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小さな鍵の物語~リトリア王女の魔女修行~  作者: 前歯隼三
魔女の庭の冒険編
21/32

魔獣キャベタス5…ソードの戦い

 さて、今回はリトリアが魔法陣を書き上げて…リトリアハンマーで戦いに参加してくるまでのソード君のお話です。


「ネズミさん達草を抜いて!お昼におむすびあげるから!」


「「「任せろ嬢ちゃん!」」」


 背後に王女の声を聞いて、変わらないなぁとソードは思う。

 腰にぶら下げたショートソードを抜き放ち、首から下げた木札…魔女の魔法を放つアイテムだ。…に意識を向ける…油断は出来ない、緊張で手足…末端の感覚が薄くなる…わき腹背中の筋肉が固く冷たくなっていく…うぅ…ハァ…ハァ


「蛇に睨まれたカエルの気分だ。」


 河原からこちらを伺うのは大きなトカゲ、牛一頭はペロリと飲み込みそうな大柄だ…うーん、小型バスぐらいの大きさだ。

 仮に一人で出会っても、ソードはなんの問題も無い相手である…彼の売りは土小人特有の夜目と耳、そして素早い動きにあって…一人ならこんな化け物相手でも逃げ果せるのだ、そう…逃げるだけならば。

 しかし、ソードは今、短く頼りない剣を抜き、使った事の無い魔法なる物を武器として…戦いを挑まなければならないのだ!

ドクン ドクン ドクドク ドクドク ドドドド

 良すぎる耳が、自身の心音を拾い上げ…アホみたいな緊張を自覚する。あぁ…もっと訓練、泣き言言わずにやるんだった。


「よっと、あっねずみさん、そこの小石もどけといて…あと穴塞いで!私はこの石を…ふぬぅん!そーい!」


 …っぷ、ソードは真っすぐに駆け出した。緊張していたのが馬鹿らしい…戦うつもりとか馬鹿らしい。「自分らしく有れば良い」後ろで呑気な声を上げるアホ王女の…ちょっと素敵な所だとソードは思う、一番駄目な所でもあるが…まぁそれは、今は考えないでおこう。


「トカゲ俺を見ろ!」


 …拾った小石をトカゲに投げる…狙いは目…より前に突き出してる、体に合わせてデカい鼻の孔だ。


 スポーン


「!?…ふんぁがぁあ!?」


 さすがの大トカゲも…いや誰でも、いきなり鼻に何かが飛び込んできたらビビるだろう?登場時の貫禄も何も捨て去って、トカゲがふんがぁ!?とのけ反った…!駆け寄る少年に首を差し出す!


「隙あり!せーーい!」


 スポーン


 やっぱり、剣は使えなかった…うん、振りかぶって振り切って…うん、ちゃんと首には当たったんだけどね…うん…しかし!こんな事には慣れている!


「じゃぁ焼け爛れろ!収穫の火<ハーベストファイア!>」


 剣を振りってとり落とし…勢いそのまま回転して、今度は右手でトカゲの差し出した首を抑える。左手で魔女の木札を抑えて…昨日の授業を思い出す。


 魔法とは、使用者と悪魔の契約だという。

 悪魔から力を借りる代わりに、使用者は対価を支払うのだ…魔力、命、生贄?

 今回のコレは、どちらかと言うと生贄に近い契約だ…捧げる生贄は魔女の畑で育った「実り」


 契約実行に必要な魔女の名を…否、魔女の眷属、所有物としての印が書かれた。額がカッと熱くなる…その熱は、額に陣を描いた後の仕上げの口づけを連想させる。柔らかで優しい熱い熱だ。


◆ーーー◇ーーー◆ーーー◇ーーー◆


 契約の名は収穫の火<ハーベストファイア>一つの炎と一つの実り

 トマ島に住まう炎の悪魔マルティムと魔女ムスメールの名で結ばれた神聖不可侵な魂の繋がり

 今、魔女ムスメールの息子たる案山子の一人が代行者と立ち契約の実行をここに願う。


 望む炎は1つ、差し出す対価は1つと…「追加料金」


◆ーーー◇ーーー◆ーーー◇ーーー◆



 ……脳内に何か流れたが…続いて右手の先が熱くなる。


「溜があるのは…この契約内容の口上のせいか?案外使いづらいかもな」そんな事を考えて居ると…右手の先…大トカゲの皮膚が真っ赤に燃えた。


「キィァッ!!」


 声帯を持たないトカゲは妙に高い悲鳴を口から漏らし、のけ反った先で更にのけ反る…すなわちグルんと後ろに転がり…


「うおっとっと…あと9回!」


 体がのけ反り頭が下がれば…入れ替わりに尻尾が地面をこすって前の方向に打ち出される…避ける事ならば大得意の身軽な少年は難なく体を横に躱す。

 あと9回…実り…野菜と言えども対価は対価…なんとか本日の戦いは、予算無いに収まれば良いのだが。


「クゥフゥー…シャァアアア!」


 一回して飛び跳ねて、大トカゲは首を振り振り…怒りを露わにソードを睨んだ。

 人生初…渾身の魔法の一撃も、トカゲの首にちょっとした焼けどを残しただけだ。

 仮に表面しか焼けてない…深度の浅いやけどでも、大切なのは体に対する面積だ…人間だったら死ぬぐらいの面積はオオトカゲには微々たるものだ、いざとなったら切り落とす…尻尾の先とどちらが大きなダメージか?


「今ので逃げてくれればよかったのに…畜生…駄目かぁ…じゃぁ…」

「シャァアアアア!」


 今度はソードが逃げる番!いいぞぉ…これなら!


