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骨の王  作者: 三井崎瑞希
第一章 七つの大罪編、的な
9/31

お食事とか人間遭遇とか文明遭遇とか

 私は一心不乱に食べ続ける。蛇の肉は広い洞窟を延々と続いていて、どこまで行けば尻尾の先なのかさっぱり分からない。洞窟はやたら曲がりくねっているし、腹の中からは例の鱗鎧で外が見えない。

 幸いなのは、この肉が腐らない上、適当に焼いても美味しい事だ。最初、エスカリさんが教えてくれた「灼熱よ、収束し穿て」を格好付けて詠唱したら何も起こらなかったので、ガスバーナーを強くイメージして火を点けた。

 蛇の腹の中で肉を千切り、本を束ねていた鉄の紐で貫いて焼く。心なしか炎の魔術にも慣れてきた。間に合わせの腕から体格が似たご同胞のものに入れ替えた左腕は、どうやら魔術に適性的なものがあったらしい。細やかな火力調整で、レアからウェルダンまでお任せあれだ。そして食べる。なくなればまた右手で肉を抉り、手近になくなれば移動する。

 そんな感じで、どれ位経っただろうか。食事中は時間を忘れてしまうから、多分一週間ぐらいだろう。

 いつの間にやら腹を越え、蛇が段々細くなっているのに気が付いた。

 尻尾も変わらず鎧で守られていてどうしようもなく、辿ってきた道は支えが無くなった鎧で潰されている。

 どうしようかと考えながら食べ進め、結局何も思い付かないまま最後の肉を食べ終わってしまった。

 ふうむ。

 戻るのは面倒臭い。かといって、このまま出られる訳でもない。

 仕方がない。食べ(・・)ますか。

 そうと決まれば善は急げ、尻尾の先から横向きに、がっちり噛み合っている鱗の内側を抉るような感じで歯を滑らせる。

 彫刻刀でも使うかのように表面が削れ、金屑とでも表現するしかない鱗の削り節が口の中に入る。

 鉄臭さと泥臭さ、そのくせ味は無く、噛み応えも無い。肉程柔らかくはないけれど、その程度だ。

 がりがり飽きもせずそんな感じで削っていくと、やがて鱗一枚分の隙間が空いた。そこから引っ掛ける感じで食べ、頭が出る大きさになればこっちのものだ。

 鱗の鎧は硬いけれど、噛み切れなくはない。不味いけれど、食べられなくはない。

 そうして身体が通るだけの大きさを作り、脱出に成功した。

 振り返れば、平べったく潰れた鱗の鎧が、広い洞穴の地面を絨毯のように這っている。所々血で赤くなっていて、なんともおどろおどろしい。

 私なら絶対、こんな所を通ろうとは思わないだろう。絶対何か出るに決まってる。蛇の怨念とか。生きたまま食われた蛇の怨念。超怖い。誰だよそんな事した奴。

 ので、ちゃっちゃと進む事にした。


 この洞穴はどうやら蛇の通り道だったらしく、苔なんかは全て刮げ落ち、磨り潰されたのか、それとも巻き込まれて外に出たのか、存在していなかった。小腹を満たせないのは残念だ。

 手持ち無沙汰に二時間程で光が見えて、それから三十分程で洞穴の終わりに辿り着いた。

 外はすぐ崖になっていた。見下ろせば、遠くの地面を走って行くマンドラゴラ的なあいつが見えた。これは多分幻覚だろうけれど、普通の木が根っこを引き抜いて立ち、枝から葉を落としながらばたばた走って逃げていた。

 谷底には何も無い。凄まじい位に岩しかなく、苔の一つも見えない。多分、目覚めた谷の繋がりだろうけれど、首を出して横を見ても、私が肉を焼いた跡も、白ちゃんの気配も見当たらなかった。

