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14.戦地へそしてブラッド、クレーナ大暴れ

お待たせしました。







 屋敷では慌ただしく使用人や重そうな鎧を着た屈強な男たちが行ったり来たりしている。

 彼らがこんなにも忙しそうにしているのは、私が指示をしたからだ。武装をし、戦の準備をしなさいと言ったのだ。

 かくいう私も護身の為に短い短剣のようなものを持たされている。かなり、装飾が凝っていて、いかにも貴族が持つべき武器って感じだ。


「お嬢様、準備出来ました。総勢24名、内使用人4、護衛20、馬車が四台に馬が15です」


「報告ありがとう、クレーナ」


「おい、お嬢様?なんで俺がクレーナと同じ格好なんだよ?俺は護衛なんだからあの鎧着てる奴と同じじゃねぇのか?」



 クレーナとブラッドは他の戦闘要員とは、格好が違う。

 他の護衛は、重々しい鉄鎧、銀色に光っていてとっても頼りになりそうな印象だ。

 それから、クレーナ以外の使用人三人は、いつもの黒服のままである。

 で、最後にクレーナとブラッド、動きやすいように軽装で、楔かたびらと薄目の鉄の板を入れ込んだ漆黒の服を着用している。クレーナの装備は当然暗器、ブラッドは少し短めの剣を二本装備している。


「ブラッド、私達はお嬢様の最も近くでお嬢様を護衛するから、軽装なんです。いざという時にはお嬢様を担いで逃げたりすることも可能性として有り得るので、重い鎧は良くないと判断した結果、こんな感じになったのです」


「でも、二人ともよく似合っているわ」


 まるで忍者みたいと言いそうになったが自重した。

 二人の顔が心なしか赤くなっているのは気のせいなのだろうか?


 そのまま、屋敷の庭へと全員を連れて出て、いよいよ出発……というところで、思い出した。そういえば、伯爵家に武装集団。帝国軍の騎士達がいる場所と伯爵家の武装集団がいる場所は、丁度お父様がいる場所が挟まれるような形になっている。

 お父様の援軍として合流しようかな……なんて思っていたが、私達は伯爵家の方へと向かって、お父様が挟まれるような可能性を排除しないといけない。


「クレーナ、きっとお父様と合流したら、伯爵家の方から横槍入れられて甚大な被害が出そう……だから、そっちの対処に目的を変更します!あと、合流したら、お父様に怒られそう……」


「分かりました。こうなったらお嬢様にとことん従います。伯爵家に目にものを見せてやりましょう!」


「おいおい、クレーナさんよぉ、お嬢様の最後に入れたボケをスルーってよぉ……いや、なんでもねぇ。やってやるぜ、今まで活躍する機会が無かったからなぁ。今回は暴れるぜ!」



 呼応して、他の騎士達も使用人も皆、雄叫びを挙げた。

 こうなれば、私の言う言葉はただひとつ──。








「皆、帝国も伯爵家もまとめて返り討ちにするわよ!公爵家の底力、見せてやりましょう!」



 言葉の後には、熱狂した大きな歓声が屋敷内外に響き渡った。









 そうして、私達は今、馬車に揺られながら移動をしている。

 無論、あのサプライズをしようと浮かれた気分ではなく、これから何をするのかを知っているので、覚悟の面持ちで──。


 それは、私だけで無い。皆が皆そんな険しい顔をしている。領地を侵されて、領の民が襲われた。

 次は自分の家族が教われるかもしれない。そんなようなことを考えていることだろう。

 皆この地が大好きなのだ。

 住めば都、ブラッドも同じようにこの地を気に入っているようだし、この場所をなんとしても守る。



 で、取り敢えず、私の作戦としてはこうなる予定だ。



 国境に接している伯爵家の領地にいる。武装集団を撲滅。

 ↓

 牽制をしながら、お父様の、方へと合流を目的とし、移動を開始。

 ↓

 道中に敵がいたら殲滅、お父様と合流後、共に帝国の騎士を迎撃。

 ↓

 ある程度、相手を抑えることが出来たら、勝ち目なんてあるわけ無いので、お父様を連れて後方に撤退。

 ↓

 撤退して、さらに持ち堪えて、援軍の到着と共に攻勢に移る。



 実に単純かつ正しい方法だと自負している……戦争とかしたこと無いけど。


 因みに、作戦には既にお父様との連携も完了している。始め、私がそういうことをやると言い出したら危険だからと渋っていたが、なんせ猫の手も借りたいこの状況だ。

 猫の手よりも娘の手を借りたほうがいいだろうということだ。

 そのまま伝令用の戦闘員を行き来させて、緻密に現状の報告を行っている。

 今のところは、帝国の騎士に変化は無いらしい。というか、衝突目前にして静止してしまったようだ。その距離、およそ一キロ程だそう。


 報告を聞く限りでは、あっちの方は大丈夫そうだな。なんてことを考えていると、馬車が突如停車する。


 


「お嬢様、前方に人影が……どうしますか?」


「そう、服装を確認して、伯爵家服を着ていたら捕まえて」


「はい!分かりま──なっ……申し訳ありません。人影が消えてしまいました。数名探りを入れますか?」


「なら、いいわ。引き続き周りを警戒して頂戴」



 とクレーナは顔色変えずに分かりましたと返事をし、そのまま馬車の周囲に目を光らせている。

 人影がいたということはおおよそ敵方の偵察か何かだろう。気が付かれたならルート変更して、少し作戦に手を加えるべきかな?


