くうせき
ひとつめ
いつも通りに出席簿に記入していく放課後。
今日の空席を朝と夕方に把握して座席表と照らし合わせる。一年後は顔覚えて、今日はあの人いなかったよねーなんて。
先生の字で別室、と記入してある男の子。
「別室って事故欠でいいのか?」
聞きに行けばいいか、とめんどくさいがせめぎ合う。どうせ出しに行くのだからその時に聞けばいい。
今日話題に出てた、何だっけ。忘れちゃった。
なんか禁忌の呪文がどうとか。中二病でも発病してなんかやらかしたのかな。高二病か。
関係ないし、どうでもいいか。集計欄と別室くんだけ残して記入し終わって歩き出す。
教室から遠ざかるにつれて小さくなっていく声。うるさかったんだなぁなんてつぶやいた。
ふっと出たため息に苦笑して、足元と床で視界を埋めた。
「別室は出席扱いだから」
先生の部屋はいつも寒い。熊というよりもサンダースかな、彼はぬいぐるみじゃないけど。失礼なことを思いつつも顔を保つ。
「あ、そうなんですねー」
未記入欄を埋めて出席簿を閉じる。一週間か二週間、きっとこの別室くんはこうやって別室のままなんだろう。覚えられていない顔に反してきっと記入する番号と名前は憶えていく。
くるっと回して両手で差し出す。受け取られたことを確認して、手を下に動かして一礼。
「それでは、失礼します」
提出するまでが私の領域でそのあとは知らない。こんな個人情報の塊の責任は負いたくない。
なんとなく、出席簿を持っていると自分がクラスのすべてを把握しているような錯覚に陥る。そんなことなんて全くないただの紙束なのに。
足音が響く。静かなのは今だけだと知っていても静かさを消してはいけないような気がした。
後ろを振り返って、誰もいないことを確認。スリッパを脱いで手に持った。これで足音はしない。
空間に自分だけの音がする罪悪感から逃げだそうといつもよりも速足で歩く。
きっと、教室ならわたしの音は聞こえない。図書室、いこうかな。