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骨の王  作者: 三井崎瑞希
第一章 七つの大罪編、的な
14/31

言語習得はチートでないべきである

 新しく広い横穴を掘って、そこに気合い入れてなるべく正円に見えるようにした特大の円卓を置いてある。十五個の椅子も布を張って、少しばかり良い感じにしてある。布はゴブリンさんらがどっかから取ってきた奴だ。たかが椅子の為に犠牲になった誰かに黙祷。

 で、そこの一番上座に座っているのが私。隣が緑鬼さん、ラメニさん。二つ開けてエルフ族長のニルカさん。向かいに肘を突いた白ちゃんとガガ。

『どうだいこれ。氏族長が集まって会議するのに丁度良いでしょ?』

『素晴らしいですね、王』

『この集まりを円卓会議と名付ける事にします』

 称号とかはいらないかな。ほら、ガラハッドとかランスロットとか称号で与えると、裏切ったりもめたり何やかんやねえ。

『と、いう訳でですね。取り敢えず今後の方針を決める為に、第零回円卓会議を行いたいと思います。拍手!』

『わーい』

『ぎゃぎゃっ!』

 白ちゃんとガガが楽しげに乗ってくれた。残った三人も戸惑いながら拍手してくれる。

『王、して方針とは』

『取り敢えず、それぞれの氏族が何を得意として、何が苦手で、どんな事がしたくて、何が好きなのかっていうのを発表頂きたいと思います。はい緑鬼さん』

『は。……は? ゴブリンの得意な事ですか。繁殖力に任せた人海戦術とでも申しましょうか。前はゴブリンロード級あたりにならねば知能が低かったので、複雑な命令が聞けない事が短所ですかね。我々は寝床があって食べられれば命令を聞きますので、気兼ねなくお使い下さい』

 質より量、三大欲求を満たせば良し、と。

『ではラメニさん』

『我等はドワーフ族に及ばないものの、鉄の加工が出来ますし、いずれドワーフ族が配下に着いたとしてもその手伝いが可能です。また、数が少なくとも皆が槍の使い手です。ゴブリン族やオークには劣りますが数も増えますし、名誉を重んじますので王に仕えられるというだけで十全に働くでしょう』

 そこそこ質、そこそこ量、見返り無くても働きます、と。

『最後にニルカさんどうぞ』

『はい。ええと……エルフは基本的に長命ですから、様々な知識を提供出来ます。風の魔術に秀で、弓も得意です。ただ、出生率が非常に低く、成長も遅いです。またプライドが高いですから、従わせるのは一つ面倒があるかもしれませんが、我々の利益を考えて頂けるなら命を賭すでしょう』

 量より質、現実主義というか、利己的な知識人枠、と。

 まあ、大体はイメージ通りかな。リザード族がちょっとイメージ薄いけれど、武人タイプと覚えればいい。わあい、ナイスミドル、わたしナイスミドル大好き!

『はい。ではそれぞれを鑑みて、皆仲良くする為に一つ考えました』

 ゴブリンは単純労働力として非常に優秀だ。ので、小屋の製作や力仕事なんかを任せよう。

 リザードは全員がそこそこ以上の戦闘力を持っているし、ラメニさんはじめ戦闘力が高い個体は生粋の武人で、凄く強い。指揮も出来るらしいから、自警団みたいなものを任せよう。

 エルフは……知識を生かして幅広くやって貰おう。うん。決められないからね。頑張れよ?

