うごく
夏はすぎていく
夏休みが終わって一週間。体育大会がある。
練習練習、そして練習。こんなの希望者だけがすればいいのに。
日焼けは怒られる、ケガするともっと。
室内にいることが多くて体力なんて全くないし、足を引っ張ってる罪悪感。授業のほうがいい。
がんばれー、なんて頑張ってる人にもっと頑張れなんてそんな言葉をかけるのはあまり好きじゃない。すごくすごく頑張ってる人たちの現在の努力を否定しているみたい。ほら、応援しなよって言われて、小さく頷く。これで満足ですか?って聞くのもありだなあと意地悪な心が出てくる。聞かないけれど。応援、気持ちはあっても声にするのは怖いからいや。
体力も何もないから最低限の競技にしか出ないし、役員でもないからほとんど自由時間。お母さんたちも来ないし、体育関係の行事で活躍する友人もいない。退屈。
「おぅ、見てた?俺一位!」
なんか、よくわかんない人に絡まれる。見てない。
「うん、お疲れ様」
笑顔で返せば角が立たないことなんて明白だし、そもそもこの人は誰だろうなんて。きっとクラスメイトだと思うんだけど。軽く手を振れば去っていく。変な人しかいないなと失礼なことを考えて空を見上げた。目が痛い。雲一つない、なんてあいさつで言ってたのに大きな雲から取り残されたみたいな小さなかけらがざぁっと流れていった。
友人は放送の係でこっちにこないし、知ってる顔もいない。暇だなあと水筒を傾けた。お母さんに内緒で買ったちょっと高めのティーパック。ブドウのフレーバーティーですごくお気に入り。やっぱり、紅茶はおいしい。
「暇なの?」
声をかけてくる部活が一緒の男の子。団が違うのに何でいるのか。なんでばれてしまったのか。
「やっほ、お疲れ様。空がきれいで楽しいよ」
適当にはぐらかして、お互い頑張ろうねなんて思ってもいないことをいう。満足したのか去っていく姿に変な人しかいないなあと二度目の感想。
もう一度水筒を傾けて、のどに落ちていく紅茶の香りを吸い込んだ。さっきの迷子雲は見えなくなって、まっさらな空。こんなににぎやかなところに独りでいるのはいやだもんね、なんて。勝手に心情を固定するなんて、ばかみたい。今日は厄日だなあ、と飲み込んだ紅茶の香りがひどく鮮やかだった。