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小さな鍵の物語~リトリア王女の魔女修行~  作者: 前歯隼三
魔法って大変編
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魔法陣と野菜不足

ようやく魔法授業が再開しました

 「じゃぁソード君も授業に参加しましょうか」

 「フフフ、私の事は先輩と呼びなさいよ1年!」


 おかしな事になった、攫われた王女を追っかけて追っかけて…命からがら魔女の庭に入り込んだのに、肝心の王女が犯人(魔女)と仲良くお茶を飲んでいる。

 ここは禁忌の土地、動き回る化け物植物達の楽園、魔女の森の奥地も奥地…そこにポツリと造られたカビとキノコだらけの丸太小屋だ。

 くだんの王女と犯人である魔女、そして王女を助けに来た少年ソードは木製のテーブルでランチを平らげた所だった。最初は色々躊躇ったが…王女が攫われて一週間、食事もそぞろに単身で彼女を追い続けたソードは限界だった。焼きたてのパンと謎肉のスープは旨かった。旨かったがここは犯人の家、気を許す事は無い…それにしても授業とは何のか、先輩とは…1年とはなんなのか…このアホ王女は何を言ってるんだ?


 「…いや、いつもの事か…なんなんだお前は…」


 ソードがリトリアと出会ったのは城下町の、それも治安最悪の木陰の町でだ。王女と知らずに少し連れ合い、彼女を探しに来た兵隊が呆れていた。あの時も王女誘拐騒ぎで、実際はアホ王女の家出だったとか…うーん。あの時の兵隊の気持ちが解る…駄目だこの王女、なんとかしないと。


 「せ・ん・ぱ・い よ!?まったく…これだから1年は駄目ね」

 「うーん、年くくりだとリトリアも同じ1年でしょ?ウフフ…仲良さそうね、王女と騎士?フフフフ?何…この設定…身分違いの恋とかしてる?」


 「「それは無い」」


 悲しく寂しい独り身の魔女は、この手の妄想が好きなようだ。攫われた王女と助けに来た少年剣士、まぁ…勘違いするのは仕方が無いが。二人はタイミングぴったりで否定をした。


 「先生…こいつ駄目なんですよ、騎士どころか下っ端雑用兵で…しかも剣の才能が0なんです。ザコなんです…」

 「ぐぬぬ…」


 ソードは縁あって城務めの騎士団には入ったが、剣の才能が無さすぎて見張りと雑用しかしていない。13歳という若さで入団した彼に、誰もが最初は励ましの声を掛けたのだが…うん、慣れの問題だとか…しかしなんとも、1年たっても成長が見慣れない。腰の短剣は便利なナイフ程度の扱いで、武器は煙玉と危険を知らせる狼煙玉だ。

 正直このまま居ても将来が暗いので、経験と経歴だけ頂いて城に出入りする商人とか、城下町の職人の下働きにでも落ち着こうと考えて居る。…そんな程度の正にザコ、それがソードという少年だ、名前負けにも程があるが…木こりの一族である彼の家、ウッドカット家は代々アックスとかエッジとか刃物っぽい名前を付ける伝統があった…うん、ただそれだけの存在だ。


 「うーん、でもソード君うちの案山子倒したのよねぇ…人食いカボチャの蔓も切ってるし、案外見どころあると思うんだけど」


 微妙な顔をするソードと、やれやれと呆れるリトリアを紅茶の湯気越しに眺め魔女が言った。


 「あぁ、あの火の玉撃ってくるやつか。」

 「そうそう、ファイアーボールって言うのよアレ。良く勝てたわねぇ」

 「ちょっとまったぁあああああ!ファイアーボールゥウ!?」


 ゆるゆると続いていた会話を、リトリアの叫びが遮った。きょとんとする二人を前に当のリトリアは二人以上の驚愕を顔に浮かべて二人を…いや、魔女の顔を凝視する。


 「ファイアーボールは無いって言ってなかった!?」

 「あぁ、人間がそんな物は出せないと言ったかなぁ…陣を使えば出せるわよ?」

 「出せるの?陣!? 先生それ!今日の授業それにしましょう!イッツドリームレッツゴー!」


 こうしてようやく、本日の授業が始まったのだ。



   ◆    ◇    ◆    ◇



 「まず、魔法陣とは何か?」

 「コレだろ?」


 空の皿を執事が下げると、ホワイトボードの前で授業が始まった。魔女先生がホワイトボードに本日のテーマを書き込むと、ソードは懐から木札を出した。


 「案山子から奪った奴だ、ふぁいあーぼうる出す時光ってたからこれだと思って獲った。」

 「あぁ…剣を振れないあんたが真っ向勝負で勝てるわけないと思ったら…泥棒技で勝ったのね。うん、納得した」

 「やめろ!もう足は洗ったし…これも結構ギリギリだったんだぞ?」


 しかもお前の為に頑張ったのに!…とは言えずに口を止めたが、うんうんと頷くリトリアを見てると力が抜ける。うん、もういいや。

 そんな二人をしり目に魔女は木札を手に取り、掘られた溝に指を這わす。


 「傷も無いみたいね…良かったわ。そうそう…この札に掘られてるのが陣よ。魔法陣という奴ね…はい返すわ」

 「え?くれるの?」

 「何それ!先生!ズルいです私も欲しい!」

 「フフフ…云わばソード君の手に入れたドロップアイテムだからね、それは彼の物よ。リトリアは勉強して自分で作りなさい」

 「ぐぬぬ、勉強は嫌い…ぐぬぬでもロマンが…」


 思わぬ魔法品の入手に驚いたのはソード自信だ、これはそもそも魔女の物だし。木陰の町で盗みで食いつないだ時期もあったが…盗品をくれる相手なんて見た事も聞いた事もありわしない。もっとも…貰ったとしても目の前のそれは、謎の模様が掘られた古い木の札で使い方のひとつも解らない。