 とはいえ、いきなり変えられるとも思えない。

『取り敢えず、それぞれの氏族で同じ仕事をしているグループを一緒にしよう。リザード族とエルフ族で狩りをするのは? あとやり方』

『リザードは五人程で槍を用いて行います。皆、一度は狩りに出た事がありますので、どれでも良いかと』

『エルフはあまり肉を食べませんが、狩りを生業にしているのが二人程おります。基本的には一人で弓を用いますが……』

『で、ゴブリン族は雄の半分ぐらいが狩りだったね。じゃあ、やり方は基本的にリザード族のを踏襲する感じで。エルフの狩人さんにはゴブリンとリザードに弓を教えて、一緒にやろう。一グループ三人から四人、弓と槍を使って狩りをする』

 ゴブリンはまあ、雑というか、適当というか、集団で追いかけ回してたら他の個体に当たって、リンチして、わーい。という感じだ。

 リザードの狩りは集団戦で頭脳プレーだけれど、槍だし、自分の槍を大切にしているからどうしても鳥なんかに対応出来ない。私は鳥肉が好きだ。

 エルフの狩りはまだ見てないけれど、個人の欠点を技で補う生粋の狩人な感じらしい。ゴブリンは知能が上がってきているし、弓と集団戦を教えれば効率的な狩りが出来るだろう。

 イッカクちゃんあたりは凄く美味しいけれど、強いらしいからね。うん。

『建築とかは現状維持、適当な感じで。私もまだ直接口出せるしね』

『承知致しました、王』

『次回の円卓会議は未定ですのでよろしく!』

 ま、そんな感じだ。

 なお、白ちゃんは早い内にうたた寝し始め、ガガはほぼ最初から手元で木を削っていた。てめえこのやろう、好き。


 会議を終えて、狩人に話を通しに慌てて出て行ったニルカさんと、何かぶつぶつ言いながら出て行った緑鬼さん、ラメニさんを見送り、円卓には木を削っているガガと、起きたばかりの白ちゃんが残された。

「……○□?」

『会議は終わりましたよ。会議という程の事は話してないけれど』

「 □○○○×、□×○△□○×○」

『ごめんなさい、寝ちゃってました』

 寝惚けてますね。言葉と念話が重なってますよ。

『白ちゃんにも仕事をお願いしたいんだよね』

『はい、なんでしょう』

『今も話してたその言葉について教えて?』

 多分、多分だけれど、森で出会ったキの字さん達人間と、同じ言葉を話していると思うんだよね。

『ああ、大陸共用語ですね。そういえばプロメテさん、念話の中だと流暢なのに、喋れないんですよね?』

『というか、言葉自体が分からないんだよね。念話なら“バベルの塔”の影響を受けないとかなんとか、エスカリさんが言ってたけど。ねえ?』

『おう。バベルの塔は直接の言語にしか作用しないからな。念話っつったら思念だから影響は受けず、そのまま受け取れる。ただ、言語違い同士の念話だと、細かい口調が消えっちまうっつー欠点があるがな』

『だってさ』

 というか、この鉄剣何者なのかしら。久し振りの台詞かと思ったら、難しい事言っちゃって。

『聖剣だよ鶏ガラ野郎』

 女ですー。

ばべるのとう(・・・・・・)はよく分かりませんけど、兎に角、念話なら言葉が分からなくても通じるって事ですよね?』

『その通り。代理ちゃん賢いじゃねえか』

 錆剣を天井にぶん投げて、白ちゃんに向き直る。念話は拒否っ。

『兎も角。念話じゃないと通じないってのは今後困るかもしれないから、言葉を覚えたいのね。緑鬼さんは文字とか知らないらしいし、ラメニさんも同じくだし』

 ニルカさんは除外するとして。

『白ちゃん、暇やろ? ちいと小遣い稼がんかい。白ちゃんになら色付けて払いまっせ?』

『いえ、お金とかはいりません。助けて頂いた恩、まだ返せていませんし』

 普通に返された。

 これが細かい口調って奴かい。

『そうだ』

『黙れ鉄剣!』

 閑話休題。

『しばらく私も時間が余るだろうし、半年ぐらいで覚えられたら良いや、な感じでお願いね。可能なら早めに』

 どうせしばらくは、既に教えた事でなんとかなるし。農業はニルカさんにぼちぼち相談、畜産業はまだ多分無理だけれど一応聞いてみようか。エルフにそういうイメージは無いけれど、一応ね。

