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小さな鍵の物語~リトリア王女の魔女修行~  作者: 前歯隼三
魔女の庭の冒険編
11/32

母なる魔女を出迎えよ

夜の森って虫が怖い

 暗くなった森の中をカボチャの馬車が駆け抜ける。蠢くツタで進むカボチャは元々目が無く…夜の闇さえ物ともしない。軽やかに進む馬車の速度とは対照的に、一行の心はやや重い、ただでさえ人が踏み入れるべきではない夜の森、しかも大山脈の向こう側で巨大なドラゴンのいる森なのだ。

 森の木々に遮られて…月と星の明かりもまばら、しかし誰も明かりを付けようとは思わない。そんな事をしたらたちまち何かに見つかってしまう。漠然とした不安があった。


「おっあっちの方に明かりが見えるぞ?」


 森の木々の向こうにチカチカと、馬車の揺れに合わせて光が見え隠れしているのだ…木々の間から見えるのだから…そんなに遠くではないはずだ。


「あらもうかしら?じゃぁカボちゃんとめて…一度馬車から下りましょう。」


 馬車から下りると足裏が柔らかな土に沈む…幾層もの落ち葉で作られたスポンジのような地面だった。虫嫌いの人にはお勧めしない…と、全員が馬車から下りると魔女は再び懐から星型の宝石を取り出した。


  母なる魔女を出迎えよ

   愛おしい子らよ 顔をお見せ


  新たな家族を引き連れて

   母は我が子の家の門を叩く


 チリリーン チリリーン


「鈴の音?」

「新たな家族って俺達か?」


 ソードは銀の木の夜番を思い浮かべる、表の警備は通行証で仲間をチェックしながら回るのだが…本当に大切な場所は特定の人物しか入れないし、合言葉を使う場合もあった。

 ドラゴンと対峙した時も、今の歌も…合言葉って事なのだろう…案の定、そんな事を思ってる間に落ち葉を踏みしめる音が聞こえる、道の先から誰かが来るのだ。

 チカチカと緑の炎が闇を照らす。


「おっす、手紙通りの時間だなぁ…飯も出来てるし風呂もわいてるぜ?」


 緑に光るランタンを持って、目つきの悪い女性が立っていた。ツンツンとした髪を後ろ二つに分けて束ね…口にはタバコを加えている。血か何かで汚れたエプロンと腰の左右に剣と二孔拳銃を下げている。ガラの悪さと物騒さは王国のスラム、木陰の町の雰囲気を感じる。得体のしれないドラゴンよりも馴染みがあるが…どうにもこの場所に不釣り合いであるとは思う。


「ありがとう、でもアカネ…違うでしょ?最初にいうのはなんでしょうか?」


 魔女は少しすねた調子で質問を飛ばす。目の前の女…アカネはあからさまに嫌な顔をして、しかしちゃんと答えを返した。


「お・か・え・り・な・さ・い!」


 酷く面倒そうだ、言いきった所で鼻から煙をフンスと出して、ガンでも飛ばすように魔女を見る。


「フフ…ただいまアカネ。紹介するわね…リトリアとソードよ?」


「あん?」


 アカネはやっと二人に気付いたのか、ランプで魔女の後ろを照らす。緑に照らされた二人は目を細め…初対面の挨拶をしようとするが…


「こんな暗い所で挨拶してもしょうがねぇよ、とっとと家入って飯食おうぜ?夜の森は好きじゃねぇんだよ」


 言うが早いが踵を返し、とっとと歩きだすアカネ。


「あいかわらずねぇ、じゃぁ二人ともアカネについて歩いていって…私はカボちゃんを休ませてから向かうとするわ」



……

…………


 こうして、一日目の旅が終わった。


「ありがとうねカボちゃん、ゆっくりとおやすみ」


そういって魔女は、巨大なカボチャに口づけをした。カボチャの体が淡く光って…そして闇へと消えてゆく。巨大な何かに齧られるように、不気味な音を立てながら…



「こういう事を教えるのは…まだまだ先になりそうね、リトリアは優しすぎるから。」

さよならカボちゃん

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