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小さな鍵の物語~リトリア王女の魔女修行~  作者: 前歯隼三
魔法って大変編
2/32

科学と魔法と心意気

登場人物

リトリア…アホ王女

魔女…漂う残念感

執事…キガキーク

 執事キガキークの体には複雑な模様が描かれていた。


「ワオ、ビューティフォー」

 思わず口に出してしまったが、冷静に改めて何なんか。


「どうかしら?これが魔法よ…美しいでしょ?」

「先生、意味が解りません」


 うっとりと微笑む、魔女はそそくさとハンカチで鼻血を拭いてから…物分かりの悪い弟子、リトリアに説明を始める。


「彼らは私が作ったゴーレムなのよ、この体の隅々まで書かれた魔法陣の組み合わせで動かしているの」

「え?」


 ドドドーン!

 魔女とリトリアを囲むように、地面から緑の大蛇…否!カボチャのツタが飛び出して来た!畑の柵を壊したのがカボチャ達だという事実から…その一撃は当たれば骨が折れるぐらいな力があるのだろう…リトリアが咄嗟の事で動けずにいる中、魔女は落ち着いて微笑んでいた。


ドササ…

 瞬きの間に蔓を全て切り裂いて一礼、キガキークは小屋からホワイトボードを持ってきた。


「直ぐに椅子もお持ちします」

「いいえ結構よ、退っていいわキガキーク」


 魔女がそういうと、キガキークはカボチャの出荷作業に戻っていった。


「執事さんがゴーレム?え?だからキガキーク?」

「そうよ、気が利くでしょ?」

「ネーミングセンスが酷い!」


 こうして、リトリアの魔法授業は…戦うカボチャと大根、そして執事型ゴーレムを眺めながらの野外授業になった。



   ◆    ◇    ◆    ◇



「鳥が飛び、魚が泳ぐように…人間には力が備わっているの、考える力、作る力、繋がるちから、壊す力…魔法も科学も体術も結局は与えられた力の延長線上の物なのよ、だから何を頑張ってもファイアーボールなんて出来ないわ、火炎放射器なら作れるけれどね」


 夢もヘチマも無い魔法授業だった。魔法とは夢とロマンではないのだろうか。


「私はね“作る力”に特化した魔女よ、フフフ見たでしょう…あの美しい肉体…コホンではなくて、強さを!そして…まぁ、晩御飯はパンプキンシチューよ。フフフ…あのカボチャ達も私が作ったのよ、凄いでしょ?」


 農家兼ゴーレム職人なのだろうか…魔女って…魔女って…一体。


「先生、じゃぁ城下町で剣を作ってるおじさんも魔女なの?」

「あー、良い質問ね。科学者だったらノーだったけど、職人はある意味イエスかもしれない。」


 キュッキュッキュと、杖の先端を回して外し、魔女はホワイトボードに文字を書き始めた。


「科学と魔術と心意気」


 科学とは人間が観測しうる事象を研究し、法則を知識とした土台、その上に積み上げられた技術体系である。

 水が低きに流れゆき、温度で性質を変え雲にも雨にも氷にもなる。そういった発見を、人間の観測しうる全ての物に広げて行き、繋げ…神のごとき偉業を、他の生物には至れない領域まで人間の文明を押し上げてきた分野であるのだ。

 かつてこの分野を極めた人類は空を飛び、天に至る塔を築いて、星々を渡る船を作ったと言われている。

 戦いの歴史を紐解けば…指先に火球を発生させ相手に飛ばす。実質ファイアーボールも実現したという。


「科学の力ってすごい!先生、お世話になりました!私科学者になります!」

「フフフ、それは気が早いわよリトリア」


 パチン、魔女が指を鳴らすとキガキークがガラガラと台車で現れた。台車の上には分厚い本が山と積んである。


「科学とは知の集積、その道は苛酷で…えぇ…そこの本全て読んでも理解してもまだまだ足りないわ」

「先生、やっぱり私には歌と美貌しかないと思うの…科学者も辞めておきます」


 元々勉強嫌いなリトリアは、分厚い本の山を見て新しい夢を諦めた。残酷な世の中だ…人生は希望と絶望の繰り返し…人の夢と書いて儚いと読む。崩れた夢に構ってられないのでリトリアはきっぱり諦めて道を進む。それが生きるという事だ。


