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骨の王  作者: 三井崎瑞希
第一章 七つの大罪編、的な
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トレンドってどういう意味?

 相変わらず苔は沢山生えている。さっきの洞窟とはちょっと味が違うから、新鮮な気持ちでがりがりできた。左腕もあるので、狭い通路では両側を削れるのだ。やーはー!

 目印の方は、食べ損ねた苔が点々と落ちてるから問題無い。私みたいに苔を食べる奴がいれば話は別だけれど、生きてるって事はあんまり食べられたりしないのだろうし。

 しばらく進むと、エスカリさんが震えた。

『この先、魔物がいるぜ。俺を抜けるお前の力、見せて貰うからな』

 まあ、力も何も無いけれど。

 一本道を向こうからやって来たのは、イッカクな兎だった。最初に食べたあいつと同じ形だ。あいつよりちょっと角が短かったり、小柄だったりするけれど、同じ種類の兎だろう。

『何だぁ、ありゃ。兎に角が生えてやがる』

 兎は私を見付けるなり、鼻をふんふん鳴らしながら角の先を私に向けた。

『ま、それなりには強そうだな。戦って見せてくれよ』

 どっちにしろ戦わなきゃだしね。押し通るのは面倒だし、お腹も空いている。なにより、イッカクちゃんは美味しかった。

 兎が二本脚で地面を蹴り、向かってくる。さながら騎槍突撃(ランスチャージ)、狭くて直線の通路では到底避けられない。

 というか、広くても避けられないんだけれどね。一応元虚弱女子中学生に何求めてやがる。

 こっちも突撃。角は脊椎の横を通り、頭が近付く。右腕で角の根元を掴み、長い左腕は首に届いた。

 何故か、この身体になってから力がやたらと強い。元は私の骨だろうに、何がどうなってこんな事になっているのやら。

 角を握り潰してもぎ取る。今度は逃げられる前に首も――

 ……。

 握力が低い。蹴りつけられて逃げられる。イッカクちゃん二号は通路の奥に逃げていった。

『……何やってんだ、お前』

 いや、この左腕の性能低くない?

『いや、そっちじゃねえよ。何だ今の戦い方。死ぬ気か?』

 もう死んでるじゃーん?

『いやいやいやいや。もうちょっとこう、避けるとか躱すとか弾くとかあるやろ?』

 お前関西人? イングランドじゃねえの?

『……もしかして、戦い方知らねえ?』

 ええ、そうですね。そう言ったような気がしますけれど。

 ただの、平均にさえ劣る女子でしたからね。ついでに登校してない。しかも死にかけ。というか年齢的にだけ女子高生。

 ま、兎に角兎に角兎ちゃん。

 これさ、新鮮な骨じゃないと強くないやつじゃないですかね。時間が経つと、現状唯一の武器である力さえ消えていくかもしれない。

『さあな……アンデッドの詳しい生態なんぞ知らねえよ』

 うーん。まあ、良いか。どうせ長い事片腕だったから、不便は無いだろう。普通に動かす分には困らないし、そんな感じで行きましょうかね。力が弱ったらその時はその時という事で。

 どんどん奥に進んで行く。色々と考えた結果、エスカリさんは左で持つ事にした。右は使い易いし、腕力だけでも強いからね。その空いた右手で、飽きもせず苔をがりがりしながら。

 別れ道が現れる。足跡から見て、さっきのイッカクちゃん二号は左に逃げて行ったらしい。

『なあ、スケルトンよお』

 はあい?

 進行方向はそのまま左に決定する。

『なんだったら俺が戦い方教えてやろうか?』

 割と深いけれど、やっぱり若干の下りなので、どこかで行き止まるだろう。

 で、戦い方ですか?

『おう。俺の中にゃ、ブリテンの正統剣術やら、ジパングのカタナ術やら、魔術についても色々とデータがあるからな』

 ほう、魔術。ファンタジー?

『リアルだよ。ジパングでは陰陽術とか妖術とか呼んでたか?』

 いや、知らねえよ。

『なら、かなり表にいたんだな。逃げたあんのツノウサギ見付けたら教えっから、用意だけしとけ』

 はあい。

 とかなんとか言ってると、普通にイッカクちゃん二号を見付けた。通路を塞ぐように仁王立ち、赤い目を細めてこっちを向いていた。

 二号ちゃんはきぃと一声鳴いて、頭を下げる。角の先はばっちり私を向いている。

『おい。準備は良いな?』

 オッケーですよ。気合い十分、やる気は六分、お腹具合はマイナス三分ってな具合です。魔術には凄く興味があるけれど、お腹空いたのだ。

『よし。魔術ってのは学問だ。同じ事をすりゃ、同じ結果になる。繰り返せ。「灼熱よ、収束し穿て」』

 同上。

 文言を思い浮かべると、エスカリさんが若干赤に発光する。

『俺を奴に向けろ。そんで、「ファイア」!』

 ふぁいあー!

