禁剣生活の始まり
「号外!ごうがーーい!」
街中に大量のビラが配られた歴史的な一日。魔王がいなくなってなら数年という月日が経ち、誰もが平和な世界を噛みしめていた。
そんな中、打倒魔王を目指していた剣士タクトは途方にくれる。だって先に魔王を倒されてしまったのだから。
主人公はいつだって自分じゃない。誰かのために用意された舞台があるって知っていた。でも自分だって戦える、誰かのために剣をふるい誰かを救い、一躍ヒーローになりモテモテにだってなりたい。
「くそっ!」
タクトは草原で手に持っている剣を怒りに任せ一振りした。その衝撃波のみで草原の草はもちろん地面ごと抉り取られその延長戦上にいたスライムがスパッと二つに斬られていた。
「せっかく魔王を倒すために剣を毎日、一日も欠かさず振ってきたのに。俺のモテモテライフがまた遠ざかっちまった」
タクトは今まで女性に相手にされたことはなかった。モテていたら剣など振り回していないし、こんな苦労はしていない。
「これも運命なのか‥くそっ!くそーーっ」
友達すらいないタクトの怒りはどこにもぶつけることが出来ず、スパスパと遠くで誰も知らないところでスライムが二つに斬られていた。
一通り剣で怒りをぶちまけた後は、街に帰ってやけ酒を飲みふて腐れるだけ。剣士なんてこんなもんだ。
タクトはいつも通り飲み屋へと向かう途中人だかりが出来ていることに気がついた。
「なんだなんだー?お祭りなら他所でやってくれ!みんな斬っちまうぞーっと」
タクトがぶつぶつ言いながら人だかりに近づくとひらひらと宙を舞い目の前に一枚のビラが落ちてきた。
ーーバァンーー
人だかりが一斉に後ろを向くと何やら人が倒れている。
「大変だ!誰か医者を呼んでくれ」
「兄ちゃん大丈夫か?」
「一体なんだなんだ?」
タクトはその場で失神していた。何せそのビラに書かれていたのは王国のお触れ。今日決まったその一言に絶望しかなかった。
『本日より剣を持つことを禁ずる。剣を持つものは厳しい処分にて罰する』