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前回のお話
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秀司と小松が迷宮の最奥に到達するのは難しくなかった。鉄製の武具を身に着けた骸骨の速さは素手の骸骨と同程度で、攻撃を避けるのは難しくなく、ここまで危険らしい危険は無かった。
迷宮の最奥には全身鎧とまではいかないまでも、鎧を身に着けた骸骨も現れたが、的確に鎧の無い部分を狙い、関節などを破壊して討伐を重ねた。
武具を身に着けた骸骨が素手の骸骨と同程度の速さという事は、武具が無ければ素手の骸骨よりも速いという事だ。
小松はこの事実に気が付いていたが、体のステータスが上がった事で俊敏性は増し、速い骸骨が現れても問題ないと考えていた。
敵と戦う前にある程度の考察をする小松と違って、秀司は何も考えないで敵に挑んで行くが、戦いながら最適な攻略方法を見つけていく。
小松は少し危ういと思っているが、骸骨が弱い為、秀司の行動を咎める事が出来ない。
そして、数多の骸骨を葬ってきた秀司は、ボスが居るだろう豪華な両扉を前にしても、余裕の表情を崩さない。
2人で片方ずつの扉を押し開けて入った部屋は、今まで見た中で最大の広さの部屋で、最奥には2体の全身鎧を身に着けた人型と、豪華な椅子に座っている黒い革製の防具を身に着けた骸骨が居た。
ここまで遭遇した骸骨たちと違って、弱点である関節周りの骨が露出していない為、骨を砕く為には防具の破壊も必要になってくる。
小松は部屋の扉を開けてすぐに脳内で警鐘が鳴り響いたが、秀司は意気揚々と部屋に入り込んでしまった。
中央の骸骨を守護するように立つ2体の全身鎧は腰に剣を帯びており、左手には金属製のカイトシールドまで所持している。そして、片方の全身鎧はその手に自身の背丈よりも僅かに短い槍を所持している。
小松は扉が閉まらないように支えながら口を開く。
「秀司! 駄目だ!」
秀司は腰から剣を抜き放って振り返る。
「問題ねぇ!」
既に戦闘モードに入っているらしく、秀司の笑顔は獰猛な獣のようだ。
「駄目だって! 全身鎧の方はすぐに倒せない!」
「俺が2体引き受けるから小松はゆっくり倒してくれて良いぞ!」
秀司が開けた扉は勝手に閉まっており、再び開けられる保証は無い。
「くそっ!」
既に秀司はゆっくり3体に向かって歩き始めており、小松は部屋に入るしかなかった。このまま秀司を放置すれば、秀司が1人で3体を相手にすることになってしまう。
豪華な椅子に座っていた黒革鎧の骸骨が立ち上がり、隣の全身鎧が跪いて差し出す槍を受け取る。
全身鎧の背丈は秀司よりも少しだけ大きく、黒革鎧を身に着けた骸骨は秀司よりも少しだけ背が低い。
秀司は横に来た小松に獰猛な笑みを浮かべながら告げる。
「1体は任せる」
「僕が倒すまで無理はしないでよ」
「倒しちまっても良いんだろ?」
小松は嫌な予感しかしなかった。
秀司が死亡フラグを乱立させているのだ。ここまで死亡フラグを打ち立てれば、逆に死なないかもしれないが、目の前の3体はこれまでの骸骨とは雰囲気が段違いだ。
小松は気を引き締めて、意識を戦闘モードに切り替える。
全身鎧は盾と剣を構えて、黒革鎧を身に着けた骸骨を守るようにして前に出る。そんな骸骨に向かって秀司が駆け足で突っ込む。
秀司は剣を上段に構えて走りながら雄叫びをあげる。
「ぅ……おぉぉおお!」
2体の全身鎧は盾を前に突き出して防御の構えを取るが、秀司はこの構えのデメリットを知っている。
秀司は突っ込んだ勢いを利用した飛び蹴りを盾にぶち込んだ。
「はっ! でかい盾って視界不良になるよな!」
秀司は剣を上段に構える事で盾を上部に構えるように誘導した。そして、自身は構えた盾の死角になる位置取りで走り込み、上から斬りかかると見せかけて、体当たりのような飛び蹴りを盾にぶち込んだのだ。
盾を蹴られた骸骨は衝撃でたたらを踏んで後方に下がるが、隣の骸骨は横を駆け抜けようとする秀司を許さない。
秀司の行く手を阻むように剣を突き出すが、すぐに引っ込めて盾を掲げる。
