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小さな鍵の物語~リトリア王女の魔女修行~  作者: 前歯隼三
魔女の庭の冒険編
13/32

内緒話

魂は満ち欠けを繰り返す

 ソードの中で、リトリアのイメージは空である、明るくて広くて空っぽだ…時々曇って雨も降るが、虹がかかるような時もある。青い空だ、暗い地下の町に隠れて夜に生きるソードにとっては、彼女は守るべき者だった…行動がアホ過ぎて呆れかえる事が多々あるにしても。それが


「リトリアが死ぬはずだった?」


 明るいイメージの彼女と、暗く冷たい死のイメージは余りに合わない。言葉にすれば簡単な話だが、どうにも頭が理解を拒否する。


「あのリトリアが?…死ぬ?」


 瞬間


………

………………<ムスメヲマモレ、ソレガサイショノメイレイダ>…


 ソードの胸に、頭に、魂に…何かが去来し、過ぎ去っていった。走馬灯のように過った何かを、彼自身理解する事は出来なかったが…ぽっかりと空いた心の穴と、冷たい石の感触を思い出す。


「り…とりあ…がっッテェ!?」


「はいはい、3回目はいいよボウズ。今生きてるんだからいいじゃねぇか」


 ソードの頭をチョップして、アカネがとっとと話を進める


「まぁ、ソード君落ち着いて、珈琲飲みなさい。そうしたら話を始めるわ、頭をはっきりさせる飲み物よ?」


「ん?あぁ…ぐぅ…苦い!」


 竜の巣穴で飲んだのと同じ、黒く苦い飲み物を飲み、どうにかソードは落ち着いた。味に顔をしかめる少年を見て…魔女は満足したように話を始める。


「彼女の魂は生まれながらに欠けているのよ、それは大きな魔女の資質で…そして短命の呪いでもある。」


「魂…欠け?」


「三日月病と、魔女学の中では言われているわ。…魔女のお茶は、それを補う為の飲み物なのよ…私がスカウトしなければ、彼女はまもなく死んで居た。これは事実よ…そして、彼女の父…ジャガ王もそれを承知している。」


 魔女学とか言われても解らないし、嘘臭い…が、珈琲で冴えた頭を回しなんとかソードは理解に努める。


「魔女の話は事実だぜ?私はお茶を拒否して死ぬ奴もみたしな」


 アカネがさらりと補足を加える。出会って間もない彼女の言を、信用出来るかと言われれば怪しいが…嘘を付けるようには見えはしない。


「アンタもそうなのか?えーっと三日月病?」


「あー…私は違うな、私の場合は身内がそれでな、ほっとけなくて付いてきた…てぇと、アハハハお前と似たようなもんだな。行き場所も無いんで居付いちまったわ」


 アカネは何か愉快に思ったのか、ギシギシと椅子をきしませながら体を揺らした。いつの間にか熊のぬいぐるみを抱いている。似合わない…むむ


「そうか…えーっと、ジャガ王様が知ってる?そういえば初日にもそんな事言われた気がするが…そうか。ん?じゃぁ誘拐しないで正式に連れてけば良いじゃないか…なんであんな荒いやり方を?」


 ソードが夜の見張りをしていた時に、森から巨大な魔獣が出てきた。今にして思えばあれは魔女の畑の動く植物の一種だろう。緑色の小山のような怪物に城の警備はてんやわんやだ。一線に出て行く先輩をしり目に、戦っても弱い…半人前のソードは見張り台に残された。

 そうしてリトリアの部屋から飛び出す人影を目にして駆け出したのだ。いや…おかしい。


「怪物が出てたとはいえ、俺しか気づかないのがおかしいか…むしろあんな騒ぎがあったら、専属の護衛が近くに居たはず…?」


「あ、ごめん…その子達は普通に眠らせちゃったわ、てへぺろ」


「嘘だろ!?人外レベルだぞ王族付きは!」


「えーっと話がそれて来てるわ、リトリアのお風呂が終わっちゃうし…まぁ、こんな感じで、うんまとめましょう。」



 1つ リトリアは三日月病である

 2つ ジャガ王は承知で、魔女は彼女をスカウトした

 3つ…


「私は悪い魔女じゃない、おーけー?」


 そういって魔女は、本日5杯目のお茶を飲んだ、なんてお茶好きなんだと思って居たが…薬と思うとなんだか痛ましく見えてくる。

 三日月病は短命の病であると同時に、魔女の才能だとも言っていた…きっと、目の前の魔女もそうなのだろう。


「今日は時間が無いからここまでね、病気に関しては明日、リトリアに授業するから同席しなさい、ジャガ王の件は…2日後、家に帰った時には進展があるはずよ?リトリアを追って来たのはアナタだけじゃぁ無いはずだし…私が出した手紙の返事もあるはず…そして一番大切なのは」


ギシ…ギシ…ばたん!


「良いお湯だったわ!さっぱり!さっぱり!」


 …話の最後の腰を折るように、物語の主人公が現れた。3人はホカホカと湯気を立てて入口に立つ少女を見つめ言葉を止めるが…


「…リトリアには今の話ないしょって事でね」

「言っちゃうのかよ!?」


 魔女はソードの方に顔を戻して話を続けた。


「ふぇ?何?何の話?ソード…隠さずに言いなさい!」

「ぐぐぅ…ぐっ…うぅ…!」


 案の定リトリアが詰め寄ってくる、彼女に詰め寄られるとソードは弱い…王女と兵士だからなのか、女と男だからなのか、いつもやられてる扱いの習慣化のせいなのか…ソードの頭と裏腹に、口は秘密を言いそうになる。


「リトリアには魔女の才能があるって話よ?もう…こんな事言うと調子のるでしょ?」


「むむ?まぁ私は才能の塊だけど…そうなの?ソード、私に隠れてお菓子とか食べてたわけじゃない?」


 魔女の自然な助け船に、ソードの口はどうにか止まった。


「あ…あぁ、お菓子食べて無いし…実際そういう話だった。」



<ヤクソク、ワタシニウソハツカナイデ>

…どうにも、今日のソードは調子が悪い。


「じゃぁ、次はソード君入ってきなさい。今日は洞窟を越えて来たから、隅々まで体を洗って、ゆっくり体を温めるとよいわ」



…こうして、内緒話は終わりを告げた。



バタン…ギィ…ギィ…



「…んで、私はあのボウズのが気になるけどな」


「え?アカネさんソードがタイプなの?」


「フフフ…じゃぁ、次はソード君の話をしましょうか。」



 魔女は秘密が大好きだ、この内緒話は…またいつの日か。

内緒話…小説家になりたい

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