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小さな鍵の物語~リトリア王女の魔女修行~  作者: 前歯隼三
魔法って大変編
1/32

魔法が見たい

人物説明

リトリア…アホ王女、趣味ポエム

魔女…美肌自慢

キガキーク…イケメン執事

湯気の精…お茶が冷めると死ぬ


「だから~、私はファイアーボールをぶっ放したいのよ!」


 苛立たしげな少女の声が響く、ここは動く植物に守られた魔女の森…その奥地に隠された魔女の住処、かび臭いキノコだらけの丸太小屋だ。


「だから嬢ちゃんには火魔法の才能なんて無いって…水も風も土も光も闇もだけどさぁ」


「全滅じゃない!なんで私攫われて来たの!?」


 時刻は昼下がり、昼食後のティーカップを片手に少女はヒステリックな声を上げる、それもそのはず…少女は先日、魔女により才能を認められてスカウト誘拐されて来たのだ。

 鬱鬱としたつまらない日常の中で突然迎えに来た非・日常、やはり私は選ばれた者だったかと…14歳の少女が思ってしまった事は仕方が無い。まして彼女の頭は平均のそれよりだいぶ軽いのだ。


「才能あるからスカウトされたと思ってたのに…うぅ、闇の剣とか出したい…うぅ」


 遂に机に突っ伏して、シクシクと泣き出した残念な少女は昨晩ルンルンで考えた最強魔法少女世界を救う計画を断念した。


「まぁ…元気だせよ…、ところで嬢ちゃん…早くおいらを飲んでくれない?」


 そう言ったのは少女の手に温もりを伝えるティーカップ、そこから立ち上る湯気の精霊だ。

 お茶を入れてから冷めるまでの僅かな人生で魔女の話し相手になってくれる不思議な存在で…少女、リトリアの魔女修行の一つは、毎日昼時にこの精霊ごとお茶を飲むことであった。


「飲みにくいんだけど」

「蜂蜜入れたらどうだい?」

「いや…そうじゃなくて…」

「あぁ…、俺なら大丈夫だよ?」

 ユラユラと揺れる湯気の精は、少女の瞳に写る寂しさを感じ取って言葉を返す。お茶が冷めたら死んでしまう…出会って5分の相手に優しさを見せる少女、こんな相手に飲まれるなら本望だ。


「嬢ちゃんが飲まなくてもあと数分の命さ…それに冷めてから飲まれても効果が無い、早くその可愛い口で飲んでくれよ…げヘヘ」

「飲みにくい!あぁ~もう!さよなら!」

「あぁ!さよな……」


グビグビグビ…苦い!甘い、酸っぱい!苦い!


「うぅ…飲みにくい…変な味」


   ◆    ◇    ◆    ◇



 リトリア=シルヴァーウッド

 彼女はある王国の姫、王女であった。様々な物語の王女達がそうであるように、彼女も複雑な事情で城に閉じ込められて育ってきた。

 幸いな事に兄弟は無く…王位継承を巡る身内内の殺し合い等、ありがちな悲劇は無かったが、それは一方で彼女が「王様」になる運命を示していた。

 城の中で生まれ育ち、外の世界に憧れる在り来たりな王女のリトリアは絶望した。父王の背中を見るに…外の世界どころか睡眠時間も危うい勢いでの束縛、城の外どころか執務室と謁見広場を行き来するだけの人生が約束されているようなものだ…彼女は深く絶望をした。


  ジャカジャカ

 ♪卵の君~、それがわたーしよぉ~

   あぁ、憧れるのは外の世界い…だけれど明日は目玉焼きい~


 以前城に来た旅芸人に憧れて、誕生日に買ってもらった弦楽器を片手に、夜リトリアはオリジナルソングを歌っていた、絶望的な音痴だった。


 パチパチパチ


 一曲歌い終わった後の賢者タイム、その静寂を打ち破る拍手が聞こえた。

「誰!?」

 リトリアはビクリと身を震わせ、人の気配が現れた窓辺に向き直る。そこには三角帽子を被った金髪の美女が立っていた、そっけない無地の夜色の衣で身を覆い…彼女は…魔女はリトリアに微笑みかける。


「あなたをスカウトしに来たわ」



   ◆    ◇    ◆    ◇



「ハッ!?もしかして…魔法じゃなくて…音楽系のスカウトだったのかしら!?」

「ふぅ…落ち着いて、貴方にその才能は無くてよ」


 テーブルの迎えに座る魔女が、お茶を飲みながらグサリと言った。14歳のデリケートな心にはあんまりな言い方だが、あいにく目の前の娘はこのぐらいじゃ凹まない。


「じゃぁ、私に何を見出してスカウトしたのよ?魔法じゃないなら歌でしょ?違うなら…八ッ、この美貌かしら…聡明な頭脳!?心当たりがあり過ぎるわ!」


「そのメンタルの強さは才能よねぇ…安心して、ちゃんと魔法の才能よ?私の後釜になって欲しいの」


 魔女がパチンと指を鳴らすと…空になった茶器が掻き消えて…はせずに、奥から執事がやって来て下げていった。

 そういえばリトリアはこの魔女が魔女っぽい所を見た記憶がない…いや…城の最上階の窓に来たのはびっくりしたが、手下のドラゴンに運んでもらって縄梯子で降りて来た様子だった…地味。


