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骨の王  作者: 三井崎瑞希
第一章 七つの大罪編、的な
15/31

木人(叩く用じゃないやつ)

 十三の氏族は、それぞれ数人から数十人という、極めて少数からなっている。この森は前の王の魔力により、そこに住まう知性無き生物達も非常に強い。

 私を殺したあのイッカクちゃんなんかも、知能は高いが氏族には含まれていない。が、強い。強い個体は、戦闘力に秀でるオーガやエイプを殺す事もあるらしい。

 つまり、氏族は少数精鋭なのだ。繁殖力に秀でるゴブリンやオークでも、やっぱり三十人前後にしかならない。

 氏族達は森のあちこちで、相互に協力しつつ、或いはいがみ合いつつ暮らしている。

 森全体で考えると、極少数。とはいえ、この……村? は、集まっている事で、一つの群れとしては大きい方らしい。

 綺麗な塩の結晶を砕いて、大事なイッカクちゃん、もといツノウサギの肉を燻製する用意をしている最中、森に出ていたというエルフの斥候が慌てて走ってきた。

 前も見たなあ、こんな景色。

「陛下、デビルボア(・・・・・)がこちらに向かっているのを発見しました」

 あ、氏族が来ましたじゃなかった。

「それが何か問題になるのかい」

「は。至高なる御身の素晴らしきご意向により、我等は研鑽を積み上げておりますが、如何せん月の巡りよりも早く過ぎる時の事であります。かの猛獣の相手は至難を極めるかと」

「ああ、そんなに強いんだ。なら、私もあんまり役に立たないと思うけれど」

 私は食べるの専門だし、エスカリさんにも戦い方知らねえとかなんとか言われたし。

『無様だったもんな!』

「この身到らず。御身のお手を煩わせてしまい無念で御座います」

「うん、まあ良いけれど」

 うーん。名前からして猪なら、罠とか色々効果的な気がするけれど。


 デビルボアは、文字通り悪魔的な強さを誇る、体高三メートルを優に超すバケモノ猪らしい。一度スピードに乗ると手に負えず、ある程度の木々や生物全てを薙ぎ倒してゆくのだという。

 さながら暴走特急。アンストッパブルだ。

 何を求めて走っているのやら、そいつが何故か元ゴブリン居住地に向かって突っ走っている。斥候だったゴブリン達が継ぎ継ぎ念話を飛ばし、最後に受け取った非番の斥候エルフが走ってきた、という事らしい。猪との距離はまだあるけれど、そう余裕も無い。

「取り敢えず落とし穴掘りますか」

 念話でもその旨を伝えつつ、村のすぐ外、恐らく通るであろう木の間に左腕を向ける。

 前は右腕で掘ったりしたけれど、時間も無いし。

 ぐぐっと土が持ち上がり、幅十メートル、深さも十メートル位の、落とし穴というよりお堀が出来た。

「じゃ、槍を底に突き立てようねー」

 ゴブリン達に指示をして作らせた、角材の先を尖らせただけの簡素な槍を、何本か束ねて中程まで埋める。穂先は若干斜め上だ。

 ラメニさんが腕を組み、感心するようにしゅーと息を吐いた。

「我等の罠に似ている。が、違う」

「サイズは兎も角、罠といったらこれかなと」

 ラメニさんも、今は共用語を使っている。念話は少なからず魔力を消費するらしく、魔力が少ないラメニさんには割と負担だったようだ。

 それで分かった念話の特性だけれど、ラメニさん的にはこれまでと同じように話しているらしいのに、今みたいに無口な感じになっているらしい。

 念話は意思を伝える魔法だから、例えば「死ね!」と思いながら「くたばれ」と伝えると、相手には「死ね!」と伝わるのだ。嘘が吐けない。

 ラメニさんは敬意を持って私に接してくれていて、けれど生粋の武人だし、元は人間の言語だからあまり話すのが得意じゃない。念話の時は言葉の裏の敬意がそのまま伝わっていて、今は言葉の表が見えている、という訳だ。

