プロローグ
初めての小説です。誤字脱字があればどしどし教えてください。
ここは、薄暗く殺風景な洞窟の中。
音もせず、ある男の意識が目覚める。
(う、痛い。背中がチクチクして……砂利?)
眠りから醒めるように徐々に意識が明瞭になるに連れ、感じてきた背中の痛みから逃れるように上半身を地面から引き剥がし、背中に刺さっている砂利を払い落とす。
「こういうの地味に痛いから嫌だなぁ」
誰に言うでもなく愚痴を漏らし、一時的にでこぼこしている背中をさすりながら周りをゆっくりと見渡す。
腕の軽さと見覚えの欠片もない景色に違和感を覚え、天井を眺めながら思いを巡らせる。
こんな状況だ。記憶も飛んでいるかもしれない。そう思ったが、直前の記憶はすぐに思い出せた。祝日で休みになった月曜日、日頃あまり口に含まない比較的大きな飴を家で一人、ソファに座りながら口の中で転がしていた。
そして、喉を詰まらせた。声は少しぐらい出ると思ったが全く出ず、それでも何とか助けを求めようとしたが家族はそれぞれ出かけていて誰もいなかった。ただ息ができない苦しさから出た涙が頬を伝りながら必死に119番を押したが、かかったとしても声が出せないことに気づいた瞬間気を失ったのを覚えている。そしてそれ以降の記憶は無い。
うーん。しばらく考えた結果、疑問が容量限界に達した。本当によく分からない。余りにも唐突かつ呆気なく自分がおそらくだが死んでしまったせいで、感情がバグっているのか、涙も何も出てこない。情報としては認識していても実のところ何も理解できていない。
そもそも、自分は死んでいるのだろうか。そこから疑問で何も考えることができていない。死んだらどこに行くかとか益体もないことを考えたことはあるが、実際行ってしまったときそこがなんであるかなんてそこにいる他者に教えてもらうしか方法はないんじゃないのか。どうすればいいんだろう。
意味の分からない状況で強制思考停止に追い込まれて、数分放心していたが放心するのも限界があるようだ。まぁ、何も考えないよう座禅を組んでもいつの間にか何か考えてたりするしな。
分からないのなら、調べるまで。いろいろ現実逃避していたがちょっとだけ直視してみよう。
では一つ目、異様に軽い身体。先程体を起こすときに、腕の軽さに違和感を覚えた。今見てみると腕は軽いだけでなく短くなっている。短くなっているのは腕だけでなく、胴体も脚も諸々全てである。そして服もズボンも靴も見覚えがない。昔はこういう大きさの服も着ていたが、小さくて着られなくなって使わない段のケースに閉まってある。靴もこんな小さい靴は懐かしいな。
特に何も考えず立ってみる。
「おぉー体が明らかに軽いー」
分かっていたことだが、立ってみるとより体の軽さを実感する。それに目線が低い低い。これだと吊革を握るのは難しいかもしれないな。
そして、今の今まで気づかなかったが声が高い。剣道で声を潰す前の尊い高さだ。それにのどが全くかすれていない。小学生の頃に戻った気分だ。
背丈も声も何もかもが小さい。僕は子供になってしまったのか……なんでなんだ。果たしてこの現状の答えを求めるために暫定的結論を導き出したところでそれが正解かどうか分かるのだろうか。分からない。可能性が低そうなことだけは分かる。だからと言って考えないことはできない。
僕の中にある古典的な部分の常識では、十九歳の青年が突然小学生高学年には決してならない。夜中に結構な騒音を出す牛蛙が突然揚羽蝶にはならないように。ただ、きっかけは分かる。僕がおそらく死んだことだろう。あくまでもおそらくとつけるのは僕なりの精神防衛かもしれない。それを確定づけてしまうとただでさえ多い直視しない現実が指数関数的に増えてしまう。今は棚の上に置いておいても罰は当たるまい。どうせふと意図しないところで目の当たりにするんだ現実を。
あくまで仮定として自分の死を含めて考えると、ここはどこだ。一つの答えを求めるなら先述の「他者に聞け!」に帰結してしまうが、考えられる可能性を洗い出しておくことは決して無駄じゃないはずだ。
では想像できるものとしてはあの世、転生、その他だ。あの世。僕は神も仏も天国も地獄も肯定も否定もせず生きていた。正直ないと思っていたけど、あったら、あったんだー。ないなら死んで終わりだ。そんな感じであるものがある、問うたところで定義したところで救いの手が現れる訳ではないと思っていたから、実際ここがあの世だとしても分からない。そしてもしここがあの世だとしても、痛みは感じるみたいだし。
それにしても、赤ちゃんではないんだな。僕は結構な量のライトノベル、ネット小説を今まで読んできた。その中には転生物も豊富にある。魔物に転生するもの、赤ちゃんに転生するもの、不意に前世の記憶を思い出すもの。他にも転生物ではないが、女神等の存在に勇者として召喚されて転移するもの、巻き込まれて転移しちゃったもの等々、とにかくたくさん種類はあるが大体はこんな感じだろう。しかし僕の今の現状はどれにも該当していないような気がする。赤ちゃんでは見て分かる通りないし、一応まだ自分の顔は見ていないが魔物かどうか今のところぱっと見分からない。のどを詰まらせた以降の記憶はないし、女神の顔も見ていない。まぁ心底赤ちゃんじゃなくてよかったと思う。赤ちゃんから始まる転生物あるけど、発狂しないのは凄いと思う。
また常識に頼ると、子供は親から生まれる。僕には、この身体には親がいるのであろうか。普通はいる。僕にもいるのか。全くもって分からないが留意しておこう。
振出しに戻るが、僕は死んでいないかもしれない。ここは異世界じゃなくて単に僕が知らない場所かもしれない。僕が知っていることの埒外なことが起きているんだ。もしかしたら意識を失った自分が見ている夢かも知れない……まぁ夢だと思っていたけど夢じゃなくて野垂れ死にするとかまっぴらごめんだからそうは考えないでおこう。とにかく、まだ僕は何も分かっていないんだ。それだけは分かっている。凭れ掛かることのできる依存先は全くないけど、僅かな拠り所ができた気がした。
その時、洞窟の闇の先から小さな風の音がした。その音を聞いたとき、自分は我に返った。
(訳の分からないことはこれからも考えるとして、生きているならこのお腹も直にすくんだ。そして万が一転生したと仮定すると、この世界は今までの世界とは別の世界かもしれない。ということは未知の危険にあふれている。もしこの世界が魔法があるような、自分からすればファンタジーで内心、半分ワクワク、半分不安な世界なら、魔物だっているかもしれない。もしかしたら魑魅魍魎が跋扈している世界かも。まずは可能な限りの安全確保だ。生まれ変わってすぐ死ぬなんて、断固拒否したい。)
少し現実を直視して疲れてしまったので誰に言われるわけでもなく壁のほうに歩き、寄りかかる。壁にもたれて少し息をついた。だが食料確保もしないといけないのでずっと動かないわけにもいかない。まずは風が吹くおそらく出口の方向に進んでみよう。と心を落ち着かせながら息をひそめ、向かう方向に視線を移した。
こうしてこの男、尾崎友斗の物語が、ひっそりと幕を開けた。
読んでくださってありがとうございます。