「…さて、お次はいよいよ魔法です。」


 魔法とは、悪魔や天使の研究体系だ。むしろどっぷりと彼らに頼る。自分の目と耳と手で調べ、頭で考える科学と違い。究極的には他人の目と耳と頭を頼りにするいわば“怠惰なる科学”。

 自分の目で見れない宇宙の果てやらミクロや極大、次元の向こうなぞ見る必要なし、考える事なし。人間の頭では理解できない宇宙の真理や奇跡の起こし方ならば、理解できる存在にお願いすれば良いという発想だ。


「…フフフ、私は本を読まなくても、指を鳴らせば執事達が全て片付けてくれるでしょう…これが魔法よ!」

「すげぇえ!」


 無茶苦茶だ!血と汗と涙と、ストレスで抜けた髪で彩られた科学の道とは対極、それでいて…科学の…否、<人間の観測、理解>を超えた奇跡を起こす分野…それが魔法!


「た…たとえばピーマンがあったとするじゃない?お皿の上に…」

「えぇ」

「もし執事がそれを食べてくれたら?まま…魔法でピーマンが消えた事になるのかしら?」

「ざっつらいと!(その通り」


 衝撃だった。リトリアは魔法をなめていた、侮っていた。リトリアにとって魔法のイメージは、火球で敵を焼き尽くし闇の剣で敵を切り裂き、白銀の輝きを纏いながら夜空を飛翔する…そういった類の物だったが…、冷静に考えて実用性が微妙だった。

 しかし…本物の魔法は目の前のピーマンを消せるのだ。凄い…凄すぎる!


「先生、改めてお願いいたします…私は立派な魔女になりますわ」

「フフフ、宜しい。ようやくあなたにも伝わったようね…魔の世界の素晴らしさが!」



   ◆    ◇    ◆    ◇


「最後に心意気の話ですね」

「はい先生!」


 決意を新たに真面目な面持ちで授業を受けるリトリアに、魔女は満足気に頷いた。


「良い返事よ、さて…これは貴女が最初に言った疑問“剣を作る職人は魔女か否か”に関する事なのよ」


 人類の知の集大成…科学、人外天魔の力に頼り切る…魔術。その一番の違いは心意気であった。

 計算に計算を重ねる科学と、ある種自然に、感覚に…世界に身をゆだねる魔術と言っても良い。

 剣を作るという技術自体は科学分野の、人類の英知の集積が至った事象なのだが…職人、芸術家そういった者達はある一線を越えると科学を…人類の知覚を凌駕する。

 ある者は指先が勝手に動いたと言い…ある者は神の声を聞いたという。


「優れた職人は知識だけではない…何かと“繋がって”新しく素晴らしい物を作り出す。これは無意識の魔法と言えるのよ。」

「職人すごい!」


「えぇ…そしてそれを成すのは、頭でっかちな知識ではなく。心意気なのの…それが人間とそれ以外を繋げる門になるわ」


 今日の感想

 科学凄い、魔法すごい、職人すごい!リトリアの頭ではこれが限界だった。



 気付けば空はオレンジに染まり、畑の喧噪も収まったようだ。丸太小屋の窓に明かりがともり…夕飯のシチューの香りが鼻をくすぐる。

 魔女が指を鳴らすまでもなく…執事が二人を呼びに来た。


「魔女様、ディナーの準備が整いました。カボチャのシチューと納豆ライスです。」

「フフ、さすが気が利くわね。リトリア…これが私の魔法よ。そして…私があなたに渡したい物」


 魔女の言葉にリトリアは思う、毎食出てくる腐った豆…あれが無ければもっと好きになれるのに…と。カボチャのシチューはこってりと甘く、育ち盛りの王女は作法も忘れてお腹いっぱい食べに食べた。




久々に書いてたらとても楽しい、うちの子可愛い。

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