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骨の王  作者: 三井崎瑞希
第一章 七つの大罪編、的な
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模擬戦

 村から少し離れた所に、木を切り出したお陰で広場のようになっている場所がある。その真ん中にアルダハさんと私、だいぶ離れた所に村の皆が囲むように立っている。

 で、一番内側には鼻を鳴らしているオークの氏族長が、ショートソードを腰に下げている。

 オーク氏族長の彼も、模擬戦の説明をされるとやってみたくなったらしい。強いのと戦えば、きっと強くなれるだろうとかなんとか。

 脳筋め。

 アルダハさんは腰巻き一つで、武器は持っていない。対する私は全裸で、やはり武器は持っていない。

「白ちゃん、エスカリさんをお願いね。セクハラされたら折って良いから」

『しねえよ』

「はい!」

 白ちゃんは最初こそ不安そうだったものの、私の強さを過大評価しているらしい。絶対大丈夫、負けないから、と、まだ不安そうなセフィロを膝の上に乗せて観戦の構えだ。

「かあ、さま。だい、じょうぶ?」

「死んだりはしないから大丈夫だよ。多分」

 きっとね。手加減ぐらいしてくれ……ないだろうなあ、あの感じじゃ。武人タイプっぽいし。

 さて、やるかい。

「念話は切っとくから、死にそうだったら止めてね」

「感謝を、王」

 満足して貰えりゃ良いんだけれど。

 開始の合図代わりに、ニルカさんが上空へ火の玉を打ち上げた。それが小さく爆発する。

 同時に、アルダハさんが地面を蹴って突っ込んでくる。握られた拳は私の頭蓋骨よりでかいし、というか私の身長は彼の半分も無い訳だけれど、にしたって速い。巨体で速いとか反則ですよねえ。

 威圧感と共に私の前に来たアルダハさんは、その勢いのまま右の拳を振りかぶる。狙いは間違いなく頭。スケルトンの弱点だったりするのかしら。

 拳はすぐに私の頭を捉える。

 何故、私がこんな風に考えられるのかといえば、あれだ。走馬灯って奴だ。ゆっくり拳がめり込んでいくのが分かるぐらい、思考が加速(・・・・・)している。

 やっべえな。この人? 本気で殺しに来てる気がする。

 次の瞬間、思考の加速は終わり、身体が太い木の幹にめり込んでいた。

 あー。首が痛……くはない。頭が取れたり……もしてない。

 ……うーん。なんだかなあ。手加減してんのかな。頭もげたりしてないし。

「なら、こっちからも行きますかね」

 よく見れば、結構高い位置にめり込んでいる。何がどうなったのやら。すぐ下に広場が見えるから、そう飛んだ訳でもなさそうだけれど。

 強引に身体を外し、落下する。衝撃で壊れる内臓とかは無いし、骨は折れたりしない。

 着地すると、離れた所で不安そうなゴブリンが覗いていた。

「大丈夫。頭もげたりしてないからね」

 もげたところで、死ぬかどうか分からないけれど。

 反撃の為に氷の槍をイメージし、左腕を前に――

 ……。

 ありゃ。頭はもげなかったのに、関係無い左腕がもげたのか。

「ま、どっかあるでしょ」

 左腕は、魔術適正的な何かのお陰で魔力を通し易かったけれど、右腕が通し難いという訳でもない。楽な方を使っていただけだ。

 右腕を前に。掌から槍が飛ぶ感じで。ちょっと空腹のイライラも篭めつつ。

「どかーん!」

 また、一瞬だった。気が付けば、一直線に抉れた地面と、左腕が無いアルダハさんが肩を押さえて立っているのと、挟んで向こう側の木を氷の槍……じゃない。柱だ。尖った柱がぶち抜いているのが見えた。

 めきめきと音を立てて木が倒れる。その向こうの木も、何故か数本纏めて倒れた。

 ……。

 やっべ。怒りに任せてするからこんな事になるんだ。

「はははははははは! 王、強い! 楽しい!」

 腕が無くなった大鬼は、笑っていた。一応念話を送る。

『ごめんね。戦うの苦手だから威力もよく分からないんだよね』

『お気になさらず! 我等は再生能力もあります故! それより、もっと仕合いましょうぞ!』

 アルダハさんの角が光ると、みるみるうちに腕が再生する。うわあ。

 ……魔法は使わないようにしよう。うん。威力がよく分からん。

 木を蹴ってアルダハさんの前へ。当然のように拳が突き出されるが、恐怖は無い。

 さっきの走馬灯とか一連の流れで、思考が加速するイメージが出来るようになった。魔法による加速は、アルダハさんの拳が止まったように感じる速度にまで思考を加速させる。

 ひょいっと首を振って……うん?