 ニルカさんの元お付き……なんとかさんも、本人的にはもっと遠回しな言い方をしていたのだろう。ニルカさんは別として、他のエルフ達は迂遠で詩的な表現を好むらしいから。

 聞き取りに困る。

「さあ、槍が足りませんよ皆さん。作って作って!」

 木を挟んで反対側にも、同じように落とし穴を作り、増産された槍を立てる。

 で、薄く作った板を渡して、土をかける。違和感バリバリだけれど、まあ良いか。


 はい、結果です。罠は使いませんでした。

 ええ、まあ。折角、そこそこ頑張ったのにね。

 デビルボア、とかいう期待外れな猪は、全長三メートル。体高は二メートル無い。子供なのかと思えばそうでもないらしい、ガッカリサイズなそいつは落とし穴の向こう側、割と広めなスペースに倒れている。両目部分には細い槍が突き立って、根本から血が流れている。

 いやね。最初は待ってるつもりだったんだよ。念話飛ばして、一応意思疎通を図ろうとしたりね。

 いや、遅いからさ。遅いんだよ。超スローなのよ。待ちぼうけ食らって腹減ったり、苛ついたのよ。

 ちょっと槍投げるぐらい、やるじゃん?

 ねえ。

 うん。

 ……。

「良き腕前」

「ありがとさん」

 まあ、うん。ねえ。

「……デビルボア、森の悪魔を一撃に伏すとは。流石は王でありますな」

「あーい」

 考えるのは止めましょうかね。美味しく頂けば、悩みは消えるに違いない。

「焼くぞー!」

 返事は、割と高めのテンションで帰ってきた。

 肉は旨かった。全て良し。


 第零・一回円卓会議にて、私が持つできるだけまともな知識を族長に伝えた。発条を用いたベアトラップとか、鳴子とか。爆発系トラップは確か、爆発物の歴史なんかで知ったんだったかな。なんで殺さない人道的な兵器が歴史書に載ってんだか。