 どういう流れか一緒に授業を受けるわけだから、勉強すれば使えるようになるのかもしれないが…


 「まぁ、売れば金になるか…」

 「「ロマンが無さすぎる!」」


師弟の美しいハモリが響いた。


 「まぁ…まぁいいわ、えーっと。現物見てもらえたから解る通り、陣っていうのは<意味ある形>の寄せ集めなのよ」


 魔女先生がホワイトボードに色々な図形を描いてゆく。どうやらファイアーボールの陣に使われた様々な形を取り出してバラバラに書いてくれているようだ。


 「まずこのひし形とハニワはゴーレムの図形ね、そして中央の猫耳おにぎりは焔の悪魔<マルティム>のシンボル、上の島っぽい図がマルティムの住む悪魔の国トマトウね」


 丸とか三角とか、簡単な図形はすっとばして…一番触れたくない複雑な模様から解説が始まった。それはシンプルと言えばシンプルだが、魔法陣に描かれた魔法陣…っと言える程度には複雑な3つだ。


 「先生!もう駄目です!ノートが取れません!」

 必死に図を模写しようとしていたリトリアは断念した、彼女に美術の才は無く…となりに座るソードに至ってはノートを取る事もせずすでに諦めてボケーっとしている。


 「あぁ大丈夫よ?今日はざっくり原理を説明するだけだから、それにこの3つの図は特殊なのよ。陣の中に書く<魂の形>だから」

 「魂の形?」

 「そうよ、ゴーレムは使用者ね。うちの案山子ってゴーレムだから…そして協力者の魂と在りか。そういう役割の図形って事よ」


 魔女はホワイトボードの右側に<使用者>→<協力者>+<所在>と書いた。


 「そして…こっちの鍵マークはスイッチで、隣の楕円が対価ね。YA・SA・Iって書いてあるでしょ?うちの作物をあげるから協力してねって意味のよ」

 「……」

 「なるほど…判りました先生!ククク…ソード君や、お主のそれはただのゴミだぞえ?」

 「ふぇ!?」


 よく解らないから帰ってからの報告と、魔女の木札の売値を考えていたソードはリトリアの言葉に虚を突かれた。


 「何を言ってるんだ?この札は確かに火を出してたし…傷も無いって魔女本人が言ってたぞ?」

 「あーソード君、ちみは剣の腕だけじゃなく頭もまったく残念だわねぇ…そして礼儀も…先生と呼びなさい!そして先輩は敬いなさい!」

 「ぐぬぅう…解らんが言い返せない!解らんから言い返せない!」

 「フフフ」


 ソードと違い、授業から何かを得たリトリアはドヤ顔だ。行動が残念すぎてアホ王女だ馬鹿王女と言われるが…そこそこ地頭は悪く無いし、ソードと違ってちゃんと教育を受けている。字も読めるし…書けるし…、一番弟子が授業を理解したと見て、魔女…先生は思わず笑顔だ。


 「流石リトリアね、もう解ったの?」

 「フフフ当然よ、図形とかまだ解らないけれど…原理が解ればこのぐらいは解るわ、ソードのそれが使えないって事ぐらい」

 「??」


 眉を寄せ、説明を待つソードの手から木札をとって…リトリア先生の授業が始まる。


 「この木札、陣は商人の契約書みたいなものなのよ…誰々が誰々に何を渡し、その代わり何で払うか。と細かい取り決め、多分回数とか時間とか追加料金とか…」

 なるほど、リトリアの説明は…悔しいが解り易かった。ソードも門番をする時には色々な書類を見る事がある。文字を読めない彼は相方に手伝ってもらうわけだが…とすると。


 「他人名義の契約書か…確かに持っててもしょうがないか…むむ」

 「フフフ正解正解…優秀な生徒達で先生は嬉しいわ。それはあくまで私の案山子が悪魔に助けてもらう代わりに、私の畑からお支払いするって契約書…魔法陣なのよ」


 ソードは昨夜の戦いを思い出す。最初は魔法で攻撃してきていた案山子だが…ツタの援軍が来てから魔法を辞めた。魔法の明かりがツタを避ける助けにならないようにと、案山子の考えでの行動だと思って居たが…

 「昨日の戦いで、案山子が魔法を辞めたんだ…あれって…野菜をケチってたって事か?」

 「さーて、今日の授業はおしまい!夕ご飯の準備を始めましょうか!」


 魔女がパチンと指を鳴らすと、執事がお茶を持って現れ、帰りにホワイトボードを片付けて行く…その日の夕食は、炊き立てごはんと謎肉ハンバーグだ。


「そういえば、主食と肉しかないな…畑結構広いのに」

「ぐぬぬ…折角食べごろだったのに…」

「多分あんたがちょこまかと逃げ続けたせいよ!まったく!…昨日まではサラダが付いてたのに…肉旨!」


こうして、いささかの食糧難を迎えながら…魔女の生徒が一人増えたのだ。

ソード君は殺傷力、突破力は糞ザコナメクジですが…察知と回避には全振りキャラです。普通の獣なら2~3発も撃てば倒せる火球を、数十発以上避け続けていたようですな。


この戦いで一体どれほどの大根とジャガイモとトマトとナス、キュウリが失われたか…、まぁ魔女が弟子に考える程度には何かがある子ではあるのです。アスモデウス

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