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11.そして因縁の彼が現れて──





 私は、もうシルフ様には囚われていない。既に私の心は、シリウス様に向いているから。








「そろそろ帰りますよ」


 フォルトの言葉に対して、あからさまに嫌な顔を伺わせるルシウス。そんな彼を見ていたアリスは反射的に笑みを溢す。


「だそうですよ、ルシウス様」


「はぁ、俺としてはもう少しアリスと一緒に話とかしたいんだが……お父様も怒ると怖いからなぁ。仕方ないか。」


 至極残念そうな声でそういう彼だが、私にはなんとなく嬉しそうな感情が含まれていると感じている。私もそうだからだ。


 今は、一旦別れなければいけない。しかし、彼とこうして出会い、そして一番欲しかったであろう言葉を貰えた。

 暫しの別れがあっても、この事実に勝るような辛いことではない。


「ルシウス様、またお会いしましょう」


「勿論だ。明日会いに行く」


「それは無理ですよルシウス様、なんでも今回はかなりお怒りでしたから」


「くっ……、だが近いうちにまた、な」


「はい、近いうちにまた」


 そう、別れの挨拶を終えたあと、ルシウスは王城の見える方向の道へと歩み出て、付き添うフォルトと共に、堂々とした足取りでアリスの方をチラチラと振り返りながらも帰ってしまった。


 アリスの方は、暫くその場で余韻に浸っていたが、それも直ぐに終わりを告げる。


「お嬢様、こんなところに来て何をされていたのですか?心なしか服に白い粉みたいなものも付いていますし」


「あら、クレーナ。そんなことより、ドンペンさんとの魔法講座はもういいのかしら?」


「師匠との訓練はみっちりとしごかれました。私は基本的に攻撃の為の魔法は使えないって知ってるくせに、火球とかポンポン打ってきて、危うく死にかけました」


 小麦粉の話は軽く受け流して、クレーナの顔色を伺ってみる。

 明らかに疲れた表情から、厳しい稽古をしていたと伺える。クレーナにとっては、魔法単体での対人戦は厳しいと前々からポロリと溢していたのを覚えている。

 クレーナにとっては、戦いで暗器と魔法を織り混ぜないと上手く戦えないらしい。はてさて、一体誰かと戦う機会は来るのだろうか?いや、私的にないと思う……。





 そのまま、クレーナと共に王都へ来たときと同じ裏路地まで他愛ない雑談を挟みながら歩いていた。話している途中で顔がにやけてしまったが、にやけてしまったものは仕方がない。

 不思議そうに見つめるクレーナを尻目に、適当にあしらっていた。ちなみにルシウス王子と会っていたとか、三人組のならず者に襲われていたとかの話はしていない。

 王子の話をすれば驚きの声をあげそうだし、ならず者の話をすれば今すぐ暗器で彼らの首を取りに行こうと言い出すに決まっている。あっ、戦う機会はありましたね。


 無駄にありえる現実味を帯びた可能性を考えながら、アリスはクレーナの話に対してにこやかに相槌を打つ。


「さっきぶりだなぁ、小麦粉女」 


 にこやかな私の表情は、温度にして30度くらいのポカポカしたものから、およそセルシウス温度、マイナス200度くらいに冷めた感じになっていることだろう。

 周りには、吹雪ならぬ小麦粉の嵐が吹き荒れているエフェクトが表示されてしまう位には、なんと面倒なものかと考えちゃってる。訂正、小麦粉の嵐は流石に恥ずかしい。


「誰ですか?」


 クレーナの口調が冷たくなる。嫌だなぁ、このブラッド……だっけ?この人きっとクレーナ怒らせて、最悪ばらばら死体になって発見とかされちゃうよ。


「お前こそ誰だよ?小麦粉女の連れかぁ?」


「ふーん、お嬢様のことを小麦粉女呼ばわり、それも二度も……、これは一度痛い目を見ないと分からないようですね、ふふっ、覚悟をしてください」


 あー、馬鹿ー、なにクレーナ怒らせてるのよ。流石にこの男が死んでしまっても私の良心は全く揺るがないが、クレーナが殺人に手を染めてしまうのは、至極頂けないことだ。

 取り敢えず、クレーナをなんとか落ち着かせることにする。


「クレーナ、あんなの無視して早く帰ろう、ね?」


「お嬢様、申し訳ありませんがそれは出来ません」


「……え?」


「あの下賎な輩にお嬢様を馬鹿にした報いを与えなければ、お嬢様に楯突いたことを後悔させてやります。ですのでお嬢様、少し下がってお待ちください。直ぐに片をつけます」


クレーナ既に臨戦態勢、男の方は何か面白いものを見るかのような目付き。何でそんなに余裕なのよ。

 クレーナの左太股辺りから、不愉快な金属音と共に禍禍しい形をした刃物が姿を表す。怖すぎるよクレーナ……。

 対するならず者のブラッドってやつの方は、手ぶら?何しに来たのよ!?既に勝負は決まっている。しかも取り巻きの二人もいないし、本当に何しに来たのよこいつは(2回目)。


