は口を開く。

<こ……こここ、小松って呼んで……>

<なぜ?>


 小松はゴクリと生唾を飲み込む。理由を英語で説明するのはハードルが高い。いや、無理。


 秀司は視線を左右に走らせて完全に挙動不審な小松を助ける。

<小松は陽平の陽の字が嫌いなんだよ。自分の性格とかけ離れてるからって>

<へぇー、日本語は面白いよね>


 リディアは深呼吸してから口を開く。

「コマッチュ、ヨロシク……オネガイ……シネ?」


 小松は小首を傾げるリディアを無視して秀司に視線を向けるが、秀司は黙って小さく頷くだけだ。不慣れな日本語を笑うような秀司と小松ではない。


 例え「初めまして。こんにちは。死ね」というネタのような挨拶になっても、今の小松にはとても笑えない。


 諦めたかのように小さく息を吐き出した小松は口を開く。

「お願いします」

「オォ! イエッス! オネガイシマース」


 小松は非常に不安だ。

 秀司の連れてきた新たな仲間が外国人なのだ。


 小松は男性でも女性でも関係なく人見知りだ。別にどんな人を連れて来ても、秀司が一緒なら問題無いと思っていたが、この状況は完全に想定外だ。


 小松はリディアから秀司に視線を移す。

「とりあえず座りなよ」

<おっけー。リディアも座ってよ>

「Thank you」


 小松は金貨を2枚取り出してテーブルに置いて口を開く。

「なんか飲みなよ」


 小松は完全に秀司を見る事で、普通に話す事に成功するが、金貨の意味を察したリディアは首を小さく左右に振る。


 そして、自分のポケットから金貨を1枚取り出して口を開く。

<自分で出すわ>


 小松は首を傾げるが、秀司の翻訳を聞いた小松は金貨を1枚回収した。


 このリディアの行動は秀司と小松に良い印象を与える。

 最強とも形容できるリディアの容姿だが、男から奢られる事を当たり前と思っていないのだ。


 だからと言って小松がリディアを見られる訳では無い。

 小松は秀司をジーっと見つめてリディアに耐えている。


 小松はリディアに話しかけられても秀司を見つめ続け、秀司に返答するかのように答える。

 リディアもそんな小松に困ってしまうが、事情を秀司から聞いてある程度は納得してくれた。


 そして、秀司はリディアから神の試練に挑戦する動機を聞いて、少し恥ずかしい思いをしながら自分の動機も話した。

 しかし、小松は神の試練に挑戦する動機をはぐらかした。


 リディアは世界の救済で、秀司は世界一のプロテニス選手を目指す為だ。

 そんな2人の目的の前で、小松の動機を話す訳にはいかなかった。絶対に。


 話を重ねていく内に秀司はリディアと打ち解けていき、小松も警戒心を解いていくが、直接会話をするにはまだまだ時間が必要だった。


 そんな3人は新たなチームとして動き始める。

 迷宮のボスにリベンジである。


消えた予定表や資料を再び作り始めていたら、別の話が思い浮かんでしまった。

同時進行は辛いという事を知りました。



何でも無い事を含めて、追記や修正をツイッターでお知らせしております。

https://twitter.com/shum3469


次回もよろしくお願い致します。

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