魔獣キャベタス終…魔女の戦い
魔法の本質は他者への依存である。
悪魔しかり、執事しかり、ゴーレムしかり…二人の新しい弟子達も魔女へと力を貸してくれた。
<火と実り契約=請求発生…7…追加料3…合計10>
「あらら…結構魔法使ってるわね、それだけピンチと言う事かしら?」
ソードの額に記した印により、彼と魔女は魔術的繋がりを持っている…解りやすく言えば、ソード君が現場で魔法を使えば、使用料請求は社長の魔女の所に来るのである。
無能な社長はその額面だけを見て、得だ損だと一喜一憂した上で、経費削減人や件費削減あほうの様に繰り返すわけであるが。
魔女はしっかりと…その請求の意味と、現場の苦労を考える。
「じゃぁ…行きましょうか!」
魔獣キャベタスの上を飛び回り、ツタの攻撃をひらりと躱して…魔女は自身の内に意識を向けた。
ボゴォオン!
「………!!?」
魔獣キャベタスは気が付くと中空に浮いていた。獲物に伸ばした触手が獲物“に”捕まれ…何故だか空に引き上げられてる。
「そーれ!ゆくわよ~グルグルグルグル…そーい!」
ヒュォオオオオン!
二人の弟子たち、リトリアとソードが待ってる川辺へと、一投で魔獣をぶん投げた。
ドゴォオオオオオオオオオン!
「はぁああああ!?」
「わー!空飛ぶ魔獣!カッコいい!!」
「…っとお持たせ!あらあらよく画けてるじゃないリトリア!合格よ!ウフフ」
「やったー!じゃぁ先生、魔法でドカンともう決まるの?」
「いや…少しはビビれよリトリア。」
なんでも無いように空から舞い降りた魔女に、目をキラキラさせて王女が駆け寄る。
その頭を撫でながら…魔女は静かに首をふる。
「リトリアの魔法陣はもう少しあとに使わせてもらうわ、こっちの準備がもう少しなのよ…二人はお茶でも飲んで見学しててね、…はい、紅茶!ソード君も今日はこれ飲んでいいわよ?」
懐から予備水筒を取り出してリトリアに渡す、なるほど…二人で飲むって事は関節キスになるが仕方が無いな…っと、ソード君はクールなのでそんな事は思っても顔に出さない。
「ま…まぁ、不味い不味いと聞いてるからな…どれだけ不味いか気にはなっていたんだ。」
良し自然だ。
「そーなの?じゃぁ先にソードにあげるわ、ほい…さーどうぞ!」
「………!!」
「フフフ…アハハハ!」
ソードとの繋がりから、魔女は彼の落胆を感じて笑ってしまう。
さて…可愛い弟子たちに…魔法の授業をはじめましょうか。
ギュどん ギュどん
首をふりふり…起き上がったキャベタスは、川に触手を伸ばして水を吸い上げる。
「まずは魔獣キャベタスについての授業を行うわ、っと邪魔ね蝙蝠とトカゲさん」
バギィイン!
