16.貴方と私の決着をつけましょう2
無事に突破できた。良かった……。
安堵の気持ちと共に、軽く息を漏らす。クレーナも安堵したようにスッと胸を撫で下ろしている。
「なんとか逃げられたわ。ありがとうクレーナ、ブランドにも感謝で一杯だわ」
「そうですね、最初ブラッドの案を聞いたときは正気を疑ったわ」
「でも、最終的には、クレーナも納得したじゃない」
そう言うと、大層不服そうに頬を膨らませて、言い返してきた。
「それは、他に方法が無かったからです!」
いやいや、他にもあったよね?私が一人で突入して、小麦粉撒き散らして、その間に高火力の魔法を撃ち込むとか、小麦粉でパンを作って領主に差し入れしたい人としてさりげなく通りすぎるとか、あと小麦粉で……小麦粉ばっかりだからもういいや……。
「ねぇ、それにしてもさっきの所を突破したら、やけに静かね。普通に敵とかがパラパラいそうな筈なのに、全く気配とか無いし。どうしてだろう?」
「私達の目的地に戦力が集中しているという考えが妥当だと思いますよ。これから私達が襲撃に行くこともバレてますし、その後にラズワルド様の方に仕掛けていくのであれば、戦力は一点に集中すべきですから」
なるほど、そういうことか……だとしたら、この先に──。
そうして、馬車は順調に進んでいった。
こちら側に残っている人数は、先程までいた人数の半分程度、十数名しか残っていない。
足止めにあちらに残っているからだ。
流石に厳しいかな?
「クレーナ、この数で何が出来るかしら?」
「今更ですね、お嬢様。何が出来るかじゃなくて、するんでしょ?お嬢様が私に教えてくれたことです。何事にも挑戦すべきです。ここまで来たんですから、どうせなら、色々知恵を出しあって切り抜けましょう」
「そうね、ありがとクレーナ。それから、付き合ってくれてありがとう。クレーナは私の大事な人だわ」
「ふぇっ!?」
そう驚いたような反応をして、クレーナは顔を赤らめていた。
……可愛い。
そんな風に和んでいる場合でもないのたが、自然と笑みが溢れてしまう。
この間にも、私達は戦地に赴いているのに──。
そうして、向かった先には、案の定わんさかと武装した屈強な兵士がズラリと並んでいる。
勝ち目など無いに等しい。いくら歴戦の猛者が集まろうとも、この数には勝てない。そう思わせる位の兵力差が目の前に広がっていた。
「クレーナ、ここまでこれて良かったわ」
「お嬢様と共に……私も今まで楽しかったです」
クレーナのその言葉には、このことを予知していたかのような悟りがあった。
いや、元々皆、無謀なことだとは思っていた。私だってこんな無茶なことをしようとしていたことくらい理解していた。
その時になって、ようやく覚悟ができたような気がした。
敵兵の後方には嘲笑うかのように、ニヤニヤしたシルフが居た。
「やあやあ、こんなとこまで来て、僕に会いに来てくれたのかい?」
皮肉を含んだその言葉には、喉が乾くような嫌悪感を感じ取れた。
「いいえ、シルフ様の顔などもう見たくは無かったんですが、来なくてはいけなくなりまして……仕方無く、です」
「シルフ様、お嬢様を傷付けた報いを受けて戴きます」
私の後に言葉を口にしたのは、クレーナ。
静かに、そして真っ直ぐとシルフの方を見つめて、暗器を構えた。
「ふっ、その程度の人数で何が出来るんだ?馬鹿か!おい、あの愚か者どもを始末しろ。いずれ帝国がお前たちの王国を支配する。手始めに公爵家を落とす。哀れだな、無様に死ぬのだから」
悪辣な笑みを見ているだけで気持ち悪くなってくる。
ぞろぞろと剣を構えた敵兵士がだんだん詰め寄ってくる。
これまでか……。でも、ここまできて抵抗なしな訳にはいかないわよね!
「行くわよ、クレーナ、ブラッド、公爵家のみんな!」
「はい、行きましょう!……あの、お嬢様。ブラッドが見当たりませんが……」
マジかぁ!ブラッドに裏切られたぁ~~~!!!
なんでよぉ~~~!!!
「仕方がないわ、それでもなんとか……」
思考を切り替えて、意識を集中させる。
私を取り囲むようにして、仲間のみんなは守ってくれている。
敵はそれを取り囲むようにして、一進一退の攻防が繰り広げられている。私のしていることは、小麦粉を相手にぶつけて目潰しするくらい。
非力だが、これしか出来ない。
暫く金属の弾き合う音がこだましていたが、次第にこちら側が押され始めた。相手は数が多く、一人辺り数人を相手にしなければという状況により、疲労が見え始めた。
……一人……また一人と、戦線を離脱していく。
小さな穴は、次第に大きくなり、ついに崩壊をした。
「お嬢様!敵が抜けました!くっ……」
こちらに注意をしてくれたが、前方の敵の対処に追われるクレーナ。抜けてきた兵士は、真っ直ぐと私の方へ走ってきていた。
クレーナ、ごめんなさい……。
「ぐあっ!!」
断末魔と、共に、私の前には先程迫って来ていた兵士が、射抜かれて倒れていた。
死を覚悟していたが、どうやら死ななかった。誰かが助けてくれたのだ。一体誰が……。
「アリス!」
少し離れたところから、見知った人の声が聞こえてきた。
「お、お父様!?どうしここに?」
父のラズワルドがそこには居た。
幻覚ではない、威厳が溢れたその風格で、領の兵士を引き連れて、助けに来たのだ。
「アリス、無事で良かった。先程王国から援軍が到着した。既に帝国の兵士は撃退した。これで、全てが終わったんだよ」
「でも、どうしてここが?場所は分からなかったのでは?」
そう聞くと、父は目線で後ろの人物を見るように促してきた。
居なくなっていたブラッドだった。
「彼が、必死に私達を探していてな、彼のお陰でアリスを見つけることが出来た」
彼は少し俯いた感じにしていた。
ちなみに、シルフの兵士たちは、全て戦闘不能になり、事態は呆気なく収束した。
少しだけ、ブラッドがこちらに足を踏み込んできて、深々と頭を垂らした。
「すいません、お嬢様。俺……実はルシウス王子の裏の仕事を任された臣下なんです。王子にお嬢様を守るようにと言われて、ここまで貴女様をお守りしていました。今回の騒動も、分かり次第に王子に報告しており、シャゼル様が王都へ向かわれた時には、既にあちらで準備は完了しており、こちらの援軍に向かって来ていました。お教え出来ずに危険な目にまで遇わせてしまい、面目次第もございません……」
いつもより丁寧な口調と衝撃の事実を知らされて、私はかなり呆けた顔をしていたと思う。
「ありがとう……ブラッド。貴方の、王子のお陰で、終わったのよね?」
「はい、伯爵家のシルフは捕縛し、帝国の将軍も捕らえました。完全勝利です。この勝利は、後々の帝国と王国の力を全ての国に知らしめる結果となりました。これで……終わりです」
「そう、良かった」
口からその言葉が出るのと共に、張っていた気もスルスルと抜け落ちるようにして、力が抜けた。
それからは、とても早くに時間が過ぎていった気がする。
シルフは、国家反逆罪により、牢獄に囚われ、一時の平和が訪れた。
領地に戻ると、領民からの感謝の言葉や、お祝いがとても嬉しかった。
──私は、ここを守れて良かったと思った。
最終話で次回作の発表を行います!