「そもそも魔法っていうのは火とか水とかそんな力じゃないのよ…、昼食も済んだ事だし午後の座学を始めましょうか」


 魔女がパチンと指を鳴らすと、執事がホワイトボードを持ってきた。アナログである。


「さてと…魔法、魔力…そんな言い方するから特別な力って誤解をされるけど、そもそもそんな物は無いのよ。すべての生き物は神様が作った力を持っているだけ…人間に闇や光が扱えるわけはない、例えば鳥の力ってなんだと思う?」


「飛ぶこと?」

「その通り…じゃぁ魚は?」

「泳ぐこと?」

「そう…そして貴方よ、人間の力ってなんだと思う?」

「う…ぅうん、うぐぐぐぐ」

「フフフ…そうよ、正解」


 王女にあるまじき唸り声で頭を抱えるリトリアに、魔女は満足げに頷いた。


「“考える力”よ、そして“作る力”」

「…!つまり私の聡明な頭脳が…才能!!納得したわ!」


 不正解だったが、魔女は否定をしなかった…この短期間で二回も才能を否定してるので、さすがに三回目はどうかという配慮もあったが…庭の植物達が騒がしくなった。


「魔女様!トーキングパンプ達が暴れております!」

 執事が部屋に飛び込んできた。


   ◆    ◇    ◆    ◇



 大蛇の如くノタウツ蔓とケタケタと笑う牛ほどの大きさのカボチャ達、これがトーキングパンプだ。動き回る植物は魔女の庭の名物で、生命力溢れまくる彼らこそが魔女のお茶の材料であり、ピチピチすべすべの魔女の美肌の元であった。


「キガキーク、カボチャ担当の案山子はどうしたのかしら?」

「あぁ魔女様、彼は先日辞職しました。」

「くぅ…3人目!」


 動く植物は自衛出来るのだが、今回の様に暴れたり何かしらのトラブルを起こす事がある。その為“案山子”を配置しているのだが…危険な仕事なので離職率が高い。

 動き回るカボチャ達が根を捨てて隣の大根畑に乱入し始めている…ファイティング大根と呼ばれるマッチョな大根達と大根担当案山子達がギリギリのところで食い止めているのだが、これが大人しいキノ小人やきゅうり蛇エリアなら終わっていた。

 そして放っておけばカボチャ達は大根から狙いを変えるだろう。これは畑と、お肌のピンチだ。


「まぁいいわ、私自らが解決しましょう…ふふん、リトリア見ていなさい!これが…魔法よ!」

「え?ファイアーボール!??」


 カボチャと大根の戦いに目を輝かせていたリトリアが、魔女の言葉に一層目を輝かせた!


 パチン

 魔女が指を鳴らす


「………」

 しばしの静寂、ファイアーボールも雷も起きない…が、リトリアは目を輝かせて辺りを見渡す。天気がいきなり変わるのかなと空を見て、大地が裂けてマグマが出るのかと地面に耳を当てて音を探る…ドドドド…ビンゴ!地面が振動しているようだ!足音のような何かが聞こえる!


「お待たせしましたお嬢様」

「待たせたなハニー」


 執事達が現れた、お茶の準備をしてくれた執事…キガキークと同じ顔の執事が二人。しかしそれぞれに剣とガトリングを持っている!キガキークと合わせて同じ顔の執事が三人、満足する魔女は頷いて大げさなモーションで手を横凪に振りつつ命令を下す。


「薙ぎ払え!」

「魔法えぇえええええええ!?」

リトリアの想像し期待した魔法、その要素は欠片も見せないままに…熾烈な戦いに三執事が乱入する!


   ◆    ◇    ◆    ◇


 大根の拳がカボチャの頭をゴィンとなぐり、カボチャのツタが鍛え上げられた大根の四肢に絡みつく地獄の戦い。そこに加わった三人の影大剣を振り回しツタを切る執事、ガトリングを乱射しカボチャの頭を打ち抜く執事、倒れたカボチャ達を荷台に乗せて…出荷の準備を始める執事。


「先生、魔法が見たいです。」

「え?」

 リトリアの発言に、魔女が驚いた声を出す。魔女は自分の仕事に、自分の素敵な執事達の活躍をうっとりと眺めている最中だった。


「え?ほら…戦ってるでしょ?カッコよく」

「執事さんが強いの凄いけど…魔法じゃなくない?」


 確かに執事達は凄かった、四方八方からのツタ攻撃を全てよけ、走れば掻き消え、飛べば悠々木を飛び越える。


「あ…そうか、ゴメンゴメン。リトリアはまだ魔法基礎も終わってないから解らないのね。キガキーク来なさい!」


 魔女か指を鳴らすと、出荷準備を辞めて執事がやって来た。目の前で完璧な礼をする彼に、顔を赤らめた魔女がコホンと咳をして命令を出す。


「脱ぎなさい」

「えぇえええええええええええええええええ!?」


 付いてくる魔女を間違えたかもしれない、魔法は使えないし多分変態だ。そしてお茶はマズイし変態だ。動揺するリトリアを他所にキガキークは上着をスルリとはだけた…大理石の様に白く…ギリシャの彫刻のような肉体がむき出しになる。

 ほぅ…魔女を変態と思って居たが、中々の眼福であるとリトリアは思った。ついてきたのは正しかったかもしれない。


 むき出しにになった胸板に、複雑な模様が掘られ輝いていた。

短編にするつもりが、キャラ達が暴走しだしてちょっとわける事に…

数話でまとめたい今日この頃

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