 ひょいっひょいっ。

 ……。

 あれ。私の速度変わんねえの? マジで? そんなイメージしたかね?

 横に避けて思考加速を解く。

「むっ」

 すぐさま反応して、裏拳が飛んでくる。けれど、反射的に思考加速が発動し、何故か身体はそのままの速度で動く。

 裏拳に裏拳を合わせてみる。がちんと、金属でも叩いた感触だった。思考加速が終わると、まさしく金属同士をぶつけたような音が響いた。

 ぎぃん。

「む、む」

 拮抗。ゴリゴリマッチョとガリガリの腕力が同じとか。すげーな、私の身体。というか骨。

 拳に拳を合わせる。その度に思考が加速するお陰で、そんなに難しくはない。左腕が無いから、両方の拳に右腕で合わせなければならないのが手間なぐらいだ。

 終わりそうにないので、拳を避けて二の腕を打ち上げる感じで叩く。

 太い腕が跳ね上がる。そのまま懐に入り込んで脇腹、鳩尾、顎と叩いた。

 アルダハさんが呻いて膝を突いた。まだ頭は私より高いけれど、届かなくはない。右腕を思い切り振りかぶって――

『お待ち下さい、王よ!』

 強い念話が飛んでくる。

 そっちを見ると、小さいオーガがこっちに向かって走ってくるのが見えた。

 いや、小さくないわ。私よりまだでかいわ。流石オーガ。

『どったの? 危ないよ?』

『どうか父をお許し下さい!』

『え』

 何を許せってのよ。

『父はただ、王の強さをその身で感じたいというだけなのです!』

 うん。いや、知ってる。脳筋めこのこの、と思ったけれど、そういうの嫌いじゃないし。私武人タイプ好きだし。格好良いから。ラメニさんとかも含め。

『どうか、父を殺さないで下さい!』

『いや、これ模擬戦だから。死合じゃなくて試合だから』

 何を言ってんだこいつは。

『……えっと、あの。父を無礼討ちしようと……』

『そんな制度は無いよ。無いよね?』

 緑鬼さんの方を見た。ぶんぶん首を振っていた。どっちだ。斜めに振るな。

『アルダハさん、興が削がれたとかって理由で止めない?』

『……いえ。これ以上続けては死んでしまいます。どうか降伏させて下さい』

『それは別に良いけれど、良いの? 今なら有耶無耶に引き分けで終わらせられると思うけれど』

『私が負けていたのは一目瞭然ですから』

 さいで。

 いえーい、勝ったぞー。腕を上げてガッツポーズ。

「……私の左腕どこいった?」

 いや、私のじゃないけれども。洞穴にいた同胞のだけれど。

「母様、木に埋まっておりましたよ」

「あ、ありがとさん」

 ふらっと現れたユグドラが、真っ赤な左腕の骨を持っていた。受け取ってあてがうと、あっさりと繋がって私のものになる。超便利ぃ。

 にこにこしている彼の頭を撫でてやる。ほんとに嬉しそうだねえ、君は。

「はい、模擬戦終わり! 仕事に戻りましょうね!」

 あー、疲れた。

 お腹空いた。

 ……あれ、オークさんどこ行った?

「あの試合の後に挑戦など出来ますまい?」

「さいで」

 ところで、聖人とか天使から名前を貰う外国のシステムが割と好きです。あれですもんね、日本で“素戔嗚”とか“荒覇吐”とか“2:50”とか名付けたら自殺直行コースですもんね。


 あ、僕は子供の名前考えたらまずいタイプだと思います。ネーミングセンス腐ってんもんなあ。

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