『じゃあ、今からやりますか?』

『よし、やるか! ガガもやるかい?』

『木! ヤル!』

 否定。それより手元の木が気になるらしい。

『じゃあ、ここでこのままやりましょうか。文字が書けるように木版作ってくるね』

 ちょっと離れた所で木を囓り倒し、半分ぐらいは村に置いて、残りを薄めの小さめの木版にする。火を焚いた後の灰を脂(ここ何日かでイッカクちゃんやらの脂肪から作った奴)と混ぜて、万能技術(まほう)で固めて、鉛筆的な何かを作った。

『じゃあ、取り敢えず文字を全部書きますね』

 白ちゃんは手慣れた様子でさらさらと文字を書いてゆく。全部で二十四個だ。

 ……。

『どうしました?』

『いや……うん。ちょっと貸して』

 私は別の木版に文字列を書いた。意味は分かるけれど、読み方は分からない。

『これ、念話じゃなくて口に出して読んでみて?』

『えっと……「大陸の英雄達」です』

 ふむ。

『もう一回』

「大陸の英雄達…… ○の○× △□△ □?」

『ふむ。全部の文字の読み方を教えてくれる?』

 やっぱり不思議な事ばかりだ。


 白ちゃんが一文字ずつ読み上げるのを聞き終わった。

『あの……プロメテさん?』

『ちょっと待ってね』

 また木版に文字列を書く。今度は読み方も分かる。

『これ、分かる? 口に出して』

「えっと……“こんにちは、初めまして、私は見ての通り骸骨です。”です。……プロメテさん、これは……」

『じゃあ、こっちは?』

 今度はカタカナでプロメテと書いてみる。

『読めません』

『ふーむ?』

 さっき、白ちゃんが文字の表を書いているのを見ていた時、私はそれを知っていたと確信した。それまでこっちの言葉は聞いても、文字を見る事はなかったから気付かなかったのだろう。

 文字の数は二十四。表音文字だからもしやと思ったけれど、文字と音が対応したらしく、言葉を理解出来るようになった。

『うーん。分からんねえ。なんで読めるんだろ。白ちゃん、今度はこれ』

 共用語でプロメテと書いて見せる。自分で書いておいて、意味が違うと違和感が鳴っている。

ヒノ(・・)、です。どういう意味ですか?」

『その前にこれは?』

 プロメテウス。

「ヒノカミ……火の神、だと思います」

『じゃあ、プロメテって書いてみて?』

『はい。こうでしょうか』

 白ちゃんが書いた文字は、そのまま発音すれば“プロメテ”になると私にも分かる六文字。

 今度は海の神と書いて、その横に考えずポセイドンと書く。同じ文字列だった。意識的に区別してポセイドンと書くと、別の文字列になった。

 こっちの世界に無い単語だから、似た意味の文字に変換される?

 意識して書いた方を白ちゃんに見せる。

『ぽせいどん、って何ですか?』

 ……。

『水の神? 初めて聞きました』

 ……。


 纏めると、

・文字は何故か読めて、何故か書ける。

・文字の発音を知ったら聞き取りも出来るようになった。

・こっちに無い言葉は、同意語に代替されるか、同音語としてそのままか選べるっぽい。

 蛇から出た後、ご同胞の所で見た本の文字は読めなかったけれど、今思い出せば普通に読めている。“大陸の英雄達”も、手に取った本のタイトルだ。

 確かめたくても、あれはちょっとつまみにやっちまったから、現存していない。今更ながら若干後悔している。

 高い本とかあっただろうにね。誰だよ、本をつまみにした馬鹿は。

 聞く事が出来るようになったなら、後は発声だけですね。残念ながら、このホネホネな身体には声帯なんてものどころか、震わせる為の肺や横隔膜、気道も食道も無いわけで、どう頑張っても「かちかち」か「かたかた」位しか音が出ない。

