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骨の王  作者: 三井崎瑞希
第一章 七つの大罪編、的な
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序盤ノルマ「力の誇示」

 次の日。リザード達の後続が村にやって来た。私は昨日と同じく門の上で彼等を出迎える。木々の間から現れたリザード達は、最初に来たのより小ぶりな槍を持っていた。

 で、一緒に人間も出てきた。

『おやまあ、随分と大所帯で』

 よく見れば、耳が人間より長いのが分かる。多分、というか間違いなく、エルフだ。数は十人程。弓を背負い、ナイフを下げ、先頭と真ん中らへんの白髪二人を除いて皆金髪だった。

『何故エルフが……』

『ラメニさん達と同じ理由じゃない?』

 人手はいくらあっても良いし、ゴブリンだけじゃどうしても味覚が偏る。本音を言えば芋虫ばっか食ってんじゃねーよ、という事だ。リザード達は虫も食べるらしいし、ゲテモノ食いばっかじゃねえか。

 その点、エルフなら私の味覚に合う何かがあるのではないだろうか。

 段々と近付いてきたのに合わせて、合図を送って門を開いて貰う。青い鱗が並び、その後ろから白い髪が……なんか見覚えありますねえ。

 門を降りてリザード達の前に立つ。先に来ていたリザードとゴブリンが武器に手を掛け、エルフ達を警戒して……あ、気付いた。

『…………プロメテさん?』

『プロメテ?』

『はろー白ちゃん、エスカリさん。おひさ。元気してたか聞きたいんだけれど、その前に、どういう状況?』

「△ □□○○!」

 白ちゃんが駆け寄って来て、リザードとゴブリン達に武器を向けられて止まった。

『彼女は私の友達。敵じゃない。オーケー?』

『武器を下ろせ! 王の御友人であらせられるぞ!』

 そこまで大層にしなくてもや。

 白ちゃんに手を振って、こちらから近付く事にした。

『プロメテさん、お久し振りです!』

『おひさ。会えて良かったよ』

『私……私、プロメテさん、死んじゃったんじゃないかと思って、エクスさんとずっと心配してたんですよ!』

 なんか泣きそうになっている。よしよししたら、涙でぐちゃぐちゃのまま笑った。

『ぶっさいくだよ白ちゃん。取り敢えず、屋根のある所に行こうぜ。積もる話もあるしね』

 積んである話とも言う。


 取り敢えず白ちゃんと、エルフの族長さん(真ん中らへんにいた白髪さん)とそのお付き、ラメニさん、緑鬼さんを纏めて私の部屋、もとい横穴に招いた。

 玉座に座り、こっそり用意していた椅子を出して皆に勧める。白ちゃんは椅子を玉座に寄せて座り、エルフ族長さんのお付きがしかめっ面をして、ラメニさんがちらと立て掛けた槍を見た。

『じゃあ、まずは何から話そうか――』

『その前に一つ、よろしいですか』

 口を開いたのは族長さんだった。

『良いけど、その前に名前を教えてね』

『エルフの族長、ニルカ・リルカと申します。彼はお付きのラッカ・レンド。代々、リルカ家に仕えています』

『私はプロメテ。見ての通り骨だけど、今は王様らしいね』

 王様、という言葉に、お付きが反応した。

 なーんか、嫌そうなんだよね。

『で、何かな』

『そこの……シュトゥルールの娘が持つ選定の剣が、彼女を王の代理であると言っております。真でしょうか』

 いや、ちょっと何言ってるか分からないですね。

 首を傾げて見せると、エスカリさんが念話を送ってきた。

『俺を扱えんのはアーサーとお前、つまり俺が認めた奴だが、一応王を選定する剣だから、つまり俺を扱える奴は王であるって事だ。で、お前が俺をほっぽり出しやがったから、代理でアスリアを使い手に選んでるが、アスリア自身は王じゃねえ。エルフ共は追い出した忌み子が神聖な王の剣に触れられるってのを、凄まじい屈辱だと感じたらしいんだな』