「いつも通りだ!リトリアが陣を画き上げるまで…逃げて逃げて逃げ果せす!」 

 目の前に怒り狂った大トカゲ、背後に守るべき少女の気配…柄にもなく少年は口の端をペロリと舐めて、熱い気持ちを胸に感じる。


 守れ…守るのだ…我が娘を


 収穫の火<ハーベストファイア>の呪文のように、一瞬何かが頭をかすめる。

 まぁ…言われなくても守るだけだ、それは自分で…とうの昔に選んだ道だ!




   ◆    ◇    ◆    ◇




 「うぐぅおお…まさか大ムカデの群れまで出るとか!」


 逃げるだけならいつもと同じだ!…なんて思ったのは束の間だ、うん。冷静に考えて色々違う…まずあれだ、脅威が大トカゲだけなら森に入れば完勝だが…解らない以上、守るべき対象を視界の中に収めていなければどうしようもない。

 リトリアに被害がいかない程度の距離を離れつつ、彼女の為に魔法を放てる距離に留まる。


<スキル:ドラゴンテール=ステップロック!>


「なんか今トカゲ喋った!?」


 これまた呪文と同じで、なんだか脳内に流れた気がする…なんだ…魔女の案山子になってるからか?額の印がやけに熱い…っと、っとっとっと


「っととととととととととぉおおおお!痛タタタタ!」


 避ける避ける避ける!本領本業のスタイルと言っても、雨あられのイシツブテ全ては避け切れない。

 ダメージが入りそうな大物は避け…体に当てるのは拳サイズ以下の大きさの石…は、普通に考えて十分痛い!っぐぬぅう!…それより!


 尻尾で河原を薙ぎ払い、石の雨を降らせる大トカゲ…そんなものより大事なのは、リトリアの向こうに迫るムカデの群れだ!


「ぎゃぁああ大ムカデぇえええ!」


 リトリアの手伝いをしてるネズミ達が悲鳴を上げた!どうする?

 真っすぐ行けば大トカゲをリトリアの所に連れて行ってしまうが…迂回をしてたら間に合わない!ならば!…あと9回!


「収穫の火<ハーベストファイア!>六連!」


<六連の火祭り<プレアデス=ファイアーフェスティバル!>>


 地上でグルグル、魔法陣を書き上げる王女の上を…六連の火球が尾を引いて飛び超える。


「ギィィィイ!」


「ナイスだ小僧!」


 ムカデの苦鳴とネズミの歓声を聞きながら、痺れる足で迂回ルートを駆け抜ける!

 こめかみから血が垂れて、他にも喰らった石の雨は…右肩と左の手の甲…背中と膝と…まぁ、痛みは感じないので良いだろう。そんなものは終わったあとに、ベッドの上で感じるもんだ。


「うぉおお!せぇえい!」


 最初のトカゲへの一撃で、剣は取り落としたのでドロップキックだ。火魔法で死んだ仲間を越えて…顎をカチカチしてる所に間に合った。


「あだぁああ!?やっぱり痛いいぃい!ぐぉん!」


 蹴りによって走る衝撃は、全身の秘めたダメージに留めを入れた…ヒビが入るにとどまった何か所かが…この一撃でご臨終しかかもしれない…アホだった。…が


「もう俺はいいや、あとは頼んだぞ大トカゲ」


 ドドドドドド


 ソードを追いかけてやってきていた大トカゲがムカデの群れに乱入する。

 互いを強敵と認めた二種類の怪物が、くんずほぐれずしている間を…最後の力で逃げ延びた。


 ハァハァ…しかしもう…駄目かもしれんなぁ…なんとか彼女が…リトルディアが無事ならいいが…

 頭に石があったったのが…今更ながら不味かったかもだ。段々意識が薄れて行って…


 バサバサバサ…

 不穏な羽音に背筋が凍る…ここでまさかの敵の追加だ。

 森から無数の蝙蝠の群れ…大型犬ほどの図体に、痛いじゃすまなそうな牙が見えて…



「よし!…加勢に行くわよソード!」


「「「ええええええええ!?」」」


 魔法陣を書き上げた王女が、杖を振り回して参戦してきた!

 さっそく蝙蝠を一匹撃ち落として、脳天をハンマーで殴って倒した。


「喰らいなさい!リトリアハンマー!」


 プッフフフ…全身の力が抜けて、痛みが和らぐ。…動けなくても…あと3回なら力になれる。


 <収穫の火<ハーベストファイア!>


 額と胸と…魔法を放った右手が熱い、熱い、熱い…あぁ熱い!


「…お前が、おてんば王女で助かったよ、情けないけど。」


 胸の熱さを誤魔化すように…ソードはムカデを殴り飛ばした王女に、いつもの調子で声を掛けた。

 青空みたいな癖ッ毛が風にゆれ、見慣れないおニューの魔女服を土ぼこりで盛大に汚し…、小さい城で閉じこもっていた王女様は、昔々…木陰の街で出会った時のようなおてんば娘の、王女とか嘘だろ!?みたいな爛漫さで…


「カッコいいわね!その魔法名…まぁ普通の王女様なら、泣いてうずくまる状況でしょうけど。」


 大トカゲが優勢、段々ムカデが減ってゆく…ムカデに加勢して…先にトカゲを落とすべきかな?

 …冒険者であった母の血が、戦場を駆け抜けた父の血がおてんば王女に最善の道を指し示す。


「ハハハハハ!城の衛兵達さえ倒して来た!私の戦闘スキルを恐れるがよい!」


 ………「多分俺より強いんじゃないかな」ソードは悔しさ半分、安心半分でそう思った。


 そんな時遠くで、森が光った…額に燃える熱が伝える…魔女の戦況に変化が起きたのだ。


 <終わったようね?今からそっちに…魔獣と向かうわ>

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