 刀身が纏っている光が強くなり、剣の先で炎の槍が形成される。そして射出。槍は物凄い速さで飛んで行き、二号ちゃんの頭に突き刺さる。

 次いで爆発。二号ちゃんは即死した。

『色々と前準備をすっ飛ばしたが、まあこんな感じだ。落ち着いたら準備の方も教えるから、しっかり覚えろよ』

 はあい先生。

 それよか食事である。

『……』

 二号ちゃんは頭が爆散した上、焼け焦げていたけれど、槍でちくちくやるよりはよっぽど楽だ。

 外して胴体なんかが吹き飛んだらまずいけれどね。

 まずは毛皮を剥がす。やっぱり刃物は便利だ。切り込みを入れたりするのは、槍じゃ出来ないからね。皮を剥がしたらそのまま足に噛みつく。生温かい血液が溢れ出す。その味は甘露の如くで、噛み切った肉は極上だ。

 握力や腕力と同じく、噛む力も強くなっている。生肉も簡単に噛み切れる。

 ああ、満たされる。余裕が出来たら焼いたりもしたいね。調理というのは人の文明における最高の発明だと思う。


 一番奥には、小さいのともっと小さいのがいた。小さいのは角が短く、もっと小さいのは角が無い。

 十中八九奥さんと子供だ。雌は角が短いのか。なるほどね。枯草が敷いてある辺り、住処だったりするのだろう。

 三号ちゃんと四号ちゃんは思いの外あっさり、避けもせずに剣先に貫かれた。

 これは焼こう。外なら広いし、あの魔法を火種の為に撃っても大丈夫だろうし。

 首を切って、後ろ脚をラビットランス二号で貫いてぶら下げる。それを肩に担いで、私は意気揚々と洞穴を後にしたのだった。


 まだまだ明るい谷底は、多分昼時だろう。相変わらず獣の気配はほとんど無いけれど、洞穴の奥にはさっきの二号ちゃんみたいのが沢山いるのかもしれない。そう考えると、俄然食欲が湧いてきた。

 あ、いや。訂正。食欲はいつも通り。やる気は多分湧いてきている。

 私の目の前には、せこせこ集めて来た乾いた小枝がキャンプファイアー的に積んである。小枝と言えども侮るなかれ、最初の巨木のサイズを考えれば予想は付くだろうけれど、太さは兎も角長さは一メートルを超え、割とでかめ(密度低)なキャンプファイアーだ。

 まあ、実際に組んであるのを見た覚えは無いけれど。こういうのはニュアンスだかフィーリングだかが大事なのだ。

 さてエスカリさん。魔術を使いたいんだけれど、可能なら威力をガスバーナー位に抑えられませんかね。

『ガスバーナーが分からんが、マッチより強いぐらいで良いか?』

 じゃあそれで。

 と、そんな感じで弱い炎を放出する魔術を覚えた。右の手の平(だった部分)から、ガスが足りないガスバーナーみたいに火が出るのだ。割と格好良い。

 それでキャンプファイアー(フィーリング的)に放火魔して、火力が落ち着いたところに肉が落ちないよう刺し直した槍をかける。

 で、回す。焦げないように遠火でじっくり焼くこと三時間、谷底が蔭ってきた頃にやっと良い感じになった。

 火から下ろすと素晴らしい香りが舞う。これぞ文明的な食事だ。素晴らしい。

『いや、原始人の食事だろ』

 だまらっしゃい。お前鉄板にして焼くぞこら。

『やめて』

 ラビットランス二号改め肉焼き棒一号はラビットランス一号よりも細く、ある種の漫画肉的なアトモスフェアだった。

 やだ、横文字多い。私英語分からんのに。

 閑話休題。

 さあ頂きますというタイミングで、私が口を大きく開いて、肉汁滴る良いお肉に齧りつこうとしたまさにそのタイミングで、私のありもしない耳がその音を捉えた。

 どさりと、聞き慣れた人が墜ちる(・・・・・)音。

 振り向くと、目論見を失敗したらしく五体満足で倒れている白い人が視界に入る。次いで、上から草をかき分けるがさがさ音。見れば、やたらと黒い狼? が次々と降ってきていた。

『ダイアウルフに似てるな』

 さいですか。

 その狼はじたばたしながら落下し、目論見を成功させてぐちゃりと音を鳴らした。

 最近は飛び降り自殺とか少ない気がしてたけれど、こうも目の前で連続すると最近のトレンドな気もしてくる。若者の間で飛び降りスーサイドがブーム! みたいな。スーサイドって横文字なのが若者感ね。

『おい、生きてるのもいるぞ。気ぃ付けろ』

 はあい先生。

 肉焼き棒を地面に突き立て、下ろしていた槍を持つ。膝の上に乗せていたエスカリさんは、左手に。

 集団自殺の現場に近付くと、何匹か内臓が出ているのにじたばたしているのがいた。首に槍を突き刺してとどめを刺し、足が砕けただけで割と元気な奴は何度か突き刺してとどめを刺し、動かない奴にも一応突き刺してとどめを刺す。

 やったね、肉ゲット。網が欲しいね。鉄板でも可。

 最後に、白い人だ。見た限りは私より小さい少女。どうやらしっかり五体満足みたいだけれど、落下の衝撃で気絶しているみたいだ。仰向けにすると、その白さがよく分かる。綺麗な白髪、肌も色白というレベルでなく白い。睫毛や眉毛まで完璧に白。アルビノってやつかもしれない。こんなに生気が無いわけではなかったような気もするけれど。血色が悪いじゃなく無い。

 顔付きは人形のように左右対称で可愛らしい。そして、耳が長かった。エルフみたいな感じだ。

『おい、まさかとは思うが……』

 死体に見えるかもしれないけれど、まだ生きてるよ。人間とは仲良くしたいし、彼女を食べるのは死んでから、という事で。

 白い少女を引き摺って火の側に。他の肉は取り敢えず、なるべく綺麗にした平らな石の上に。

 水が欲しい。どこかに小川でもあれば良いんだけれど。

 そんな事を思いながら、食事を再開した。

 ところで、サブタイトルはきっちり分かりやすくつけないと読まれない、みたいのを聞いたんですけれど、実際の所そうでもないですよね。ほら、あれ、実際読み飛ばしてるよねっていう。


 あ、僕は多少の誤字とか矛盾も読み飛ばすタイプです。

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