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骨の王  作者: 三井崎瑞希
第一章 七つの大罪編、的な
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バベルの塔は壊れてない

「……ん、ぅん」

 兎を食べ終わり、狼を食べる為に(エスカリさんの文句を聞きながら)処理して焼いていると、白少女が呻いて目を覚ました。

 白ちゃんは寝ぼけ眼を両手で擦りながら起き上がって、一つ伸びをして、それからやっと私を認識した。

 薄い灰色の瞳が、私のらへんと合う。アルビノって目は赤いんじゃなかったっけ?

「……□△□  ?」

 うん、分からん。掌を上に向け、指先は外に向く「やれやれ」なジェスチャーをしてみせると、白ちゃんはかくりと首を傾げる。そして、くすくす笑った。子供っぽいその感じが面白くて、私もカタカタ笑った。笑っているように見えたかどうかは兎も角。

 ま、兎に角だ。焼き上がった狼肉を肉焼き棒から外し、処理済みの残りをまた突き刺して火にかける。つまみ食いした狼の肉は兎とは違う香りで、やっぱり美味しかった。極上とは言い難いけれどね。焼けばやっぱり美味しくなるに違いない。

 くぅ、と白ちゃんのお腹が鳴ったので、私は肉を少し分けてやる事にした。捌いたり焼いたのは私だけれど、肉を持って来たのは彼女だからね。石ごと差し出すと驚いたような顔をして、それから恐る恐る受け取ってくれた。

 印象は上々だ。アンデッドというくくりらしいスケルトンは、多分人類の敵になるのだろうし、多分私ならいきなり悲鳴を上げて逃げるだろうから、敵意が無い事を理解して貰えたっぽいのは良い事だ。

『まあ、不死者(リッチ)とか吸血鬼(バンパイア)なら兎も角、ただのスケルトンだもんな。出会い頭に神聖魔術でもおかしくはねえ』

 ですよね。だから第一印象が良いのは良い事なのですよ。

 自分の分も石に乗せて、頂きます。噛みつくと口の中に広がる肉の味。若干獣臭い感じがまた乙な感じだ。イッカク兎には劣るけれど、なにより量が多い。降ってきた狼は全部で十三体で、その全部が食べられるから、二、三匹ちまちま捕っていた兎より、私的には良いのである。

 今は質とか言ってられない状態だからね。飢餓感は増すばかりなのに調味料なんて一つも無いし。

 食べ終わって、焼けた気がする次の肉を下ろそうと顔を上げると、白ちゃんが不思議そうに私を見ていた。

 観察されるのは嫌いなんだけれどねえ。

 気付かなかった事にして次の肉を焼きつつ、焼けた肉を食べる。

 ……超見られてる。

 ねえエスカリさん、お前言葉分かるんだから通訳とか出来ないの?

『通訳もクソも、念話は言語じゃねえからバベルの塔の影響は受けねえぞ』

 バベルの塔ってーと、「力合わせるなんて生意気やねんなー」的なノリで建築中止に追い込まれたあれ?

『……まあ大体合ってるか。あの時代、人間は魔術を持っていなかったから、バベルの塔で分割されたのは言語だけだ。思念で会話する分には問題無いだろ?』

 知らねーよ。

 で、その念話とやらはどうやるんです?

『念話は魔法だからな、自分の意識を相手の意識に触れさせるような感じを強くイメージすりゃ良いのよ』

 また分かりにくいですね。魔法だか魔術だかもよう分からんし。

『気が向いたら教えてやるよ』

 気が向く前に売ってやろうかな。

 さて。やり方を教えて貰った以上、やるしかあるまい。空っぽの頭蓋骨の内側辺りに球体の意識をイメージする。はっきり意識できたら、境界線を曖昧にして伸ばしてゆく。

 集中の為に肉を囓る。

 白ちゃんの胸の辺りにも意識をイメージして、互いのそれを表面だけ触れさせるようなイメージ。イメージ。イメージ!

「○ ……○ △□○?」

 言葉の方は分からない。が、なんとなく何を伝えたいのか理解出来る気がする。

 多分、「あの……なんですか?」的な台詞だ。文字数も三点リーダも合ってるからね。

 もうちょっと、触れる面積を広げる。念話というからには任意の言葉を伝えるだけで、内心ダダ漏れたりはしない筈。そういうイメージだ。

 送る言葉は「聞こえますか」、だ。

「△…… △? ○△?」

『え……声? 誰?』

 お、意味が理解出来たぞ。

『目の前のスケルトン』

『……え?』

『狼の肉焼いてる私です』

 言葉にならない困惑と混乱の思念が伝わってきた。

『す、スケルトンに念話が使えるの……ですか?』

『私だからね』

 美味しい食事の為ならば、例え火の中水の中だ。

『あ、あの、助けて下さったんですよね?』

『まあ、気絶したのを摺っただけだけれど』

『でも、ありがとうございました。死声の谷で気絶なんてしたら、すぐ死んじゃいますもんね』

 死声の谷?