 あー、はいはい。

 そういうのは先に説明しとけよ、エスカリボルグ。

『鈍器じゃねえわ』

『そういうあれなら合ってるよ。私がエスカリさんと契約したけど、いろいろあって離れちゃったからね。白ちゃんなら任せられるし』

『そうですか。失礼しました』

 お付きの歯が砕けそう。カルシウムカルシウム。

『じゃあ、本題に。エルフさん達は何でここにっていうのがまず最初』

『新たな王に、森へ住む許可を頂きに参りました。それと、可能ならば仕える許可を』

『まあ、住むのは勝手にどうぞって感じだね。私、この森じゃ新参な訳だし、元からいたのを追い出す気は無いよ。あと、手伝ってくれるなら大歓迎』

『感謝致します、新たな王よ』

 王の権威は凄いというのかなんというか、皆手伝ってくれるらしいし、この辺りの発展も進むだろう。

 異なる文化の接触は、新たな文化を創るのだ。

 取り敢えず、資材の割り振りの話でもしようかと口を開こうとした。

『――私はまだ、あなたを王とは認めていない』

 案の定、というか当然、その言葉はエルフのお付きだった。

 ラメニさんがふんと鼻を鳴らしてお付きを睨んだ。

『エルフは礼儀も知らんか』

『鱗付きが森の種族たる我々に口を出すな。突然現れて、突然王を弑し、自分が王などと。そもそも、この不遜なスケルトンが本当に王を弑したのかも確認出来ていない』

「○□○○×、○△○!」

 族長さんの諫めるような鋭い声が飛んだけれど、駄目だった。緑鬼さんとラメニさんは流れるように棍棒と槍を持ち、お付きに強い殺意を向けた。お付きの方も腰ベルトから短剣を抜き、族長は溜息を吐き、白ちゃんは私の方に近付いてエスカリさんを構えた。エスカリさんは盛大に溜息を吐きつつ、申し訳程度に光っている。というか爆笑を堪えている。

 私は玉座から立ち上がり、左腕を上げた。

『ストーップ。ヘイてめえら、喧嘩なら余所でやりな。私の寝床が荒れるじゃねーか』

 威圧のイメージ。ここ何日かで培った、魔力とやらの感覚を研ぎ澄ませ、緑鬼さんやラメニさんがお付きに向け、お付きがこちら全員に向けているような“殺気”を放出するイメージで。

『静かにしろ』

 びくり、とその場にいる全員がぶっ倒れた。近くも遠くも、鳴いていた鳥や虫の声が一斉に止まり、近くの生活音や、木々のざわめきさえ消えて静寂が訪れる。

 私は玉座に座り、息を吐く感じをした。空気は出ないが、一息ついた感じがする。ふいー。

 ……。

 やべえ。やり過ぎたかもしらん。

 一番最初に緑鬼さんが口の泡を拭いながら起き上がったのは、それから三時間も後の事だった。


『王よ、お許し下さい。ラッカはまだ若く、相手の魔力が見えないというのがどういう事なのか、理解していないのです。厳重に罰を与えます。王が望むなら足でも舐めます。私達の命もご自由になさって下さい。自ら首を切りましょう。ですからどうか、どうかエルフ氏族だけは』

 緑鬼さん、ラメニさんが起きてから、遅れる事十時間程。天辺を少し下る所にあった太陽はとうの昔に沈んでいて、鳥や虫や生活音も戻っている。

 そんな感じで、涎で水溜まりを作りながら目を覚ました族長さんは、しばらく辺りをきょろきょろして、何か呟くと同時に顔を真っ青にしながら、まだ起きないお付きの前で額を地面に擦りつけた。白髪が水のように流れて広がった。

『いや……こっちもやり過ぎたよ。思ったより広かった(・・・・)ね。素人だから許して。ごめんね?』

『滅相もありません』

『命とか取らないし、仲良く出来るならそれで良いから。仲良き事は美しき哉々、だよ。皆で仲良く、互いを尊重して助け合うっていうのが理想だからさ』

 まあ、所詮理想ではあるけれど。

『でもまあ、これ以上私の邪魔をするなら……』

 因みに、丸まって静かに眠っていた白ちゃんが目を覚ましたのは、それより二時間程前だ。エスカリさんは気絶せず、ずっとゲラゲラ笑っていた。ので、私は念話の拒否を覚えた。

 さて、族長さんから遅れる事一時間。お付きのなんちゃらさんが、緑鬼さんを始めとするゴブリン精鋭部隊十人、ラメニさんとその弟子達三人、不安そうにちらちら私を見ている族長さんと新しく任命された顔色の悪いお付きのエルフ、エスカリさんに手を掛けている白ちゃん、最初王冠に付いていて逃がしてやったのに戻って来た芋虫二匹、なるべく笑顔を作ろうとして表情筋が無い事を思い出した私、という面子に見守られる中目を覚ました。

『……む、私は……』

『こんばんは。力加減間違えてごめんね?』

『……何が』

 どうやら、お付きは混乱しているらしい。族長さんが手を上げた。

『王、発言をお許し下さいますか』

『別に良いよ』

『では。……ラッカ、あなたを私の杖から解任します。そして、エルフ氏族から追放します。森から出て、二度と戻ってはなりません』

『な……私を、シュトゥルールに堕とすというのですか。代々仕えるレンド家の私を――』

 お付きは尻すぼみに言って、私の方に視線を向けた。途端、顔を青くして俯いた。

『いいえ。無名(シュトゥルール)を名乗る事さえ許しません。あなたは最早、エルフではない』

 お付きは顔色を悪くしたまま、歯軋りをしてから頭を下げた。

「×○○×○△、×△× △」

 何を言ったのかは分からなかったけれど、最早こちらへの敵愾心とかは無くなったらしい。立ち上がってからもう一度、今度は右の手首を胸に当てて頭を下げ、横穴を出て行った。

