命の食べ方
「はぁ…そんな…焦らすような飲み方…アッアッツアアアア!!」
ゴクリ…相変わらず飲みにくい紅茶だった、味は流石に慣れて来たけど…うーん。
「さて、食べた直後で働くのもなんだから…今日の授業をささっとしますか、テーマは命の食べ方です、今飲んだ紅茶の歴史的なお話よ?」
「喋る紅茶の…歴史?」
勉強は嫌いだが…確かに気になる、魔女のお茶はアツアツの間立ち上る湯気が喋るのだ。湯気の精と呼ぶらしいが…お茶が冷めると生涯を終える、なんとも悲しい存在湯気の精、彼らを飲むのがこのお茶で…効果は若さの維持であり、ピチピチお肌の元らしい。あと魔女としての力の源だとか話は聞いた。…が、歴史…どこのアホがこんな物を生み出し、よくぞ飲もうと思ったものだ。
「しゃべる紅茶の歴史を紐解くと…最初にあったのは“命の食べ方”の問題です。」
「命の食べ方?そりゃぁご飯は全部命じゃないの?」
「フフフ…違うは、お肉とかの話じゃないの“命”その物を食べる方法ね」
なんとも…イメージが付くようで付かない話だ、生き物を殺して食べる…肉も野菜も生きてたのだから、命食べるのは当たり前だ。…が、肉ではない…命その物と言われると解らない…命ってなんだという問題だ。
「命はどこに宿るのか?心臓か頭か…肉体とはなにか?魂の存在の発見…色々難しい話はあるけれど…とにかく、多くの人は「命」その物を食べる事に価値を見出していたの…それは不老不死の為だったりね、美しいお肌の為だとか…万病に効く薬だとか、もしくは命を食べればもっと上位の存在…神様に成れると考える人たちもいたわけよ」
「………。」
リトリアが毎日お茶を飲むのは正にこれだ、死ぬはずだったところをこのお茶の力で生き延びていると…等の本人には知らされていない事実なわけだが、まさかこんなストレートな話をするとは思わなかった、ソードはドキドキしながら…ちらっと横目でリトリアを見る。
「あっ先生待ってて、ノート出すから。」
「真面目!!」
…コホン
ここからは授業内容のまとめである。
「命を食べる歴史」その時代時代の考えにより、4つの答えを導きだした。
1段階目…原初では、例えば戦い殺した敵を食べる事により、力を奪おうという考えだ。もしくは葬儀で死者を食べ、彼らの魂と同化しようと試みた。
“死体を喰らう者”デッドマンイーター
これが原初である、そしてこれは余り効果が無かった…むしろ疫病の感染や、共食いによるDNAの異常による悲劇の数々…デッドマンイーターは世界で迫害され消された文化だ。
2段回目…“血を飲む者”ブラッドドリンカー
命は血に宿ると考えられた、故に生き血を薬として接種するのがナウい時代があったのだ。
これはそのままやった者達はデッドマンイーターと同じく効果もなく死んでいったが…一部、効果がある者達がいた。血その物ではなく、儀式に用意る薬諸々の結果なのか…確かに長寿を得る者が現れ…しかし、彼らは「吸血鬼」として恐れられた。
故に彼らの技術も歴史の闇に消えていった、一部のカルト教団が形だけをまねるのみだ。
3段階目…“月を喰らう者”ムーンイーター
夜の空を照らす月は、生の象徴の太陽と逆に…死の象徴、魂の管理者として魔術師の間で認識されていた、そして月は「魂を引き寄せる」性質があり、死者の国とは月にあると考えられた。
さて…魂こそが命の材料だとするならば、この月の存在は…命を食べるという方法に画期的な革命をもたらした。
即ち…月を手元に作り出せれば…空気中を漂う魂を集める事が出来る。
魂を吸着した月を食べればそれ即ち「命を食べる」事に他ならないのだ。
月の石…と称される物を砕き、葉に巻いて吸う…
これが魔術師達の吸う特別なタバコ“青いタバコ”の正体である。
ムーンイーターは“魂を喰らう者”ソウルイーターとも呼ばれ…実際に魔術師達は結果を残した。
元々才覚ある者が月の石を生み出せたので、石に効果があるのか…それともそれを生み出せるほどの知識と技術に何かがあるのか…因果関係は不明なのだが、歴史に名を遺す魔術師のほとんどは、青いタバコの愛煙家だ。
「そして4つ目が私の開発した、このお茶よ!」
結構込み入った話をサラッと流し…そして魔女は生徒三人にどや顔を決めた。
もっとも…ノートを取ってるのは一人で、一番上のアカネはいびきをかいてシエスタ(昼寝)していた。
「えっ先生が第一人者!?スゴイ!」
「素直だな…でも、それってなんか逆に不安なんだが…思い付きでぽっとできたばっかの代物に効果があるのか?って気もするし…」
…ソードはいささか眉をひそめた、1000年の歴史がある薬とかなら信用できるが…うーん、じゃぁお茶の効果や、三日月病の話も…この魔女の思い込みだったら信用度が下がる。
「やれやれ…スケベな坊やね…ほーらすべすべお肌よ。」
「わっぷ!うほぅわわ!!」
「いやらしいわソード!最低!…人でなし!ろくでなし!甲斐性なし!…どうだった?」
「もちもちしてた。」
「死ね!」
魔女にほっぺすりすりされて、変な声を上げるソードを…リトリアが冷たく罵倒した。
解せぬ…えっ?今ので信じろというのか?
「私は考えたわ…死体も血も食べたくない飲みたくない…喫煙もヤダ!綺麗になりたいのに歯が黄色くなるなんて耐えられない!」
「なるほど!私も嫌です先生!」
トクトクトク…魔女は自身のティーカップにおかわりの紅茶を注いで飲んだ。
…ホゥ
「そしてこのお茶、名づけるならそうね…“終わらない茶会の主”よ…フフフ」
4段階目…は、実はムーンイーターに近い発想だった。死者の魂が月に引き寄せられるように…産まれる命は地中から種に集まって芽を出すのだ。
命は土に還り、そしてまた命を成す…つまり…命を物凄く吸収するパワフルな野菜…動き回る野菜を作り、彼らを食する事で「命を食べる」を実現したのがこの魔女らしい。
一周回って普通の食事に辿り着いたと言えなくも無いが…その効果は…今までの3つと比べようもないほど確かである。
…少なくとも、魔獣狩りでのケガはお茶を飲んだらたちどころに治ってしまった。
「動き回る野菜を、命を閉じ込めたまま調理…乾燥させるのよ、そうしてほら…お湯を注ぐと眠ってた命が靄になって…これが私のお茶の正体よ!リトリア…貴方もこのお茶作りを覚えて…いつまでもピチピチの美少女で居なさい!」
「それが…世界に課せられた私の責務…解りました先生!」
うーん
「あっソード君アカネそろそろ起こしてちょうだい?食器片づけたら畑仕事よ。」
名づけるなら“野菜を喰らう者”ベジブルイーターとかで良いんじゃないか?って少し思ったソード君だった。あぁ…それならそうだ。
「“野菜を食べる者”ベジタリアンでいいか。」
つまり魔女の美肌の秘訣は野菜であった。