 どれだけ遠くに来たのやら。

 さて。高さは二、三十メートルって所かな。上を見れば、三メートルぐらい登れば地表に出られそうだ。

 降りたら多分、どうしようもない。また最初に逆戻りだ。

 上に行けるかどうかは正直、運次第だ。握り潰したり殴ったり噛んだりに関して私が人外的な力を発揮できるのは分かっているけれど、空中ジャンプが出来るとは思えないし、経験も無いロッククライミングを力任せに成功させられるとも思えない。

 ……しゃあない。掘るか。石とか土とかは美味しくなさそうだから食べたくないけれど、私はギャンブル嫌いだし。運任せは性に合わない。

 洞穴を少し戻って、壁に右の貫手を突き刺す。肉を食べる時と同じだ。ごりっと削れた石を口に放り込み、また貫手で削り取る。

 一メートル程掘り進んだら、今度は上に掘っていく。半径三十センチの縦穴が貫通するまでに一時間を要した。

 ……。

 地上は、楽園だ。

 きっと、さっきまでいたのは地獄だろう。肉があるって点に目を瞑ればね。


 さてさて、沢山の木と草がその生命力を示すかのように伸びている。谷底の変な奴みたいに走って逃げたりはしていない。気が向けばいつでも食べられる。

 しかし。しかしだ。岩を削って土を掘った結果、私は血まみれの土まみれという極めて凄惨な状態になっている。どういう原理でくっついているのか分からない骨か関節の隙間に土が挟まり、動く度にごりごりして気持ち悪い。

 ついでに、飲み物が血しかなかったから、味の付いてない水が飲みたい。

 という訳で、水場を求めて歩く事にした。


 水場は存外遠く、途中木を三本も倒す羽目になった。肉に慣れた私の舌に、青臭い若木は新鮮に感じられた。だから、飽きずに歩き続けられた。

 虫とか動物が何故か見当たらないのだ。

 見つけた水場は小川というか、潺々とというか、一番深い所でも踝に届かない程度の水量だった。浸した所から、固まっていた血が流れていった。

 骨の手では液体を掬えない。口を近付けて吸い込むようにすると、どういう原理か、肉が付いている時と同じように吸い込む事が出来るのだ。

 まったく、この身体は不思議だ。当たり判定がバグっているように思える。

 取り敢えず喉は潤せた。なるべく深い所を見つけて手を浸す。手首までは何とか、元の白い骨になった。両足も、手でかけて踝までは白くなった。

 左手は、どれだけ水で流しても赤いままだったが。アンバランスだからどうにかしたい。途中で絵の具が無くなったような、なんというかどうにかしろよと。

 諦めて立ち上がる。と、すぐ近くでがさりと草が鳴った。

 太い木の陰に隠れるように、男が立っていた。緑色の髪に同じく緑の瞳、細身のハンサムだ。彼は私が気付いた途端、大急ぎで弓を投げ捨てて、落ちていた太めの枝を拾った。

『はろー、こんにちは。私こんなだけど悪い奴じゃないよ』

 血まみれで何言ってんだという話だが、取り敢えず念話を送ってみる。

「×△× △△! ○○□○ !」

 何言ってんだ?