『ここは死声の谷?』

『え? はい。私達はそう呼んでいました。聞くと死ぬ声が聞こえる、絶対に近付いちゃいけない場所だって。人間がどう呼んでいるのかは分かりませんけど』

 ……。

 やっぱ、富士の樹海じゃないね。そもそも谷なんてあったらどっかの文献にある筈だし。

『まあ良いや。貴女の名前は? 私は今の所名無しちゃんだけれど』

『アスリア・リ……アスリア・シュトゥルール、です。名前、無いんですか?』

『まあね。まあ、色々あって前の名前は使わない事にしたって感じ』

 超日本人だし。というか骨だし。あんまり元の名前は名乗らない方が良い気がする。

 あんまり好きじゃないしね。花はあんまり腹の足しにならないし。

 名乗るとしたら、何だろう。考えておこう。

『で、白ちゃん。どうして狼に追っ掛けられて、その死声の谷とやらに落ちてきたのか教えて貰える?』

『は、はい』


 曰く。アスリア・リなんとかというエルフの少女は、その見た目故に里を追い出された。その際にリなんとかという家名も剥奪され、エルフの古い言葉で虚無を意味するシュトゥルール(ナナシ)を名乗る事となった。

 訳すなら、“アスリア・家名無し”という訳だ。

 エルフにとって家名はとても大事なもので、それが無ければ他のエルフ達にも認められず、重犯罪者のような扱いをされると言うのだ。

『しばらくは森の浅い所で果実を取って凌いでいたんですが、突然魔物に襲われて……』

『必死に逃げてたら突然地面が無くなった、と』

『はい。追いつかれないように魔法を使っていたので、魔力もほとんと残ってなくて、着地にも失敗して……』

 で、気絶。追い掛けていたわんわん共も勢い余って落下死して、私に食われていると。まあ、簡潔にすればこんな感じだ。スケルトンの目の前で気絶するとか、私じゃなけりゃ死んでましたね。間違いなく。

 まったく。エルフなんて素敵種族がいるのは嬉しいけれど、これじゃ人間と大して変わらないね。全は個、個は全の為に。ただしお前は仲間外れ。

『髪も白いエルフは時々生まれて、月の寵児って呼ばれるんですけど、普通血は赤いんです。でも、私は血も白かったから、化け物だって』

『ヘモグロビンが無い的なやつか』

 しかし、よく見るとそうでもなかった。ちゃんと白い色が付いている、って感じ。

『へも……?』

『血の主成分みたいなものだよ』

 カルピスウォーターの主成分が水じゃなくカルピスなのと同じだ。量より質なのだ。

 ときにエスカリさん、これ何なのか知ってるかい

『知らねえなあ。髪が白いのは時々生まれるが、弱いのが生きられる程優しい時代でもなかったからな。大抵はすぐ死んでたよ』

 さいですか。

『まあ、境遇は分かった。それで、これからどうするの?』

 尋ねると、白ちゃんはまたかくりと首を傾げた。

『どうしましょう……私の魔法じゃ、上に上がるのは無理だし……』

『谷の端っことか上がれる地形になってない?』

『里の大人は、全体が切り立っているから、自力で登るしかないって言ってました』

 うーん。となると、洞穴で苔を食べつつ移動するのも無駄か。やっぱり、洞穴を攻めるのは間違ってなかったね。うん。

『じゃ、きみは私と同じか』

 登るのは試してないけれど、上に行きたいのは一緒だ。

『あなたもそうなんですか?』

『まあね。ここは食べ物が少ないから、上に行きたい』

 ある種の監獄のような気もするし。

『私はどこかに上と繋がってる洞穴が無いか、適当に入って探してるところ。一緒に行くかい、白ちゃん』

 右手を差し出す。

 白ちゃんはまたかくりと首を傾げて、それから笑顔で手を取った。

『はいっ、スケルトンさま!』

 可愛い。可愛い、けれど。

 早急に名前を考えよう。スケルトンさまは無いわ。

 お腹も空いたし、食べながらね。

 ところで、白髪とか銀髪とかアルビノとかオッドアイとか、使われ過ぎて逆に神秘性が薄れるってのはよくある事だと思うんですが、その世界においては珍しいとか神秘的とかってのは理解して読むべきだと思います。ええ、そうですとも。


 あ、白髪とかアルビノが大好物だからもっと増えろって言いたいだけですねコイツ。適当に罵倒しといて下さい。心の中で。

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