8.そして失恋令嬢は王都で因縁の彼と運命の彼に出会う
異世界転生/転移、恋愛の週間ランキングに一時ランクインすることが出来ました。
これからも拙作失恋令嬢~貴方に出会えて良かった~をよろしくお願いします。
殺伐とした空気が流れる中、可憐な美少女といえる公爵令嬢アリスは、悪辣なる男と対峙していた。ぺっ、と平たい石で敷き詰められた大通りの床に唾を吐いてから、大きく息を吸うならず者、それに対して彼女はピクリとも動かずにその場に鎮座していた。息をしているのかも分からない位に、静かにそこに居た。
「動かないのかよ?」
「貴方から来ても良いですわよ?」
疑問形を疑問形で返すと、都合が悪いような顔をして、舌打ちを男がしてきた。覚悟を決めたような度胸が据わったような目で、力強く地面を蹴って一気に間合いを詰めてきた。
来た!!私の魔法を見せてやるわ。なんだがシルフに浮気されたの思い出してイライラしてたから丁度良いわ。
魔法を使うために、間合いを詰めてきたリーダー格の男とは逆に後ろに少しだけ体を動かす。
「食らいなさい!!」
「がぁぁぁぁぁぁっ!!!!」
アリスの言葉の後に、アリスの男に向けていた腕が光だす。
「フラウアースモッグ!!」
アリスがその呪文を唱えた途端に、彼女の手からは白い煙のようなものが勢いよく吹き出し、たちまち辺りを取り囲むようにしてそこにいる野次馬も含めて真っ白な世界に囚われた。
「ごほっ、ごほっ、てめぇ卑怯だぞ!!」
「あら、魔法と言っても色々とあるのよ、こほ」
そう、私の魔法はこのような誰かに対して身体的、または精神的に致命傷を与えるような効果は持ち合わせていない。その代わり、こういう風に相手の視界を奪ったりすることが出来る。そして、何も見えていない間にこの場から撤退することも容易くなる。私の魔法、致死性もない、使いようによっては、視界を奪う程度には使える。
「私の魔法は……」
真っ白で見えていない男に対して、敢えて偉そうに手を腰に回して、言葉を発する。
「小麦粉を生成する魔法よ!!」
「しょうも無さすぎだろ!!」
突っ込みを受け流して、こほんと咳ばらいをする。
「でもこれで、私の位置を正確に把握は出来ませんね。周りも真っ白で何も見えないでしょ?」
「はっ、それはてめぇも同じだろ」
山中で出くわした野生の猛獣のような歯軋りをし、嘲笑うかのように声が聞こえるが、確かに何も見えないため、その男の様子さえも分からない。このリーダー格の男以外の二人に関しては、アリスが魔法を発動する瞬間に気絶。静かに固い地面に頬をくっ付けてへたりとくたばっていた。恐らくリーダー格の男が居るであろう方向に顔を向けて、端的に言葉を投げる。
「それじゃあ、そろそろ私はここから離れるわ。もう出会いたく無いものね」
「おい」
そのまま、離れようとしたんだけど……えっ?この状況でまだ因縁付けてくるつもりかしら?しつこい男は嫌われるわよ。
そう思いつつも、嫌々ながら男の声が聞こえる方向に耳を傾ける。
「何ですか?」
そう言い放った言葉は、つんけんしていて早く帰りたいオーラを醸し出している声質であった。
「おめぇの名前、聞いてねぇ」
「あら私、女性を三人掛かりで無理矢理連れてこうとする殿方には話を極力しないようにとお母様から教えられていますの。申し訳ありませんが、名前は言えません」
かなり辛辣な事を言ったつもりで、恨み言のひとつでも返って来ると思い、身構えてみたが、恨み言は返っては来なかった。
「……そうか、俺はブラッドだ。いつかお前にまた会うからな小麦粉女!!」