『エルフさん達にとって、森からの追放がどうとか、シュトゥルールとかがどれだけ重大なのかは分からないけれど、少なくとも緑鬼さん達は納得させられると思うよ』

 現代日本に生きた私としては、たった一度の過ちで追放されるなんて厳しいと思うけれど、そこは文化の違いなのだ。少なくとも、今の私が口を出すべき事じゃない。

 私は王として未熟だ。

 なるつもりもなかったし。


 エルフ達にも小屋を用意しようとしたら、そこまで手を煩わせる訳にはいかないと遠慮された。

 どうするのか見ていると、エルフに伝わる独自の文化というか、近くの木を変化させてツリーハウスのようなものを作っていた。木を傷付けず、獣の邪魔をしないように、害されないように、という実用性に満ち満ちたそれは、凄く格好良かった。洗練された、ありのままの自然の美しさ、みたいな。

 一緒に見ていた緑鬼さんは感心した様子で、ラメニさんは高い所は嫌だと呟いていた。

 ゴブリン達やリザード達に軽く謝ったりしながら横穴に戻る

『では、王よ。心配ないとは思いますが、我等は外で警備しております故、何かあれば』

 と、緑鬼さんとラメニさんが横穴を出て行くと、白ちゃんが遠慮がちに駆け寄って来た。

『プロメテさん、色々ありましたけど、取り敢えずエクスさんを返します』

『おうおう、契約者殿よォ。てめえ俺の事忘れかけてるだろ』

『だってうるさいし……』

 最初とか売ろうとしてたし。今もだけれど。

『ありがとね、白ちゃん。槍はどっかいったし、武器が無いと困るかもしれないから助かるよ』

『いえ、私もエクスさんがいなかったら死んでましたから。こちらこそ、ありがとうございました』

『感謝しろよ、代理ちゃん』

『へし折るぞ』

 白ちゃんを代理ちゃん呼ばわりとは何事か。

 まあ、兎に角無事で良かった良かった。

『あの、プロメテさん。あの時、何があったんですか?』

『ああ、分かれた時? いや、いつの間にか腹の中にいてさ。しょうがないから腹食い破ってから全部食べてやったぜ。あいつ、でかいだけで大した事無かったんじゃない?』

『ハッ。アレが大した事ねえなら、俺はただのよく切れる鉄の剣だわ』

『まあ、でかさは大したもんだったね。この鉄剣は耄碌しているという事にしよう』

『ざけんな骨ェ!』

『あははっ』

 なんというか、安心感? 谷から脱出した後、王様王様言われてたから、なんとなく息苦しかったのかもしれない。

『白ちゃんは? 蛇には飲み込まれなかったんでしょ?』

『はい。エクスさんのお陰で。魔法の練習をしながら洞窟に入ったら、結構あっさり外に出れたんですけど……』

『なんじゃい。私は延々蛇食ってたってのによー』

『あはは。それで、地上から谷の側でプロメテさんを探してたんですけど、エルフの集団に捕まっちゃって。色々あって新しい王様に会う事になったら、それがプロメテさんだったんです』

 びっくりだよ。

『でもプロメテさん、王様だったんですね。凄いなあ』

『いや、私もびっくりだよ。なんでか、王だってまったく疑われてないんだけれど。というか、王って世襲制じゃないのかね』

 少なくとも、私の親はこっちにいる筈がないし、神とやらに王権を与えられた覚えも無い。

 人間と同じとは、まったく思わないけれど。

『兎も角兎も角、私はしばらく王様業(バイト)しながら色々作ったり食べたりするけれど、白ちゃんはどうする? 旅に出たいとかなら応援するよ』

『いえ、プロメテさんと一緒が良いです。氏族には戻れないし、旅といっても私は弱いですから』

『そっか。なら、美味しい食べ物を求めて一緒に頑張りましょう、大臣』

『はい! ……えっ、大臣って』

 さて、もっと魔法も頑張ろう。今日はお休み!

 ところで、僕は冒険者ギルドに初めて言った時に「なんだぁ? ここはいつからひょろっちいガキが女連れで来るような場所になったんだ?」って言われてみたいんですけれど、どこでいくらぐらい払えば体験できるんですかね。


 あ、出来れば、主人公になんとなく惹かれる白髪のトランジスタグラマーになりたいです。ひょろっちいガキは金髪ハーフエルフ貴族坊ちゃん辺りで。

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