 緑さんは滅茶苦茶焦った様子で、しきりに何か叫んでいる。

 あれ。念話の仕方間違えたかな。白ちゃんはこれで通じたと思うんだけれど。

 ……うーん。怖いなあ。なんか目も血走っているように見えるし、弓を捨てて枝拾ったのもそうだ。

 もしかして頭おかしい人かな。ここは死声の谷っていうらしいし、身体じゃなく精神を殺された的な。

 やだなあ。キチガイさん。

 逃げよう。

 刺激しないようにゆっくり、左脚を下げる。ついでに、ゆっくり左腕を上げて手の平部分を向ける。

『まあ落ち着いて。よーし、落ち着けー』

 伝わらなくても一応念話は使いつつ、ゆっくり一歩ずつ下がる。

 四歩目で、どうやら流れていた枝を踏んだらしい。ばきっと大きめの音が鳴った。

「△○○○!!」

 それに反応するように、緑さんが枝を振り被って向かって来た。

 やばい。

 やっぱり狂人さんだったみたいだ。

 左から鋭く振られた枝を、敢えて右手で受け止める。タイミングよく掴んで右に引っ張り、体勢を崩した緑さんの背中に左フック気味の拳を入れる。

 左腕は長いけれど、大した力は無い。岩をも砕く必殺の本体で攻撃すると死にそうだったから、手加減だ。

 これでも元人間だし、美味しい料理を作れる人間達とは仲良くしたい。出来れば街に住んで、小料理屋のバイトでもして暮らしたいしね。

 拳が当たると同時に枝を離し、背を向けて全力で逃げた。

 あー、やだやだ。超怖い。人間の心は荒んでるねえ。

 ダッシュで下流に走っていると、また気配がした。慌てて止まり木に隠れる。次の瞬間、また草をかき分けて今度は金髪オールバックのチンピラさんが出てきた。手には剣、背には盾、まさしくファンタジーの人だ。

「○○○、 △×○?」

「×○、○×○×○×○×○○○○」

 相変わらず何言ってんのやら、取り敢えず穏やかじゃなさそうなのは分かる。さっきの緑キ某さんみたく、いきなり棒切れで殴りかかってこられたら困るし。

 逃げるぜ! ふはは!


 さて、どれだけ逃げたか。いつの間にやら森を抜けた先には、地平線まで続く広大な草原が広がっていた

 ふーむ。流石にまずいね。味的な意味でなく。

 一帯薄緑な所に赤い骨がいたら、滅茶苦茶目立つでしょ。これなら森にいた方が安全だ。

 この辺りの人間、なんか怖いし。なんか野蛮だし。特に緑さん、なんで弓捨てたんだろう。

 ま、考えても仕方がねえ。出来れば谷の近くに戻りたいねえ。

 考えなしに歩くのも考えものですね。あー、やだやだ。


 やたらと背の高い草をかき分けると、目の前に……うーん、柵? のような、ただの板のような、なんというか頑張って柵を作ろうとした感じのものが現れた。

 簡単に描写すると、棒を二本立てて、外側から板を立て掛けたものだ。柵とは言い難いけれど、柵らしきものを作ろうとした努力は認めよう。うん。私がそこいらで拾った廃材で柵を作ろうとしたらこんな風になるだろうけれど、つまりはぶきっちょが不揃いな材料で初めて作った程度の出来って訳で。

 この低文明的な人工物があるという事は、これを作った人がいるって訳で。

 柵の向こうは慌ただしく駆け回っているようだから、多分忙しいんだろう。

 見付かったらまた面倒そうだし、取り敢えず離れますか。

 踵を返そうと一歩後ろに出した丁度そのタイミングで、柵? の上から緑の頭がひょっこり顔を出した。

 小さな角と小さな牙、人間離れしたその顔は“小鬼”と表現すべきだろう。

「ギャギャギャ!」

 小鬼は悲鳴のような声を上げて頭を引っ込めた。

 悲鳴上げたいのはこっちなんですけれど。(元)うら若き(元)女子高生が、鬼に逃げられるとか。

 まあ、こっちも逃げましょうか。

 一応念話は飛ばしとこう。

『失礼しましたー!』

 退出の決まり文句である。絶対、失礼したとか思ってないのにね。私だって思ってねえ。

 ……。

 念話を飛ばした瞬間、柵向こうの慌ただしいざわめきがぴたりと止まった。

 これ、通じたやつかな? それとも、なんか失礼でもしたかしら。いずれにせよ。

 逃げるか。

 すたこらさっさー。

 ところで、タイトルは一番凝るべきであるとは思うんですが、直感に従うのも大事だと思います。ほら、思い立ったがなんとやらですよ。


 あ、少なくとも投稿前に検索ぐらいした方が良いと思います。ほら、適当に名付けたら、検索で一番上に某ゲームのwikiとか某ゲームのwikiが出たり、なんだったらこのサイト内に先達がいたりしますからね。なんてこった!

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