 などと、考えていれば、今度はブラッドが、

「お嬢様ぁ~?なんか怪しい奴がフラフラしてたからよぉ、お持ち帰りしたぞ」


 衝撃発言を


「はぁ、ありがとブラッド。でも、人間を、そのお持ち帰りって、なんかファストフード店でハンバーガー買ってきたぞ!みたいなテンションで言われると流石に拍子抜けしちゃうからやめて頂戴」


「ファストフード?何言ってんのか分かんねぇが、俺様のボケが気に入らないってことは理解した。んで、コイツどうする?」


「尋問しなさい」


「最低だな、お嬢様」


 心外な、明らかに格好が敵方なのだから尋問は普通にやるでしょ。アニメや漫画でもよくやってるのあったし。


「当然の事よ、ほら、早くしなさい。あっ、私の見えないとこでね」


「へいへい、じゃあ、報告は終わりだ。情報が何か落ちたら伝えるわ」


「ええ、お願い」


 

 短くそう言うと、のそのそと馬車から出ていった。



 暫くしてから、馬車は動き出した。

 捕まえた例の男を尋問したというブラッドによると、確かにこの男は伯爵家の偵察部隊、既に私達が動いていることは向こうに筒抜けだそうだ。

 そうなのか、そうなのかと頷いていると、ブラッドは、はぁ?危機感無さすぎだろと呆れたような声でものを言い。クレーナも少しは自覚を持ってくださいと、割りと真面目にお説教風のことをしてきていた。




 危機感無いのか、私は……。

 なんていう風に惚けてる間は危機感も何も無いのだとつくづく思った。





「取り敢えず、進みましょうか?」


 私の発言に、かなり食い付き気味でクレーナは反論の意を示してきた。


「なっ、話聞いてましたか、話!相手に情報筒抜けって聞きましたよね?お嬢様、ここは引き返すべきです!」


「今さら引き返しても、ねぇ?既に伯爵領に、しかもシルフ様がいるであろう本邸に既に2000メートル手前位まで来ちゃったし、作戦変更している内にお父様が、挟まれてしまいます」


「ま、そうなるんだよなぁ。クレーナよぉ、諦めろ……ちっ」


 なんてことを話していれば、いつの間にか、クレーナとブラッドの表情はかなり険しいものになっていた。その理由は至極簡単なことで、私でも推測が出来た。


「いいわ。クレーナ、ブラッド、少し暴れて来て」


「行って参ります、お嬢様」


「言われなくても、殺ろうと思ってたとこだよ」


 こうして、伯爵領での、戦争の前哨戦が始まった。数としては向こうが100位、こちらは20程、圧倒的に数は不利。

 だから、こうして一方的な虐殺が行われている。一応言っておくけど、一方的な虐殺をしているのは、伯爵側の敵……ではなく、こちらの精鋭部隊、クレーナ、ブラッドの面々だった。


 数で押そうとしたものの、実力的に差があり過ぎて、瞬く間に100位は居たであろう敵の兵は半分近くまで減っていた。

 対するこちらは犠牲ゼロ。どんなチートかと思うほどに、こちらの者は殺戮、惨殺、罠、策戦等々、向こう側には無いような技術を所有していた。

 特にクレーナ、ブラッドも別格に強い。



 雌雄は決し、こちらの大勝利に終わり、相手側は敗走を余儀なくされた。

 なんだか凄くあっさりと終わってしまったが、それはここにいる護衛が強すぎるのが悪い。一騎当千の強者達が、一挙に私の護衛を務めている。三下の一般的な兵士に負けるはずがない。


 約数十分という、短い時間で、小規模な戦いはあっさりと幕をおろした。戦死者ゼロ、負傷者4、内重傷者ゼロ。

 敵の捕虜はなく、全ては屍と化していた。戦場にばら蒔かれた鮮血と生臭さが激戦を匂わせる。

 しかし、それを見たところで、悲壮感も罪悪感も達成感むも何も無かった。

まるで、シルフ様への愛が尽きた時のように……この戦闘は、道中での軽いハプニングに過ぎない。

 本命はまだ──。








 その後私達は、暫しの休憩を挟み、再びシルフ様の元へと進行を開始した。

 


遂に、明日完結……。

豪華に三本出しますので、是非是非ご覧ください!

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