「おいおい、随分と物騒なものを持ち歩いてんだな」


「あくまでお嬢様の護身用です。貴方を切るためでもあるかも知れませんが」


 クレーナは丁寧な言葉遣いをしているものの、凄い殺気を出しながらブラッドの方を向いている。ブラッドの方は何もしなさそう……、取り敢えず、ここに来た目的くらいは聞かなければ。


「あの、いいですか?」


「はぁ、なんだよ小麦粉女、俺は今からこの物騒な女に八裂きにあって悪役特有の哀しい最後を遂げるとこなんだけど」


「悪役の自覚はあるのね……ってそうじゃなくて、貴方はいったい何しに来たのよ。少なくともこれは最後に聞きたい。私に復讐するつもりだったの?」


「そんな訳ねぇだろ。何がさっき負けた相手に、しかも女に付きまとって復讐しなきゃならねぇんだよ。恥ずかしすぎて死ぬわ。それに、そんなことが目的なら取り巻きの馬鹿どもを上手く活用してやる、武器も装備してくる」


「なら何で?」


「手ぶらとはいえ、女に負けたのなんか初めてだった。自分の力を過信しすぎてた。でも、お前に負けて、絶対な強さではねぇって分かって、それと同時にお前に対して面白いって感じがしたから……お前貴族なんだろ、身なりを見れば直ぐに分かる。こんなことを言われても信じねぇかもだが、俺を護衛として雇ってくれねぇかってそう言いに来たんだよ」







 ────は?



 時が一瞬凍りついた、え、何?俺を護衛として雇えって、それ本当!?私が貴方に対してそういう雇って貰いたいって思わせる要素があのときあった?

 答えは当然否です。

 大体、わたしのやったことって魔法が使えるってことを伝えて男三人を怯ませてから、まさかの小麦粉に紛れて逃げるという、至極下らないことをしただけなのだが……彼の負けるの基準は全く分からない。


「おい、何固まってんだ。聞いてきたのはそっちだろ?で、これを聞いてお前は俺を雇うのか、雇わないのか?」


「え、ええと……」


 何この窮極の選択みたいな場面。別に究極でもなんでも無いんだけど……。取り敢えず、私じゃなくて、クレーナに任せよう。彼女ならきっと有無を言わせずに断ってくれるだろう。

 任せたクレーナさん!!


「お嬢様、どう致しますか?」





──駄目かぁ~……。


 期待の視線でクレーナの方を見てみたけれど、なんだか困ったようにクレーナはそう聞いてきた。

 私が聞きたかったのにどうして外堀埋めちゃうのよ。やめて~、こんな訳の分からない選択させるのやめて~。


 


アリスのそんな考えなど露も知らずに、クレーナはアリスの選択を待ち、同時にブラッドの方もその答えをじっと待っていた。クレーナは、選択を待ちながらも未だにブラッドに対して暗器を構えているが、アリスにとってはそんなことを気にしている余裕は無かった。


「で、どうすんだ?」


「……うわ…」


「あ?」


「雇うわ!!よく分からないけど、そんなこと言ってきた人は今まで居なかったし、クレーナはどう思う?」


「お嬢様が良いならば、それで良いと思います。もし何か怪しい真似をするようならば、私が全力でこの男を排除します」


 と、物騒なことを言いながらもクレーナは雇うことに賛成してくれた。ていうか凄い疲れた。

 主に精神使ったから…。


「じゃあ、帰りましょうか……」


「そうですね……」


「じゃあ俺もついて行っていいんだな?」


「そうよ、屋敷で問題とかは起こさないでよ。一応お父様に掛け合ってみるから」


 溜め息をついてこめかみに手をやると、ほのかにブラッドは口角を上に上げて首を上下に振って肯定の意を示した。







「では、魔法で移動します」


「ええ、お願い」


 来たときと同じ通りに、クレーナの手を握って魔法の発動を待つ。因みにブラッドは、私のドレスの裾を一摘まみだけさせている。

 クレーナと手を繋ぐという案があったが、さっきまで本気で殺そうとしていたとクレーナにわざわざ手を繋いで貰おうとはどうにも思えず、結果私の服の裾をちょこんとブラッドが摘まむという感じになった。


「エスケープ!!」


 


 そうして、来たときよりも一人増えた三人で屋敷に帰宅した。帰った途端にお父様とお母様が出迎えてくれて、二人にギュッと抱き締められて、それがとても幸せであった。

 その後、ブラッドに気が付いたお父様が、アリスの好みの男か?なんて勘違いをして、お母様も合わせて二人で動揺をしていた。


 ブラッドが曲がりなりにも顔がかなり良いのが悪い。

なんとか、彼はこの屋敷で雇ってほしい人だと説明して数十分、かなり疲れた。

 その後ろで涼しい顔をしているブラッドに膝蹴りをかましたところで、ようやく誤解も解けて、屋敷に向かってゆっくりと歩きながら今後のことについて、考えていた。







「ぐっ、ぐへっ……な、なにずんだよ……」



 後ろの男を無視して──。






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