トカゲのしっぽをむんずと掴んで、魔女は振り回して全てのモンスターを薙ぎ払った。
「…これが魔法よ!」
「肉弾戦じゃねーか!!」
思わず突っ込んだ、うん…リトリアじゃないが…これはイメージと違いすぎる。
「まぁ…うーん、脱線になるから話はあとね。良い質問だからおやつを後であげましょう!」
「わーズルい!私も同じ事思ったのに!」
「では…コホン」
魔獣キャベタスとは、動き回る野菜の一種、キャベツとレタスの間に生まれた突然変異の怪物だ。全長階建てのビルぐらいあり…体がタダの葉と言っても、その質量と体重で森の木々を押しつぶす害獣で、自在に操る触手…ツタや根が一度川に伸びれば…川が枯れるほど水の飲みまくり、ますますもって巨大になる。
この魔獣…厄介なのは攻撃性能ではなく防御性能…まずもって、普通の剣士では勝てないのだ。
外皮…キャベツやレタスの葉を幾ら切っても話にならず、倒すには中心部の芯にダメージを与えるしかない…
そして炎によるダメージは、幾重にも重なった葉と、その間に蓄えられた水分によって防がれて…
「え?先生…でもこの魔法陣、火の魔法陣でしょう?契約内容は違うけど…火の悪魔マルティムの名前入れたし…」
「素晴らしいはリトリア!ちゃーんと意味を理解して陣を書いてる!これは夕食にデザートを付けないといけないわね!」
「やったー!ソードにはあげないからね?」
「いや…さっきオヤツ半分分ける約束破棄していいのか?」
「チィ…男が二言とか情けないわ…やれやれ…」
「フフフフ…では、おっと…魔獣が回復を終えたようだし…あとは実演で倒しちゃうわ」
魔獣は傷ついた葉を再生し終えた、川の水を補給したからだが…何より、開戦時に与えられた「魔女の紅茶」が、魔獣の中の生命力に力を与えた。
“一つ、魔女から物を受け取るなかれ”
「では、キャベタス君も授業です…さぁ、触手攻撃は駄目だった…直接攻撃が駄目ならどうすれば良いかしら?」
ヒントとばかりに、魔女は手近な岩を持ち上げ…魔獣に投げた。
ボガン…パラパラ
魔獣はそれを腹に受け、少し不快そうに身をよじる…そして
「そうそう!よくできました!覚えがいいわね!」
魔獣は周囲の岩に触手を伸ばし、お返しとばかりに魔女に投げる。
“二つ、魔女から知識を受け取るなかれ”
「本当にいい子ね、賢い子ね…あっちで、幸せになってくれると良いけど…バイバイ、緑ちゃん」
魔女は降り注ぐ岩の雨を掻い潜り…魔獣の額にキスをした。
同時に小さく魔女の印を描き加えて…
“一つ、魔女から愛情を受け取るなかれ”
“一つ、魔女から名前を受け取るなかれ”
一つ、魔女から物を受け取るなかれ
一つ、魔女から知識を受け取るなかれ
一つ、魔女から愛情を受け取るなかれ
一つ、魔女から名前を受け取るなかれ
血の繋がりが無かろうと、受け取ったならば魔女の子供だ
魔女は子供に慈しみ…そうして子供を捧げてしまう。
あぁ…恐ろしいのは魔女の性、己は力を振るわずに他者の力を振るい歩む
あぁ…恐ろしきは魔女の性、己の痛みは他人に渡す
己の命を差し出さず、捧げる贄は魔女の子供
あぁあぁ
魔女の子供に生まれるなど、これほど不幸な事があろうか
「リトリア、ソード君…魔法陣から離れててね…」
魔女は緑ちゃんをひとなでして空へ離れる、魔女を見失った魔獣に…憂いを込めた瞳を向けて、その両手を空へと向けて呟く。
<収穫の火<ハーベストファイア>=三転火柱>
リトリアの描いた陣が光を放ち、魔女の両手から…空に向かって火柱が上がる!
鯨の胴回りはあろうかという太さの火柱が…星に届かんばかりに撃ち上がり…掠った雲が溶けて消えた。
「え?魔獣じゃなくて空に撃った?」
「わー!スゴイわ魔法!かっこいぃいいい!」
数十秒で火柱は消え、何故か魔獣も消えていた。
気持ち熱くなった辺りの空気を、魔女は別の魔法で吹き飛ばし…ふわりと弟子たちの前に下りる。
「さぁ!野外講習は終わりにしましょう…私も喉が渇いちゃったわ」
トクトクと三人でお茶を飲む
気を付ける事だ…魔女から何かを受け取るとは、生贄にされる危険があるのだ。
火柱の対価として消費された…哀れな魔獣キャベタスの様に。