 となると、魔法か。骨を震わせて音を発生させられれば、後は調整出来るかな。

 ……怖いから、動物の骨で試してからにしよう。

『ちょっと骨貰ってくるね』

『えっ? ちょっと、プロメテさん! 突然過ぎて着いて行けません!』

『あ、もう念話じゃなくても大丈夫だよー』

「プロメテさん!」

 食い散らかした猪とかの骨は、ゴブリンさん達の武器にする為一ヶ所に集めてある。その中から適当そうな骨を何本かかっぱらって、横穴に戻る。

「プロメテさん、なんで骨なんですか?」

『実験用です』

「……えーっと」

 振動。震えろ震えろ。こんにちは。

「ぐぅぉんにづぃわぁ」

「ひっ」

『どこの幽霊だこれ』

 思ったよりおどろおどろしい声になってしまった。白ちゃんがびびってる。ガガは無反応。気付いてないっぽい。

 調整調整。

『ちゃんと聞こえたら教えてねー』

 と、前置いて色々やってみて、最終的にちゃんと聞き取れる声が出来た。

「こんにちは、はじめまして。私の名前はプロメテです」

「凄い! 凄いですプロメテさん!」

 骨に耳をくっつけた白ちゃんがはしゃいで、抱き付いてきた。そして、はっと気付いて顔を赤くしながら離れる。

「で、でも、随分ちっちゃい声になりましたね。ここからじゃ聞こえないと思います」

 問題点一、音が小さ過ぎて、密着しないとほぼ聞こえない。大きくすると共鳴でもしてるのか、全部の音に濁点を付けたような声になる。「ぐぉんに゛ぢわ゛ァ」といった次第。

『しかも、念話の声と全然違うねえ』

 問題点二、元の声と全然違う。割と高め、でも男でも女でも通りそう、ぐらいの中途半端さだ。これ以上高くすると、やはり共鳴的な何かしらで「きぃん!」となってしまう。

 問題点一は、まあ風の魔法で振動増幅とか出来るだろう。

「こんにちは白ちゃん、これならどう?」

「ちゃんと聞こえます……すごく、掠れてるけど。あ、でも、王様っぽいですよ。こう、威厳が出てる感じです」

 増幅したら、まあ声が違うのはこの際無視するとして、掠れたような声になった。

「よきにはからえ」

「あははっ、王様ですね!」

 ……まあ、良いか。

 今度は、自分の身体で試す。まず左腕、それから右腕、両脚、肋骨、頭蓋骨と色々試して、薄くて広いのが幸いしたのか、頭蓋骨が一番やりやすくて綺麗な声になった。次点は骨盤。それ以外はどこでもあんまり変わらない。

 更に、頭蓋骨での振動はイメージ的に合致するのか、普通に喋ろうとすると勝手に発動するようになった。周波数がどうとか振幅だか共鳴だかを考えなくて良いのだ。かなり昔、まだ田中さんとか佐藤さんとかとお話し出来てた頃と同じ感じで、喋れば音が出る。

「どーも。白ちゃん、ガガ。私の名前はプロメテ。見ての通り風通しの良い身体をしています。趣味は食べる事、特技も食べる事、やりたい事は食べる事、やるべき事も食べる事、な王ですよろしく」

「わー」

 小さめの拍手。

 ガガは困惑顔である。

 言葉通じてないからね。仕方ないね。ゴブさん達、大陸共用語とやら分かんねえかんね。

「聞き取り易くなりましたね。まだ、結構掠れてますけど」

「まあ、我慢する事にしましょう。さて、ご飯にすっかね」

 イッカクちゃんの肉、氷室に入っていた筈だ。

 魔法って便利だね。ど素人でもさくっと氷室とか作れるし。

 仕事は明日で良いや!

 ところで、前述とか前述の通り、僕は誤字とか読み飛ばすタイプですが、同時に文語的な表現、小説でのみ通用する類の文法を好んでると思います。そのせいで口語表現に違和感バリバリだったりするんで、本ばっか読んでないで友達と飲みに行きましょう。


 あ、僕に友達はいませんでしたね。酒は一人で静かに飲むべきですよ! 異論は認めません!

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