10.時間では計れないもの
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ルシウス王子と出会い、何故か求婚をしてきたのには驚いた。そんなことをフォルトさんに話すと、とても赤面して、ルシウス王子にお説教みたいなことをしていた。
フォルトさん……苦労人だとよく分かったわ。
「何てことを言ってるんですか貴方は?公爵令嬢ですよ、公爵令嬢!!軽々しく求婚をするのは止めて下さい。それから貴方の身分は王国の次期国王ですよ。理解してるんですかそこら辺を?ちゃんとして下さい!!」
「ああ、分かったから。もういいか?」
「全く分かって無いじゃないですか!!」
煩わしいと、そう今にも吐露しそうな王子に対して、反省のはの字すら見せることのない王子に大層ご立腹な様子のフォルトさん。正直私の目の前でやってほしくないのだけど、きっとフォルトさんはそんなことを気が付いていないだろう。だって目がマジの目をしているもん……。
そうして、一通りお説教をして、ようやくルシウス王子はフォルトの長々しい、オーバーヒートなお説教を終えたのであった。
「本当に、うちの王子がご迷惑をお掛けして、申し訳ありません」
「いえ、ルシウス王子と出会えるなんて、凄く幸運なことで、むしろとても喜ばしいことです」
そんな当たり障りのない返答をしてみるが、フォルトさんの顔色は優れることはない。まるで学校で問題を起こしている息子の落ち度を担任の先生に土下座をするような勢いで謝ってくるお母さんみたいだと思ってしまった。
そういえば、私もやらかしてお母さんが先生に謝ってたっけ、担任サイドのこのどう反応をしていいのやら分からないような感覚が少しだけ理解できた。
「そう言って頂けるとこちらも助かります。それにしてもどうしてルシウス様はアリス嬢のことが分かったのですか?ルシウス様は一度も彼女にお会いして居ませんよね?」
「当然だろ、あんなに美しくて、開き直ったような哀しい顔をしているのだから、俺は直感で彼女だと分かった」
「す、凄いですね……」
「ルシウス様、少し引きました……ていうかそんな不確定要素でよく声をかけましたね。ルシウス様の度胸だけには関心します」
唖然としたかんじのフォルトさんだが、慣れているのかすぐに立ち直る。私としても、そんな訳の分からない直感で声をかけられたなんて思いもしなかった。
小麦粉だらけのドレスを着た女を公爵令嬢と思う彼は、まさしく自分の直感に素直に動ける大物だと推察できた。
そうして、関心をしている間に、アリスはルシウスに声を掛けられていた。自分の世界に浸っていると、どうも周りが見えなくなるなと、そう思いながら、彼女は何かと再度聞き直す。
「ああ、そのだな。よかったら婚約破棄したら、真面目に俺と婚約してほしい。これは俺の本心だ。……その、駄目か?」
瞬間、先程の求婚の時の驚きとは打って変わって、顔がホカホカと熱くなるのを感じた。本当に顔は真っ赤になっていることだろう。真剣な顔つきに、思わず息が止まってしまい、さらに時間までもが硬直する。
言葉が見つからない。
「……えと、私……小麦粉だらけですよ」
「構わない。小麦粉だらけの女が嫌いなら声をかけていない」
「私、貴女が思っているほど、今回のシルフ様の浮気に対して今は然程傷付いていないですよ……」
「構わない。ちゃんと傷付いていることが俺には分かるから」
「私、そこまで可愛く無いですよ……」
「俺が可愛いと思っている。一目見たときから、一発で分かったお前を守りたいと」
自虐に自虐を重ねて、時折何を自分の悪いところを他人に曝け出しているのだと、もう止めてと、自らに叱責しながらも、その熱を帯びてしまった感情は、直ぐには冷めてたりしない。それは、薄々分かっていた。何よりこんなに情熱的な事を言われて、赤くならない筈がない。
もし私が正常な状態でこの言葉を聞いていたとしたら、なにを臭いことをなんて感じで軽く受け流しているかも知れない。しかし、今はそんな茶化すようなことを言おうとは微塵も思わなかった。
同時に、強がっていただけで、案外傷は深かったのだと、ルシウス王子にこんなことを言われて気が付いた。
「そうですね、そんなことを言われたら断れ無いですよ……もし、婚約破棄出来たその日には──」
口にする度に心が苦しくなり、目から熱い何かが沸き上がってくるのが理解できた。それを必死に溢すまいと堪えながら、
「ルシウス王子、その瞬間、貴女様の婚約をお受け致しますわ」
