一話
今日のように、よく晴れた日には死人が出る。
坑道から二人一組で棒を担ぎ、鉱石や岩を運ぶ少年達の列の中にサンはいた。暗い坑道から出てきて、光につんざかれる目の痛みに耐えながら、空見上げようと顔を上げ、目に汗が入り顔を歪ませる。槍のように容赦なく照りつける日光と、砂ぼこりが舞う中、多くの少年達の小さな背中が、汗にまみれて陽光を反射していた。
どこかの誰かが転んだのか、力尽きたのだろう。鞭を持った〝親〟の一人の怒声が聞こえる。だけど、鞭の音がしない。この暑さだ、火ノ季の一つ前の季節ならば、鞭が空気をつんざく音が確実に聞こえていただろうけど、さすがの親も鞭を振るうのがだるいらしい。
一緒に棒を担いでいる相棒のライガが、怒声の方へわずかに顔を動かした。
サンはライガに問いかける。
「どっち?」
ライガは何も言わなかった。だけどその意味は伝わった。怒声を浴びた相手は死んだのだ。死ねば鞭を打たれることはない。逆に生きていれば鞭を打たれて働かされる。
ライガとはこんなやり取りを、もう数え切れないほどやってきた。そういえば、ライガとはどれくらいになるんだっけ? もう何年もここで働かされている。他の生き方があるとは思えないけど。
俺には鉱山を取り囲むように建てられた、丸太の高い壁の中だけが世界の全てだ。
登り坂がやってきて気持ちが楽になる。わずかな達成感すら覚えるほどだ。
なんのために運んでいるのかもわからない、人の頭ほどの大きさもある石や岩の塊を決まった山に運ぶと、屋根と支柱だけの小屋のところへ向かう。一回運搬をするごとに、一杯だけの水が飲めるのだ。
小屋には水を張った大樽が一つ置いてあり、その大樽の横に何を考えているかもわからない、まるで興味なさそうな目をした親の一人が椅子に仰け反って見張りをしている。こんなにやる気のない顔をしていても、こちらが何か必要ではない動きをしたり、誰かと話したり、目を合わせたりすれば、あの怠そうで小さな目に生気と邪心を宿らせて、腰にある鞭へと手をのばす。そんなのはごめんだ。
サンは前を歩くライガと同じように、自分の腰にさげている木の杯を取ると、順番を守り、欲を感じさせないように淡々と樽の中の水を掬って一気に飲み干した。ちらりと親の方を見るが、機嫌は損ねていないようだった。
そんな安心も束の間、前の方からライガの大きなため息が聞こえ、火季の灼けつく空の下にいるにもかかわらず、背中に冷たいものが走り抜ける。そんなため息が聞かれたら親に鞭を打たれるのに、ライガは一体何を考えているんだ。
「サン、見ろよ」
サンは小走りになって親の側から離れると、ライガを睨めつける。こちらの機嫌はどこ知らず、ライガは興奮気味にある場所を顎で指し示した。
そこは、世界を囲む丸太の壁にある二つの門のうちの一つだった。その扉が開かれ、斧や幅の広い刀を携えた親よりも攻撃的な身なりをした男達がぞろぞろと入ってくる。
その男達の中に、豪華な着物を着て腹が樽みたいに丸々とした男が一人いる。その男が、全てを小馬鹿にするような目で周囲に目を走らせて、顔の横に何かを受け取るように手を出した。すると、屈強な男達の中の一人がそれに気づいて小走りに近づき竹の水筒を手渡した。この光景はよく見る。あの太った豪華な樽男は、周囲の獰猛な男の主人なのだ。
ここにはああやって、時折外から人がやってくる。牛車に石を積んで出て行く人もいれば、俺達のような少年――とりわけ体格のいいやつ――を連れて行ったりする大人達だ。ライガはこの大人達に興味を持っているらしく、商人と呼んでいた。
「商人でしょ? 俺達には関係ないよ」
ライガは口にねっとりとした笑みを浮かべる。「いいや、あいつに決めたぞ」
どういう意味か訊こうとした時、鞭が空気を打ち鳴らす破裂音が響き、サンとライガは跳び上がった。