僅かに遅れてきた小松が秀司の邪魔をしようとした骸骨に手斧で斬りかかったのだが、小松の手斧は盾に防がれて『ガキィン!』という金属音を響かせる。
小松は盾の損傷具合を確認して呟く。
「うーん。壊すのは無理……」
金属製のカイトシールドには斧で斬りつけた傷が刻まれているが、盾を破壊する事が不可能だと結論付けるには十分な傷しか付いていない。
既に小松の前方では2対1の戦いに入った秀司が僅かに見えるが、小松がよそ見を出来るほど目の前の相手は容易くない。
剣の先端が小松を掠めるように振るわれる。
「速っ!」
全身鎧の速さは迷宮で出会った骸骨よりも速く、小松は跳ねるように後退して距離を取る。
距離を取れば前方の秀司が戦っている骸骨の様子も視界に入り、黒革製の防具を身に着けた骸骨が突き出す槍は恐ろしく速い。
秀司が体捌きとバックラーで致命傷を避けているが、既にウォームアップジャージは血が滲んでいる。
槍での攻撃を避けて秀司の身体が流れた隙を、的確に全身鎧が攻めて秀司の身体を薄く刻んでいる。
小松は時間が無い事を察して目の前の全身鎧に全神経を集中するが、金属製のカイトシールドを巧みに扱う全身鎧は厄介で、僅かな隙を見つけるのも一苦労だ。
小松は突き出された剣をラウンドシールドで叩くようにして軌道を逸らし、全身鎧の懐に入る。直後に全身鎧は殴るようにして盾を突き出してくるが、既に小松は盾に飛び蹴りをぶちかましている。
飛び蹴りで盾を外に開かせたと同時に、小松の手斧が全身鎧の右肘付近に打ち下ろされる。
小松が狙った関節の周囲は金属で覆われていない部分もあるが、全身鎧は器用に腕を動かして金属部分で手斧を受ける。
小松に金属を切った手応えはあるものの、内部の骨を破壊した手応えはない。
人間が相手なら打撲や切り傷で動きが鈍り、靭帯まで深く切ればダメージは重大だが、骸骨が相手では確実に骨を破壊する必要がある。
骨を破壊できなかった結果に小松は顔を顰めて、盾を蹴った反動で全身鎧から離れる。
「やっば……。骨の全身鎧とか反則じゃん?」
しかし、悠長に構えてもいられない。死亡フラグを乱立させた秀司は1人で2体を相手にしているのだ。
小松は守勢に回りながらも全身鎧の攻撃パターンを把握していく。ここまで敵として現れた骸骨は例外なく、攻撃パターンが存在していた。
行動パターンが読めても全身が金属鎧では、一撃で骸骨の関節を破壊する事は難しい。
小松は何度も隙を見つけて全身鎧を切る事に成功したが、骨を破壊するほど深く切る事は出来ず、全身鎧に傷や凹みを付けただけで、全身鎧の動きは戦い始めた当初と何も変わっていない。
小松は全身鎧が剣を突き出す攻撃を盾で打ち払い、飛び蹴りで盾を押し込みながら右肘の周囲を手斧で叩き続けた。
小松が幾度も右肘付近を狙った事で、全身鎧の右肘の可動域を制限する事に成功した。全身鎧の右肘は伸びた状態が維持されて、曲げられたとしても本当に極僅かだ。
右肘が伸びた状態で剣を振っても、剣速は遅く、力も入っていない。
小松は全身鎧の遅くなった袈裟切りを踏み込みながら半身になって避ける。そして、無数に傷や凹みがある全身鎧の右肘に、全力で手斧を打ち付ける。
カウンターのタイミングで打ち込んだ小松の一撃は、防御力も限界が来ていた全身鎧の右肘を半壊にする。
全身鎧の右腕は金属鎧で繋がっているが、剣を落とした全身鎧の中身は無事では済んでいない。
小松は骨を砕いた確かな感触を手斧に感じていた。
「よし、あとは頭をボッコボコにして終わりだ」
秀司と小松は以心伝心でお互いが離れていくように立ち回った。その結果、2人は離れた場所で戦闘する事になり、戦闘中に安否を確認するのは至難だ。
秀司を信じるしかない小松は手早く、全身鎧の頭をボッコボコに凹ませ、何度も傷を付けて兜を半壊させ、ようやく全身鎧の1体を仕留めた。
小松が顔を左右に振って秀司を探し、その姿を見つけた時。
血塗れの秀司が左腕をダラリと下げていた。
文字数が少ないけど、小松の見せ場が書きたかった。
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