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第36話 融けていない氷の不思議

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 腹は無事満たされた。何回も冷やして温めてを繰り返しているから流石に肉の質は落ちたが、だからと言って肉を冷やさないのは容認できない。無論ほっといても最近流行りの熟成肉みたいな感じにはなりはしない。このままではただただ腐って朽ちるだけだ。もし熟成肉にしようと思ったら、厳正な温度湿度管理が求められる。今の自分にできることはとにかく保存できるようにすることのみだ。


 具体的には"清浄液"をまんべんなくかけた後、"保凍氷"を肉全体に覆わせる。毎日やっているのでもう慣れた。それにしてもこの氷便利だなぁ。融けないし……


 ……なぜ、融けない。そう言えば氷を融かして肉を食べる時も普通だったら肉に時間とともに融けてできた水が浸み込んでしまうはずなのに全くそんな感じを感じることはなかった。氷の大きさも変化しない。普通だったらおかしいことに今の今まで何で気づかなかったんだ。普通気づくだろ。


 ……普通って何だ。いやいや、そんな哲学的なことを考えても仕方ないし、何故気づかなかったと考えても気づかなかった事実は変わらない。普通とは何かなんてまた暇なときか寝る時でも考えたらいいし、気付かなかったならこれから気づくようにしよう。考え無しで生き過ぎだ。観察しよう、観察。


 ともかく、今考えたいのはこの氷がなぜ融けないかだ。自然に考えれば絶対に融ける。ここの気候はまだ春ぽくってもそんな寒くない、比較的温暖な場所だし、洞窟さながらの迷宮でも特段寒さを感じたことはない。雪国で道路凍結が珍しくない場所なら氷を置いておいても融けないのは不思議じゃないけどこの氷は今事実氷点下より上の気温の場所でも全く融けていない。


 でも自分が融かそうとしたら何の抵抗もなく融けるんだけどなぁ。絶対に溶けないって訳では無いはずなんだ。それにすぐ蒸発するし。うん? それってもはや融解っていうより昇華してないか。昇華って言ったらドライアイスしか出てこないけど、ドライアイスって白色のイメージだから無色透明の"保凍氷"見ても直結しない。やってみたら分かるし、融かすときに水にできるかどうか一回試してみよう。


 手の平の上にサイコロサイズの"保凍氷"を生成。よし確認準備完了。いざ!


 液体にする描写を思い浮かべて意識しながら融かしていく。するといつもそう融かしていたかのように難なく水になっていき、掌の皺を伝って零れ落ちる。ドライアイスでないことは分かった。 


 結局なぜ常温でも"保凍氷"が融けないかが分からない。自分が作った氷が特別なのか? でも火も水も今まで作ってきて特別だと思ったことは無かった。氷だけがあ~分からん。誰か教えてほしい。て言っても、ここには誰もいないしな。って、そういえばロドアがいるんだった。


 迷宮核に魔力を込めて聞いてみる。


「あのさ、ロドア」


「どうかしたか」


「魔法で作った氷が融けない原因って何が考えられる?」


 今まで一応付けていた敬語を脈絡無く取ってしまったが反応はどうだ?


「いくつか可能性が考えられるが、生まれたばかりのあなたの場合、複合魔法がありがちだな」


 お咎め無し、続行しよう。


「複合魔法……?」


「そう、氷魔法と保存魔法の複合魔法だ」


 氷魔法はいいとして保存魔法……使ったつもりはないんだが、無意識に使ってしまったのかどうか、分からない。


「あぁ、保存魔法っていうのは無属性魔法の一種で軽度なものだと生活魔法の分類になる。あなたが食事の前や就寝前に使っている魔法も同じく無属性の生活魔法だ。あれも原理こそ違うが保存魔法の一種と言っていいだろう」


 保存魔法という新たな単語について考えてしまって妙な間が生まれたことでロドアが察してくれたようだ。ありがたい。

 それと、就寝前にしているのは"清浄"ぐらいだし、ロドアが言いたい"あれ"というのはおそらく"清浄"のことだろう。無属性魔法ってどんな魔法か想像しにくかったが"清浄"も無属性だと知ると勝手に感じていた取っ付きにくさは消えた。

 でも、自分はロドアと喋っているときに"清浄"を使っていないのに、ロドアから"清浄"の存在が出てくるといつも見られていることを今更だが意識してしまう。見られると困ることは別にないけどずっと見られていると何かが違う気がする。見られたくないときは迷宮核入れに仕舞っておくべきだろうか。否、生まれた一番最初から見られてたんだしこれこそ今更な気がする。


 では、もう一つある分からないことを聞こう。


 「んじゃ、そもそも何でありがちなんだ?」


 「よし、ではそこから説明しよう。なぜありがちかと言うと、氷魔法を発動する時に保存魔法と同じようなイメージを浮かべていることが多いからだろう。で、同じイメージ云々に関しては氷魔法の用途が関係している。氷魔法は戦闘時の攻撃にも使われるが、大半は何かを保存する時に使われ、"保存しよう"という思念をきっかけとする保存魔法を氷魔法と同時に無自覚に発動している場合がある。この場合、氷はただの氷ではなくなり、保存魔法の効果付きの氷となる訳だ。ほっておくと癖になってしまうが保存する目的上問題は無い為、自覚しても大抵の者はそのままにしておくがあなたはどうする?」


 うーん。確かに融けにくい氷の方が便利そうだしそのままでもいいのかな。こんなときはデメリットを考えよう。デメリットが無ければそのままでいいがデメリットが一つでもあったら直す方向に舵を切る。


 デメリット、デメリット、何かあるかなー。氷に自然に融けてほしいときってどんなときだ? 直ぐには思い付かない。


「ちょっと、考えさせて」


「分かった。暫し待つ」


 勝手に融けてほしいとき。考えてみたが全くもって浮かばない。言うとすれば保存魔法の分、余計に魔力を使っていることか。うぅー特訓と捉えてもいい気がするが特訓は自由にしたいな。よし!


「じゃあ改善する方向で。改善方法はどんな感じになる?」


「方法としては二つある。保存魔法付きの氷から保存魔法の効果を剥いでいくことで付けないように意識する方法と、氷を生成する時に保存魔法をわざと意識し、保存しない!と反対に考えることで保存魔法を発動させない方法だ。どちらがいい?」


 前者の方法だとただの氷を生成する練習だけではなく付与した効果を取り除く練習にもなって一石二鳥。後者は前者よりも単純だから簡単そうだ。どっちがいいかな。


「じゃ、どっちもお願いします。」


「フフッ、承知した。」


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