「村の防衛の為に、戦力を幾らか割り振ろうかな。狩りは三交代制にして、狩り、休憩、防衛を順繰り順繰り、みたいな。出来る?」

「お任せ下さい!」

「無論」

「エルフは数が少ないですから、難しいと思います」

「うーん。まあ、私もそういうの詳しい訳じゃないから、役割を割り振りたいと思います。村の防衛、狩り、あと生活を担当する……大臣?」

 協議の結果、緑鬼さんを防衛団長、ラメニさんを狩猟団長、ニルカさんを生活団長、という事にした。

 何故団か。格好良いからだ。

「互いのやり方をよく知って、相談しながら良いやり方を模索するように」

「お任せ頂き光栄です、王よ」

「感涙の極み。有難く」

「感謝します。……それと、最後に一つ質問をよろしいでしょうか」

「はい、どうぞ」

「何故、一回や二回ではなく、零・一回なのでしょう」

 そりゃ、ロマン的なあれだよ。多分。


 さて。私の知識なんてのは図書館入り浸り生活の名残でしかなく、正しいかどうかなんてのも分からない。割と偏っているし、何かを作ったりするには向いていない。

 とはいえ、作れなくても欲しいものはある訳で、ある所から持ってこないと不味い訳で。

 会議の後、ニルカさんを呼び止めると、彼女は何かに怯えるような表情になった。

 声は努めて平静だった。

「はい、なんでしょう。王」

「いやね、私も服が欲しいんだよ。ゴブリンは原始人スタイルだし、リザードは服着てないし。エルフさんの服貰えないかなって」

 今の私は全裸である。というか、肉も無い。筋肉という服を云々というのも無理な話だ。

 ニルカさんはほっとした表情を見せた。

「それでしたら、服飾を趣味にしているエルフに大至急作らせましょう。お好みなどはありますでしょうか」

「あんまり派手じゃない奴が良いな。普段着として使えて、重くないの」

「畏まりました。お任せ下さい」

 よーし。文化的な生活に近付いたね。

 いや、私だけ原始人より前だっただけの話だけれど。楽園スタイルである。骨だけれど。

「あと、農業についての知識はある?」

「申し訳ありません。エルフは森の恵みを分けて頂いて生きるので、自ら森を変える行為を好みません」

「残念」

 では、次だ。

 エルフがどうでも、私には関係無い。元人間らしく、効率と楽さを追い求めないと。

 やるのは、魔力を注ぐ事による強化の実験だ。

 緑鬼さん曰く、人間から魔物と呼ばれる生物は魔力でできていて、魔力が増えると強化されるという。

 だから、その魔力を投げ捨ててるような王(つまりは私)の周りにいて、自分を強くしている。

 なら、意図的に魔力を注ぎ込んでやれば、好きな奴を好きなだけ強化出来るんじゃないかというのを、一番最初に思い付いていた。

 とはいえ、私も馬鹿じゃない。

 いや、前は兎も角今の私は馬鹿じゃない。緑鬼さんで試して、空気入れ過ぎ風船ばぁんになったりしたら困る。知り合いが死ぬのはあんまり好きじゃないのだ。

 だから、実験だ。死んでも問題無い奴にざっと流してみて、どうなるか試す。

 緑鬼さんは自警団(予定)との鍛錬、ラメニさんは狩りの指導、ニルカさんは多分服を作っている。ガガには今現在、生活団長であるニルカさんの下で建築について研究するように指示しているし。

「その、実験って、何するんですか?」

「まずは植物に試そうかなと思ってる。どうやら、この森の木も同じようになっているらしいし」

 名付けるなら『魔樹』だろうか。これも雰囲気が氏族達と似ているから、きっと魔物と呼ばれるものだろう。

「長く王様の魔力を浴びてますからね。性質は魔物と同じらしいですよ」

 ほらね。

 手近な木に左手で触れ、体内という名の骨の中に流れる魔力を感じ取る。

 で、理解している感覚のままに左腕へと通し、木へと注ぎ込む。調整は面倒なので、雑にどかっと。

 ばちん。

 ……。

「ああ我が母神(ははさま)よ! 産み落として頂き感謝致します!」

 なんか、へんなのができた。

「あー、その。うん。なんだ。落ち着け」

「……えーと」

 形は完全に人。美形で中性的なエルフの男性を、もう少し男性っぽくした感じ。手脚は長く、服は着ていない。

 で、浅黒い肌には木目が浮かんでいる。

 触れていた木が急激に育ち、そんで縮んで、木人? 的なのができた。

「そのー、あなたは何なの?」

 尋ねると、そいつは大仰な身振りで笑った。

「お戯れを! 我は母様に産んで頂いた存在ですから、子供と呼ぶか、作品とでもお呼び下さいませ!」

 うるせえ。テンション高ぇな、おい。

「取り敢えず木人という事で、あなたに大事な事を訊きたいんだけれど」

 はい! と、返事までうるさい。

「お前は敵? それとも味方?」

「あっはっは! それこそお戯れで御座いますよ母様。我は母様の子であります故、貴女を愛しております。我は作品であります故、貴女の駒で御座います。どうぞ使い潰して下さいませ。どうか尽くさせて下さいませ。見返りなど必要ありません。母様の役に立てるのであれば、我は世界さえ敵に回しましょう。友に手をかけましょう。望むまま全てを壊しましょう。喜んで食われましょう」

 ふむ。

「なら良し。君の名前はユグドラ。一緒に頑張ろうね、私の(こま)

「有難う、我が母(マイマザー)

 取り敢えず、叫ぶのは止めてね。

「プロメテさん、凄いけど。……なんか、へんなの作りましたね」

 断固否定。できただけです。

「王よ! 貴様か痴れ者め!」

「待て。恐らく敵ではない」

「強大な魔力が動いたようですが……」

 やっべ。凄い騒ぎだ。

 ところで、僕はおかずが甘いの許せないんですが、南瓜をおかずだと言い張る連中どうにかなりませんかね。あれデザートですからね。最後に食う奴ですからね。西瓜と同じですからね。胡瓜とは違いますからね。


 あ、因みに僕は南瓜と西瓜がどっちがどっちだか分からないタイプです。両方甘いって覚えてます。流石に胡瓜は分かりますが。アレ水でしょ?

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