思いの外すんなりと、そんなことを言ってしまった自分に驚きつつも、傷心に漬け込んだ確信犯のような彼に対して、微笑を向ける。
彼も同じように微笑みをこちらに向けてくる。安心したような、そんな顔をしながらの笑みに、不覚にもドキリとしてしまう。
失ったと思っていたその感情は確かな感覚として、胸の辺りに存在感を醸し出していた。その存在感を確認すると、不思議と安心する、私はまだこの感情を持つことが出来ている、また恋が出来る。
「よかった……断られるかと思った」
「女性は傷心しているところに優しくされたりすると、案外コロッと落ちてしまうものですわ」
「人聞き悪いなぁ~」
「ふふっ」
空気は穏やかになり、私の心はまるで思い出したかのように弾み始めた。その浮かれた感情の中にはもう、シルフに対するもの等は一ミリたりとも入っていなかった。
「今度貴方に裏切られたら、私はもう立ち直れないわね」
「安心してくれ、裏切ることは無い」
「お二人とも~、今日が初対面だと分かってますかぁ?」
タイミングを見計らったかのように、フォルトが口元をニヤニヤさせながら茶々を入れてきた。だが、そんな茶々が入っても、やはりこの満たされた気分は変わらなかった。
「ああ、分かっている。ただ、何故だか確信があるんだ。彼女となら添い遂げられると」
「そうでございますか。確かに彼女は公爵令嬢ですし、血筋的にも良いと思われますよ」
「確かにな、だがそれだけではない」
ルシウスはふぅと一呼吸置いてから話を続ける。
「確かに彼女は、アリスは血筋が良いということは分かる。だが、俺は最初にアリスを見たときに、こんなにも儚い顔をしている女性が居るのかと思った。悲しみに暮れるでもなく、かといって今の現状を楽しんでいるという節があるのでもなく、ただそこにあり続ける。それは、無理に笑ったりしているような顔で、だからこそ儚い、だからこそ守りたい、そう思ったのだ」
ちゃんとしなさい私!!いくら目の前で甘やかな言葉を囁かれようとも、平常心、平常心、……た、保てない!?
アリスの葛藤を余所にして、まだまだシリウスは口を動かす。
「初めてだったんだ。あんなに純粋な顔を見るのは……。何時も俺と婚約したいなんてヤツは決まって金が欲しい、地位が欲しい、これからの保証が欲しいだの、そういう目先の欲望にばかり目がいっているのばかり。誰一人として、本当の俺を見ようとしなかった。でもこいつは、そんな人間と目付きが違ったんだ。何かを諦めてしまった、そんな哀しい顔が……俺は彼女しかいないと思った。彼女なら本当の俺をいずれ理解して、それでも許容してくれると思った。互いに諦めて、それでも俺はちゃんと理解してくれる人が欲しかった。彼女とならお互いに助け合えると、本気でそう思ったんだ」
早口で捲し立てて、息継ぎが足りなかったようで、ほんのりと顔が赤くなっている。加えて息切れも少し……。こんなにも私のことを好きでいようとしてくれてる彼が、とてもいとおしく感じる。
出会って実に一時間程度、その中でも、私の中にはしっかりと大切な感情が芽を生やした。それは変わることの無い事実で、彼の行動は私にとっての救いになった。
することは決まった。シルフ様との婚約を破棄すること。そして、彼のことをもっと知ること。彼の期待に応えること。私が落ち込んでいることを看破した彼のように、私も彼が落ち込んでいたら看破出来るようにしたい。
密かな目標に対して、心に火が灯る。アリスはここに来て、本当の意味で立ち直った。それは変わることの無かったシルフへの思いを砕き、婚約破棄をしたいという結果に至ったが、後悔の色は全く無い。むしろ澄みきったその顔は、まさしく多くの人が惚れてしまうほどに美しいものだった。
婚約破棄?やってやるわ!!幸せになってから、いずれ彼が悔しがるように……見返してやるわ!!
「ルシウス王子、私は必ず婚約破棄をして見せますわ!!それまで待っていて下さい!!」
「ああ、何時までも待っている」
瞬間、二人は抱擁をしたいのを堪えて、ゆっくりと腕を伸ばす。
「頑張りますわ」
「頑張れ、アリス」
「あの、自分は帰っていいですかね、いや、王子を連れてないと怒られるのか……でも、こんなところに居るのって場違いなような……」
二人の決意は、しっかりとした握手によって確認しあえて、途中空気になっていたフォルトはと言えば、この場に居たくないというオーラ全開で、終始この二人のやり取りを見守っていた。
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