何故だろうか、まともに聞こえるのは気のせいだろうか?いや、気のせいである。だいたい悪人がさっきまでほいほい暴言をこちらに向けて放って雑殴りしてきていたから、急に若干まともな内容の入った会話をされたからそのギャップによりそう思えてしまっただけです。そもそも最後に小麦粉女とは頂けない……割りと真面目にそう頭に浮かぶ。
「そうですか……失礼します、あと小麦粉女は余計です」
そう、少しだけ、嫌な顔をしながら足早にその場を去った。
既に少しだけ視界もうっすら辺りを確認することが出来るくらいに、小麦粉が下へと、落ちていて、効果が完全に切れる前に足早に走って元来た方へと戻っていった。やがてアリスが居なくなったその場所では、地面が真っ白となり、倒れてたブラッドの取り巻きであるならず者達も小麦粉を一身に浴びて、白く豹変していた。
「面白れぇ奴だなあの女……」
ちらりと後ろを振り返るとただ一人、楽しそうに笑っている男の声が微かに聴こえてくるのを感じた。
「はぁ、酷い目にあった」
黒いドレスに白い粉をつけた公爵令嬢アリスは溜め息をつき、走り疲れた後には背後をを確認して、やがてゆっくりと足を動かずペースを落した。
「ちょっと、そこの君?」
「何でしょうか?」
後ろから声が聴こえる。大方さっきの犯罪者予備軍の可能性も視野に入れながらゆっくりと視線を後ろに移す。
「こんにちは、もしかして、公爵家のアリス嬢では無いですか?」
「えっ……あ、その……そうです」
白い粉が服のあちこちに付着していることを気にも留めずに、やっぱりといった感じの反応でこちらに歩み寄ってくる。
「初めまして、僕はルシウス。ルシウス・サラスヴィア、よろしく」
サラスヴィア、王家の家名。よく見て見れば、確かに王族という感じだろうか。王家から代々伝わっている薄い金髪で目鼻立ちも整っており、少し紫掛った目がキラキラと輝いて見える。身長はそれこそ180はあるだろうか、あるいはそれ以上。まるで接点の無いような彼は何故私のことが分かって、そして声をかけたのか?
疑問は疑問のまま、彼女の頭の中に蓄積されていく。しかし、耐えきれなくなった容量オーバーの疑問は問い詰めてストレージを空かすしかない。
「初めまして、ルシウス・サラスヴィア殿下。私はアリス・シスタリアと申します。お声をお掛け頂きましたこと、心より嬉しく思います」
「そんなに畏まらなくて良いよ。それに、僕のことは気軽にルシウスって呼んでよ」
ああ、今日はなんという日なのだろうか。王都に来てみれば、楽しそうな大通り、種々な出店になんとビックリのクレーナのお師匠さんのドンペンさんに出会い、それから初めて一人での王都散策、三人組のならず者に絡まれて、魔法で仕留めて(小麦粉の粉で煙に撒いた)、さらには小麦粉だらけの黒いドレスを着ている私に話しかけてくれるこの王国の王子様。今日は色々とありすぎね……。
さてと一息をつけて、彼女は決心したように口を開く。
「ではルシウス王子、お聞きしてもよろしいですか?」
「何でも聞いてくれていいよ。答えられる範囲ならば何でも答えるから」
「ではまず、どうして私を知っているのですか?」
一つ目の疑問である初対面の自分の存在を姿を見ただけで判断出来た理由をそのまま包み隠さずもせずにストレートに問いかけた。
「それはね……」
一瞬どんな返答が来るのか予想できない為に、息を飲んで次の言葉の続きを待った。
「それは、僕が君の婚約者になりたいからだよ、俺と婚約してくれないか?」
どんなに呆けていたとしても、一発で目が覚めるようなその答えに暫くの間アリスは、思考と行動を止めざるを得ない状況になったのだった。
そして、先程のならず者のブラッド、衝撃発言の王子のルシウス、この二人は彼女の今後の人生に深く関わっていくことになるのは、今の彼女は露も知らないのであった。




