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小さな鍵の物語~リトリア王女の魔女修行~  作者: 前歯隼三
魔女の庭の冒険編
24/32

命の食べ方

「はぁ…そんな…焦らすような飲み方…アッアッツアアアア!!」


 ゴクリ…相変わらず飲みにくい紅茶だった、味は流石に慣れて来たけど…うーん。


「さて、食べた直後で働くのもなんだから…今日の授業をささっとしますか、テーマは命の食べ方です、今飲んだ紅茶の歴史的なお話よ?」


「喋る紅茶の…歴史?」


 勉強は嫌いだが…確かに気になる、魔女のお茶はアツアツの間立ち上る湯気が喋るのだ。湯気の精と呼ぶらしいが…お茶が冷めると生涯を終える、なんとも悲しい存在湯気の精、彼らを飲むのがこのお茶で…効果は若さの維持であり、ピチピチお肌の元らしい。あと魔女としての力の源だとか話は聞いた。…が、歴史…どこのアホがこんな物を生み出し、よくぞ飲もうと思ったものだ。


「しゃべる紅茶の歴史を紐解くと…最初にあったのは“命の食べ方”の問題です。」


「命の食べ方?そりゃぁご飯は全部命じゃないの?」


「フフフ…違うは、お肉とかの話じゃないの“命”その物を食べる方法ね」


 なんとも…イメージが付くようで付かない話だ、生き物を殺して食べる…肉も野菜も生きてたのだから、命食べるのは当たり前だ。…が、肉ではない…命その物と言われると解らない…命ってなんだという問題だ。


「命はどこに宿るのか?心臓か頭か…肉体とはなにか?魂の存在の発見…色々難しい話はあるけれど…とにかく、多くの人は「命」その物を食べる事に価値を見出していたの…それは不老不死の為だったりね、美しいお肌の為だとか…万病に効く薬だとか、もしくは命を食べればもっと上位の存在…神様に成れると考える人たちもいたわけよ」


「………。」

 リトリアが毎日お茶を飲むのは正にこれだ、死ぬはずだったところをこのお茶の力で生き延びていると…等の本人には知らされていない事実なわけだが、まさかこんなストレートな話をするとは思わなかった、ソードはドキドキしながら…ちらっと横目でリトリアを見る。


「あっ先生待ってて、ノート出すから。」

「真面目!!」


 …コホン


 ここからは授業内容のまとめである。

 「命を食べる歴史」その時代時代の考えにより、4つの答えを導きだした。


 1段階目…原初では、例えば戦い殺した敵を食べる事により、力を奪おうという考えだ。もしくは葬儀で死者を食べ、彼らの魂と同化しようと試みた。


 “死体を喰らう者”デッドマンイーター

 これが原初である、そしてこれは余り効果が無かった…むしろ疫病の感染や、共食いによるDNAの異常による悲劇の数々…デッドマンイーターは世界で迫害され消された文化だ。



 2段回目…“血を飲む者”ブラッドドリンカー

 命は血に宿ると考えられた、故に生き血を薬として接種するのがナウい時代があったのだ。

 これはそのままやった者達はデッドマンイーターと同じく効果もなく死んでいったが…一部、効果がある者達がいた。血その物ではなく、儀式に用意る薬諸々の結果なのか…確かに長寿を得る者が現れ…しかし、彼らは「吸血鬼」として恐れられた。

 故に彼らの技術も歴史の闇に消えていった、一部のカルト教団が形だけをまねるのみだ。


 3段階目…“月を喰らう者”ムーンイーター

 夜の空を照らす月は、生の象徴の太陽と逆に…死の象徴、魂の管理者として魔術師の間で認識されていた、そして月は「魂を引き寄せる」性質があり、死者の国とは月にあると考えられた。

 さて…魂こそが命の材料だとするならば、この月の存在は…命を食べるという方法に画期的な革命をもたらした。

 即ち…月を手元に作り出せれば…空気中を漂う魂を集める事が出来る。

 魂を吸着した月を食べればそれ即ち「命を食べる」事に他ならないのだ。


 月の石…と称される物を砕き、葉に巻いて吸う…

 これが魔術師達の吸う特別なタバコ“青いタバコ”の正体である。

 ムーンイーターは“魂を喰らう者”ソウルイーターとも呼ばれ…実際に魔術師達は結果を残した。

 元々才覚ある者が月の石を生み出せたので、石に効果があるのか…それともそれを生み出せるほどの知識と技術に何かがあるのか…因果関係は不明なのだが、歴史に名を遺す魔術師のほとんどは、青いタバコの愛煙家だ。



「そして4つ目が私の開発した、このお茶よ!」


 結構込み入った話をサラッと流し…そして魔女は生徒三人にどや顔を決めた。

 もっとも…ノートを取ってるのは一人で、一番上のアカネはいびきをかいてシエスタ(昼寝)していた。 


「えっ先生が第一人者!?スゴイ!」

「素直だな…でも、それってなんか逆に不安なんだが…思い付きでぽっとできたばっかの代物に効果があるのか?って気もするし…」

 …ソードはいささか眉をひそめた、1000年の歴史がある薬とかなら信用できるが…うーん、じゃぁお茶の効果や、三日月病の話も…この魔女の思い込みだったら信用度が下がる。


「やれやれ…スケベな坊やね…ほーらすべすべお肌よ。」

「わっぷ!うほぅわわ!!」

「いやらしいわソード!最低!…人でなし!ろくでなし!甲斐性なし!…どうだった?」

「もちもちしてた。」

「死ね!」


 魔女にほっぺすりすりされて、変な声を上げるソードを…リトリアが冷たく罵倒した。

 解せぬ…えっ?今ので信じろというのか?


「私は考えたわ…死体も血も食べたくない飲みたくない…喫煙もヤダ!綺麗になりたいのに歯が黄色くなるなんて耐えられない!」

「なるほど!私も嫌です先生!」


 トクトクトク…魔女は自身のティーカップにおかわりの紅茶を注いで飲んだ。

 …ホゥ


「そしてこのお茶、名づけるならそうね…“終わらない茶会の主”よ…フフフ」



 4段階目…は、実はムーンイーターに近い発想だった。死者の魂が月に引き寄せられるように…産まれる命は地中から種に集まって芽を出すのだ。

 命は土に還り、そしてまた命を成す…つまり…命を物凄く吸収するパワフルな野菜…動き回る野菜を作り、彼らを食する事で「命を食べる」を実現したのがこの魔女らしい。

 一周回って普通の食事に辿り着いたと言えなくも無いが…その効果は…今までの3つと比べようもないほど確かである。

 …少なくとも、魔獣狩りでのケガはお茶を飲んだらたちどころに治ってしまった。


「動き回る野菜を、命を閉じ込めたまま調理…乾燥させるのよ、そうしてほら…お湯を注ぐと眠ってた命が靄になって…これが私のお茶の正体よ!リトリア…貴方もこのお茶作りを覚えて…いつまでもピチピチの美少女で居なさい!」

「それが…世界に課せられた私の責務…解りました先生!」


 うーん

「あっソード君アカネそろそろ起こしてちょうだい?食器片づけたら畑仕事よ。」


 名づけるなら“野菜を喰らう者”ベジブルイーターとかで良いんじゃないか?って少し思ったソード君だった。あぁ…それならそうだ。


「“野菜を食べる者”ベジタリアンでいいか。」


 つまり魔女の美肌の秘訣は野菜であった。

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