幸福と絶望のランチ
れっつピクニック ごぉーとぅー 竜の巣
むかし むかしのお話です
悪魔と天使が世界を回していた時のお話です
地を這う生き物達の中で空に憧れた生き物がおりました
その生き物は前足を天に向け 毎日祈っておりました
あぁ神様 どうか私に翼を下さい
風を捉え 天の星々の間を踊る
天使のような翼が欲しいのです
その生き物はいつしか後ろ脚で立ち上がり
自由になった手で木に登り
もう一度天に
少し近づいた天に祈りました
「それが牙ゴリラ族の始まりです」
「人間じゃないのかよ!?」
暗闇を抜けるカボチャの馬車で魔女は様々な昔話を二人に聞かせた。
人間に恋した猫魔族のお話
吸血鬼に恋したゾンビの話
河童と天使の恋話
魔女の好みなのだろうが、マニアックな恋話が多めである。しかし時々変な物語も混ざってくる…まぁ、変じゃないお話なんか無いのだが。
「後ろ脚で立った所で、完全に人間の誕生話だとおもったぞ…」
「え?ソードって進化論信じてるの?ふっる!」
「いや…学が無いからしんか論だかってのも解らんが…話の流れ的にさ」
隙あらばマウントを取ろうとしてくる、なんだこの王女。田舎出身底辺の自分よりは学は確かにあるのだろうが…どうにも素直に尊敬出来ない。こんな奴の為に王国から野を越え山を越え…案山子ゴーレムの火の弾を避け続けて助けに来たのかと思うと忠誠心に疑問が出る。
いや…忠誠も何も、王女だから従うとかじゃなくて木陰の町で知り合った友人リトリアへの友情というべき感情なのだが…うーん。友達辞めるか…うぜぇし。
「さーてと、この先広場に出たらお昼にしましょうか。リトリア、広くなったらカボちゃん止めて…小休止しましょう。ソード君シャベルと明かり出しといて。」
竜の巣穴…鯨が通れる程度の道を進んだ先に明かりが見えた、光に交じって甘い香りが立ち込めて…ホールのように広くなった所に一行は出た。カボチャを止めて周りを見渡すと、土や岩の壁ではなく…淡く光るコケで覆われた空間だ。天井から垂れ下がるつららのような尖った岩から水がちょろちょろ滴って…ホールの真ん中、水たまりのような池に向かう流れを作っている。
「わー!なにここ!?先生なにここ!?絵本の中みたい!」
「すごいな…故郷の大広間に似てる。けど…空気が全然違う…呼吸が楽だ。」
同じ景色を見て居ながら、二人の頭に過るのは別々の風景と感動だ。リトリアはお城で見た絵本の世界を思い出し感動に飛び跳ね、ソードは故郷…土小人の地下の集落を思い出して切ない気持ちにため息をつく。
「ここは竜の休憩所よ、リトリアは荷台から種と肥料のツボを獲って来て、ソード君はそこの土シャベルでカボちゃん座れるぐらいに掘り返しておいてね」
二人に指示を出してから、魔女もゴソゴソとお昼の準備をし始める。レンガのような石を二つ置いて、間に炭と藁を引いて火を付けた。
「二人とも、土掘り返したら肥料と種を蒔いて…池の水たっぷりかけてあげて。そこがかぼちゃんの休憩場所になるわ」
二人が作業を終えて、カボチャをそこに案内する頃には…お茶とサンドイッチのランチが出来ていた。サンドイッチは持ち込みで…出先で食べるとは思えないほど旨い。ソードのイメージする郊外での食事は日持ちする固い黒パンやカチカチの燻製肉なのだが…これは違う。白く柔らかいパンに贅沢にもバターが塗られ、そこに葉物と塩を振っりあぶった燻製肉が挟まれているのだ。肉の熱さでバターが溶ける…一滴もご馳走を地面に落とさないように…二人は(リトリアも同じように苦戦していた)慎重に食べ勧める。
齧ったら回して反対を齧り、反対から溶け落ちる前にまた回す…ある程度小さくなったら上に掲げ下からカぶりカぶりでモグモグごっくん。指先についたバターと肉汁をペロリと舐めて…上品とは言えない食事が終わる。
「ふぁ~おいしかった!先生って魔力より女子力高いんじゃないかしら?尊敬するわ」
「フフフ…はい、リトリアは紅茶、ソード君は珈琲ね。」
「本当に美味しかったです…苦!毒!これ毒だ!なにこれ!?」
料理で感動した舌先から、幸福が苦みに書き換えられる…珈琲と呼ばれる黒い飲み物は、ソードにとっては未知のお茶だ。お茶と呼ばれる物は大概渋いし苦いのだが…なにこれ、普通のお茶の数倍苦い…正に毒だ。一口しか飲んで無いがギブアップだ。無理
「ハァ…ハァ…嬢ちゃん…はやく…はやく飲んでよ…はぁ…ハァ」
悶絶し、諦めた顔のソードの横で、リトリアが優しい瞳でソードを見ていた。手に握れたティーカップから…怪しげな湯気が立ち上り、顔の形となってハァハァしてる。ナニコレ…キモイ。
「フフフ…ソード、魔女の食事は幸福に始まり絶望に終わるのよ…フフフ、ようこそ…魔女の世界へ」
「ハァハァ…嬢ちゃん…早く!一思いに…いや…まずは舌先でチロチロと…ハァ…ハァ」
「これも修業よ!」
言うが早いか、リトリアは一気に飲み干した。
「苦い!甘い!酸っぱい!渋い…うげぇ甘い…アレ?甘酸っぱい?美味しい?」
「フフフ…リトリアも慣れて来たようね。さぁソード君も飲んじゃいなさい?お薬みたいな物だと思って」
「うげぇ…マジか…ぐぅ」
リトリアもゲテモノお茶を飲み切ったので、ソードも覚悟を決めて残りを飲んだ。ぐぅぅ苦い…リトリアは何度か飲んで慣れた様だが、自分はこの味に慣れる気がしない。
「さてと、トイレすませたら出発しますか。あ…トイレはその先の小穴の奥にあるから、蜘蛛の巣張ってるかもだから箒もってってね、あと葉っぱも」
「はーい!」
「竜の巣穴って緊張感ないなぁ…」
「まぁ、何度も通ってる道だからねぇ…もう少し行くと竜の寝室があるから、そこは本当にそっと通りましょう。あ…お土産のキノコ、カボちゃんの休憩場所に置いといて。数日すると勝手に増えるのよ」
そんなこんなで、世界の壁…大山脈を貫通するという竜の巣穴の旅は続く。
まったりのんびり